辻 浩/福祉と教育、福祉教育と教育福祉

福祉と教育、福祉教育と教育福祉
―辻 浩の「地域づくりと教育福祉」論に学ぶ―

福祉と教育、福祉教育と教育福祉
―辻 浩の「地域づくりと教育福祉」論に学ぶ―

(1)辻浩著『住民参加型福祉と生涯学習』2003年12月
〇辻は、福祉のまちづくりのあり方について、次の4つのポイントを説く。
➀社会参加や自己実現を含むノーマライゼーションをめざして展開される必要がある。
②無償のボランティア活動に加えて非営利活動・市民活動も含めて住民の連帯に依拠して進められる必要がある。
③住民によるインフォーマルサービスと自治体によるフォーマルサービスの関連を視野に入れて議論する必要がある。
④「福祉と教育」「福祉教育と教育福祉」の共同性の追求とそこから生まれるその公共性のあり方を考える必要がある。

〇辻は、「福祉と教育」「福祉教育と教育福祉」の関連(連携)を、住民の生活実態や人権問題に注目しながら追究する。
➀今日、違いが尊重される「共生」文化の育成と「協同」による地域社会経済発展に基づく地域づくりが求められる
注意しなければならないのは、学習を通して住民の同質化を強要する結果になることであり、違いが尊重される共生の文化を育むことが大切である。また、経済的要因による社会的排除の問題が深刻になっているなかにあって、協同による地域社会経済発展という戦略のもとで人権問題を考えることが必要である。
②福祉教育プログラムが開発されればされるほど、「行為のなかの省察」をおこなえる「反省的実践家」が強調されなければならない
福祉教育のプログラム開発は、単なる便利な教材づくりではない。プログラムが魅力的であればあるほど、福祉教育の実践者がそれに頼ってしまうという傾向も見られる。福祉教育プログラムが開発されればされるほど、実践者は実践を通じて「状況との対話」や「自己との対話」をおこない、自分の行為や考え方を振り返り、その改善を図りながら成長していく「反省的実践家」(ドナルド・ショーン)が求められる。
③困難を抱えた住民が社会参加するためにはまず、人と人が語り合い受け止め合える地域社会をつくることが必要である
住民誰もが自分らしく生きることのできる地域をつくるためには、一足飛びに人権や共生という価値やそれを実現する方法を提起するのではなく、困難を抱えた住民がまずは親密圏をつくり、そこでの話し合いや活動を地域が認めていくことが遠回りに見えて意外に近道である。
④大人が地域の福祉に参加しながら共同意志を形成し、子どもとの関係をつくる教育改革が求められる
子どもの意見を聞かず、社会の退廃への有効な手立てを示さないまま、一部の大人が特定の価値にもとづいて、未来の国民像を議論しているところに、今日の教育改革に関する議論の欠陥がある。まずは大人が地域の福祉に参加しながら、地球的な課題を考え、他者の声を「聴く」ことをはじめれば、そのことをもって子どもとの対話が生まれ、大人と子どもの共同の関係が築ける。

(2)辻浩著『現代教育福祉論』2017年10月
〇辻は、教育福祉を次のように定義する。
「教育福祉とは、教育と福祉が連携して、子ども・若者あるいは成人が安定した生活基盤のもとで豊かな人間発達を実現することをめざす概念である。しかしそれは、静態的なものではなく、社会構造の中で生み出される問題を見据え、制度・政策を求め、実践を展開する動態的なものである。教育福祉は、困難をかかえる子どもにも等しく教育の機会を提供するためのものと見なされがちであるが、それだけではなく、教育全体のあり方を見直す視点であり、さらには、地域づくりの視点を提供するものでもある」。

〇辻は、この定義に基づいて教育福祉における4つの論点を提起する。
①すべての子ども・若者にかかわる教育福祉
教育福祉は困難をかかえた子ども・若者の課題だけではなく、すべての子ども・若者の幸せにつながる教育のあり方を全体的に検討することが必要である。
②「地域と教育」という視点からの教育福祉
教育福祉は学校内に限定されるものではなく、学校と地域が連携するなかで子ども・若者にかかわる多様な人々が共通に学ぶべきものであると考える必要がある。
③「まちづくり」につながる教育福祉
教育福祉は困難をかかえた子ども・若者の課題解決のためにまちづくりと連動する必要があるが、それだけではなく、まちづくりをすすめる契機としても考えることが必要である。
④社会教育・生涯学習の本質としての教育福祉
教育福祉は社会教育・生涯学習に内包されるが、その意義が大きくなるなかで教育改革と地域づくりに迫ることが必要である。

〇辻は、今日的な課題に焦点を当てながら、「現代」教育福祉論を展開する。
➀「開かれた学校づくりにおける教育福祉」を追求する「学校教育福祉」と、「生活と地域からの教育改革としての教育福祉」を追求する「地域教育福祉」をつなぐ理論的探求が求められる。
②社会福祉のなかには具体的に問題を解決する「教育福祉」よりも、意識改革で問題を乗り切る「福祉教育」を重視する発想がないとは言い切れない。
③今日、教育福祉は「教育運動」と「当事者主体」と「地域づくり」の交わりによって展開されるようになっている。
④教育運動や当事者主体と結びついた地域づくりを進めることによって、真に自治的な地域づくりが可能になる。

〇辻の「教育福祉論」(「地域づくりと教育福祉」論)の特徴のひとつは、批判的精神と創造的情熱の統合(冷たい頭と熱い心)と、困難をかかえる住民参加の重視(当事者主体)の姿勢にある。そしてその言説は、社会構造のなかで生み出される問題を見据え、制度・政策を求め、実践を展開する動態的なものである。しかも辻は、「学習権保障としての教育福祉」 を主軸(前提)に、教育全体のあり方を見直す教育改革の視点とともに、主体的・自律的な住民(子ども・若者や成人)による「地域づくり」に視座を置いて「論」を展開する。

 

(参照)
阪野 貢/辻浩の「福祉と教育」による「地域づくり」を読む―辻浩著『現代教育福祉論』等のワンポイントメモ―/<雑感>(212)/2024年8月1日/本文
辻浩/私の「社会教育」実践と研究―地域と福祉と学校をつなぐ「社会教育」研究のこれまでとこれから―/2024年8月3日/本文