老いの蹉跌(さてつ)

齡89の老男が 静かに呟(つぶや)いた
90がどんな年なのか 分かっていれば 
それなりの準備と覚悟を しているのにと

齡80の老男が 病後に諭すように呟いた
これから先は もらいもの
延命治療はいらない
お迎えが来たら 天命に従うだけと

齡70の老男は 呆れたように嘆いた
頭と体の 老いのバランス崩れ
何かとしくじり 地団駄踏む
こうなるだろうと知りつつ ドジを踏む
何の予見か 意味すらない

齡60だった男は 70を知らなかった
新しい病と 次々に縁を結び
体のガタに 身をさいなまれる
10年間 痛い目にあいながら老いを積む

齡50だった男は 志高く仕事に燃えてた
頭は冴え 口も体もよく動いた
明日への不安も不満も 難なく乗り越えた
老いは まだまだ先の別世界だった

別世界は 現実になっていた
70で ひとつだけわかったことがある
心のありように 老いは見つからなかった
それだけが 幸いなことだった

蹉跌をきたすも 
心は老けぬよう 
今を生きる

※蹉跌(さてつ):物事がうまく進まず、しくじること。

〔2020年7月6日書き下ろし。老いと向き合い、失敗の毎日。めげずに前に!〕