市民福祉教育の定義
市民福祉教育とは、福祉文化の創造や福祉によるまちづくりをめざして日常的な実践や運動に取り組む主体的・自律的な市民の育成を図るための教育活動であり、その内容は、人間の尊厳と自由・平等・友愛の原理に立って、平和・民主主義・人権と、自立・共生・自治の思想のもとに構成され、その実践では、歴史的・社会的存在としての地域の社会福祉問題を素材にし、課題解決のための体験学習と共働活動を方法上の特質とする。(2013年9月1日一部修正)
市民福祉教育の概念図
市民福祉教育の概念図を示すと以下の通りである。(2013年9月1日一部加筆修正)
概念図中の上段の「地域コミュニティ組織」とは、地域に存在する、地域社会(地域福祉)の持続的発展のための組織を意味し、地縁型(地区別、属性別)とテーマ型、あるいは機能的集団型(アソシエーション)などに分類される。自治会・町内会、老人クラブ、民生委員・児童委員、NPO、福祉施設、企業などがそれである。「教育機関・団体」とは学校、公民館、図書館、PTA、民間教育団体などである。
地域コミュニティと「多元参加型コミュニティ」
今日、旧来の地域コミュニティの機能停滞や、新・旧の地域コミュニティの遊離や対立がみられる。地域の生活問題や福祉問題を自己解決する能力を備えた地域コミュニティの創造・再興が求められなかで、定型的な活動が主になりがちな地縁型コミュニティと地域との関係が希薄になりがちなテーマ型コミュニティの連携・協働のあり方が問われている。
そこで、「協働」や「共働」について考えるためのひとつの素材として、国民生活審議会総合企画部会が2005年7月に報告した「コミュニティ再興と市民活動の展開」のなかから、その言説の一部を項目的に整理し、提示しておくことにする。
「コミュニティ」(6ページ)
自主性と責任を自覚した人々が、問題意識を共有するもの同士で自発的に結びつき、ニーズや課題に能動的に対応する人と人とのつながりの総体。
「エリア型コミュニティ」(7ページ)
自治会・町内会といった地縁型団体による取組みを核として、同じ生活圏域に居住する住民の間でつくられるコミュニティ。
「テーマ型コミュニティ」(8ページ)
市民活動団体を中心にして、必ずしも地理的な境界にとらわれず、特定のテーマの下に有志が集まって形成されるコミュニティ。
「コミュニティ再興の条件」(9~10ページ)
①多様性と包容力
個人の自由な生活様式を前提として、幅広い世代や多様な価値観を持つ人々の参加を受け入れ る大きな包容力。
②自立性
地域の問題を市民自らの問題と受け止め、行政任せではなく、自立的に取り組む姿勢。
③開放性
コミュニティの参加者が開放的になって、コミュニティ外との積極的な対話や交流を図ること。
「多元参加型コミュニティ」(10ページ)
以上のような3つの条件を満たすコミュニティ。
地域的に区分されたコミュニティを基盤としながら、従来のエリア型コミュニティとテーマ型コミュニティが必要に応じて補完的・複層的に融合することで、多様な個人の参加や多くの団体の協働を促すコミュニティ。
ライフと教育
概念図中の下段の表示に関して次の拙文を再掲しておくことにする。
「人間は教育されなければならない唯一の被造物である」「人間は教育によってはじめて人間になることができる」。この、ドイツの哲学者カント(I.Kant)のことばを引くまでもなく、人間は本質的に教育を必要とする動物である。教育は、一般的・基本的には、次の3つの視点から捉えることができる。
(1)教育は、人間の「生命」すなわち「生きる力」の育成と向上を図るための活動である。その際の生きる力とは、社会的存在としての自分を、豊かな人間性と他者との相互行為のもとに主体的・自律的に築きあげていくための資質や能力のことをいう。この点に関して、「生きる力の核」としての「社会力」について説く門脇厚司の見解に留意したい。 社会力とは「社会を作り、作った社会を運営しつつ、その社会を絶えず作り変えていくために必要な資質や能力」、すなわち「人と人がつながる力」「社会を作っていく力」である(『子どもの社会力』1999〈平成11〉年)。
(2)人間が生まれ、生命を終えるまで生き続けること、それは生活することである。教育は、この日常の「生活」における実際的で具体的な「活動」すなわち生活経験を通して、またそれとの関連において現実社会について学ぶための活動である。その生活経験の過程で、知識や技能が獲得され、また活用されることになる。この点に関して、アメリカのジョン・デューイ(J.Dewey)は、「教育とは、経験の意味を増加させ、その後の経験の進路を方向づける能力を高めるように経験を改造ないし再組織することである」(『民主主義と教育』1916年)と述べている。また、デューイの教育論をベースに成人教育論を展開したエデュアード・リンデマン(E.C.Lindeman)は「教育は生活である」(『成人教育の意味』1926年)と説いている。
(3)教育は、人間の「生涯」にわたる社会「参加」に基づく成長・発達のための活動である。この点に関しては、フランスのポール・ラングラン(P.Lengrand)が、1965年12月に開催されたユネスコの第3回成人教育推進国際委員会で提案した「生涯教育」(「生涯学習」)の理念や、教育の使命は生活への準備としてのものから生涯にわたって継続するものへと変化すべきである、という指摘が思い起こされる。
要するに、「生命」「生活」「生涯」すなわちライフ(Life)は、人間の成長・発達の過程であり、それはまた教育の過程であるといえる。(『市民福祉教育の探究』みらい、2009年、ⅱ~ⅲページ)
注 2019年8月、一部改訂