阪野 貢/「まちづくり学習」考:「中野伸彦論文」に寄せて ―「まちづくり学習」論稿のワンポイントメモ―

〇「まちづくり学習」に関する多くの論稿のうち、いま筆者(阪野)の手もとにあるのは次の5本である。

(1)竹内裕一「まちづくり学習において地域問題を教材化することの意義」『千葉大学教育学部研究紀要』第52巻、千葉大学教育学部、2004年2月、57~67ページ(以下[1])。
(2)玉田洋「『まちづくり教育』の現状についての考察―『まちづくり』を『教育する』ことにおける課題―」『21世紀社会デザイン研究』第12号、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科、2014年1月、93~102ページ(以下[2])。
(3)吉水裕也・ほか「社会科におけるまちづくり学習の研究動向と展望」『兵庫教育大学研究紀要』第55巻、兵庫教育大学、2019年9月、1~10ページ(以下[3])。
(4)伊藤裕康「『まちづくり学習』の動向と課題―総合的な学習の時間を中心にして―」『文教大学教育学部紀要』第54集、文教大学、2020年12月、27~42ページ(以下[4])。
(5)中野伸彦・森和弘「福祉のまちづくりと総合的な学習の時間~実践例に学ぶ『ともに生きる力』~」『研究紀要』第17巻第1号、長崎ウエスレヤン大学(現・鎮西学院大学)地域総合研究所、2019年2月、45~58ページ(以下[5])。

〇本稿では、[1]と[2]についてはその概要、[3]と[4]については筆者が留意したい点をそれぞれメモっておくことにする(抜き書きと要約)。[5]については別稿(<まちづくりと市民福祉教育>(74)中野伸彦・森和弘/福祉のまちづくりと総合的な学習の時間~実践例に学ぶ「ともに生きる力」~/2024年9月〇日)でその全編を掲載する。

竹内裕一「まちづくり学習において地域問題を教材化することの意義」2004年
● まちづくり学習は、さまざまな体験を通して子どもたちが自分たちの生活する地域を知り、地域の良さや問題点を見いだし、地域の形成者の一人として主体的にまちづくりにかかわっていこうとする態度を培うことを目指す学習である。
● まちづくり学習では、身近な環境との親交を深め、それへの愛情をふくらませ、自ら変容していくために、子どもたちが楽しみながらさまざまな「まち体験」を積み重ねていくことを重視する。そのため、学習過程が重要視され、「体験重視型」学習(AOL:Action Oriented Learning)の学習形態をとる。(⇒補遺)
● 従来のまちづくり学習は、いくつかの問題点を孕(はら)んでいた。
第1は、楽しく体験することを重視する余り、ゲーム的要素が強くなりすぎ、学習内容が浅薄なものになってしまう危険性がある。
第2は、学習過程をゲーム仕立てにするために、実際の現実を抽象化モデル化し過ぎてしまい、正確な事実認識に基づいた学習が展開されにくい。
第3は、「体験重視型」学習だけでは、地域に生起する厳しい意見対立を伴うような地域問題に対して、有効な解決策を導き出し得ない。
第4は、まちづくり学習の場が主に「学校外」であったため、どうしても参加者が限られてしまう。(57ページ)
● 子どもたちは、地域社会において生起する様々な問題を、自らの問題として捉え、その解決策を模索することを通して、自立した市民として鍛え上げられる。地域形成主体、良き市民の育成という視点から、まちづくり学習の対象を、地域のまちづくりにある程度問題意識を持った一部の「目覚めた」子どもたちから、地域に生活する「すべての」子どもたちに拡大していくことが不可欠である。
● 地域で生活する人々にとって、地域問題は決して避けて通ることはできない切実で深刻な問題である。地域住民の一人である子どもたちが、地域問題を正面から受け止め、他人事ではなく自らの問題として捉えることができてこそ、真に自らを地域形成主体として立ち上げることができる。(58ページ)
● 地域問題を学校教育の場で扱う際、次のような視点が重要となる(地域問題を教材化するする視点)。
① 地域問題を地域の人々とともに学ぶ
地域社会において、子どもたちを地域構成主体として育んでいくには、地域の大人たちとともに学ぶことが決定的に重要である。その際、子どもたちは、地域問題の持つ多様性を、「大人を通して」学ぶとともに、「大人たちと対等な立場で」学ぶことによって、地域社会の抱える問題やその解決策について考え、話し合い、行動することを通して、真の地域形成主体としての資質を獲得していく。(59、60ページ)
② 地域問題を日常的個別的問題と社会問題を媒介する教材として位置づける
地域に生起する様々な問題は、個人の日常生活に直接関わる問題である一方、地球規模の問題へとつながる社会問題でもある。地域問題は日常的個別的な問題と社会問題との中間に位置し、いわば両者を媒介する存在である。そのため、地域問題学習こそ、学習内容を「自分ごと」としてとらえる視点と、「他人ごと」としてとらえる視点を統一して学習できる場である。
③ 地域問題を一般化相対化する視点を導入する
地域問題を他地域に生起する同種の問題と比較検討する、地域問題をより広い地域レベルの問題として把握する、地域問題を日本全体や世界の抱える問題のひとつとして位置づける等の作業を学習過程に組み込むことにより、子どもたちは地域問題をより多面的、多角的、構造的に理解することができ、広い視野から一つの立場に偏らないより公正で妥当な判断を下すことができるようになる。(60ページ)
● 学校教育、とりわけ社会科学習の場でまちづくり学習を推進するにあたっての最大の課題は時間の確保である。現実的には、既存の社会科の学習内容にまちづくり学習的な視点を導入していくことが考えられる。また、社会科学習だけでなく家庭科や技術科、図工科・美術科などまちづくり学習に関連する他教科や選択教科、総合的な学習の時間などのカリキュラムの統合や連携を図りながら学習内容を整備していくことも必要である。(65、66ページ)

玉田洋「『まちづくり教育』の現状についての考察―『まちづくり』を『教育する』ことにおける課題―」2014年
● 「まちづくり教育」とは、まちを知る・郷土愛を育むことなどを目的に、自治体の協力のもと、主に小中学校などで実施されている学習のことをさす。他に様々な名称でも語られるが、いずれも正規の教科ではなく、「総合的な学習の時間」「生活科」「社会科」の中で、90年代以降、数多く実施されている。(93ページ)
●「まちづくり教育」は、その内容によって、「ハード(物的環境)型」(都市計画アプローチ)と「ソフト(社会的環境)型」(地域活性アプローチ)に分けられる。(95ページ)
●「まちづくり教育」は、その主体の目的によって、「まちづくり」教育(「地域」主体:自治体、地域のNPO等/主な目的:地域人材の育成)とまちづくり「教育」(「教育」主体:教育委員会、小中学校等の教育機関/主な目的:思考力・判断力・表現力の育成)に分けられる。(96ページ)
●「まちづくり教育」は、その内容(ハード・ソフト)と主体(地域主体・教育主体)の組み合わせによって、①ハード型「まちづくり」教育、②ソフト型「まちづくり」教育、③ハード型まちづくり「教育」、④ソフト型まちづくり「教育」の4つに分類できる。
●「まちづくり教育」は、①~④の全体が想起されるわけではなく、それぞれの立場(地域、教育機関)によって異なる。(97ページ)
●「まちづくり教育」の学習段階は、①まちを知る→②まちを好きになる→③まちに対する考えを持つ→④考えの共有→⑤行動する、と整理することができる。(98ページ)
●「まちづくり教育」の学習段階を考えると、「まちを知る」などの低いレベルにとどまる傾向にある。「まちづくり教育」の効果については、まだ明らかとなっていない部分が多く、それはそもそも検証しにくいものでもある。(99、101ページ)
●「まちづくり教育」は、学校などの教育機関で進行すると、子どもたちの「地域からの離脱」(若者の人口流出)を促進する要素を本質的に持っている。すなわち、「まちづくり教育」は、二つの主体(地域主体と教育主体)に目的の違いがあり、それがジレンマを生んでいくという課題を抱えている(東井義雄「村を捨てる学力」「村を育てる学力」1957年。「子どもと地域の乖離」が進んでいる今日においてはなおさらのことである。:阪野)。
●「まちづくり教育」は、ローカルに根差した「まちづくり」と、ナショナルな価値観の育成やグローバルな価値観への接続を孕(はら)む「教育」の二つが習合した概念、もとから両義性が存在する概念であり、「まちづくり教育」の成立には自ずから困難を伴う。(100、101ページ)
●「まちづくり教育」に可能性があるとすれば、「教育」という“上からの視点”ではなく、教育を受ける子どもたちの自主性が発揮された場合のみである。「まちづくり教育」は、大人たちのそれと同様に、子どもたちが、自分から参加し、楽しみながら主体的に取り組めるようなデザインがなされるべきである。(101ページ)

吉水裕也・ほか「社会科におけるまちづくり学習の研究動向と展望」2019年
● まちづくり学習とは、まちづくりの担い手を育成するために、自分自身が暮らしているまちを対象とし、まちに起こっている課題を他の地域やより大きなスケールと関連づけな がら認識し、自らが主導してハードとソフトの両面から総合的なまちづくり実践を行う学習と位置づけられる。(1ページ)
● 小学校社会科におけるまちづくり学習実践では、これまでのまちや今のまちの認識が強調され、これからのまちという未来の視点が弱い。また、これからのまちを考える際には、少子高齢化など予測可能な事象だけではなく、発生することが不確実な事象を組み合わせて、未来のシナリオを考えさせる未来予測型授業も必要である。
● 中学校社会科におけるまちづくり学習は、認識論的には、まちを所与のものと捉える学習が主流であり、目標論的には、まちづくりに関する知識・理解の獲得が中心である。しかし、まちが変化するものであること、まちづくりができる資質・能力を育むことを考えると、それでは不十分である。授業で生徒が追究する「問題(課題)」の取り上げ方に関しては、教師の「問題(課題)」か、子どもの「問題(課題)」か、という違いがみられる。また、取り上げる「問題(課題)」の種類(質)に関しては、スケールの違いがみられる。さらに解決策の導き方に関しては、グループや個人で自分(たち)にできることの提案、自治体などが行っている政策の妥当性の評価、代替案の創出という違いがみられる。なお、小・中を通じて、外国の研究を参照したものはみられない。(9ページ)

伊藤裕康「『まちづくり学習』の動向と課題―総合的な学習の時間を中心にして―」2020年
●「まちづくり学習」は、自分が暮らすまち(地域)を知って愛着を覚え、まちの良さや問題を見いだし、まちの問題を自分たち事として解決していこうとする中で、まちづくりを担う力を育む学習である。(28ページ)
●「まちづくり学習」をこのように規定すると、「まちづくり学習」は12のタイプに大別される。①環境・命まちづくり学習、②防災まちづくり学習、③すまいまちづくり学習、④建築・都市計画まちづくり学習、⑤景観まちづくり学習、⑥TOSS型観光まちづくり学習、⑦福祉まちづくり学習、⑧キャリアまちづくり学習、⑨食農まちづくり学習、⑩ESDまちづくり学習、⑪人権まちづくり学習、⑫総合まちづくり学習、がそれである。(30~36ページ)

● 「まちづくり学習」の深まりは、①まちへの関心をもつ→②まちを知る→③まちを好きになる→④まちに対する夢やこだわりをもつ→⑤まちに対するビジョンをもつ→⑥まちの様々な問題に対する解決策を提案する、の段階を経る。(29~30ページ)
●  深い学びの「まちづくり学習」を実現するための要件として、①外部の機関や地域の人々を巻き込んだ学びであること、②特定のテーマでの「まちづくり学習」であっても、モノ、コト、ヒトに係わる広範囲な学びであること、③教師や地域の人々の支援を受けながらも、子ども主導で学習活動が展開される学びであること、④(子どもの日常生活や実際の社会的場面における活動に基づく:阪野)本物(真正)の学びであること、が挙げられる。(36ページ)
● 持続可能な「まちづくり学習」を実現するための要件として、①全校での取り組みであること、②地域ぐるみの取り組みであること、③外部との連携体制が整えられること、が挙げられる。(37ページ)

中野伸彦・森和弘「福祉のまちづくりと総合的な学習の時間~実践例に学ぶ『ともに生きる力』~」2019年
<まちづくりと市民福祉教育>(74)中野伸彦・森和弘/福祉のまちづくりと総合的な学習の時間~実践例に学ぶ「ともに生きる力」~/2024年9月6日/本文

〇まちづくり学習についての以上の論述から、そのあり方について考える際に留意すべきいくつかの点を再掲しておくことにする。以下のそれは「まちづくりと市民福祉教育」に関しても通底しよう。

● 子どもたちを地域構成主体として育成するためには、地域問題の持つ多様性を「大人を通して」学ぶとともに、「大人たちと対等な立場で」学ぶことが重要である。また、学校ぐるみ(づくり)・地域ぐるみ(づくり)の取り組みや、そのための自治体や専門家、市民団体などの地域の関係機関等による共働的な関係の構築が肝要となる([1]59ページ、[4]37ページ)
● 地域問題は、個人の日常生活に直接関わる日常的個別的な問題と、他地域や地球規模の問題へとつながる社会問題との中間に位置し、いわば両者を媒介する存在である。そこで、地域問題学習は「自分ごと」と「他人ごと」を統一した学習となり、そのためには問題(課題)を多面的・多角的・構造的に把握し理解することが求められる。([1]60ページ)
● 学校教育におけるまちづくり学習の課題は、時間と場の確保である。まちづくり学習の場として総合的な学習(探究)の時間や社会科、生活科・家庭科などが考えられる。併せて、他教科や領域などの学習内容に、「まちづくり学習的な視点」(まちづくり学習機能を有する活動)を導入することも考えられる。([1]66ページ)
● 学校におけるまちづくり学習は一面では、「まちを知る」ことによって、子どもたちの「地域からの離脱」を促進する要素を持っている。子どもたちが豊かな地域づくりに参加(参集・参与・参画)するためには、子どもたちが地域を知り、地域の良さや問題点を見出し、主体的・自律的に、そして楽しみながら学習活動に取り組めるデザインが求められる。([2]100、101ページ)
● 子どもたちを持続可能な社会の創造主体として育成するためには、過去や現在のまちについての認識・理解に留まるのではなく、意識変革や価値観の育成などを通して、未来のまちについて考える未来予測型・未来創造型の授業も必要となる。([3]9ページ)

〇「まちづくり」をテーマや題材にすれば、それは即「まちづくり学習」として成立するわけではない。そのためにはいろいろな要件や取り組みが必要となる。まちづくり学習の目標や内容に加えて、地域の問題(課題)を発見し、理解し、解決するための主体的・自律的そして共働的な学びをどう構想するかが、子どもや教師、共働する地域の関係機関や住民などに問われることになる。その際、福祉教育実践において高齢者や障がい者がそうされることがあるように、「地域」が道具視されることがあってはならないことは言うまでもない。
〇なお、直近のまちづくり学習に関する論稿のひとつに、唐木清志の「社会系教科におけるまちづくり学習に関する評価モデル―サービス・ラーニングのパートナーシップの視点から―」(井田仁康監修、唐木清志・ほか編『Well-beingをめざす社会科教育―人権/平和/文化多様性/国際理解/環境・まちづくり―』古今書院、2024年4月、297~306ページ)がある。そこでは、まちづくり学習の可能性と課題を念頭に置きながら、まちづくり学習では多様な主体(constituency)の関係性こそが重要であるという立場から、まちづくり学習の評価モデル(まちづくり学習の全体を構造的に評価する枠組み)を検討する。
〇そのなかで唐木は、例えば、まちづくり学習の主体(子ども、教師、学校管理者(校長)、地域組織、地域住民など)に関して次の3点を指摘(提案)する。①まちづくり学習の主体を、教師が単元開発の段階で積極的に探し当てることが必要である。主体はその関係性の網の目の中に無数に存在しており、その網の目を活かしながら、まちづくり学習は成立するはずである。②主体間の関係性の質をより厳密に問うていくことが必要である。まちづくり学習では、主体の関係性が変容していくことで、単元そのものも変容を遂げると考えられるべきである。③まちづくり学習を授業づくりの次元で検討するばかりでなく、学校づくりや地域づくりの次元においても捉えていくことが必要である。まちづくり学習は、子どもや授業を変えるだけでなく、学校や地域を変える可能性を秘めているからである(304~305ページ)。
〇まちづくり学習に関連する概念に「サービス・ラーニング」がある。唐木はいう。サービス・ラーニングは、「教室で習得された知識・技能を、地域社会の課題を解決するために計画・実施される社会的活動に生かすことを通して、学習者が市民性を身に付けることを目的とした教育方法」と定義される。サービス・ラーニングを日本の学校教育の文脈に即して意訳するなら、「社会参加学習」が適切である。
〇日本型サービス・ラーニングとしての社会参加学習は、次の条件によって成立する。①地域社会の課題を教材化すること。②プロジェクト型の学習(子ども自らが問題を発見し、解決する能力を養うことを目的とした学習方法。問題(課題)解決型学習)を組織すること。③振り返りを重視すること。④学問的な知識・技能を習得、活用する場面を設定すること。➄地域住民との協働を重視すること、がそれである(298ページ)。唐木のサービス・ラーニングの言説については、<雑感>(40)社会参加とサービス・ラーニング―唐木清志著『子どもの社会参加と社会科教育』再読―/2016年10月1日/本文、を参照されたい。

〇「学校教育・サービスラーニング・福祉教育」については、<スライド版>(4)「学校教育・サービスラーニング・福祉教育―中央教育審議会答申等―」/2023年7月5日/本文、<原田正樹の福祉教育論>アーカイブ(4)講演録(1)/原田正樹/地域の課題に取り組む―サービスラーニングを理解する―/2021年3月2日/本文、を参照されたい。
〇「まちづくり学習と市民福祉教育」については、一部重複するところもあるが、<まちづくりと市民福祉教育>(11)まちづくり学習と市民福祉教育/2012年10月13日/本文、を参照されたい。

 

補遺
竹内裕一は、「社会科教育におけるまちづくり学習の可能性―子どもと地域の再生に向けて―」『千葉大学教育学部研究紀要』第47巻、千葉大学教育学部、1999年2月、55~69ページ、において「体験重視型」学習の問題点として次の4点を指摘する。その際、「体験重視型」学習は、「まちづくりに楽しくかかわる」ということを基本的コンセプトに、「楽しく参加しながら、知らず知らずのうちに、環境(まち)への思いや関心を高めていく」ことにねらいがある、という。

第1は、「楽しいだけでよいのか」という疑問である。
「体験重視型」学習はゲーム的要素が強いため、参加者が楽しむことが最大のねらいとされる。しかし、そこには「楽しい」だけで地域に生起する問題は解決できるのかという懐疑が存在する。さらに、社会科授業構成原理としての「まちづくり学習」を構想しようとするならば、教育内容の系統性を視野に入れた教科論としての展開が不可欠であろう。
第2は、ゲーム仕立てにするために、実際の現実を抽象化・モデル化し過ぎてしまい、具体的な地域の事実認識に基づいた学習が展開されにくい点である。
すなわち、地域で学んでおきながら、地域の現実を何も学ばないという結果になってしまわないのかという疑念である。第1点目とも併せて、「体験重視型」学習のカリキュラム論的検討が必要であろう。
第3は、上記2点にかかわって、実際に地域で生起する厳しい意見対立がみられるような地域問題の解決に向けて、はたしてこうした取り組みのみで地域の人々の合意を得、有効な解決策を見いだすことが可能なのかという、社会参加型学習の本質にかかわる問題点である。
地域に生起する問題は、多くの場合、住民相互に意見の相違が認められる。「体験重視型」学習では、こうした住民間の意見対立をゲーム仕立てにするわけだが、現実的な問題解決策を見いだすには、意見対立のある問題にかかわる「事実」と人々の「価値観」を考察する学習過程が不可欠であろう。
第4は、特に建築・都市計画系分野の場合、学校外における活動(ワークショップなどのイベント的催し)が中心であるため、参加者の範囲が限られる点である。
地域の具体的なまちづくりを考える場合、対象とする住民の量と質の拡大は避られない課題である。(65~66ページ)