「鳥居一頼の世語り」カテゴリーアーカイブ

不機嫌な者たち

人心を惑わすことに
長ける者たち
何事もなく振る舞う様子に
不機嫌さがつのる

世に波風を立てることに
面白がる者たち
笑いを押し殺す様子に
不機嫌さは強くなる

力任せに抑え込むことに
快感を覚える者たち
人心の痛みを弄(もてあそ)ぶ様子に
不機嫌さは怒りへと変わる

利に敏(さと)く欲深きことに
巧みさを見せる者たち
金を頬張る様子に
不機嫌さは抗議へと変わる

意に添わぬことに
残忍になる者たち
醜き顔の様子に
不機嫌さは糾弾となる

恥ずかしきことを
世界に知らしめた者たち
破廉恥な様子に
不機嫌さは屈辱となる

〔2020年10月9日書き下ろし。日本学術会議会員任用拒否問題は世界中で発信された。日本の恥部は政治家なり〕

踏み絵

踏み絵を踏みし者たち
意向を読み取り
意向に逆らわず
意向に添う

踏み絵を踏みし者たち
威光を授かり
威光を傘に着て
威光は世を治める

踏み絵を踏みし者たち
偉功は称えられ
偉功は異彩をはなし
偉功は権力と化す

踏み絵を踏まぬ者たち
異見は反抗と見なされ
反論は敵視され
批判は弾圧される

踏み絵を踏まぬ者たち
志を曲げず立ち向かう
権力に屈せず意を通す
学問の自由を死守する

踏み絵とは
時の政権の由々しき隠謀
意に添えば懐柔され利用される
意に逆らえば脅され追放される

どんな踏み絵を踏まされるのか
不気味な罠が闇の中に仕掛けられる

〔2020年10月8日書き下ろし。権力者の仕掛ける罠はいつも理不尽であり、油断禁物〕

青春の挫折

昭和2年 樺太敷香(現在ロシア領サハリン中部)に生まれた
太平洋戦争の末期
少年は敷香中学校で ソ連の南下侵攻に危機感をつのらせていた

親の反対を押し切り 意を決して中退し
海軍飛行予科練習生(予科練)に志願し入隊した
16歳のことだった
樺太から土浦航空隊までの長い旅路の果てに
ひたすら訓練に明け暮れて
飛行士は夢のまた夢だった
そして20年8月敗戦を迎えた

命がけで樺太から引き上げてきた両親とは
北海道登別で再会した
皇国の18歳の少年にとって
やり場のない怒りを抑えるには 若すぎた
忠誠心の崩壊が 恨めしかった
混乱した時代に生きるには 希望をなくしていた
酒を覚えたのは 己の弱さの発露だった  

アイヌの知人を頼って鵡川に行った
太平洋の海原で漁をするときだけは 素面になった
老父は 身を固めたら落ち着くだろうと
男を21歳で結婚させた
2男2女を授かった
男は子どもに予科練の話は 一切しなかった
やるせなさを 酒で紛らわせた
飲んでは戦地に行ったと 大法螺を吹いた
妻には行ったことのないくせにと たしなめられた

「若鷲の歌」
捨てられた皇国の幼き兵士たちの覚悟
奥底にしまい込んだ慚愧(ざんき)
戦争で負った青春の挫折

「若鷲の歌」
男の青春の残滓
男の青春の光と影
男が封印した熱情

男は誰も殺してはいなかった
ただ己の青春を葬っただけだった

〔2020年10月7日書き下ろし。今日放映のNHK朝ドラ「エール」から、若き父の姿をオーバーラップさせた〕

平均ってなに?

ドライブ中

「10キロって、何分かかるの?」

突然の質問がきた。

「時速60キロで走っていれば、10分だね」

「でもいつでも10分じゃないよね」

「その通り。坂もあればカーブもある。速くは走れないから時間がかかるし、真っ直ぐな道ならスピードアップもできるから、いつも10分かかるとはいえないね」

車には、5分毎の燃費を示すグラフが表示されている。

「例えば、この車が5分間に1リットルのガソリンでどれだけ走れるのか、その棒グラフがここに出てるね。山道を走っているからグラフが凸凹してる」

「速さも、こんなふうに場所によって変わるってことだね」

「その通り。登りだとガソリンを使うし、下りだとそんなに使わないから燃費はいいね。このグラフをならして平均を取ったのが下の数字で、1リットル当たりの燃費が23キロ。これはガソリン1リットルで23キロは走れるってこと」

「そういうことだよね、平均って」

「どういうこと?」

「平均って、凸凹していることをただならしただけのことでしょ」

「そうだね」

「人ってそれぞれ凸凹があるのに、なぜ平均を気にするんだろう。テストだって平均点を元にして、出来たの出来なかったのって評価するんでしょ」

「ただの目安が、成績を比べる目的になってるってことだね。先生にしてみれば楽だね」

「そうかな。先生が自分で教えたことの結果がテストなのに、出来ないのは生徒のせいにして、自分の評価にしてないことっておかしくない?」

「どういうこと?」

「テストって、子どもの成績を比べて終わりじゃないでしょ。なぜこの子はここが出来なくてここは出来たのだろう。この子はテスト問題のどこでつまずいたのだろう。全体でこの問題の平均点数が低いのはなぜだろう。そう考えるのが普通じゃないの? 自分の指導の仕方をチェックしないで、テストで成績付けておしまい!」

「先生は忙しいから、そんな細かいことまでやってられないだろう」

「そもそも成績を付けるために、テストをするの? ではなくて、自分の教え方や子どもの学び方をテストを通して見直すのが、先生の仕事でしょ。そこで教え方がまずかったり、子どもがつまずいたりしていたところをチェックして、教え直すことや今度の勉強で特に注意することが、教えるってことじゃないの」

おやおや、大人は少しタジタジです。

「平均ってただの数字でしょ。それで子どもを評価するっておかしくない。みんなが当たり前って思っていることって、実は誰かにとって都合のいいことってない?」

「どういうこと」

「授業で頭のいい子に意見を言わせて、先生がどうですかってさもさもらしくきいて、いいですって周りに合わせてみんな手をあげるでしょ。授業が進めやすいよね。そんなとき、反対の意見を言ってみたくなるんだ」

「どうして?」

「人ってみんな考えることも感じることも、人それぞれで違うっしょ。でも、先生が求めているものとは、違う意見を言う空気にはならない。特に勉強の出来ない子の意見なんか、軽く見られて相手にされない最悪の空気になるんだ。みんなと同じですって合わせているのが一番楽」

「きみはどうなの?」

「なぜか分からないけど、そんなクラスの空気がとっても嫌だった。みんなの意見に合わせることが出来なかった。違うことを考えるのが面白しろかった」

「そうするためには、自分の考え方を持っていないといけないよね」

「そう。ただ嫌だって思っているだけではなんにもできないよね。そのときはその理由がわからないでいたから、クラスにいることがとっても苦しかった」

「だから学校に行かなくなったのかい」

「勉強も好きじゃなかったけれど、みんなと同じことをするのが苦手だったんだ。みんな勉強もスポーツも確かに頑張っていたことも間違えではないよ。ただみんなと同じようなことを考えたりしたりすることがどうしても出来なかった。だから、学校に行けなくなってしまったんだと思う」

「それじゃ友だちはいなかったっしょ」

「いや、放課後や休みの時に一緒に遊ぶ友だちはいたよ。全然そこは心配なかった」

「平均の話を出したのは、みんな学校というところで平均的な子どもにされているって話なの?」

「そう。だって平均的な人間なんかいないのに、平均とか標準とかって、そこを元に何かを教えたり計ろうとする学校に、とっても息苦しさを感じていたんだ」

「確かに人は一人ひとり違うのに、一人ひとりの良さや欠点があってその子なのに、なんだかみんなと同じように感じたり考えたりするように仕向けられているのが学校かも知れない。そこから外れると学校に行けなかったり、行ってものけ者にされたりするのかな」

「みんなと違う子は、クラスには馴染まないから、問題児にしておいて構わないようにする。邪魔されないようにしたほうが、みんなにはありがたいよね」

「事なかれ主義、傍観、無視、いじめ、いろんな言い方あるけど、結局は学校に来るなってサインだね」

登校拒否を起こしている子の、学校への違和感はなかなか理解されない。

「みんなも人それぞれ違うんだって思っていても、クラスの空気を乱してしまう〈違う子〉になりたくない。そう思っているうちに〈普通の子〉に慣れてしまうと自分の意見は持たなくても誰かの意見に合わせるだけでいいって思えたら、学校生活は楽勝かも知れない」

「そうはしなかった」

「できなかった。そんなの自分らしくないから。ただそのときは幼かったから漠然と嫌だなって思っていて学校に行くのをやめたけど、いま考えたらみんなと同じようにすることや同じ考えをもつことが苦手だったんだね。そうしている子たちをダメな子だって言ってわけじゃないよ。そもそも人それぞれなんだから、その人の考え方や生き方をおかしいって言えるわけないよ。自分のこともよくわかっていないのに」

「でも学校の先生は、きみをダメな子にしちゃったね」

「先生ってそんなもんかも。普通と違うってだけで何か悪いことしてるような気にさせられるよね。いまじゃどうでもいいことだけど。なんかな、みんなとは違う子でいたいっておもいが強くなったのかな。学校や先生への反発も、自分ではどうしたいのか、どうしたらいいのかわからないことがよくあったと思うよ。どんなふうにすることが違うということなのか、悩んでいたんだね。いまもあまり変わらないけど」

「まだ悩んでいるの?」

「悩みっぱなし。何をやりたいのか、誰も教えてはくれない。でも一緒に夢を見ながら悩む友だちがいることは一番だね。世の中が学校、いつもテストは厳しい。平均点じゃ夢は叶わない。でもそこには平均点はない。だって比べるものがそもそもないから、自分で決めて自分を試す。失敗したら、そのときにまた考える」

「平均って、普通の子には人と比べるのに必要だけど、違う子には無用ってこと?」

「グラフの凸凹をそのままの自分だと考えて、自分らしく生きるってどんなことなのか、そのためには、自分のことをもっとよく知らなきゃいけないって、いまわかった気がする」

「いまの子は、周りの空気を読むことを学校で教わっている。そこに空気の読めない、いや読まない〈違う子〉がいると、空気が乱れるからって、その子に同じ空気を吸うようにみんなで迫るけど、きみはそうはならなかった」

「みんなと同じようにすることが、ただできなかったことだけかも」

「そのときそのときに、自分で決めて生きることを、きみはずいぶん早くからはじめてしまったんだね」

「これからどうなるかはわからないけど、普通の子も一緒でしょ。だってみんな違う子なんだから。学校で〈みんな同じ〉と教えられることに嫌だなって思っている子は、我慢しているかも知れない。きっと苦しんでいるよ」

「そうだね。大人にも言えるね。周りの空気に流されず、素直に思ったことを言ったり出来たりしたら、きっと楽しいね。そもそも平均ってなあに? ってことかな」

「平均な人ってどこにいるの? いるのは、いろんな個性を持った人でしょ」

〔2020年10月6日書き下ろし。人は平均で表してはならない。父は男を演じた、きっと。父の生き方はいまだ越えられない。愛情深かった父の命日に記す〕

はがきの切手代

手元に 52円切手しかなかった
10円切手と1円切手を 貼り付けた
郵便番号欄と差出人の住所が 一部覆われた

絵はがきは
版画家中野章が描いた 豊穣な北の大地
先の町長選で 2選を果たした知人に宛てた
祝いと激励の言葉を添えた

版画の空白の欄に追記した
貼った切手の意味
52円+10円+1円
それぞれの持てる能力を併せて
一つの目的に向かう
町政の要は 行政マンなりと綴った

力量の不足分を補うこともせず
今まで通用させたところに 無理があり
行政への信用の失墜があった
小さな自治体の限られた人員では
適材適所の配置には 自ずと限界がある
仕事を任せきれない人員も 時には混ざる

万全の人員で望めない体制や
機能不全を起こしている組織機構の問題は
国からして 地方であればなおさら
行政サービスの質と量の低下を仕方ないと
諦めてはいないだろうか

行政マンの「しない・つくらない・ひきうけない」
この三原則の変革なくして 行政改革はない
自ら仕事のスキルを高めようともせず 
法や規則を取り出して正当化して
逃げ口上や逃げ道を模索する
そんなネガティブなスキルアップは もういらない
馴れ合いやサボりや無駄口は もうたくさんだ

行政マンは万能ではない
だから努力するしかない
それを怠る者たちが 職場の空気を支配する
年功序列の旧態依然としたシステムが 後押しする
採用年度での世代数の偏りが 弊害をもたらす
2~3年での部署の異動が 業務沈滞の負のサイクルとなる

行政サービスを担う人材の意識改革と育成が 
いつの世でも課題となる
人材がいないと 嘆くのは容易だが
個々の力量の不足を どう補うかとは別の問題だ
仕事と能力の向上を自ら求める空気が 少しでも生まれれば
地方自治の活性化の糸口となる
それもネガティブな同僚から 変わり者・裏切り者と叩かれても
住民サイドに立つめげない存在を 決して孤立させてはならない 
だれが担保するのか
それは首長であり さらに住民である
「民の力」を いかに引き出し協働できるかが
2期目の課題となる

地域を活性化するキーワード「民の力」
「民の力」を引き出すのは 行政マンの汗である
その汗を「見える化」させるのが 首長の手腕となる
その汗をかかせなければ 2期目の意味はない
1期で役場職員の人事考課は終わった
対立候補に投票した町民の意向は ないがしろにはできない
大きく包み込んで 共にまちづくりに汗かく4年間が始まる
そんなおもいを 63円のはがきに込めた
なんと安上がりのメッセージ代だろうか

多忙な町長から返信のはがきが届いた
「誰もが安心して豊かに暮らせる共生のまちづくりに
しっかりと挑戦し前進します」
町長のメッセージは スローガンではない
具体的な有言実行である
そのためには 公務員の三原則の放棄しかない
大胆な行政機構の見直しと人材配置
人材の有効活用と人材育成が 挑戦と前進を裏付ける
受けたのは信託であり 築くのは信頼である
そのための 住民への見える化は 
取り組みの実態からしか生まれない
苦言を呈しながら 注目していきたい

〔2020年10月5日書き下ろし。2019年9月2日投稿『マチの公務員の三原則』を是非参照され、2期目の本稼働に期待したい〕

20億円で何が変わるか

積丹半島の突端 神恵内(かもえない)村
「地形がけわしく 人が近づきがたい神秘な沢」
アイヌ語の「カムイ・ナイ」(美しい神の沢)が語源だった
9月30日現在 男395人 女428人 
総人口823人 高齢化率約44%
令和2年度予算39億8670万円(神恵内村HPから)

昨日積丹半島を巡った
積丹町から峠越えで半島の南側に出た
山中の平たい場所は 農業を営む集落が点在していた
廃屋が野ざらしにされ 荒廃も目についた
神恵内の市街地に下りる
観光PRや寿司屋の看板も 目に入る
観光を当てにしてきた村の振興策も
今夏は コロナで冷え切ったことだろう

9月8日村商工会は 文献調査への応募検討を求める請願を村議会に提出した
村議会は 17日の本会議で継続審査を決めた
国と原子力発電環境整備機構(NUMO)に最終処分について住民に説明するよう求めた
10月8日 たった1ヶ月で村長は応募を表明する
20億円の魅力は 村の年予算の半分 背に腹はかえられぬ
判断は 容赦なくなされるであろう
ただ一時金の20億円で何を変えようというのか
過疎地人口増 ありえない
観光振興 辺地遠地の弱点の克服 いままでもしてきただろう
漁業農業振興 担い手不足と高齢化に歯止めはかけられない
道の駅の地産販売物品 人が寄らないだけにやけに侘しい感が漂う
高齢者対策 介護保険サービスの質の確保と提供する人の確保はどうするのか
子育て支援 若い世代が離村しないための有効な手立てはあるのだろうか
暮らしの支援 問題を抱えた世帯の生活支援の方策はあるのか
国の地方活性化事業が失敗したツケを多くの地域が強いられる
カンフル剤にしか過ぎない20億円 
何かを変えることが出来ると信じる人たちがいる
過疎地の問題を先送りするだけことだろう
核のごみの処分場調査だけで 一時潤うだけなのか
それとも 本格的な着工にまでいきつくのか
漠然とわいた疑問
その決定を
千人にも満たない村民に信託することができるか

日本海は低気圧の通過した後の余波で
沖から白波と強風を誘って
岩礁を打ち 波しぶきをあげていた
サーファーが波に乗り戯れていた
沿岸は奇岩がパノラマのように展開する
寂れゆく集落を ダイナミックな自然の景観が圧倒する
張り出した絶壁の下に 小さな漁港が点々とあった

今朝岩内町の高台から 積丹半島を眺望する
右手に 泊原発の白いドーム型の発電所が異彩を放つ
その先に 細長く神恵内村が地勢をつくる
この村のどこに核のごみの最終処分場をつくろうというのか
泊原発との関係も取り沙汰される
先に名乗りを上げた寿都町は、この海岸線をともにする町である

そもそもの最終処分地問題を どう解決しようとするのか
国は 抜本的に問われている
神恵内の表明決定は 果たしてそれだけだろうか
北海道の大地は いったい誰のものなのだろうか
千人にも満たない住民に
国はなぜ北の大地を汚す決定をさせるのか
国が詭弁を弄するのはお手のもの 
国は札びらを切って なぜ理不尽な決定をさせるのか
その口車に乗って 北の大地と子どもの未来を失っていいのだろうか

自然からのギフトではない
内地から拒否されている悪魔のギフトは いらない
一地方自治体の権限ではなく 全道民の問題である
道内にある多くの「カムイ・ナイ」を
これ以上汚してはならない

〔2020年10月4日書き下ろし。積丹半島の小旅行から戻りおもいを綴る〕

付記
「神恵内8日にも応募表明 核ごみ 村長、請願採択後」
後志管内神恵内村議会は2日、村議全8人で構成する総務経済委員会を開き、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた文献調査への応募を求める村商工会の請願を採択すべきだと決めた。高橋昌幸村長は8日にも臨時村議会を招集し、請願は本会議で正式に採択される。村長は委員会後、「議会の議決は尊重しなければいけない」と述べ、請願が本会議で採択され次第、調査に応募すると正式に表明する考えを示した。処分事業の主体となる原子力発電環境整備機構(NUMO)によると、最終処分場選定に向けた調査受け入れを求める住民の請願を地方議会で正式に採択すれば全国初となる。(北海道新聞2020年10月3日)

車中泊

孫とこの土日 遠出する
孫が釣りに つき合う
あいにくの天気らしい

行く先は 積丹半島
小樽から 西に向かって
車を走らせ 半島を一周
小さな漁港が 点在する
半島の先っぽの神恵内村を通過する
高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定の
文献調査に名乗りをあげようと 一躍時の村となった 
東に向かうと 原発が停止中の泊村に至る

孫は釣り三昧を楽しめば最高!
夕方と朝方に 食いはいいという
行き当たりばったりの 車中泊
キャンプもどきの 道具立てを揃えた
どこかに車を止めて
炭火で焼き肉と 洒落込む
漁獲は 当然ボンズとみた

夜は頭を並べて 寝袋に籠もる
野外で寝るのは 30数年ぶり
爺さんは 秋の夜長が耐えられるか
海風と波音で 睡眠障害が改善するかもしれない 

願いはひとつ 星降る天空を見たい
深遠な宇宙の 地球という惑星に 
いのちある事実を
孫と確かめる時間になってほしいから

〔2020年10月2日書き下ろし。言葉では言い尽くせない自然の息吹を感じる小さな旅にしたい。目論見は外れの場合もあるのも楽しみだ。夜冷たい激しい雨が降る〕

おとなの話に口を挟まない

昭和30年代
8畳と4畳半の2間の 四軒長屋の社宅で
家族6人で暮らした 子ども時代
来客が来ても 子どもらの逃げる部屋はない
仕方なく おとなの話を聞く
本心は 大人の話に興味津々の子どもたち
おとなしくしていたが つい口を挟む
母親がつかさず 叱責する
「大人の話に口を出すんじゃない」
しばらく黙っているが また挟む
母親が苦笑しながら
「ほんとに言うことをきかない子で」
客は取り繕うように
「うちの子もそうよ」

おとなの子どもを見た
米大統領選挙の候補者のテレビ討論会
制限時間が設定された討論会
相手の言った先から口を挟む
ルール無視のやりたい放題 言いたい放題 
司会者がたしなめても 言うことをきかぬ
米国の恥をさらした トランプ大統領
相手の話が終わるまで 口を挟まない
この程度のたしなみは 子どもにもできる
おとなの子どもは この歳では変わり様はないか
討論終了後 CNNテレビの司会者は
「史上最もカオスな討論会でした」と感想を述べた
口汚い論争を仕掛けて 相手のミスを誘う
カオスは トランプその人にあった

世界で注目された ののしりあった討論会
この程度の大統領候補を選んだ 国民への報いか
民主主義の根幹をも揺らがす 
誹謗中傷するだけの恥を さらしただけだった
老人の吠える姿の醜さを 世界中に発信して
なおも選ばれるとしたら 世界秩序の崩壊でしかない

米国の憂鬱は まだまだ続く  
それは コロナ禍で疲弊している
世界の憂鬱でもある
そして 確実に
敗北者は 米国民となる

〔2020年9月30日書き下ろし。アメリカ大統領選挙・討論会に、つい口を挟む〕

十月の空と海

十月の空
澄み切った青に
吸い込まれるように
白いカモメが舞う

十月の海
盛り上がってくる青に
漂うように
白いカモメが風を切る

十月の空
一片の雲が 流れてゆく
十月の海
寄せる波が 砂浜にこぼれる
空の青 海の青
染まることなく
飛び交う群れたカモメ
空と海の青のグラデーション
砕ける波と踊るカモメの白とのコントラスト

日本海の砂浜で 十月の空と海に遊ぶ父
浜辺に何本も立てられた 秋鮭釣りの太棹
置き忘れた夏の陽ざしを 身にまといながら
風と波の音に 身を置きながら合図を待つ

〔2020年9月30日書き下ろし。日本海には父とよく海釣りに行った。10月6日は父の命日。日本海の町と村では、いま高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定の文献調査を巡り、論争を起こしている。金絡みの問題を、父は一喝することだろう〕

校正作業

入稿して2週間
初校のゲラ刷りが 上がってきた
四百字詰めの原稿用紙 五百枚分
校正作業を始める

誤字脱字のチェック
表記の統一
表現の加除
固有名詞の確認
本の体裁ならではの 心躍る作業は進む

訂正箇所には 赤字が入る
ページに付箋が貼られていく
付箋は増える一方 それがなんだか嬉しい
目がしょぼつく
集中力が続かない
一時の休憩
気分をリセットして再開
その繰り返しで ようやくジエンド

それでもまだ 直したりないところが…
そう思いながらも 第2校まで1週間
そのときにまた ゲラと向き合おう
作業から解放されて 
上気した顔が そこにあった
 
みんなの思いが 一人ひとりの覚悟を包み込む
みんなの願いが 家族の希望を包み込む
みんなの祈りが 利用者の命を包み込む

〔2020年9月29日書き下ろし。コロナ禍でリスクゼロに挑む老人福祉施設の実態をまとめた。職員の奮闘ぶりを伝える〕