おばんと漬物づくり

里のばあちゃん
腰はだいぶ曲がってきたが 野良仕事が楽しみだった
ちっさな畑に 食べ切れんほどの野菜ば作った
健康づくりの体操よりも 好き勝手の方がよっぽど性に合った

今年も春を楽しみに 畑仕事の段取りしていた
でも腰の案配さ悪くなって 耕すことができんかった
そろそろここらが潮時かと 寂しくなった
「おばん、畑どうした?」
事情を聞かれた
「なんなら耕して畝(うね)さこさえてやろう」
有難い申し入れに 素直に頷(うなず)いた

今年も種さ蒔けた
おがってくる野菜と話しっこしながら
しみじみと野良仕事できる喜びを噛みしめた
「おばん、畑の始末しておいたよ」
お礼にとおがった立派な野菜を漬物にして届けた
「おばんの漬物、本当にうまいな」
そう言ってもらえるだけで 作った甲斐があった
「おばん、この味教えて。今度手伝わせて」
そう言われて なぜかほっこりしてきた
「おばん、いつでも手を貸すから言ってきてや」
そう言われると 春耕しに気をもむこともなくなった

里で暮らすということは 
善意を地域で回すということ
畑を耕すことの当たり前が途切れた時に
老女は心の拠り所を失う

〔2021年12月2日書き下ろし。人は何か生きがいや張り合いがなければ老いを友にするしかない。この逸話を元に何か仕掛けられないか。アイデアが浮かぶ〕