人はみなただ者にあらず

ただの人を語る者ほどただ者にあらず
世情をネタにして機知に富む
相手に合わせて言葉を操る

ただの人を生きる者ほどただ者にあらず
風流とは縁遠く思わせぶりを愉しむ
文学とは無縁とさりげなく書を置く

ただの人らしい者ほどただ者にあらず
同化すること同調することにたける
目立たず特徴なく世間に佇む

注目されることもない
期待されることもない
他人のおもいは素通りするだけ

他人に煩わされず暮らすのがいい
世間に恩義を感じず暮らすのがいい
金に困らない暮らしならもっといい

ただの人ならきっと気が楽そうだ
ただ者にあらず
人の役に立たないわけがない

ただの人らしく見せるのもいい
でもただ者にあらず
世間に関わるしか居場所はない

ただの人になりたくとも
決してただ者にあらず
己が許さない
世間に許されない

人はみな世間に生きる
人はみなただ者にあらず

〔2021年12月30日書き下ろし。世間でのその人の存在価値は、その心持ちに現れる〕