阪野 貢/「まちづくりと市民福祉教育」の実践と研究への学び ―狛江市社協「あいとぴあカレッジ」の実践をめぐって―

〇筆者はいま、あるきっかけを得て、「まちづくりと市民福祉教育」に関していろいろと思いを巡らしている。その際の問題意識は次のようなものである。

 【問題意識 ①】
〇「福祉教育」実践と研究はこれまで、一面では、子どもと高齢者、健常者と障がい者、ICIDH(国際障害分類)とICF(国際生活機能分類)、排除と包摂、対立と共生、などの二項対立的な分かりやすさのなかで論じられ、取り組まれてきた。その際、「協同実践」(参加者が相互に学び合う関係性)の重要性が指摘されながらも、主体と客体の関係性を前提にしがちであった。しかも、包摂や共生の概念的・抽象的な思考や理解に留まり、日常の地域生活場面においてその感覚化や生活化、行動化を促すことに必ずしも主体的・積極的であったとはいえない。
〇そして、「我が事・丸ごと」の「地域共生社会」の実現が叫ばれるようになって久しいが、包摂や共生が未だ「お守り言葉」(鶴見俊輔)として使用されている感がある。それは、人々を思考停止に陥らせたり、ある種の刷り込みを可能にする恐れなしとしない。その要因や背景については、(1)福祉教育がその存立基盤となる原理論や思想・哲学への探究を等閑視してきたこと。(2)福祉教育の実践科学としての側面、すなわちハウツーや手法の提供に偏重してきたこと。(3)福祉教育がその固有性や自律性を十分に追究せず、学習内容や方法が確固たるものになっていないこと。(4)福祉教育が「政治」(福祉政治と教育政治)と対峙せず、「政治リテラシー」(政治的判断力や批判力)についてほとんど言及してこなかったこと、などを挙げることができる。
〇その結果、福祉教育は、政府・行政主導による福祉・教育改革の推進が図られるなかで、以前にも増して統制的で定型化された実践活動となりつつある。その弊害は、筆者が耳にする次のような声にも顕著に表れている。すなわち、「他地域の実践事例を見聞しても、以前のように『ワクワク感』が沸かなくなってきた」、「福祉教育が学校現場のニーズに即した形で十分な進展を見せているとはいい難い」、「現場実践と研究活動は不可分であり、両者の往還関係を構築することが肝要であるが、両者の間に乖離が生じている」などの指摘がそれである。
〇そういうなかで、いま求められるのは、歴史的視点や哲学的思考を重視しながら、福祉教育の原理論を探求し、福祉教育とは「そもそも何か」、それは「いかにあるべきか」、「いかに取り組むべきか」を、危機的な現場や生々しい実践との関わりのなかで本質的・根源的に問い直すことである。

【問題意識 ②】
〇「福祉教育」実践と研究はいま、大きな転換期を迎えている。従来の福祉教育は、ともすれば高齢者や障がい者に対する福祉の心の育成を図ろうと、子どもたちの個人の内面や道徳心に訴えかける「思いやり教育」に重きが置かれてきた。また、福祉教育活動が、(1)高齢や障害による不自由や困難についての疑似体験や、(2)車椅子利用者や視覚障がい者などの生活を支援するためのガイドヘルプ技術の習得、(3)福祉施設などに暮らす高齢者や障がい者との訪問・交流活動、という3つの形態に限定されがちであった。そこには、少なくとも3つの深刻な課題が見出される。
〇第1の理論的課題は、「依存を否定する自立観の超克」である。福祉教育は「支援する側の優越感」(思いやりが思いあがり)を育むことになり、高齢者や障がい者の「依存する権利」や「自立は依存先を増やすこと」(熊谷晋一郎)という考え方を不可視化させていないか、という点である。 第2の実践的課題は、「まちづくりとの乖離の解消」である。福祉教育は教室内での知識学習や一過性の体験学習に留まり、日常生活が営まれる地域・社会そのものを変革しようとする志向性が脆弱である、という点である。そして第3の哲学的課題は、「主体変革としての教育観の確立」である。福祉教育を単なる知識や技術・技能の習得や情動的な共感教育に終わらせるのではなく、学習者が社会の課題を自らの問題として捉え直し、社会を創り変える主体(変革主体)へと成長していくプロセスを、いかなる人間観や教育観(理念的・哲学的な根拠)に基づいて構築していくべきか、という点である。
〇これら3つの課題は、個別に存在するものではない。新しい自立観という「理論」を携え、地域・社会の変革という「実践」を積み重ねるプロセスを経て、子どもから大人までを含む地域住民は、真の変革主体という「哲学」を体現する主体へと成長を遂げる。すなわち、「まちづくりと市民福祉教育」を一体的に捉えるための分析枠組み(視座)こそが、地域共生社会を共創する鍵となる。ここでいう「まちづくり」とは、単なるインフラの整備やハード面の構築を指すのではない。その「まち」に住む人々が互いの権利をどのように認め合い、どのようなルールで共に暮らすかいう地域共生社会の設計そのものである。一方、「市民福祉教育」とは、単なる知識や技術・技能の習得ではなく、その設計に主体的・自律的に参加(参集・参与・参画)するための自治力と共生力の育成である。つまり、教育によって市民のパラダイムの転換を図ることは、暮らしの社会的基盤や共生の作法を書き換えることを意味し、それが結果として地域・社会の仕組み(構造)の変革を促すのである。
〇そこでまず、1980年前後から「福祉で町づくり」を説き、福祉教育とボランティア活動のあり方を追究してきた大橋謙策の言説の原点に立ち返り、いまは「福祉はまちづくり」の時代にあることを認識することが肝要となる。そして、そこでは、「市民福祉教育はまちづくりの基盤であり、まちづくりは市民福祉教育の実践の場である」という考え方が重要になる。すなわち、「まちづくり」と「市民福祉教育」は、車の両輪の関係にある。前者は、誰もが排除されない仕組み(ハード・ソフト)を構築する営みである。後者は、その仕組みを動かし、更新する主体(市民)を育む営みである。そして、両者を媒介するのは、学習を個人の内面に留めず、地域の変革へと開いていく「学習の外化(社会化)」の概念である。

〇筆者が本格的に「福祉教育」実践と研究に足を踏み入れた嚆矢は、東京都狛江市社会福祉協議会における取り組みであった。それは、地域福祉活動計画(「あいとぴあ推進計画」)の策定であり、その中核事業である「あいとぴあカレッジ」の実践は、1990年代という早い段階で福祉教育を「まちづくり」の不可欠な基盤として位置づけたものであった。次の拙稿はその一端をまとめたものである。

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福祉教育計画と学習プログラム
――狛江市社協“あいとぴあカレッジ”の取り組みをめぐって――

はじめに

〇今日、地域福祉(活動)計画の策定が要請されるなかで、その一環として地域住民による福祉教育活動を動機づけ、促進し、援助するための方策の計画づくり――福祉教育の計画化が求められている。その福祉教育計画は、自治体によって策定される計画と地域住民が主体的に創りあげるものとに大別される。前者の自治体による福祉教育計画は、例えば、さらに市町村、広域行政圈、都道府県の3層に細分できる。また、その構造化の流れは、市町村→広域行政圏→都道府県の方向で考えるべきである。しかも、3層のうち、福祉教育の本質からいって、市町村レベルの計画が最も重要視される。後者の住民が主体になって策定する福祉教育計画は、東京都における地域福祉計画のいわゆる「三相」計画のうちの「地域福祉活動計画」の一環としてのそれであるといえる。
〇東京都狛江市の社会福祉協議会(以下、「社協」と略す)は、1990〈平成2〉年3月、地域福祉活動計画としての“あいとぴあ推進計画”を策定した。その計画は、ボランティア活動・福祉教育計画と在宅福祉計画の2つから内容構成された。本稿では、そのうちの福祉教育計画について、その策定過程と学習プログラムを中心に、その策定作業にかかわった者としての立場から考察することにする。

Ⅰ 福祉教育計画の意義と役割

〇福祉教育は、すべての地域住民の生命と生活を守り、人間的な発達と自立を保障する地域・社会を創造するために、住民がその主体となって家庭・学校・企業・地域などの場で展開する教育・学習活動の総体をいう。したがって、福祉教育活動は、単なる社会福祉に関する知識や技術の伝達活動ではない。啓蒙や宣伝活動でもない。また、教化活動でもないし、そうであってはならない。それは、福祉文化の創造や福祉のまちづくりをめざした、住民の内発的な意欲に基づいた、住民による自己教育・相互教育活動として展開される。その際、住民は、学習主体であるとともに教育主体でもあり、学ぶことを通して教え、教えることを通して学ぶ。換言すれば、住民は、相互に学びかつ教え、教えかつ学ぶという関係を通じて福祉文化の創造や福祉のまちづくりを進めるのである。福祉教育計画とは、地域住民がこのような福祉教育活動を自発的・主体的に創造し、展開していくための計画をいう。そして、計画そのものを練りあげていく主体は、あくまでも地域住民である。また、その取り組みは、そのまま同時に福祉教育の実践であり、運動でもある。
〇ところで、例えば、社協による福祉教育事業・活動は、従来、無計画に、あるいは単なる思いつきや経験などによって、しかもせいぜい単年度計画によって実施・展開されてきたといってもよい。そういった事業・活動に科学性・客観性・体系性を与え、また事業・活動を継続的に安定化させるものが福祉教育計画である。また、福祉教育計画は、一定地域内での福祉教育事業・活動を計画化の対象とする地域計画であり、かつ総合的な計画である。その際、福祉教育計画は、あくまでも地域計画としての福祉教育計画であり、地域の総合計画ではない。また、「総合的」とは、①計画内容として、事業計画、施設整備計画、マンパワー計画、財政計画を含む。②教育の3領域と呼ばれる家庭教育、学校教育、社会教育を生涯学習の視点から有機化・再編成する。③行政をはじめ、地域内の公的機関や民間機関、それに住民団体などとの連携・協働を図る。④福祉・教育・保健・医療などの関係行政、施設、機関の連携・統合化を図る。⑤長期・中期・短期あるいは単年度計画など、一定の見通しを立てる、といった意味である。
〇以上を要するに、福祉教育計画の策定の意義は、福祉教育事業・活動の総合化、科学化、体系化、継続化、それに合意形成などにある。また、その主な役割は、福祉文化の創造や福祉のまちづくりをめざした住民の自発的・主体的な福祉教育活動を担保することにあるといえよう。

Ⅱ 福祉教育計画の内容と策定方法

1 福祉教育計画の内容
〇福祉教育計画は、一般的・基本的には、①事業計画、②施設整備計画、③マンパワー計画、それに④財政計画の4つの計画から内容構成される。①事業計画は、福祉講座・講演会・行事などの諸事業の開催や福祉広報・啓発事業の実施に関する計画、②施設整備計画は、施設、設備、教材・教具などの開発、整備、活用に関する計画、③マンパワー計画は、福祉・教育・保健・医療などの関係職員、社会福祉サービス利用者、一般市民、ボランティアなどの開発、育成、活用に関する計画、④財政計画は、財源の確保や運用に関する計画、をそれぞれいう。これらのうち、基本をなすのは事業計画である。そして、福祉教育計画は、まず事業計画が策定され、次いでその事業展開に必要な施設整備計画とマンパワー計画が策定され、その3つの計画を裏うちするための財政計画が策定されて計画が構造化される。
〇➀事業計画(シゴト)の策定は、単なる思いつきや経験、勘(かん)、あるいはこれでの慣習などによって立案した福祉教育事業を羅列することではない。また、事業数の多さや事業の種類の多様さを誇るものでもない。福祉教育の目標に照らした有意義な事業を精選し、それら各事業の相互の関連づけを行うとともに、重点的な事業を中核に事業の構造化を図ることが肝要となる。
〇➁施設整備計画(モノ)は、住民の生活実態や学習要求、地域の教育や社会福祉に関する将来構想に裏づけられたものでなければならない。しかも、福祉教育振興についての長期的なビジョンのもとに策定されなければならない。その際、学校、公民館、社協、社会福祉施設などで現に行われている福祉教育の諸事業・活動や諸形態を生涯学習の視点で捉え、見直し、再編成し、その有機化・統合化を図ることが必要かつ重要となる。
〇➂マンパワー計画(ヒト)については、まず、自分のもっている知識や技術、能力や経験を地域住民のために提供しようという住民――“まちのために自分の知恵や腕を貸そう”という住民を発掘、確保し、またそういった住民を助言者や援助者として養成・研修するための計画が必要かつ重要となる。また、社協職員は、側面から住民の福祉教育活動を助長・奨励し、方法論的・技術論的に助言・援助することを本務とするが、その際、側面的援助活動の中枢をなすものは学習情報の提供と学習相談である。社協職員には、学習情報の収集・処理・提供に関する知識と技術を有し、学習の内容や方法について専門的に助言・援助しうる能力が求められる。そして、こういった知識や能力をもつ社協職員の養成・研修計画や配置計画が必要となる。
〇➃財政計画(カネ)は、福祉教育計画に現実性・実質性を与えるものとして、計画を空文化させないためにも必要不可欠である。その際、継続的・安定的な財源確保を図るために、科学的な現状分析と長期的な見通しをもった財政計画を立てることが求められる。すなわち、財政計画は、長期的に健全な財政構造が維持されながら、事業が円滑に、効率的・目的的・生産的に経営され、事業目標が達成されていくものでなければならない。
〇なお、こういった内容をもつ福祉教育計画は、単年度で完結されるものではない。一般的には中・長期にわたるものが策定され、その複数年度計画のなかから各年度の単年度計画が策定されることになる。中・長期の見通しを欠いた単年度の福祉教育計画は、体系性や計画性、必然性や説得性の弱いものになる。

2 福祉教育計画の策定主体
〇以上のような福祉教育計画の策定主体は、種々の学習要求や学習必要をもつ地域住民である。住民主体による計画策定がなされない限り、いかに建設的で理想的な計画が策定されたとしても、それは決して本来の意味での福祉教育計画であるとはいえない。しかし、福祉教育計画の主体は地域住民であるとはいえ、一部に傑出した住民が存在するものの、計画策定のための力量を備えた住民は極めて少ないといわざるをえない。そこで、現実的、実質的には、計画策定に際して社協が中核的・先導的役割を担うことになる。また、行政には、住民が主体的・能動的・自律的に福祉教育計画を策定することができるよう環境醸成や条件整備を図り、側面的援助を行うことが求められる。とりわけ社協職員には、計画策定に当たって、住民の主体性・自律性を損なわないように専門的・技術的に助言・援助するとともに、個々の住民の声が実質的に計画に反映されるよう配慮する特別重大な役割を果たすことが期待される。しかし、社協職員は、必ずしも計画策定についての科学的・専門的な知識や技術を有しているとはいえない。そこで、計画策定能力をもつ社協職員の養成・研修や適正配置が焦眉の課題となる。

3 福祉教育計画の策定過程と方法
〇計画は、通常、Plan→Do→See という手順で進められる。教育計画とりわけ福祉教育計画に関する限りは、そうした考え方ではその計画は空論化し、画餅に帰しやすい。福祉教育計画は、See(評価、調査)→Plan(計画)→Do(実施)→See(評価)というサイクルで進められなければ実効性のあるものとはならない。
〇すなわち、福祉教育計画を策定する場合、まず現行の福祉教育事業・活動を洗い出して現状と課題を明らかにするとともに、住民の福祉意識や社会福祉に関する学習要求や学習必要について調査検討することからはじまる。そのうえで、次に、目標の設定を行う。目標は、単に夢や理想を語ったものではない。また、スローガンを掲げたものでもない。目標を設定する際には、そのシゴト(事業)の実現可能性をはじめ重要性、緊急性、効率性などを考慮して設定されなければならない。目標が設定されれば、その目標を達成するために必要なモノ、ヒト、そしてカネなどの手段が選択され、その組み合わせについて検討されることになる。以上をより具体的・実際的にいえば、福祉教育計画は、➀目的の設定、➁目標の明確化、➂現状に関するデータの収集、➃目標達成のための合理的な手段の選定、➄事業・活動の展開、そして➅計画の評価、というプロセスをたどるのである。
〇➀福祉教育における目的は、最終の到達点をいうが、一般的には曖昧で抽象的・理念的なものにならざるをえない。しかし、目的を具体的に表現した➁目標は、抽象度を下げ、明確化を図ることが必要かつ重要となる。さもないと具体的な計画策定が不可能となり、また目標を達成するための手段の選定が困難になる。また、計画目標は、実現可能なものであり、焦点化され、しかも構造化されていなければならない。すなわち、抽象的・総花的で焦点の定まらない、しかも実現性の乏しい目標の設定は問題があり、無意味でもある。➂現状に関するデータの収集については、意図的・計画的・系統的に計画策定のための基礎的データを収集することが肝要となる。しかも、数量的調査のみならず、多様な形態と方法を駆使して地域住民の生活課題や学習要求などを捉えることが必要である。単発的なアンケート調査だけによる資料収集では、内実をともなった福祉教育計画の策定は困難である。➃目標達成のための手段は、目的合理的に選定・決定されなければならない。単なる思いつきや先進地域での実践例の模倣では意味がない。福祉教育計画は、本来、地域の歴史や特性を基盤に、地域住民自らの創意と工夫、そして努力によって策定される個性的なものである。➄各種の事業・活動には、個々ばらばらにではなく、常に相互の関連性のもとで展開されることによって有意義な成果を期待することができる。そして➅計画の評価は、目的や目標と裏はらの関係にあり、計画策定過程上、極めて重要である。そして、まずは設定した目標がどの程度達成され、どのような結果・成果があったかを見極めることがポイントになる。また、評価は、より整備された次の段階の計画策定を動機づけ、方向づけるために行われるものである。
〇以上の➀から➅のうち、福祉教育計画の策定過程上その心臓部分にあたるのは、➁目標の明確化である。計画目標の設定に際しては、➀地域住民の生活実態と生活課題や地域課題、➁住民の学習要求と学習必要、それに➂地域のさまざまな学習機会の供給実態などについて的確に把握することが必要かつ重要となる。
〇まず、➀住民の生活実態については、地域の歴史や特性に留意し、地域を展望し、将来予測を含めた生活実態を把握する必要がある。生活課題や地域課題については、それを生み出す生活構造や社会構造とのかかわりで把握すべきである。➁住民の学習要求は、現実的には住民の学習関心や学習の傾向について把握するなかで捉えることができる。その際、住民の生活実態や生活課題・地域課題とのかかわりで把握することが肝要となる。また、学習要求は、今日、高学歴化や情報化の進展によってますます多様化し、高度化しているが、住民自身によってまだ意識化、課題化されていないものもあることに留意する必要がある。そして、その学習要求の内容をいかに実証的に明らかにするかが問われることになる。一方、学習必要は、住民にとって社会的・発達的・教育的に学習が必要とされるものをいう。何を学ぶべきかについては、福祉のまちづくりや福祉教育、その計画策定などについての基本的な考えが問われることになる。この学習要求や学習必要は、そのすべてがそのまま現実の事業計画の内容とはならない。両者は福祉教育というフィルターを通して整理され、重要性・緊急性・日常性・共通性・適時性などの視点からプライオリティ(優先度)をつけて選択・精選され、課題化され、そして事業化されることになる。また、仮に学習必要だけで事業計画が立案された場合は、住民に強制感や疎外感を与え、住民に支持されるものとはならないことに留意する必要がある。➂地域の学習機会の供給実態については、社協や社会福祉施設などによる福祉講座や講演会などの開催状況、公民館や図書館などにおける社会教育活動の現状、それにカルチャー・センターをはじめとする教育・文化産業の動向などについて総合的に明らかにする必要がある。そして、それらの相互の連絡・調整を含めた計画策定が求められる。

Ⅲ 福祉教育事業計画の立案の手順と視点

〇福祉教育事業計画とは、福祉教育の全体計画(総合計画)の基本を構成するものであり、例えば福祉学級・講座や福祉講演会、福祉映画会、福祉祭りなどの実施計画をいう。それは、事業の名称をはじめ実施目的、実施主体、実施期間や時間、実施場所、学習者や参加者、講師や指導・助言者、学習目標、学習内容や方法、それに経費などを構成要素とする。それぞれの福祉教育事業計画のなかで学習課題(主題)や学習内容・方法、学習の展開過程などについて詳細に計画・立案したものを、福祉教育における学習プログラムという。それは、学校教育に即していえば、カリキュラムや学習指導案に相当する。そして、福祉教育計画と事業計画、それに学習プログラムの3者は、密接不可分の関係にあり、また福祉教育計画→事業計画→学習プログラムという順に具体化、実体化される。
〇ところで、狛江市社協が策定した“あいとぴあ推進計画”では、重点事業のひとつとして“あいとぴあカレッジ”の開講が構想された。それは、住民が“あいとぴあ”のまちづくりを主体的・創造的に展開するための、その善意の気持ちを有効に活かすための学習(福祉教育)の場として位置づけられた。ここでは、“あいとぴあ推進計画”策定後、“あいとぴあカレッジ”開講に至るまでの狛江市社協や住民の取り組みについて、とりわけ事業計画や学習プログラム立案の手順と視点に焦点をあてて概観し、若干の考察を加えることにする。

1 ボランティア活動推進委員会の設置
〇1990〈平成2〉年3月、狛江市ボランティア活動推進事業運営委員会によって策定された“あいとぴあ推進計画”が、社協の理事会・評議員会において報告され、狛江市社協が今後取り組んでいく基本計画として承認された。そして、1990〈平成2〉年度は、“あいとぴあ”元年として、推進計画そのものの住民への周知・浸透と計画の実施・推進体制づくりが基本方針として定められた。
〇1990〈平成2〉年8月、狛江市ボランティア活動推進事業運営委員会の発展的解散の後をうけて、在宅福祉推進委員会の組織化について検討する在宅福祉サービス関連事業連絡会とともに、ボランティア活動推進委員会(以下、「推進委員会」と略す)が設置された。推進委員会は、ボランティア活動・福祉教育推進事業の企画・立案を主な任務とし、学識経験者をはじめボランティア、地域住民団体、福祉施設・団体、地域産業、教育機関、行政機関、それに社協などの各関係者27名によって構成された。
〇推進委員会の委員に幅広く関連分野からの参加を求めたのは、各委員のそれぞれの分野での働きかけを通して、“あいとぴあ”市民運動の拡大と深化を期待してのことであった。例えば、ボランティアの生(なま)の声を伝えるために、狛江ボランティア連絡会(1984〈昭和59〉年4月結成)から3名のボランティアが委員として参加した。その3名は、推進委員会と狛江ボランティア連絡会とのパイプ役を果たした。また、教育の分野では、小・中・高等学校の校長や教頭、それに教育委員会の参加をえ、それが学校における福祉教育推進へのひとつの重要な契機にもなった。推進委員会は、1990〈平成2〉年度においては通算3回開催されたが、委員が多人数ということもあってか、積極的に協議するというよりは一面では承認機関的なものにとどまった。協議が積極的に行われたのは、推進委員会のもとに設けられたボランティア活動推進委員会企画小委員会(以下、「企画小委員会」と略す)の場であった。

2 “あいとぴあカレッジ”開講のための準備活動
〇第1回推進委員会において、“あいとぴあカレッジ”に関する諸事項の素案づくりを主な任務とする企画小委員会が設置された。企画小委員会は、推進委員会委員長(1名)、同副委員長(2名)、ボランティア(1名)、福祉団体関係者(1名)、中学校長(1名)、教育委員会関係者(2名)、福祉事務所長(1名)、それに社協理事(1名)の計10名の委員によって構成された。そこで検討された事項は推進委員会にもちあげられ、そこでの協議を通して合意形成が図られた。
〇1990〈平成2〉年9月には、企画小委員会のなかに作業委員会が設けられた。それは、学識経験者(推進委員会副委員長)と社協事務局職員の4名の委員によって構成され、通算4回開催された。そこでは、“あいとぴあカレッジ”に関する事業計画や学習プログラム立案の基礎的・具体的な作業が、主としてブレイン・ストーミングの討議法で行われた。
〇以下では、各回の企画小委員会において検討・協議されたことを、社協事務局の記録から概観することにする。

(1)第1回企画小委員会(1990〈平成2〉年9月)
〇“あいとぴあカレッジ”は、狛江という地域で、住民が寄り合って創るカレッジであるという点が再確認され、その考え方をベースにいろいろな意見が出された。例えば、福祉のまちづくりは住民の生活(暮らし)から出発しなければならない。したがって、その担い手の育成・確保を図ろうとする“あいとぴあカレッジ”は、住民の暮らしに密着したものであることが求められる。そこで、講師(指導者)は狛江市内の人材に求め、住民の生きざまに学ぶ。学習資料は、地域の実態や住民の生活現実に根ざした生(なま)の資料に基づく、手づくりのものとする。学習場所(会場)は、市内の小学校の空き教室を有効利用する方向で考えることにし、住民が下駄履きで気軽に参加できるよう配慮する、などが決定された。

(2)第2回企画小委員会(1990〈平成2〉年12月)
〇“あいとぴあカレッジ”の学習プログラムを中心に協議された。また、住民の・住民による・住民のためのカレッジであるという視点を生かすために、学習者もカレッジの運営に積極的にかかわれるような「運営委員会」の設置について検討された。その他、学習者が主体的・創造的にかかわれる体制づくりという視点から、開講式以前に第1回の学習日を設け、オリエンテーションを行う。聴講生制度の導入については、聞きたい講座だけ参加する「つまみ食い学習」では福祉のまちづくりは担えないという考えのもとに、見送る。カレッジの学長については、遊び心をもって市内の最高齢者などが候補にあげられたが、“あいとぴあ推進計画”の産婆役を務めた狛江市ボランティア活動推進事業運営委員会委員長(学識経験者)に依頼する、ことなどが協議、決定された。

(3)第3回企画小委員会(1991〈平成3〉年1月)
〇“あいとぴあカレッジ”での学習内容や学習方法についての協議、講師団の絞り込み、それにカレッジ案内・募集要項(「あいとぴあカレッジ――入学のご案内」)についての検討などが行われた。席上、市内の人材による講師の講話内容や方法に関し、とりわけ講師が人前で話をすることや現実生活についての自分の思いや願い、悩みや苦しみなどの内面をさらけ出すことの戸惑いなど、いくつかの疑義が提示された。しかし、“あいとぴあカレッジ”は住民が相互に学び合う場であり、講師は、自分の生きざまを話すことによって学習者に住民としての生き方の素材を提供するとともに、自分自身も一人の住民として地域社会に貢献し、また自己実現・自己向上を図る、という基本的理念が再確認された。また、今回の企画小委員会では、学習評価の視点と方法についての検討もなされた。

(4)第4回企画小委員会(1991〈平成3〉年2月)
〇“あいとぴあカレッジ”の協賛団体の募集や学習者の修了レポートのあり方などについて検討された。また、学習プログラムの具体的な詰めの作業が行われた。そして、企画小委員会としての成案を得た。

〇1991〈平成3〉年2月、第3回推進委員会が開催された。そこでは4回にわたる企画小委員会での検討結果が報告され、協議を経てほぼ原案通り“あいとぴあカレッジ”の学習プログラムが決定された。
〇“あいとぴあカレッジ”の事業計画案や学習プログラム案は、以上のように、作業委員会、企画小委員会、推進委員会のあいだを何度となく往復し、そのなかで練りあげられ、内容の深化が図られていった。また、4つの委員会は、住民参加の場として、あるいは関係機関・団体との連携・協働や合意形成の場としても有効に機能したといえる。さらにまた、各委員にとっては、委員会は学習の場であり、自己実現や自己変革の場であったともいえよう。“あいとぴあカレッジ”の開講にかかわった委員の変革や変容が、“あいとぴあ”のまちづくりの「はじめの一歩」となったのである。

Ⅳ 福祉教育の学習プログラム立案の方法と留意点

〇地域住民による福祉教育において、その学習プログラムの立案は難しい。その主な理由のひとつは、学習者の属性や生活の実状、それに基づく発達課題や生活課題、学習要求や学習必要などがそれぞれ異なるところにある。その点では福祉教育の学習プログラムには定型はなく、学習者の数と同じだけの学習プログラムが準備されなければならないことになる。しかし、現実的には、地域社会の実態や動向などが反映される個々の学習者の多様な生活実態やニーズから、共通する、統合されるプログラムを立案・編成することになる。
〇“あいとぴあカレッジ”の学習プログラムの立案に際しては、“あいとぴあ”のまちづくりのための学習の方向づけや内容づけがなされたことはいうまでもない。しかし、その際、住民に対する学習要求調査に基づいて住民が必要とする学習項目や学習課題を探り出すという手法は採られなかった。また、主な、中心的な学習者(参加者)を想定・決定し、そのうえで学習者の生活実態や学習要求を把握するということもなされなかった。その点においては、限界のあるプログラムであったといわざるをえない。とはいうものの、立案・編成に際して、基本的なところではとりわけ次の4点について認識され、留意されたことについては注目しておきたい。

(1) 学習プログラムの立案に際しては、「はじめに学習者ありき」という認識が重要である。しかも、その学習者を地域生活主体として捉え、その立場に即したプログラムの立案・編成が求められる。すなわち、個々の住民が現実的に抱える生活課題や学習要求、それに狛江市の歴史的社会性や地域性に基づく生活課題や地域課題などに焦点をあてた、実際的で実践的な学習活動の展開が必要かつ重要となる。
(2) 学習プログラムは学習活動の単なる日程表や予定表ではない。それは、学習者のモラールを引き起こし、高めることができるものでなければならない。学習プログラムづくりとは、地域住民の生活や学習に関する考えや思い、願いなどをプログラムという形に具体的に表現することに他ならない。その際、手づくりの、手のこんだ学習活動が自主的、主体的、そして自律的に展開されるよう工夫し、配慮することが求められる。
(3) 地域住民による学習は、地域生活に発し、地域生活に帰す。“あいとぴあカレッジ”における学習は、個々の住民に始まって個々の住民に帰るだけでなく、その成果が地域に還元されることが期待される。その際、地域への還元は、学習者自身の高まりや深まりなくしてはありえない。知識の単なる蓄積は態度の変容を促さないともいわれる。その意味からも、関心と感動を引き起こすプログラムの編成が求められる。
(4) “あいとぴあカレッジ”は、狛江市に暮らす住民を対象とするカレッジ(講座)ではなく、住民を主体とするものである。また、その学習プログラムは、住民の・住民による・住民のための、手づくりのものである。したがって、学習プログラムを立案・編成する過程そのものが重要となる。それ自体がすでに学習すなわち福祉教育の過程であり、“あいとぴあ”のまちづくりの過程でもある。

〇ところで、福祉教育の学習プログラムには、社会教育におけるそれと同様に、一般的には、「事業名」「主催者」「学習対象」「学習期間」「学習時間」「学習回数」「学習場所」「学習目標」「学習テーマ」「学習内容」「学習方法」「学習資料・用具」「指導・援助者」、それに「予算」などの諸事項が内容として含まれる。ここでは、“あいとぴあカレッジ”に関するそのうちのいくつかについて、その立案の方法や留意点などをめぐって論じることにする。

1 学習目標の設定
〇学習目標――学習プログラム全体のねらいは、到達可能なものを具体的に、焦点化して設定し、かつ魅力的なものであることが求められる。抽象的で総花的な学習目標は、学習目標を曖昧なものにし、学習プログラムの編成そのものを困難にする。
〇“あいとぴあカレッジ”の学習目標は資料1のように設定された。そこには、学習活動そのものが福祉のまちづくりの実践や運動の一環であり、またそれへの具体的な参加が自らの生活をより豊かなものにすることに繋がることが示されていた。学習者が学習目標を身近に感じ、学習意欲を高めるためのひとつの工夫であった。

資料1 “あいとぴあカレッジ”の学習目標

2 学習テーマの設定
〇学習テーマは、学習プログラムの「顔」にあたるものであり、学習日ごとの学習内容を包括的に表現したものである。それは、学習者に対しては学習する概要を示すものであり、指導・援助者に対しては指導・援助すべき概要を提示するものである。そこで、学習テーマは、学習内容を的確に要約しているとともに、学習者が親近感や学習意欲をもちうるような、また学習の内容や方向を容易に想起し理解しうるようなものでなければならない。そして、また、学習者の属性や生活の実状などに適合し、指導・援助者には具体的な指導・援助活動の助けになるようなものであることが望まれる。すなわち、学習テーマは、課題性、親密性、それに具体性の高いものが望ましいといえる。
〇“あいとぴあカレッジ”の学習テーマは資料2のように設定された。それは、“あいとぴあ推進計画”策定過程で、1989〈平成元〉年9月に開催された第1回市民懇談会における分科会テーマをベースにしていた。その設定に際しては慎重を期し、とりわけその表現には工夫を凝らした。すなわち、学習者を引きつけ、学習者に受け入れられるよう、日常的、具体的、魅力的で平易な表現に心をくだいたのである。

資料2 “あいとぴあカレッジ”の学習テーマおよび学習内容

3 学習内容の選定
〇学習内容は学習目標を具現化したものである。プログラムに盛り込む学習内容の選定に際しては、いわれるように学習内容の種類の単純化と分量の少量化を図ることが肝要となる。多様な種類の学習内容が多量に盛り込まれると、学習者は消化不良をおこし、学習の疎外感や挫折感を味わうことにもなる。学習内容の種類と分量の単純化、少量化によって、学習者は成就感や達成感、充実感などを味わい、学習活動への取り組みを積極的なものにする。さらにまた、次の学習活動への参加を促すことにもなるのである。
〇学習内容がもたらす教育的効果は、その配列の仕方によって左右される。学習内容の配列は学習活動を持続、発展させるうえで重要である。そこで、まず、学習活動への導入をスムーズに行うために、学習者に身近な、日常的・経験的・実際的な学習内容をもつものが配置される。そのうえで、内容配列には連続性と発展性、系統性、それに常に流動的に対処しうる弾力性、柔軟性などをもたせることが肝要となる。また、適切なところに「遊び」や「ヤマ場」の部分をバランスよく配列することが求められる。それによって、プログラムはより豊かなものになり、立体化・構造化する。そして、また、学習者にはゆとりや充実感、向上心などを与え、積極性を生むことにもなる。
〇“あいとぴあカレッジ”の学習内容は資料2のように選定、配列された。その学習プログラムは、単なる「福祉のまちづくり概論」や「社会福祉概論」を講じるための、いわゆる一般教養的学習を行うためのものではなかった。福祉のまちづくりの主体形成をいかにして図るかという観点に立ち、大きな学習課題のもとに立案・編成された。そして、その内容は、福祉のまちづくりについて歴史的・社会的に学習する「総論」、現実の個々の生活場面に即して学習する「各論」、それにまちづくりのための具体的な方法や技術について考え、その習得を図る「方法論」の3つの部分から成っていた。その結果、それは、学習内容が広範囲にわたり、一面では総花的なものになった。また、必ずしも十分には学習成果を日常生活につなげ、現実の生活課題の解決にせまりうるものにはならなかった。すなわち、学習成果の実践化や生活化への配慮が不十分であったともいえる。“あいとぴあカレッジ”の学習プログラムは、学習の深まりに応じて基礎課程→実務課程→専攻課程と進む段階別編成がなされ、累進的体系化・構造化が図られていたが、上述の点は基礎課程における学習プログラムのひとつの限界であった、といえようか。

4 学習方法の選択
〇学習方法は、現実的には、学習の目標や内容をはじめ、学習者の属性や意識・意欲、指導・援助者の関心や能力、学習資料や用具、学習の時間や場所など種々の条件によって選定、決定される。学習の効果を高めるためには、単一の学習方法にこだわらず、多様な学習方法を有機的・立体的に活用・多用し、場合によっては視聴覚的手法などを併用することも求められる。学習方法には「講義」「討議」「話し合い」「発表」「実技」「実習」「調査」などがあるが、適切な学習方法を選択することは学習者の学習内容の理解を助け、認識を深め、学習効果を高めるだけでなく、学習者の学習への興味や関心、意欲などを持続させたり学習集団を維持させるためにも必要かつ重要となる。
〇“あいとぴあカレッジ”では、「講義」「討議」それに「実習」を中心にしながらも、「見学」や「話し合い」「発表」など学習者の主体的・能動的な活動を促す方法が採用された。また、学習を補強し、学習内容の高度化を図るために、ビデオでの視聴も組み込まれた。それらのうち、例えば「見学」は、現実生活に直面しながら学習課題にせまることができるという点においてメリットがあった。「話し合い」では、学習者の体験や主観・実感のレベルにとどまらないよう留意された。また、「発表」は、学習者が「胸におちてわかる」「身体でわかる」ためにも必要かつ重要であった。
〇また、“あいとぴあカレッジ”では、集会学習として公開の講演会を2回開催した。それは、学習に対する学習者の家族の理解と住民へのPRを意図したものであった。

5 学習資料・用具の選定
〇学習資料(教材)や学習用具(教具)は、学習効果を高めるための重要な要件のひとつである。学習資料や用具の選定に際しては、学習の目標や内容、方法に対する適切度、学習者の属性や日常的な地域生活との緊密度、それに指導・援助者の学習資料や用具に対する熟知度などとの関連が重視される。そして、種々の学習資料や用具を整備し、有効に活用することが求められる。
〇“あいとぴあカレッジ”では、学習資料に関しては、まず指導者(講師)に、指導者相互の事前打ち合わせを通してレジュメと資料の提示を求めた。そして、それを、「受講生便覧」「学習ノート」「学習資料」から成る冊子(『AITOPIA COLLEGE』B5判、52ページ)にまとめ、学習者に第1回開講日の「オリエンテーション」時に配布した。また、学習者に対しても、新聞・雑誌・広報紙などの関連記事や身近な住民の「生きざま」など、地域のさまざまな、生(なま)の資料を入手し、それを学習資料化することが求められた。その作業は、学習者にとってはそれ自体がすでに学習活動であり、また学習に迫力をもたせることを意図してなされた。

6 指導・援助者の活用
〇学習活動の展開とその深化・高度化には指導・援助者は欠かせない。学習目標を達成するためには、そのための意欲と能力をもつ指導・援助者が必要不可欠となる。
〇“あいとぴあカレッジ”では、講師(指導者)については、原則的には著名度や専門度で選定することは避けた。また、できる限り狛江市内から人材を発掘することにし、とりわけ福祉のまちづくりのための実践や運動に参加している一般住民の活用を図った。その理由のひとつは、学習内容の生活性や地域性を期待するとともに、学習者の学習活動やその成果の体験化、生活化、地域化を容易にすることにあった。講師の講話(レクチュア)については、学習活動の方向を定めるものではなく、あくまでも学習者の自主的・主体的な学習活動を誘発させ、持続、発展させるための補助的な役割を果たすものとして位置づけられた。すなわち、講師にはいわば話題提供者としての役割が期待され、学習を結実させ、具体化するのはあくまでも学習者自身であるとされた。また、講師は、ひとりの住民として、その活動を通して社会的貢献と自己実現・自己向上を図ることが期待された。
〇また、“あいとぴあカレッジ”では、学習者の学習活動が自主的・自発的に展開され、講師への依存度を少なくするよう、学習活動全般にわたって集団的あるいは個別的な助言・援助を行うチューター(学習援助者)を配置した。チューターには社会福祉系大学院の学生3名に依頼し、学習者と講師のあいだにあって、個々の学習者に対して、あるいは学習者内のリーダーを有効に活用して、たえずその援助性を発揮することが求められた。
〇なお、講師とチューターには、学習者が自主的・創造的な学習活動を展開しうるよう、学習内容や方法などについて協議を重ねることが求められた。また、彼・彼女らには、それぞれの学習指導・援助過程でいかにして「人間」や「生活」、「地域」や「まちづくり」にせまり、切り込んでいくかが問われた。

7 学習時間・場所等の決定
〇学習プログラムを企画・立案する際、時間的要素として、学習の時期、期間、時刻(時間帯)、回数(時間数)などについて検討することが求められる。それらは、地域の特性をはじめ、学習の目標や内容・方法、学習者の属性や生活実態、学習場所の学習条件や地理的条件などとのかかわりにおいて検討され、設定される。また、学習日と学習日の間隔(学習のインターバル)は、学習の習熟度や達成度との関連を考慮して設定される。
〇“あいとぴあカレッジ”では、学習時期を5月から8月までの第Ⅰ期と10月から2月までの第Ⅱ期に分け、それぞれ15回の学習日を設定した。学習日は、原則として毎週木曜日の午後6時30分から8時30分の2時間とし、公開講演や体験学習、施設見学などは土曜日の午後に組み込まれた。それらは、学習者の時間的制約をできる限り緩和・解消するための配慮であった。また、週1回の学習は、学習日と学習日とのあいだに、学習者によって個人学習や自主的な活動が展開されることを期待してのことでもあった。資料3は、1日の学習日の学習の流れ(「展開プログラム」)を示したものである。「学習活動」に連続性をもたせていた。「講話」と「討議」にそれぞれ50分の時間が配分されていた。また、「学習のねらい」に受講生とともに講師のそれが明示されていた、ことなどが注目されよう。

資料3 “あいとぴあカレッジ”における学習の流れ

〇学習場所(会場)の決定にあたっては、学習の目標や内容・方法に十分に対応できる施設・設備を有する場所が考慮されなければならない。また、地理的条件については、原則的には、学習場所への所要時間が徒歩で15分から20分程度以内が望ましいとされている。
〇“あいとぴあカレッジ”では、狛江市と狛江市教育委員会の理解と協力をえて、市のほぼ中央に位置する小学校(図書室)を学習会場とした。学校を学習会場としたねらいのひとつは、学校(教育)と社協(福祉)との連携強化を図り、地域の福祉教育関連諸資源のネットワーク化を促進することにあった。また、小学校(教員)をはじめとする学校における福祉教育の推進が期待された。

〇“あいとぴあカレッジ”開講のねらいは、福祉のまちづくりの担い手を育成し、その量的拡大と質的向上を図ることにあった。しかも、その基礎課程は、住民に対して、福祉のまちづくりのための実践や運動を動機づける学習課程であった。そこでの学習をひとつの契機に、多くの住民がさらに学習活動を続けるとともに、地域福祉活動やボランティア活動へ参加・協力することが期待された。そういった“あいとぴあカレッジ”の基礎課程の学習プログラムは、その立案に際して、以上のほかに次の諸点が留意された。

(1) 一定以上の学習成果を得るためには、学習集団の規模の適正化を図る必要がある。そこで、定員制を採用し、第Ⅰ期、第Ⅱ期ともに募集人員を30名とし、さらにそれを15名ずつの2グループと、7~8名ずつの4つの班に分けた。それによって、学習者の人間関係の緊密化とコミュニケーションの効率化を図った。
(2) 学習者の自発的な学習活動を触発するとともに、学習者がそれぞれの能力を発揮し、役割と責任を分担するよう班活動や係活動の展開を学習者に求めた。すなわち、各班より1名、計4名の班長が選出され、班長には各班の取りまとめと、“あいとぴあカレッジ”の運営に関する諸事項について協議・決議し、執行する「運営委員会」活動への参加が求められた。また、「学級通信」の編集と発行を行う「広報委員会」に8名の学習者が選ばれた。なお、「運営委員会」は、学長(1名)、常任講師(2名)、チューター(3名)、学習者代表(4名)、それに“あいとぴあカレッジ”の学習プログラムなどの企画・立案に当たったボランティア活動推進委員会委員(2名)の計12名によって構成された。
(3) 学習活動の修正や向上・発展、よりすぐれた学習活動の創造を図るために、学習評価を重視した。すなわち、学習者の評価活動を学習活動の一環として位置づけ、学習者に慣習化、定着化させることに努めた。また、学習修了者には、学習活動の総括と自己評価のために、簡単な、1人1編のレポートの作成と提出を求めた。
(4) 学習者から、特別の学習資料や学習者の自主的活動のための費用として、受講料3,000円を徴収した。それによって、学習者の中途脱落を防ぎ、自主的・主体的な活動の積極的展開を期待するとともに、参加責任をもたせた。
(5) 賞賛と激励、学習の継続と福祉のまちづくりへの参加・協力への期待を込めて、学習日10回以上の正規の修了者には修了証を授与した。学習日が10回未満の学習者については、不足分を第Ⅱ期で補うことによって正規の修了とした。

〇いずれにしろ、学習プログラムは、計画された活動が予定通り、「静かに」展開されることをよしとするものではない。学習者に能動的・創造的な活動を促す動的なものでなければならない。それによって、学習の深化や高度化を期待することができるのである。

むすびにかえて

〇1991〈平成3〉年5月9日、“あいとぴあカレッジ”「基礎課程」第Ⅰ期の第1回の学習(「オリエンテーション」)が行われた。学習者は募集定員の30名を数えた。その内訳をみると、性別では男性6名(20%)、女性24(80%)、年齢別では10歳代1名、70歳代1名、40歳代と50歳代がそれぞれ9名ずつで最も多く、全体の6割を占めた。また、職業別では、主婦を中心にしながらも、教員、学生(高校生、大学院生)、施設職員など多種多様であった。居住区別では全市的であり、狛江市に移住して4~5年になる者が多かった。地域に関心をもちはじめる居住年数なのであろうか。
〇講師は24名、チューターは3名、その他に社協事務局職員3名もカレッジの運営などにかかわった。計30名、学習者と同数であった。1991〈平成3〉年8月29日、第Ⅰ期生の学習発表会と閉講式が開催された。修了者は28名を数えた。修了者の学習活動への出席率は、土曜日の体験活動や公開講演以外は、常に90%前後の高率を示した。続いて、9月19日には、修了者主催の「卒業記念パーティー」が開催され、また交流活動をはじめ学習活動やボランティア活動などを行うための自主的なグループ――「一期生の会」が発足した。

【参考文献】
(1) 岡本包治・山本恒夫編著『社会教育計画』第一法規出版、1975年。
(2) 岡本包治編著『学習プログラム』(講座「現代の社会教育」第3巻)ぎょうせい、1980年。
(3) 藤岡貞彦編『社会教育の計画と施設』(「日本の社会教育」第24集)東洋館出版社、1980年。
(4) 市町村自治研究会編『市町村計画資料集』第一法規出版、1982年。
(5) 日高幸男・岡本包治編著『社会教育のプログラム』全日本社会教育連合会、1984年。
(6) 岡本包治『社会教育における学習プログラムの研究』全日本社会教育連合会、1984年。
(7) 全国社会福祉協議会編『地域福祉計画』全国社会福祉協議会、1984年。
(8) 岡本包治・山本恒夫編『生涯教育のアイディアと実際』(「生涯教育対策実践シリーズ」第4巻)ぎょうせい、1985年。
(9) 大橋謙策『地域福祉の展開と福祉教育』全国社会福祉協議会、1986年。
(10) 大槻宏樹編『コミュニティづくりと社会教育』全日本社会教育連合会、1986年。
(11) 岡本包治・小山忠弘・福留強編著『社会教育の計画とプログラム』全日本社会教育連合会、1987年。
(12)『地域福祉計画策定の手引』大阪府社会福祉協議会・大阪府衛星市町村社協事務局長会、1987年。
(13) 小川利夫・大橋謙策編著『社会教育の福祉教育実践』(「シリーズ福祉教育」第5巻)光生館、1987年。
(14) 木全力夫編著『社会教育計画論』東洋館出版、1988年。
(15) 岡本包治ほか『学習プログラムの技法』(「生涯学習テキスト」第4巻)実務教育出版、1988年。
(16) 『東京都における地域福祉推進計画の基本的あり方について』東京都地域福祉推進計画等検討委員会、1989年。
(17) 松下拡『健康学習とその展開』勁草書房、1990年。
(18) 矢野真和・荒井克弘編『生涯学習化社会の教育計画』(「日本の教育」第1巻)教育開発研究所、1990年。
(19) 日本地域福祉学会第4回大会地域福祉計画関係資料集編集委員会編『地域福祉計画の視点と課題』日本地域福祉学会第4回大会実行委員会、1990年。

【初出】
『市民福祉教育の探究―歴史・理論・実践―』みらい、2009年10月、205~231ページ。

*   *   *

〇以上から、「まちづくりと市民福祉教育」の実践と研究に関して、次の諸点について留意しておきたい。

(1)本実践では、計画策定の手順を Plan→Do→See  ではなく、See(評価、調査)→Plan(計画)→Do(実施)→See(評価)とした。 住民のニーズや地域課題を徹底的に「見る(See)」ことから始めるこのサイクルは、計画の空論化を防ぐための必須条件である。アンケート調査という数字の裏側に隠れた、住民の「生活の実感」を汲み取ろうとしたのである。

(2)「あいとぴあカレッジ」では、住民の学習要求(学びたい)と学習必要(学ぶべき)を地域福祉のフィルターを通して精選し、具体的な事業・活動化を図った。これは、確かなまちづくりを推進するための基盤であり、同時に住民間の合意形成を構築するプロセスとして位置づけられたものである。

(3)“あいとぴあカレッジ”では、住民や大学院生を講師やチューター(学習援助者)として確保・養成する「ヒト」、小学校の図書室を拠点とする「モノ」、受益者負担による参加責任を明確にした「カネ」、そして手づくりのプログラムを企画・実施する「シゴト」の4要素を体系化した。これにより、福祉教育を一過性の単なるイベントに留めず、地域に根ざした、共働の、持続的な「まちづくり」のための事業・活動としてその構造化・計画化を図ったのである。

(4)“あいとぴあカレッジ”では、「福祉の知識を教える」「ボランティア精神を養う」といった教育者から学習者への一方的な知識伝達(パウロ・フレイレ「銀行型教育」)ではなく、福祉教育を「住民による自己教育・相互教育活動」と捉え直した。 ここでは、住民は単に「学ぶ者」ではなく、学ぶことを通じて自らの生活を見つめ直し、地域の課題を自らの課題として再構成する「教育主体」として位置づけたのである。

(5)“あいとぴあカレッジ”では、学習プログラムのテーマを「児童家庭福祉」「高齢者福祉」といった制度的・形式的なものではなく、「あなたは一人で子どもを育てられますか」「あなたの老後の暮らしは誰がみますか」といった、個人の内面に問いかけるものとした。これによって、福祉(「ふくし」)を「他人事」から「自分事」へと引き戻そうとしたのである。

(6)“あいとぴあカレッジ”では、講師選定において著名度や専門度をあえて避け、地域の人材や「生きざま」を語れる住民を優先した。これは、住民が自らの苦労や願いを語り、それを他の住民が聴く。この「語り」と「傾聴」の連鎖こそが地域における共感のネットワークを紡ぎ出せると考えた。講師もまた一人の住民として自己実現を図るという、学ぶ者との双方向の関係性を重視したのである。

(7)“あいとぴあカレッジ”では、学習プログラムのなかに「遊び」や「ヤマ場」を配列し、学習者のモチベーションを維持するように工夫した。「車椅子で歩く狛江の街」「楽しい仲間とティータイム」といった実習や交流活動などは、教室内の座学を「身体的な体験」へと変換する装置である。感動や驚きを伴う体験(ヤマ場)が、知識を「知恵」へと昇華させ、地域を変える力へと変容させるのである。

(8)“あいとぴあカレッジ”では、その運営体制にも腐心し、学習者自身が班活動や広報活動を担う仕組みを設けた。それは、カレッジ自体が「小さな地域コミュニティ」であることを意味する。委員会の場での議論、対立、そして合意形成のプロセスそのものが、民主的なまちづくりのトレーニング(福祉教育)となることを期待したのである。

(9)“あいとぴあカレッジ”では、社協職員の役割を、主導権を握ることではなく、住民の主体性を引き出すための「触媒(カタリスト)」であることを重視した。 学習情報の提供、学習相談への対応、そして住民同士をつなぐコーディネート。これらは、社協職員に求められる、高度な専門技術を要する「側面的援助」である。住民を信じ、待つ、というこの忍耐強い伴走こそが、住民の内発的なパワーを引き出すとともに、それを支える職員自身の専門性をより高度な次元へと引き上げるのである。

(10)“あいとぴあカレッジ”では、最終的な評価指標を受講生の数や満足度ではなく、学習後に、どれだけの住民が「ふだんの、くらし」のなかで新たな行動を起こしたかに設定した。 「一期生の会」の発足に象徴されるように、学習が集団的なアクションへと発展し、地域のインフォーマルな支え合い組織へと脱皮していく過程こそが、本実践の最大の成果である。

〇“あいとぴあカレッジ”の実践は、1990年代のそれである。「格差社会」や「分断社会」「監視社会」、あるいは「新・階級社会」などといわれる現代社会において、地縁の希薄化や価値観の多様化、さらには生活困窮の重層化といった変数がある。かつて地域コミュニティの核であった「学校」もまた、閉鎖性の打破や地域開放が叫ばれるなど、大きな変容の渦中にある。そして、“あいとぴあカレッジ”の学習テーマに据えられた高齢者や障がい者などの問題に加えて、精神疾患を抱える当事者やその家族、社会的孤立者、外国籍住民、性的マイノリティ、あるいはデジタル弱者などの問題が重要な課題として突きつけられている。さらには、“あいとぴあカレッジ”の会場とされた小学校の図書室が果たした役割を、現代ではSNSやオンラインプラットフォームが一部代替しつつある。
〇こうした社会変容のなかで、福祉教育の場をどこに見出すべきか。どのような媒体を通じて、住民の・住民による・住民のための福祉教育を再構築すべきかが問われている。その際、手前味噌ながら、当時この取り組みに深く関わった者の一人として確信しているのは、「福祉教育はまちづくりのエンジンであり、まちづくりは福祉教育の教材である」ということである。この視点を今こそ、強く意識すべきであろう。