〇筆者(阪野)の手もとに、岡崎昌之著『まちづくり再考―現場から学ぶ地域自立への道しるべ―』(ぎょうせい、2020年1月。以下[1])がある。[1]は、自治体学会が企画して2017年2月から2018年12月にかけて東京都中央区、愛媛県内子町、大阪府豊中市、岩手県遠野市において開催された「自治立志塾」(集中講義)における講義内容と対論を再構成したもの(「まちづくり実践論」)である。そこでは、岡崎が関わった草の根的なまちづくりの事例が豊富に収録され、これからのまちづくりの視点や方向性について言及される。
〇本稿では、岡崎が紹介・解説する「まちづくり」の定義をめぐって、留意すべき基礎的・基本的な事項をメモっておくことにする(抜き書きと要約)。
「まちづくり」の定義
〇[1]で岡崎は、日本地域開発センター(1964年2月設立)の「地域社会研究会」が提示した定義を取り上げる。「まちづくりとは、それぞれの地域社会の歴史的、文化的な個性を基礎にして、その地域に本当に(真に)必要なものを、そこに生活する人々が自らの知恵と活力で発見し実現していく創造的な過程である」(「北海道池田町まちづくりシンポジウム―地域にみる生活と文化の再生―」1975年10月)がそれである(15、16ページ)。ここでは、「そこに生活する人々」(住民主体)の「自立(independence)」と「自律( autonomy)」の志向、「内発性(endogenous)」の発想が重視される。
「自立」「自律」「内発性」のまちづくり
〇岡崎にあっては、まちづくりにおける地域の「自立」とは、まちづくりについて「地域が決意し、主体性をもって取り組むこと(ローカル・イニシアティブ:local initiative)」であり、「自分自身や地域のもつ力量を最大限に発揮して、やり通そうとする意志(セルフ・リライアンス:self-reliance)」である。すなわち、「まちづくりにおける自立とは、自らが決意し、自らの力量で、まずは内を固め、そこを足場に外と連携するまちづくりの方策」をいう(51~52ページ)。
〇地域の「自律」とは、「反目したり、反発することもある組織間や地区間のベクトルを、地域の将来や全体の方向性を共有し、互いをおもんぱかりつつ、地域内で調整し、課題を解決しようとする力」(意識や行動力)をいう。その “ 自律 ” 的な意識や行動力は、「地域の総合的な力量を高めるうえでも、また地域における信頼関係や連携(ネットワーク)といった、いわゆる社会関係資本(ソーシャルキャピタル:Social Capital)を構築していくうえでも欠かせない」(53ページ)。
〇地域の「内発性」とは、地球規模や全国規模の地域課題に対して、単一の発展方式や全国同一の解決方式あるいは外来型の開発方式ではなく、「地域の特性や組織、課題の内容に即して、様々な解決の方向や新しい道筋をつけていこうとする試み」である(62ページ)。すなわち、「地域の良さや個性、価値を、そこに生活している人々が気づいていないものまでも、切り拓いて確認をし、その可能性を模索すること」(73ページ)をいう。
〇そして岡崎は、確かな「自立」と「自律」、「内発性」をめざすまちづくりを進めるためには、①歴史的視点からの地域の徹底的な調査(地域の歴史の探索)と、②地域が誇る資源や “ 宝 ” だけではない、地域にとって本質的な価値の模索(地域価値の模索)、そして③広域的な視点に立った、地域の “ 価値 ” や地域に “ あるもの ” の意味の模索(地域の相対化)が必要かつ重要であるという(64~70ページ)。それは、“ ないものねだり ” のまちづくりではなく、“ あるもの探しのまちづくり ” を説く結城登美雄らの「地元学」に通じるものである。
〇そのうえで岡崎はいう。「自立や内発とは、必ずしも特定地域に固執して、内にこもり閉鎖的になることではない。地域内に存在する価値や独自性を明確に認識しつつ、周辺地域や類似の価値をもつ地域とも幅広い連携を保ち、連携のなかからまた新しい価値を創出していくことが重要である。他地域との連携、関連の識者や専門家とのネットワーク形成はまちづくりには不可欠である」(71ページ)。
「地者(じもの)」「曲者(くせもの)」「切れ者(きれもの)」
〇以上のようなまちづくりの担い手についてはこれまで、「よそ者」「若者」「バカ者」の3者が挙げられてきた。従来のシステムや活動に対して批判的で、新しい見方を醸成する「よそ者」、しがらみのない立場から、新たなエネルギーによって次の時代を切り拓く「若者」、旧来の価値観の枠組みからはみ出し、既成概念を壊す「バカ者」がそれである(真壁昭夫『若者、バカ者、よそ者―イノベーションは彼らから始まる!』PHP研究所、2021年8月参照)。この点について岡崎はこういう。「それらの人たちだけではまちづくりは続きにくい。地域に根づき、持続するまちづくりを展開するためには、よそ者だけでなく『地者』、若者だけでなく、土地の事情や人間関係を(も)熟知した年配者や得意技を持つ『曲(クセ)者』、知恵と決断力をもった『切れ者』が必要とされる」(99ページ)。
〇その際、岡崎は、自治体や地域社会の「定住人口」だけではなく、「交流人口」(地域の住民とはならないまでも、その地域が自己実現した魅力にひかれてそこを訪れ、地域の人々とコミュニケーションを持つ人々)や「関係人口」(長期的な定住人口でも短期的な交流人口でもない、地域や地域の人々と多様に関わる者)、それに「活躍人口」(まちづくりを担い、地域を支えようと頑張る人)をいかに拡大し、活かすかが重要となる、という(96~99ページ)。
〇要するに岡崎にあっては、まちづくりの担い手には、地域内外の人材や資源、さらには専門的な知識を有する関係人口などとの信頼関係や有機的連携のもとに、まちづくりの目標を明確に認識し、地域を歴史的かつ客観的・相対的に見る視点を持つことによって、地域の特色や個性を把握し、これまで見落とされてきた価値を見出し、地域の課題解決や将来の地域社会形成を図るための新しい方向を提示することが求められるのである(117ページ)。
〇この点に関して岡崎は、「他者への配慮、互いの信頼性、有機的連携といった社会関係資本こそ(が)、これまでのハード中心の社会資本に変わって、これからのまちづくりにとって必要な新しい資本といえる」という(140ページ)。最後に引いておきたい。