〇筆者(阪野)の手もとに、「リフレクション」(reflection)に関する次のような文献がある(それしかない)。
(1)「特集/福祉教育・ボランティア学習におけるリフレクション」『研究紀要』Vol.20、日本福祉教育・ボランティア学習学会、2012年11月
(2) 熊平美香著『リフレクション―自分とチームの成長を加速させる内省の技術―』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2021年3月(以下[2])
(3) 西原大貴著『「自分の可能性」を広げるリフレクションの技術』日本実業出版社、2023年4月(以下[3])
(4) 千々布敏弥著『先生たちのリフレクション―主体的・対話的で深い学びに近づく、たった一つの習慣―』教育開発研究所、2021年11月(以下[4])
(5) 学び続ける教育者のための協会(REFLECT)編『リフレクション入門』学文社、2019年1月(以下[5])
〇「リフレクション」は、企業をはじめ保健、医療、看護、福祉、教育などさまざまな業種・分野(現場)で取り組まれ、研究と議論が行われてきている。本稿ではまず、福祉教育のリフレクションについて、原田正樹の言説[1]を要約する。そこに示された知識や理解、実践を深め広げるためのヒントを得るために、あえてビジネスの世界におけるリフレクションの言説や論点を[2][3]から学ぶ。それは、人材育成や組織開発など、企業の成長や存亡にかかわる厳しいものであることによる。そして、[2][3]からの知見を補強するために、[4][5]についてその一部にふれることにする(抜き書きと要約。語尾変換・統一。見出しは筆者)。
Ⅰ. 原田正樹「福祉教育・ボランティア学習における創造的リフレクションの開発」
体験学習とリフレクション
● 福祉教育・ボランティア学習において、共生の福祉観を育むためには、障害や高齢による日常生活動作の疑似体験だけでは不十分であることは指摘されてきた。また、従来から「体験のやりっ放しはよくない」という指摘はなされ、体験学習における振り返りの大切さは意識されてきた。
● リフレクションのないプログラムは、どれほど目新しいものであっても、それは学習者の生活世界を変えていくものにはならないばかりか、地域社会の関係構造(リレーションシップ)を変えていく力にはなり得ない。
● 振り返りといっても、生徒たちの体験後の感想文・作文が主流で、自らの行為を省みる(内省)内容が中心であった。生徒間で異なった気づきを発見したり、課題を共有化していくことによる「感想文からはじまる学習」こそ、リフレクションのスタートである。
● ポートフォリオを導入して、(学習指導の過程において実施する)「自己形成評価」を取り入れる実践も増えてきた。ポートフォリオでは、学習者自身が学びを意識化し深めるという点では有効であるが、内省・省察的な振り返りだけでは、地域社会の関係構造の変化にむけた働きかけにつながらない。今日の福祉教育・ボランティア学習は、「社会創出」を指向したプログラムになっていない。
社会創出とリフレクション
● 社会創出とは、自らが地域社会の一員であることを自覚し、共生文化を創造する担い手として、地域社会に働きかけていくことができる力を育むことである。そのためには、体験だけで終わらせないための目的設定やプログラム、そしてそのことを意識したリフレクションが必要である。
● 例えば、ホームレスのことを知った生徒たちには、「これからどうしていくか」を問うことで、自らの行為や生き方を考えていくことになり、さらにホームレス問題を社会のなかでどう解決していくかを考えていく主体になり、その解決にむけてアクションを創り出していくことが望まれる。これが「創造的リフレクション」(creative reflection)である。
創造的リフレクションと主体形成
● リフレクションは、反省的思考(reflective thought)→行為のなかの省察(reflection-in-action)→批判的自己省察(critical self-reflection)→批判的省察(critical reflection)→創造的省察(creative reflection)という道筋で展開される。
● 「創造的省察」とは、現時点から過去の行為をふりかえるだけではなく、近未来の自分や社会を創り出すという視点から、リフレクションをしていくことである。同時にリフレクションを通して、近未来を創り出していくという指向性を有している。
● 個人の体験をリフレクションによって、何らかの解釈や意味づけをすることで、それを抽象的な概念として普遍化することが重要である。このことを繰り返すことによって、個人の発達を促していくことになる。そこで、個人の具体的な体験からその本質を引き出し(抽象化)、それを言葉(文章)や絵、図などによって表現すること(概念化)――「抽象的概念化」(abstract conceptualization)を行うための(教師による)学習支援が重要になる。
● リフレクションは、事後学習のプログラムではなく、体験の事前、事中、事後のすべての段階で行われる。しかも、こうしたリフレクションを繰り返し行うことで、新たな理解、新たな応用へと昇華していくという螺旋型の構造を示す。
● 未来志向の創造的リフレクションは、「学習の広がりと深まり」と「プログラムの展開と多様な学びの場」という2つの軸で考えられる。すなわち、一つだけのプログラムだけで学びが終始するのではなく、プログラムそのものも次の段階へと発展し、また様々な学びの場へと広がっていくことで、市民社会や共生文化の担い手としての主体形成が促されていく。
● 創造的リフレクションの構造には3つの特徴がある。①個別プログラムにおける丁寧なリフレクションを積み上げ、長期のプロセスを重視してリフレクションを長期で捉えていること。②当初は提供されたプログラムであっても、本人の意思や成長によって、自ら学びの場を選択したり、創り出すように展開していくこと。③新しい社会創出にむけて、理念的に語るだけではなく、具体的に提案(proposal)・提唱(advocate)することを組み込んだ学習プログラムを重視していくこと、である。これらによって新しい社会創出に向けた主体形成が図られていく。
● 福祉教育・ボランティア学習では、当事者に共感・共鳴し、ときには代弁する「当事者性」の涵養を大切にし、多くの人たちと学びあう「協同実践」を大切にしてきた。こうした学びの関係性を大切にするとともに、学びが連続し、継続していくことで、社会につながっていくという方向性を強くしていかなければならない。そしてそれは1つのプログラムではなく、地域のなかに複数の学びがあることが重要である。そのためには生涯学習の視点からの学びのシステムを検討していかなければならない。
(備考)
原田正樹「福祉教育・ボランティア学習における創造的リフレクションの開発」『研究紀要』Vol.20/日本福祉教育・ボランティア学習学会、2012年11月、41~52ページ/2021年2月24日/本文
Ⅱ. 熊平美香著『リフレクション―自分とチームの成長を加速させる内省の技術―』
リフレクションとその技術
リフレクションとは、「自分の内面を客観的、批判的に振り返る行為」(3ページ)である。その目的は、あらゆる経験から学び、未来に活かすこと。経験を客観視することで新たな学びを得て、未来の意思決定と行動に活かしていくことにある。それによって、自分自身の成長だけでなく、他者への理解を深めて成長を促進したり、組織をまとめるリーダーシップを育んだりすることができる。リフレクションの基本となるメソッドは、①自分を知る、②ビジョンを形成する、③経験から学ぶ、④多様な世界から学ぶ、⑤アンラーンする(学んだことを手放す)、の5つである(4~5、11ページ)。また、リフレクションの質を高めるためには、事実や経験に対する自分の判断や意見を、「意見」「経験」「感情」「価値観」(「認知の4点セット」)に切り分けて可視化することが肝要となる。それによって、自分の内面を多面的に深堀りし、柔軟な思考を持つことができるようになる。(20~21ページ)
リフレクション 基本の5メソッド
リフレクションの基本となる5つのメソッドは次の通りである(図1:11ページ)。このメソッドを活用することによって、良質なリフレクションを実践できるようになる。((1)41~43、(2)54~56、(3)73~81、(4)96~101、(5)104~109ページ)
(1) 自分を知るリフレクション
自分を突き動かす動機の源(内発的動機)を知ることで、自分のモチベーションを維持できるようになり、困難な状況でもぶれない自分の軸を持つことができる。動機の源は「価値観」(判断の尺度やものの見方)として現れる。
(2) ビジョンを形成するリフレクション
動機の源(大切にしている価値観)につながる目的やビジョン(「未来に対する意図」)を持つことで、「現状を変えたい」という思いや「現状と理想のギャップを埋めたい」と強く願う気持ちが生まれ、潜在的能力が高まり、困難に打ち勝つエネルギー(「クリエイティブテンション」)が生まれる。
(3) 経験から学ぶリフレクション
「反省」は、変えることができない過去の間違いを確認し、責任を追及したり評価を下したりする。リフレクションは、自らの行動や経験を振り返り、その結果と結びつけることによって、そこから何を学び、どんな教訓や法則を見出したか、自己の内面を俯瞰・客観視する。その学びを通して行動の前提になる持論(過去の経験から導かれた法則)をアップデートし、次の行動にどう活かするかを計画することができる。
(4) 多様な世界から学ぶリフレクション
「対話」は、自己を内省(リフレクション)し、自分の考えに固執せず、評価判断を保留して、他者と共感する聴き方と話し方をいう。それを通して思考を深め、多面的・多角的に物事を眺めることができる。それは、自分の境界線の外にある多様な世界から学び、その学びを自分のものにして自分の世界を広げることが可能になる。
(5) アンラーンするリフレクション
過去の成功体験(学び)と、その経験によって形成されたこれまでのやり方やものの見方が通用しなくなったとき、成功体験の思い出を残して、ものの見方を手放す。その際、アンラーンした(学んだことを手放した)先の世界を理解するために、想像力を働かせる。それによって、新しいものの見方や解決策を見出すことができる。
図1 リフレクション 基本の5メソッド
認知の4点セット
リフレクションの中核となるツール(手段)が「認知の4点セット」である(図2:21ページ)。認知とは、外界にある対象を知覚し、それが何なのかを判断することを意味する。認知(知覚と判断)は、過去の経験により形成された「ものの見方」を通して行われる。「認知の4点セット」では、意見とその背景にある経験、感情、価値観を切り分けて考えることによって、多面的・多角的なものの見方ができ、自己理解が増し、自分を変える力が高まる。(22~23、30~31、(1)~(4)32~39ページ)
(1) 意見:あなたの意見は何ですか?(意見とはある物事に対する自分の主張・考え、学び、思ったこと、をいう)
(2) 経験:その意見の背景(根拠)には、どのような経験がありますか?(経験には読んだり聞いたりして知っていることも含まれる)
(3) 感情:その経験や知識に対して、どのような感情を抱いていますか?(感情は大きくはポジティブかネガティブのどちらかに分類される)
(4) 価値観:そこかに見える、あなたが大切にしている価値観はなんですか?(価値観には判断に用いた基準や尺度、ものの見方が含まれる)
図2 認知の4点セットのフレームワーク
リフレクションの4つのレベル
リフレクションには次の4つのレベル(段階)がある(77~81ページ。図3:80ページ)。
レベル1:出来事や結果について振り返る(体験した出来事や結果そのものを振り返る)
レベル2:他者や環境について振り返る(経験した出来事や結果の背後にある因果関係を考える)
レベル3:自分の行動について振り返る(自らの行動を振り返り、結果と結びつけることによって次に取るべき行動を考える)
レベル4:自分の内面について振り返る(自分の行動の前提にある自分の考えを「認知の5点セット」で振り返り、俯瞰する)
図3 リフレクションの4つのレベル
〇なお、上述のリフレクションの5つの基本メソッドについて熊平は、次のような「成長が期待できる」と要約する。(225ページ)
① 自分を知るリフレクション
自分の動機の源を知ることで、目的を定める基礎ができる。
② ビジョンを形成するリフレクション
動機の源につながる目的を持つことで、ビジョンが形成できる
③ 経験から学ぶリフレクション
ビジョンを実現するために仮説を立てて行動し、経験から学ぶことができる
④ 多様な世界から学ぶリフレクション
未知の課題に取り組むときにも、多様な視点で、創造的な解決策を見出すことができる
⑤ アンラーンするリフレクション
過去の成功体験が通用しないときにも、自らの学びを手放し、新たな視点を持つことで、解決策を見出すことができる
〇いまひとつ熊平は、5つのメソッドは「自律型学習者」になるための・育てるためのメソッドでもあるとして、次の7つの観点からリフレクションの活用方法(自律型学習者を育てる方法)を説く。参考に供することにする。((1)222~223、(2)227~228、(3)241、(4)250~251、257、(5)261~262、(6)278~279、(7)291、293ページ)
(1) 主体性を育む
期待される役割に対して自ら考え行動することではなく、育成相手が自ら定めた目的に向かって考え行動するように支援する。
(2) 自分の頭で考える力を育む
何(What)をどのように(How)からだはなく、育成相手がなぜ(Why)から考える習慣をつけるように支援する。
(3) 期待値で合意する
期待値のズレが生じないように、育成相手が自分のゴール(使命)を正しく理解するように支援する。
(4) 経験・感情・価値観を聴き取り、信頼関係を構築する
経験・感情・価値観について共感による傾聴を行い、心理的に安全な環境づくりを心がけることによって、育成相手との信頼関係を構築する。
(5) 相手の強みを引き出し、褒(ほ)める
自分の強みを活かして貢献することができるように、育成相手が自分の強みを自覚・客観視できるように支援する。
(6) 成長を支援する
相手の行動、その結果、理想の行動について冷静に指摘・評価し、軌道修正(フィードバック)を促すことによって、育成相手の成長を支援する。
(7) 自分の育成力を高め続ける
相手の課題に焦点を当てるだけでなく、自分の選択した指導方法とその前提にある内面を振り返り、自分の育成力(指導の効果)を高め続ける。
Ⅲ. 西原大貴著『「自分の可能性」を広げるリフレクションの技術』
リフレクションの本質
リフレクションの本質とは、自分の可能性を知ることである。それは、「心から望む自分の目的地と、ありのままの今の現在地、その道のりに自分の可能性があり、支えとなる仲間がいるということを、心の鏡に照らし映すこと」(9ページ)。その「心の鏡に映る自分を見て、自分自身を深く知る方法」(72ページ)である。その際の重要な視点は、①心から望む(your heart)、②今を生きる(your moment)、③自分と仲間の可能性をつなぐ(your connections)、の3つである(11ページ)。それによって、自分が決めた限界を超えて自分の可能性を知ることができ、その限界に挑戦して、自分の可能性をいかんなく発揮できるようになる。そして、それを通して、「みんなが笑顔で自分の可能性に挑戦し応援し合う社会」(13ページ)の実現が図られるのである。
リフレクションの3つの視点
リフレクションとは、過去に囚われた思い込みや他人の作る限界から自由になって、自分の可能性を知り、広げ、未来を決めて(自分自身の成功・目的地を計画して)、現状ではない「心から望む自分らしさ」を想像し創造する実践である。それによって、これまでの視界が変わる(「見たいものしか見ない」のではなく、「見たいものは見える」)、思考が変わる、行動が変わる、結果が変わる、仲間や組織との関係が変わる、そして人生が変わり、社会が変わるのである。そのプロセスがリフレクションの実践であり、それには3つの視点が重要となる。(カバー・そで、72~74ページ)
(1) 心から望む:your heart
・心から見たいものを決める
・心から向かう目的地を明確にする
・心から大切にすることを多面的に決める
・大切なことはすべて大切にする
・心からの喜び、心からの幸せを実感している自分らしさを知る
(2) 今を生きる:your moment
・感情や判断をやめて、今をありのままに受け入れる
・自分が決めた目的地に向かう現在地を知る
・過去の失敗や感情に囚われることなく、今に感謝する
・浮かれ思い上がることなく、厳しく客観的に現状を受け入れる
・覚悟を持って自分の未来を決め、自分の可能性に挑戦する
(3) 自分と仲間の可能性をつなぐ:your connections
・現在地から目的地までをつなげる自分の可能性を知る
・支えとなる仲間がすでにいることに気づく
・これからの道を拓く仲間との関係を築く
・自分を支える仲間の可能性を信頼する
・自分と仲間の可能性をつなぐ
〇いまひとつ西原は、自分の可能性を最高に発揮している姿を多面的にリフレクションして、言語化することを勧める。すなわち、自分はすでに理想(成功している、目的地に到達している)の状態にあることを思い描き、それを言語化して肯定的な自己宣言(自己暗示、自己説得)を行うこと(アファメーション、affirmation)によって、自己肯定感と自尊心の強化を図り、自分の理想をかなえていく。その際の注意事項として次の7点を挙げる。参考に供することにする。(120~125ページ)
(1) 個人的、主体的な文章にする
自分が主体的に行動できる内容を文章化する。
(2) 他人の評価を含まない
他人の決める評価に依存せず、自分が決める「心から望む自分らしさ」を文章化する。
(3) 意識を向けたい肯定文で書く
「過去に囚われたなりたくない自分らしさ」ではなく、「心から望む自分らしさ」を文章化する。
(4) 実現している自分を現在進行形・現在完了形で表す
「〇〇している」「〇〇になっている」など現在進行形、現在完了形により、過去に囚われないようにする。
(5) 感情(うれしい・楽しい・誇らしい・気持ちいい・穏やか)を含める
「心から望む自分らしさ」を想像して、あらゆることを実現しているときの感情を含めた言語化を行う。
(6) 臨場感と精度を日々高める
言語化したアファメーションにこだわることなく、日々内容を精査して自分らしさを高めていく。
(7) ドリームキラーには教えない
人は人の夢を「現実味がない、前例がない、危険、意味がない」などと判断してしまう。アファメーションは自分だけのものであり、その内容を100%肯定してくれる人とだけ共有する。
Ⅳ. 千々布敏弥著『先生たちのリフレクション―主体的・対話的で深い学びに近づく、たった一つの習慣―』
「信念」に囚われる教師
現行の学習指導要領(小学校は2020年度、中学校は2021年度から完全実施、高等学校は2022年度の第一学年から学年進行で実施)に基づいて、「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)の実践が求められている。しかし、それを阻害する教師の「信念」(教師が自らの行動と思考様式に影響を与える価値の一定の体形:28ページ)に次のようなものがある。「教師は学習内容を、子ども間の能力差に配慮して学級集団全体が向上するよいに指導する必要がある」「子どもに対しては学習方法まで含めて、教師がきちんと指導しないといけない」「教師は常に子どもに規律ある行動をさせる必要がある」「学習成績の不振な子どもの指導はやっかいだ」「年間の授業のすすめ方の大枠は、指導書を参考にすべきだ」というのがそれである(17ページ)。こうした信念を変えるためには、すなわち「主体的・対話的で深い学び」を実現するためには、教師が主体的にリフレクションに取り組む必要がある。
マックス・ヴァン=マーネンのリフレクションの3段階論
カナダの現象学的教育学者のマックス・ヴァン=マーネン(Max van Manen)は、リフレクションの3段階論を提唱している。(156~160ページ)
(1) 技術的リフレクション
ある目的を達成するために、汎用的な原則を技術的に応用すること。すなわち、授業のなかで想定と異なる発言が子どもから出てきても対処できず、既存の知識やマニュアルで適応すること。
(2) 実践的リフレクション
個人的な体験、認識、信念などを分析し、実践的な行動を方向づけること。すなわち、想定外の授業の流れや子どもの発言などに対して、当初の授業デザインにこだわることなく、即興的に解釈し、授業デザインを修正しながら授業をすすめること。
(3) 批判的リフレクション
授業において意識すべき目的自体を常に見直す姿勢や考え方を持つことである。すなわち、教師の意図どおりに動かないし考えない子どもを鋭敏に受け止め、指導意図を柔軟に見直すこと。
教師のリフレクションを求める姿勢
授業研究を含めた、教師が授業について構想するあらゆる場面において、技術的リフレクションにとどまることを避け、実践的リフレクションや批判的リフレクションに取り組むことで、教師は子どもの主体的・対話的で深い学びを実現する授業ができるようになる(181ページ)。すなわち、教師にそのための手法(マニュアル)を提示することでは不適切であり、教師が自ら主体的にリフレクションするように促す戦略が必要になる。教師のリフレクショを促すのは手法ではなく、姿勢である(210ページ)。
Ⅴ. 学び続ける教育者のための協会(REFLECT)編『リフレクション入門』
熟考するリフレクション
リフレクションは、「反映する」「反射する」が第一義的な訳である。ただ、人のあり方に関わる場合には「熟考する」「省察する」という訳があてられる(2ページ)。リフレクションは、さまざまな業種・分野で用いられてきている用語であり、そのため必ずしも同一の意味・概念で使用されているわけではない(4ページ)。ここでは、リフレクションとは「自身の行為を規定するような自分自身の内面的で暗黙的な知識や技術、感受性・価値観などの要素に焦点をあて(映し出し)、その内容を吟味すること」(5ページ)をいう。すなわち、リフレクションは、「間違いをただすために」行うものではない。自分自身がどのように考え、どのようなことを願いとしてその行為を行ったのか、それは本当に望むものだったのかということを確認するというプロセスである。リフレクションはあくまでもプロセスであり、自分自身を映し出す営みであり、他者によって間違いを指摘されたり、変えられたりするものではない(8ページ)。[坂田哲人]
コルトハーヘンの「ALACTモデル」と「8つの問い」
オランダの教師教育研究者であるフレット・コルトハーヘン(Fred Korthagen)は、学習者の行為と省察の理想的なプロセスを5つの局面に分けている(図4:40ページ)。第1局面:行為(Action)、第2局面:行為の振り返り(Looking back on action)、第3局面:本質的な諸相への気づき(Awareness of essential aspects)、第4局面:行為の選択肢の拡大(Creating alternative methods of action)、第5局面:試行(Trial)、頭文字をとってALCT(アラクト)モデルトと呼ばれているのがそれである。
第1局面は、学習者が行為つまり具体的な経験を積み、学びのニーズが生まれてくる局面・段階である。ここでは、コーチ役(教育者)には、学習者の学びのニーズをもとにリフレクションを進めていくとともに、学習者が新しい学びのニーズに気づくようにするための働きやスキルが必要になる。
第2局面は、第3局面とともに「内的方面に向かう局面」であり、行為の振り返りを行ってその本質に気づくことが期待される。そのためにここでは「8つの問い」が用意される。その構造は、左半分は自分を視点に、右半分は相手を視点にした問いである。さらに、問1と問5は「行ったこと」(doing)、問2と問6は「考えたこと」(thinking)、問3と問7は「感じたこと」(feeling)、問4と問8は「欲したこと」(wanting)に関する問いである。この「8つの問い」を自分に発しながら行為を振り返り、コーチ役(教育者)と2人で行う場合には、コーチ役(教育者)が学習者に対して問いかけるのである。
第3局面では、自分と相手との間、あるいは自己の内面と行為との間にある不一致や悪循環に向き合い、「違和感の背景にあったものごとの本質」「そこにあった大切なこと」など(すなわち「本質的な諸相」)を深く探っていく。この局面・段階で学習者に自己の経験に向き合わせるには、コーチ役(教育者)の受容と共感、誠実さが大切になる。
第4局面では、第3局面の本質的な気づきを踏まえて「外的方面に向かう局面」であり、「次はこうしてみたい」「今後はこうしてみよう」という思いを持つことになる。そこで、コーチ役(教育者)は、複数の方法を学習者に比較・検討させるなどしながら、よりよい解決方法を見出せるように支援することが求められる。
第5局面では、第4局面で選んだ解決方法やそこから得られた知見をもとに、学習者が新たなアプローチを試みる局面・段階である。この局面・段階で積んで具体的な経験は、第1局面の「行為」となり、次の新たなALCTモデルの循環が生まれ、この循環を繰り返すことで螺旋的にリフレクションの質が高まっていく。(38~45ページ)[中田正弘]
図4 ALACTモデルと「8つの問い」
〇なお、リフレクションは、振り返るタイミングによって、行為の最中に振り返る「行為のなかのリフレクション」(reflection in action)と行為の後で振り返る「行為についてのリフレクション」(reflection on action)に分けられる(ドナルド・アラン・ショーン(Donald Alan Schön))。行為後のリフレクションはさらに、自分ひとりで行為を振り返る「セルフリフレクション」(self-reflection)と、他者にフィードバック(指摘・評価)をもらう「コレクティブリフレクション」(collective reflection)に分けられる。リフレクションの類語の「フィードバック」は、自己の行動や思考に対して他者による指摘・評価をもらうことを言う。「反省」は、自己の失敗やミスについて振り返り、今後に活かすことを言う。付記しておく。
〇例によって、以上の言説や議論を「まちづくりと市民福祉教育」に引き寄せて考えてみると、取りあえず次のようなことが再確認・再認識される。先ず、単なる「振り返り」や「内省」ではなく、「熟考するリフレクション」に留意したい。「まちづくりと市民福祉教育」におけるリフレクションは、その目的や背景、具体的な取り組みの内容やその成否の要因、その成果や学びなどを、取り組みのそれぞれの段階において振り返り、話し合い、熟考する過程である。そこからまた、新しい「まちづくりと市民福祉教育」が始まる。原田がいう「創造的リフレクション」である。
〇この点を別言すればこうである。「まちづくりと市民福祉教育」はその具体的な取り組みを通して、それに関わる個々人の連帯と協働(共働)、自己理解と自己実現、相互支援と相互実現などを促し、市民性の育成や共生文化の担い手としての主体形成を図る。また、自己の「まちづくりや市民福祉教育」の場面や思考を段階的あるいは螺旋的に、しかも批判的に振り返ることによって客観的な判断力や洞察力を得て、新たな視点(考え方)で継続的に「まちづくりや市民福祉教育」に関わることになる。
〇また、それによって住民は、能動的で理性的・自律的な生活主体や権利主体として、個人的責任だけでなく社会的責任を負うべき存在(市民)として自らを形成し、まちづくりの集団的・組織的な活動や運動に関わることになる。その際には、その活動や運動を確かで豊かなものにするための、個人的主体のみならず、集団行為主体や運動主体としてのあり方が問われることになる。こうした市民主体のあり様の多様化や複雑化、その融合化が「成熟」であり、いわゆる「市民的成熟」である。その点で、「まちづくりと市民福祉教育」における「市民的成熟のためのリフレクション」が求められることになる。
〇さらに、当然のことながら、まちづくりは一人ではできない。まちづくりは、建設的な批判と豊かな創造という視点・視座のもとに、連携・協働の場である地域社会の具体的な生活課題を解決することを第一義とする。そこでは、住民自治の理念のもとで、地域・住民の縦・横の人的ネットワークと「参加と協働」(共働)のあり方が厳しく問われることになる。リフレクションには、複数の人々や集団、組織で行うことによって、より効果的な自己理解と自己成長を促し、メンバー相互の信頼感の構築(再構築)や協働関係の向上に寄与するグループリフレクション(group reflection)がある。「まちづくりと市民福祉教育」において、「グルーブによるリフレクション」が問われるところである。
〇いまひとつ、「まちづくりと市民福祉教育」は、学校教育(定型教育)をはじめ、社会教育(不定型教育)や家庭教育(非定型教育)、青少年教育や成人教育など、あらゆる場と機会を通じて取り組むことが肝要である。そこでのリフレクションは、あらゆる教育機会や教育機関との空間的・水平的な関係性のなかで、また生涯の各期における教育との時間的・垂直的な関係性のなかで実施される。「まちづくりと市民福祉教育」における「生涯学習としてのリフレクション」である。
〇もうひとつ、「まちづくりと市民福祉教育」は、高齢や障害の理解や高齢者・障がい者の疑似体験、それに基づく「共感する力」や「思いやりの心」の育成・醸成に留まるものではない。それは、一人ひとりの地域住民(市民)が抱える地域生活課題に焦点を当てて個人の関係構築や組織化を進め、課題解決に向けた具体的な、地域生活に根ざした地域貢献活動や政策提言、政治的活動などを行う。それによって、社会変革のための地域・社会の福祉文化の醸成やウェルビーイングの実現が図られることになる。その点で、「まちづくりと市民福祉教育」におけるリフレクションは本質的に、「社会変革のためのリフレクション」である。
〇以上、「まちづくりと市民福祉教育」における「5つのリフレクション」、すなわち「創造的リフレクション」「市民的成熟のためのリフレクション」「グループによるリフレクション」「生涯学習としてのリフレクション」「社会変革のためのリフレクション」、である。