年に1度の お披露目
教員は 研修課題を 研究グループで子細に検討
具体的に 見せる授業の教科を決め 実施時期に照らし 単元の決定
そして 教材研究に 勤(いそ)しむ
研究グループとの 授業計画の協議に 時間をかけ
1時間の授業を 練り上げていく
授業方法や展開の流れが 指導計画の中に 緻密に立てられていく
研究授業当日
多少緊張気味の教員を 子どもらは助けるように 意欲的に取り組む
用意された発問に すばやく反応し 答える子どもたち
ときには 想定以外のことも 起こりうる
そのとき とっさにいかに対処したのかが
参観する 同僚たちによって チェックされていく
終了のチャイムが鳴るまで 緊張は続く
職員室に戻ると 同僚たちから ねぎらいの声をかけられる
その瞬間 一年の免罪符を手にしたことを 実感する
後は 授業研究の時間をクリアすれば 仕事は終わる
授業研究が始まった
どんなに準備しても 授業は生もの
子どもの実態は その時々で変化する
だから 無事終えることは 教員が「授業する力」を 認めてもらうチャンスなのだ
司会役の研修担当が 進める
研究グループが 授業のねらいや研究テーマとの相関性などをレクチャー
本人の授業反省と 参観者からの意見・感想と続く
一通り 授業について お褒めの言葉が並べられ それから具体的な論議に入る
そこは 授業者が 不愉快になるような意見を避ける空気が 支配する
だから 失敗した授業であっても 授業していただいてありがとうで 済まされてきた
4月に着任した校長が 口火を切った
「黙って聞いていたが つまらないね
切磋琢磨(せっさたくま)する気概(きがい)が ひとつも 感じない
おべんちゃらで 歯の浮くような意見は 授業者に失礼千万
もうこんなやり方 やめようよ
この授業に どれだけの手間と時間をかけたことか
その点について お礼をいうのは理に叶っている
だから 授業を終えて お礼を述べたことで 区切りはついた
今までのやり方は お礼と授業研究を ごっちゃにしているから
この授業への 問題や成果が 見えにくくなっている
もったいないと 思わないかい
授業者は 役目を終えて 授業研究する材料を せっかく提供してくれたんだ
思い切って みんなで料理して 美味しく食べてあげようじゃないか
それが 授業者や研究グループへの 礼儀というもんじゃないかな」
そこに 公開授業と授業研究が連動する意味がある
そのうえで 授業分析する力や 授業を構築する力が 培われていく
授業が大事だといいながら 授業のレベルを見極められなくては なんの進歩もない
これでは 自分たちの狭い世界でしか生きられない 籠の鳥でしかない
厳しい指摘が 教員の戸惑う気持ちと 反発心を高める
「ただ どう進めるのか いますぐにはできない
だから今日は 私が見た限りの 授業分析をしてみたい
もちろん後で 反論なり 意見を 率直に述べてほしい
料理の仕方で どれだけ美味しいものになるのかを 判断してほしい
その料理の材料を 提供してくれた先生に まずお礼を述べたい
授業者は授業後 “第三者”となって 自分の授業を 客観的に分析してほしい」
校長は メモも持たず 授業分析を始めた
その教科の専門では ない
しかし 徹底的に 教員たちの意見を 論破した
黒板を2枚使った展開に 圧倒されたのか
反論も意見も なにもでなかった
いままでの 仲良しごっこは 終わった
教員が 年に たった1度の 研究授業にかけるおもいを
ないがしろにはできない してはならない
大事なことは 授業を通して学び合ったその先に
子どもの学習の保障や 学力の育成という 大きな課題があるのだ
だからこそ 教員の持てる力を発揮せずして なんの授業研究か
学校の旧弊への ささやかなレジスタンスが 始まった
2回目 専門が算数だった教頭が 黒板の前に立った
3回目 目覚めた教師集団は 主体的に運営を始めた
空気は 変わった
校長の出番は もうなくなった
それは 教員集団が優れていたことの 証ともなった
〔2019年8月7日書き下ろし。小学校での授業研究の空気を変えたエピソード〕