「鳥居一頼の世語り」カテゴリーアーカイブ

夢のひとしずく

なぜか理由(わけ)もなく
こころが動いた
何気ない日々の繰り返し
見あきたこころの景色に
落ちてきた
夢のひとしずく

前ぶれもなく
こころが高ぶる
たわいない日々の繰り返し
覇気のないこころの景色を
濡らした
夢のひとしずく

こころが 乾いていたから
いのちの 夢のひとしずく
こころが 壊れていたから
よみがえる 夢のひとしずく

予期せぬことに
こころが騒ぐ
つまらぬ日々の繰り返し
変わらぬこころ模様に
沁みてきた
夢のひとしずく

目覚めたように
こころが踊る
だらけた日々の繰り返し
すさんだこころ模様に
光さす
夢のひとしずく

こころを 閉じていたから
いのちの 夢のひとしずく
こころを 見失っていたから
よみがえる 夢のひとしずく

〔2020年9月27日書き下ろし。夢の一雫は、心のままに生きる水。枯らしてはならない〕

横綱不在場所

不遜な横綱を長い間見てきた
不在の光明
大相撲の醍醐味が 戻ってきた
若い力士たちの力の攻防
群雄割拠を 彷彿させる
若い力士たちの死闘
勝っても負けても淡々と
若い力士たちの凜々しい応対

不遜な横綱を長い間見てきた
不在の巧妙
真っ向勝負の土俵が戻ってきた
若い力士たちの躍動感
星争いに出世を賭ける
若い力士たちの真剣勝負
怪我で倒れしも執念を見せる
若い力士たちの果敢な闘志

不遜な横綱を長い間見てきた
不在の功績
新しき相撲の歴史が始まった
若い力士たちのたゆまぬ鍛錬
礼に始まり礼に終わる
若き力士たちの立ち振る舞い
美しき所作に見入るTV座敷
若き力士たちが若獅子に変身する一瞬

空気が一変した国技館
生き生きとした緊張感が漂う
勝利の後の素直な笑顔が場を和ます
敗北の後の無言が悔しさを物語る

終盤戦の14日目
大関朝乃山を圧倒した正代の剛毅さがいい
熊本出身で初優勝か
その予想を楽しみながら 千秋楽を迎える

〔2020年9月26日書き下ろし。エルボーや張り手、立ちあいの変わり身といったえげつない勝負がない。子ども時代、ラジオで相撲中継を聞きながらわくわくした相撲が戻ってきた。新しい時代の始まりを予感させる場所となった〕

夢と現実のはざまで

子どもたちは
ひとりひとり
夢を育てている

コロナ禍の社会は
その夢の実現に
容赦なくブレーキをかけ続ける

海外留学を望む子は
受け入れ国の渡航制限が解けるまで
バイトしながら 辛抱強く待つしかない

音楽の世界に挑む子は
まだその入口さえ遠く
バイトしながら ストレスを抱える

世間のものさしで
その子らの夢は測れない
測ってはならない

夢を捨ててきた者たちの
自己嫌悪の如し
夢を諦めた者たちの
アイロニーの如し
夢さえ持てなかった者たちの
嫉妬の如し

世間の心ない者たちの
与太話に耳を貸すことはない
心乱すのは 夢への確信の弱さ
心揺らぐのは 夢へのおもいの弱さ

人生は始まったばかり
青春のど真ん中で
夢と現実のはざまに
もがきながらも
生まれてきた意味を
問い続ける

夢見ることは 誰でもできる
夢を叶えることは
荒野に旅する覚悟を 自問するだけ

苦難をエンジョイする力こそ
夢の実現に向かう熱き力となる

〔2020年9月26日書き下ろし。コロナ禍の世の中の流れに屈せず、頑張る夢の実現に挑む子らへのエール〕

秘密

秘密を楽しんだ
誰も知らないから 秘密だった
ひとりで楽しむ秘密がいい
ひとりの方が楽しかった

バレないように 隠し通す
秘密は スリリングだった
いい人ぶってる自分とは 違う自分がいた
だから 余計に秘密にしたかった
悪さの代償は 誰かが代わる

こんな人も 秘密を抱えて生きていた
知らぬと白を切って 反論する
正当性をかざして 仲間がかばう
金の回りをよくして 誘致を固める

ガードを何重にも張り巡らせた
秘密が暴露されそうだ
JOC招致委が 海外に送金した総額11億円超
東京五輪誘致の疑惑が深まる

〔2020年9月24日書き下ろし。虚実が飛び交う金まみれの五輪の世界、秘密が暴露されたら…だから徹底的に否定するしかない〕

きしみ

人の世を 不安に陥れる自然の脅威
人の世に 恐怖をふる舞う自然の作為
人の世が 翻弄される自然の摂理

身体が きしみをあげる
自粛生活を 受け入れる

人とのつながりが きしみをあげる
離れるしか 守れない

中小の企業が きしみをあげる
景気の回復が 遅すぎる

学校教師が きしみをあげる
子どもの不安は ぬぐえない

医療と福祉の従事者が きしみをあげる
リスクゼロの闘いに 終わりは見えない

社会のきしみは 静かに広がるばかり
いまの人心の緩みは 政権交代時のエアポケット
政治のきしみが 不気味に忍び寄り
次の不幸を 呼び寄せる

〔2020年9月23日書き下ろし。経済回復のための行動規制が緩和されたのは、コロナウイルスへの感染対策が広く理解され実施されているからだろうか。問題は政治だ〕

明日にララバイ

こんな時代だからこそ
きみにやさしくしたいんです
だって こころが壊れそう
だから そばにいて
明日に ララバイ

こんな時代だからこそ
きみを信じていたいんです
だって こころがくじけそう
だから 手をつなごう
明日に ララバイ

こんな時代だからこそ
きみに約束したんです
だって こころが折れそう
だから 離さないと
明日に ララバイ

こんな時代だからこそ
きみと夢を見たいんです
だって こころが枯れそう
だから 行かないで
明日に ララバイ

こんな時代だからこそ
きみと愛を語りたいんです
だって こころが乾きそう
だから 抱きしめて
明日に ララバイ

〔2020年9月22日書き下ろし。ふとララバイと口ずさんだ。書き終えた時メロディーは跡形もなく霧散した〕

自己肯定感とは

自分であることを 見つめ直し
人として生きることの 価値を見出す

自分を褒めてあげたい
こんな私でも いんですか
お役に立つことって あるんですね
今さらなんですが いいとこありました
みんなが言うほど 悪くはないでしょ
一つぐらい取り柄って あるもんですね
ようやく 自分の考えを伝えられました
失敗ばかりでしたが 認めてくれました
ダメだとあきらめていましたが 最後までやれました
人の話は よく聞く方ですね

嘘つきにも 正気に戻る一瞬があるもんですね
言葉足らずで 誤解させました
悪気は これっぽっちもありません
つい出来心で ほんまは違います
酒さえ入らなければ 仏さんです
苦労したから その辛さは重々わかります
がめついわけじゃなくて 節約です
意地悪じゃなくて 助言です
ずる賢さがなければ 生き残れません
正直だと出世できないから 偽ってきました
つい人と比べて粋がっていましたが みっともないですね

鬼のような形相でも 根はやさしいんです
利己が勝(まさ)って 他己を邪魔してました
不正の感覚がマヒしてるって ようやく気づきました
不義を働いていたなんて いま分かりました
良心の呵責を覚えるってこと あるんですね
周りが褒め称えるので ついその気でいたのが恥ずかしい
座った地位が 私を変えただけでした
偽りの姿に 嫌気がさしました
化けの皮を剥がされ すっきりしました
やってることが 虚しくなりました
いつか罰が当たると思っていたら 当たりました
人の生き血を吸うのも 飽きました

さて どなたの自己肯定感情?
なかなか 性根の腐った人は変えられません
言い過ぎたことで 付け足すことば
「でもいい人だよ」
その一言で 互いが救われます

「有為転変」のこの世です

〔2020年9月20日書き下ろし。人も世も移ろいやすし。世が乱れていても、せめてことの終わりは善き人でありたい。そんな人がいましたね〕

負い目

目覚めと共に浮かんだ 言葉
負い目

覚醒していない 脳裏に降りた
負い目

拭いきれず澱のように 沈殿していた
負い目

心の片隅に住み着いて 負担を強いる
負い目

どんなにあがいても 逃げることはできぬ
負い目

忘れたころに 鮮明に思い出させる 
負い目

好き勝手に生きてきたことへの 悔恨を求める
負い目

今さら返すに返せない 人生の借りを訴える
負い目

負い目を秘めながら 何事もなくいまを生きる
誰に返したら この負い目は軽くなるのだろうか
そう自問自答しながら 特別の朝を迎えた

〔2020年9月20日書き下ろし。71歳の誕生日の目覚めの朝。重たい言葉がふってきた〕

絵はがきにしたためる

友人の版画家中野章から もらった 
北の自然の景色を描いた絵はがき
手元に 数十枚ある

末孫宛にしたためた
メールをしたが 反応なし
電話をかけても 出ない
諦めて 絵はがきを取り出した
用件を書き出したら 書き足りず
絵の周りの空白にまで 侵略した

受け取った孫からの電話
電話番号が変わったことを知らされた
しばらく音信不通というより
十日前に会ったばかり
電話やメールは ほとんどしたことがない

絵はがきを手にして 電話をかけてきた
ようやく 二人で初めての遠出の計画を練る
美しい中野の絵はがきの世界に
孫は 釣りの楽しみを想像しただろうか

メールにもSNSにもない手書きの世界
絵はがきが創る 旅への誘い
孫への一筆啓上 これからも続く

〔2020年9月19日書き下ろし。孫を釣りに連れて行く約束をした。バイトする孫の日程調整とお天気に左右されるが、絵はがきで気持ちをつなぐ中野章氏の世界がいい〕

ラストシーン

ラストシーンは 
劇的な どんでん返しもいい
奇想天外な展開も面白い

ラストシーンは
泣けるのは 定番か
笑いほうけるのも 楽しい

ラストシーンに至るまで
ハラハラドキドキするのもお薦め
期待を裏切らず 予想通りは少しいい

ラストシーンは ストーリーの総決算
なぜそこにと かえりみるのは後の楽しみ
ひとり噛みしめるのも みなで語り合うのも醍醐味か

ひとりの人生のラストシーン
己が演出できぬ 歯がゆさが残る
ストーリーが断たれた突然の ラストシーン
見ることさえ叶わぬ
現世の夢路に果てる 一泡のストーリー

自己完結

〔2020年9月19日書き下ろし。生と死の狭間で生きる自分のラストシーンを描く〕