死を遠ざけてはならない

死は身近にいつもあった
老衰もまた日常の風景だった
家族は介護と看護に手を尽くした

いつしか死に場所が代わった
病院のベッドで死を迎えた
家族とのつかの間の再会も意識はなかった

さらに死は遠のいていった
家族に看取られることもなくなった
臨終の場に立ち会い死を確認するだけだった

死に逝く人の手を握るのは赤の他人だった
尊厳を護ることが唯一の救いとなった
死を悼む感情は寄り添う頻度に比例した

在宅ケアを主流にしようと国は動く
平穏な死が約束されるならと覚悟する
自分の家で家族に看取られて逝きたい

死に方を選べるのなら幸いか
人生の終末は突然来る
父も母も目を落とすまで
生きるという意思をまざまざと見せて逝った
父母の死と対面してこそ
己の「いまを生きる」を問う

〔2021年10月21日書き下ろし。もうすぐ娘と父の誕生日。父の詩的なセンスが孫の名に映る。父も母も在宅ではなかったが看取ったことだけは幸いだった〕