「老爺心お節介情報」第33号
〇皆様お変わりなくお過ごしでしょうか。前回の「老爺心お節介情報」をお届けしてから早3か月が経ってしまいました。申し訳ありません。
〇昨年の10月以降、新型コロナウイルス感染症が小康状態になり、各地の研修が開催されたことと、私の最後の著書になるであろう『地域福祉とは何かー哲学・理念・システムとコミュニティソーシャルワーク』(中央法規出版、4月刊行)の編集、校正に忙殺され、「老爺心お節介情報」を書く時間と気持ちの余裕がありませんでした。この間、皆様にお届けしたくなるような“情報”に出合わなかったこともありますが、上述した業務以外に新たな文献を読めていないことも要因の一つです。
〇今回の「老爺心お節介情報」は以下の3点です。
Ⅰ 宮城孝著『住民力―超高齢社会を生き抜く地域のチカラ』(明石書店、1800円)
〇法政大学の宮城孝先生が、自らの地域福祉実践・研究のフィールドとして長く関わってきた島根県松江市淞北台地区や中野区、あるいは東日本大震災で被害を受けた陸前高田市での支援を中心に取り上げ、地域づくりにおける住民の参加、力について分かりやすく書いてあります。「住民力」を高める7つのポイントも示されています。
Ⅱ 原田和広著『実存的貧困とはなにか』(青土社、7200円)
〇本書は、700ページを超える大著です。
〇原田さんは、山形市で子育て支援サービスの事業を展開している人で、山形県議会議員も勤めました(昨年の総選挙で、県議を辞し、国政選挙に出馬しましたが落選しました)。
〇本書は、原田さんが東北福祉大学大学院で学び、博士論文として学位取得が認められた博士論文に加筆修正したものです。私が指導教員を勤めました。
〇本書は、生活困窮、生活のしづらさを抱えている人々について、従来の社会福祉学の経済的・古典的貧困では現状を説明できないこと、新しい生活のしづらさを抱えている「新しい貧困」だけでも説明できない状況があるとして、それは「実存的貧困」ではないかと問題提起しています。その実証事例を“風俗営業”などに従事している女性を中心に、膨大なインタビュー調査を基に解析しています。従来の“風俗営業”等に従事している女性の問題はジェンダー論の立場から分析することが多かったのですが、それでは現状を説明できないと考え、その人の生育史、学歴、社会関係等も分析して、新たな貧困概念が必要ではないかと考え、「実存的貧困」概念を提唱しています。
〇読みでがありますが、とても重要な社会福祉学の理論的検討がされています。社会福祉学研究者は少なくとも本書を読んで、新たな社会福祉問題の分析視角、理論課題を検討するべきだと思います。
Ⅲ 阪野貢先生の「市民福祉教育研究所」のブログ「雑感」104号
〇私は地域福祉研究の「研究方法」について長らく悩んできました。とりわけ、外部の人間として地域に入るのですから、“地域”との関わり方については悩んできました。
〇研究者として、“上から目線”で地域に入り、“教えてあげる”という“臭い”をさせながら、“地域を引っ搔き回し”、その成果をあたかも自分の“手柄”のように披歴する研究者に1970年代から辟易してきました
〇私自身はそれについては相当気を付けてきたつもりではありますが、住民の皆さんからみたら、同じような指摘を受けるのかも知れません。
〇また、住民の意識、関係等の大量的リサーチを行うのが地域福祉研究なのかとも思ってきました。
〇その地域福祉の「研究方法」については『地域福祉とは何かー哲学・理念・システムとコミュニティソーシャルワーク』で述べたつもりです。一言で言えば、実践家と研究者が野球の投手、捕手のようにバッテリーを組んで、協働実践を行う「バッテリー型研究」が重要だと考えてきました。
〇そのことに関し、阪野貢先生が「関係人口」に関わらせて説明しているので参照して頂きたい。その一部を以下に抜粋しておきます。是非、阪野貢先生のブログを読んで下さい。
#「関係人口」とは――以下、阪野貢先生が主宰する「市民福祉教育研究所」のブログの「雑感」104号、「まちづくれと市民福祉教育」63号を参照(以下に一部引用)。
「まちづくりと市民福祉教育」63号
追補/「関係人口」と「よそ者」―田中輝美の論考と大橋謙策の実践研究―
〇筆者の手もとに、田中輝美(たなか・てるみ。ローカルジャーナリスト、島根県立大学)の『関係人口の社会学―人口減少時代の地域再生―』(大阪大学出版会、2021年4月。以下[1])がある。
〇「関係人口」という用語は、高橋博之(たかはし・ひろゆき)と指出一正(さしで・かずまさ)の二人のメディア関係者が2016年に初めて言及したものである。「関係人口」とは、高橋にあっては「交流人口と定住人口の間に眠るもの」、指出にあっては「地域に関わってくれる人口」をいう。その後、田中輝美は「地域に多様に関わる人々=仲間」(2017年)、総務省は「長期的な『定住人口』でも短期的な『交流人口』でもない、地域や地域の人々と多様に関わる者」(2018年)、農業経済学者である小田切徳美(おだぎり・とくみ。明治大学)は「地方部に関心を持ち、関与する都市部に住む人々」(2018年)、河井孝仁(かわい・たかよし。東海大学)は「地域に関わろうとする、ある一定以上の意欲を持ち、地域に生きる人々の持続的な幸せに資する存在」(2020年)としてそれぞれ、「関係人口論」を展開する(73~75ページ)。
〇田中は[1]で、こうした抽象的・多義的で、農村論や過疎地域論に偏りがちな(都市部における関係人口を切り捨ててしまう)関係人口論に問題を投げかけ、関係人口について社会学的な視点から学術的な概念規定を試みる。関係人口とは「特定の地域に継続的に関心を持ち、関わるよそ者」(77ページ)である、というのがその定義である。この定義づけで田中は、関係人口を、移住した「定住人口」でも観光に来た「交流人口」でもなく、新たな地域外の主体、別言すれば「一方通行ではなく、自身の関心と地域課題の解決が両立する関係を目指す『新しいよそ者』」(69ページ)として捉える。その際、地域とどのように関わるかについて、関係人口の空間(「よそ者」)とともに、時間(「継続的」)と態度(「関心」)に注目する。
(2022年2月22日記)