古川 彩/パレスチナのオリーブ

パレスチナのオリーブ

古川 彩


一粒の種
100本の木
10000粒のオリーブの実
オリーブの油
パレスチナ人の血を流れ
ガザの地を潤す

一粒の弾丸
100本のちぎれた手足
10000戸の消えた家族
クーフィーヤの抵抗
パレスチナ人が血を流し
ガザの地が枯れた

種を蒔いた
子どもの灰を撒いた
木を植えた
木が燃えた

あそこがわたしの畑です
指をさした
あそこで家族が身を裂かれました
手を合わせた

吹っ飛んだ我が家の跡で
袋に集めた瓦礫
「父さんの血がついてるんだ」

見開かれたままの黒い瞳
引き結んだ小さな口
少女たちは歌う
わたしたちはパレスチナ人
世界はわたしたちを
忘れてしまった

ホロコーストがライブ中継される
次の瞬間
勇敢な市民の腕とスマホが飛び散った
あまりに無惨な赤色に
思わずブラウザを閉じた
あまりに悲惨な空の下
祈り虚しく命を閉じた

「刺激的な映像が含まれています
ミュートしますか」
無機質な文字
世界にミュートされたオリーブの地で
叫ぶ有機の命の灯
世界がブロックした
彼の地の慟哭

ひっそりと消した
検索履歴
堂々と消えた
虐殺の歴史

地を焼き
知を燃やし
核を抱き
学を砕く

オリーブの油したたる
豊かな大地に
ジェノサイドの生き血が
染み込んでいく
世界の了解のもとに
命をひねりつぶす
昨日も今日も

一粒の種
100本の木
10000粒のオリーブの実
オリーブの油
パレスチナ人の血を流れ
ガザの地を潤す

一粒の真実
100本の報道
10000人の忖度なき声
クーフィーヤの誇り
パレスチナ人と笑みを交わし
ガザの地にオリーブが実る日

クーフィーヤ:パレスチナの伝統的スカーフ。

備考:この詩は、直接の加害者であるイスラエルに対する怒りもさることながら、今もリアルタイムで実行されつつある「虐殺」を見ないことにして暗黙の承認を与えている--あるいは「ひどいことをするもんだ」とコタツでお茶を飲みながらテレビのニュースを見、さてと、とスイッチを切って日常の生活に戻る--私たち一人ひとりの良心に向けられているのです。だからこそこれを読んだわたしは「パレスチナ人と笑みを交わし/ガザの地にオリーブが実る日」まで「10000人の忖度なき声」の一人でありたいと願うのです。(村上 進)


出典:古川 彩「パレスチナのオリーブ」『農民文学』第338号(2025,1)、日本農民文学会。
謝辞:転載許可を賜りました古川 彩さんと日本農民文学会に衷心より厚くお礼申し上げます。/市民福祉教育研究所:田村禎章、三ツ石行宏