2021年12月6日の北海道新聞の朝刊に、「障害児通所支援 再編方針」という記事を見つけました。厚生労働省は、障害のある児童が通う放課後等デイサービスを大きく「総合支援型」と「特定プログラム特化型」の二つのタイプに再編し、質の低いサービスや塾や習い事のようなケースは公費の支給対象から外す方針のようです。これについて思うところがあり、この文を書かせてもらいました。
僕は今年、ユニバーサルデザイン検定という検定試験を受け、初級及び中級に合格しましたが、その時、障害者の自己投資につながるような支援が身の回りに見当たらないということを思い知らされました。18世紀のアメリカの政治家であり科学者でもあるベンジャミン・フランクリンは、「最高の投資は自分への投資である」と言っています。しかし、残念なことに、僕の自己投資には多くの困難が伴い、その高いハードルを乗り越えるためにすべて自分でやる羽目になりました。ユニバーサルデザインの検定があるということを見つける段階から、自分なりの勉強法や試験対策など、いろいろなことについて予想以上の時間を費やすことになりました。僕自身がもっと勉強しやすい環境にいれば、またそのような環境が準備されていれば、こんなに苦労しなくてもいいのではないかと思ったことが何どもありました。
新聞が報じた記事は、「一般の塾などは私費での利用が通常で、障害児の場合も本来、公費負担は適さない。障害者差別解消法に基づき、障害児が利用できるよう配慮する義務が2024年6月までに塾などにも課されるため、一般の塾で受け入れが進み、私費で通うのが望ましい」というのが理由らしいのです。それが可能であれば、障害児も私費で一般の塾に通うことができればいいのですが、それを阻んでいる社会的な状況、とりわけ障害児に対する根強い偏見や差別があることを直視する必要があるのではないでしょうか。
社会の変化と共に、障害者像も変化しています。障害当事者でもある東京大学の熊谷晋一郎は言います。「自閉スペクトラム症の人はここ半世紀で、多く見積もって50倍、少なく見積もっても20~30倍に増えています。つまり、実際にいなかった自閉症者が現れたのではなく、かつて健常者だった人が新規で障害者に認定されたのです。人間の体質が変わっていなくても、社会の変化の方が速く、社会がどのような人物を理想とするか、という価値観を変えてきているわけです。(中略)かつては製造業を中心として、周囲とおしゃべりもせず、マニュアル通りに繰り返し働く状態が理想的な健常者の姿でした。今日そのような人は、コミュニケーション障害、こだわりが強いと言われてしまうわけです。まさに自閉スペクトラム症の診断基準ぴったりになってしまいます」(熊谷 2020:40~41)。
障害者像の変化とともに差別も変化しています。1992年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のG・ベッカーは、差別に経済学的な定義を与え、検証しています。その頃の差別は、「偏見を満足させるために利益を自発的に放棄すること」という目に見やすい簡単なものでした。しかし、いまの差別は複雑化していて目に見えないのです。差別した本人も、そうとは気づかず無意識に差別していることが多々あるのではないでしょうか。
上記の新聞記事はまた、大阪府内にある放課後デイ事業所の職員は「障害特性により支援の仕方は違う。健常児しか 受け入れていないところが、子どもの力を最大限引き出す対応ができるのか」と報じ、危惧しています。同感です。
僕が勉強したユニバーサルデザイン検定の教科書に、次のような一文があります。「ここで注意しなければならないのは、一つの製品や一つのやり方ですべての人のニーズを満足させることはできないとの自覚を、つくり手側が持つことである。ある人のニーズは隣の人のそれと一致するわけではない。一人一人が少しずつ異なりながら多様なニーズの分布をかたちづくっている。それらすべてを一つの製品や一つのやり方で満足するのは不可能であり、この点で有効なのは選択肢であると考えられる。/駅等の公共交通機関では改札とホームを結ぶ上下移動手段として、階段、エスカレーター、エレベーターが設置されている。それぞれの設備には異なる特徴があり、利用者は自分のニーズに合わせてどれを使うかを選ぶことができる」(国際ユニヴァーサルデザイン協議会 2014:24)。
障害の有無にかかわらず、人が豊かに生きるためには、そのための選択肢を増やし、そこから自分に合った生き方を自律的・主体的に選ぶことができる、そんな環境を整えることが先決ではないでしようか。選択肢は増えたが、どれを選んでいいかわからないといった事態も見受けられます。また、利用者と本人に合致するサービス、その二つを結びつけるヒトやコトもいまひとつといったところです。
障害者差別解消法に基づき、障害児が利用できるよう配慮する義務が塾などにも課されるのは2024年6月。あと2年半です。
参考文献
熊谷晋一郎ほか『わたしの身体はままならない』河出書房新社、2020年。
中島 隆信『新版 障害者の経済学』東洋経済新報社、2018年。
国際ユニヴァーサルデザイン協議会『知る、わかる、ユニヴァーサルデザイン』国際ユニヴァーサルデザイン協議会、2014年。