「まちづくりと市民福祉教育」カテゴリーアーカイブ

まちづくりと市民活動を推進する組織・機関―自治基本条例と市民福祉教育(第2報)―

筆者(阪野)がその末席を汚した「関市自治基本条例策定審議会」が、去る2月4日、市長に対して「関市自治基本条例に関する答申書」を提出した。それを受けて市では、3月1日から31日の期間、「関市自治基本条例素案」(以下、「素案」と略す。)についてのパブリックコメントの募集を行っている。本稿では、素案における若干の条文内容の紹介とそれに関する一隅の管見を述べることにする。
先ず、地元新聞の2紙が報じた素案答申の記事を紹介する。

岐阜新聞/2014年2月6日(朝刊)
関市の自治基本条例/審議会が素案答申
関市の市自治基本条例策定審議会(会長・鈴木誠愛知大学地域政策学部教授)は4日、条例の素案を尾関健治市長に答申した。
市では市民主権・市民自治のまちづくりを目指そうと、条例制定を進め、2012年に審議会が発足。公募委員や団体代表ら28人が今年1月まで計13回の審議を行った。
素案は、▽子どもやお年寄り、障害者もまちづくりに参画できる権利を明記▽地域委員会、まちづくり市民会議、満足度調査、住民投票の実施を規定▽条例の進ちょく評価や見直しを市長に提言する推進委員会の設置―などを盛り込んだのが特徴。また、策定には広く市民の意見を求める―などの付帯意見も付けた。
市役所で行われた答申では、鈴木会長が尾関市長に答申書を手渡した後、尾関市長が審議会委員に「住民自治の理念を市民に理解してもらうことが大切。今後も見守ってほしい」とあいさつ。同席した委員からは、「将来地域を担う子どもたちに、まちづくりに参加してもらうための工夫が必要」などの意見が出された。
答申を受け市では3月に市民の意見を募集。また、住民説明会も開催し、市議会6月定例会への提出を目指す。

中日新聞/2014年2月8日(朝刊)
「市民が主役」前面に/関市の審議会 自治基本条例素案を答申
関市自治基本条例策定審議会は、市民自治の実現に向けた条例の素案を尾関健治市長に答申した。市民や議会、行政の役割や責務を明確にし「市のまちづくりに関して最も大切な理念」と定めた。
素案では、市民全員がまちづくりに参画できるよう子どもやお年寄り、障害者の役割を明記。議員や行政には市民の意見を反映するよう盛り込み「市民が主役のまちづくり」を前面に出した。
市長は市民が政策を提言する会議を開いたり、まちづくりの満足度調査を実施、公表したりする独自の参画案も採用。市民の意見を募るパブリックコメントや住民投票の手続きも記した。
審議会は学識経験者や公募の市民ら28人で構成。市は2012年末に諮問し、今年1月まで13回の審議を重ねた。
答申は市役所であり、審議会長で愛知大地域政策学部の鈴木誠会長尾関市長に答申書を手渡した。鈴木会長は「条例を平易な文にしたり、解説書を作成したりして市民に周知する必要がある」と強調した。
市は3月ごろにパブリックコメントを実施し、6月定例市議会に条例制定案を提出する予定。

以上からも分かるように、素案で注目されるのは、「地域委員会」「市民活動センター」「まちづくり市民会議」「まちづくりに関する満足度調査」についての条文である。この条文は、市民と行政が連携・協働してまちづくりを進めるための “仕組み” について明記した重要な規定であり、高く評価される。この仕組みについて、市のホームページにアップされている「関市自治基本条例素案の概要について」では、「関市の独自施策」であることが朱書きされている。以下がそれぞれの条文案である。

9 参画及び協働
(4)地域委員会
1 市民は、地域の課題を解決するため、小学校区を基本として、自治会、各種団体、事業者等の多様な団体及び個人で構成される地域委員会の設立に努めます。
2 市民は、誰もが参加できる地域委員会の運営に努めます。
3 市民は、地域委員会が取り組む活動方針及び事業を定める地域振興計画の策定に努めます。
4 行政は、地域委員会の設立及び活動を支援します。
5 地域委員会の支援に関し必要な事項は、別に定めます。
(5)市民活動及び市民活動センター
1 市民は、まちづくりに関する市民活動の意義を理解し、その活動の推進に努めます。
2 行政は、市民、市民活動団体等の主体性及び自律性を尊重し、協働して市民活動を推進します。
3 市長は、市民と行政との協働を推進するため、市民活動センターを設置します。
4 市民活動センターの運営に関し必要な事項は、別に定めます。
(6)まちづくり市民会議
1 市長は、市民とともにまちづくりを進めるため、市民が市政に関する施策を提言するまちづくり市民会議を開催します。
2 市民は、まちづくり市民会議に主体的に参加します。
3 行政は、まちづくり市民会議から提案のあった施策を尊重し、その実現に努めます。
(7)まちづくりに関する住民の満足度調査
1 市長は、まちづくりに関して住民の満足度調査を毎年実施します。
2 市長は、住民の満足度調査の結果を公表し、市政に反映します。

以上のうち、「地域委員会」は、住民自らが地域の課題を検討・解決し、地域の特性を生かした住民主体のまちづくりを進める組織である。概ね小学校区単位での設置が促進されている。市は、地域委員会の設立をはじめ、活動のための交付金の支給や職員の派遣などを行っている。既に、2013年度に1地区で「上之保ふれあいのまちづくり推進委員会」が設置され、武儀と田原の2地区で「地域委員会準備会」が立ち上がっている。
「市民活動センター」は、公益的な市民活動に関する総合相談・支援の窓口・拠点となる機関である。市では、2005年3月に「地域福祉計画」を策定し、「ボランティア・市民活動センター」(仮称)の創設や「ボランティア・市民活動センター設置検討委員会」(仮称)の設置が計画化されていた。それを受けて、2010年1月、市民による主体的・自律的なまちづくりを推進するために、相談・助言・コーディネート等の支援やNPO法人の設立支援などを行う「中間支援組織」として、市民活動センターが設置されている。その管理運営業務は、「まちづくりの推進を図る活動」(特定非営利活動促進法第2条第1項の別表)を行う市内のNPO法人に委託されている。そこでは、次の「運営方針の4つの柱」のもとに、市民活動(ボランティア、NPO法人、自治会等の地域の活動など)に対する「支援」が行われている。「(1)市民活動・ボランティアに対する、関市民へのすそ野を広げる。(2)NPO法人だけではなく、自治会町内会等、地域活動もサポートし、地域型コミュニティ、テーマ型コミュニティが協働して地域社会の活性化を目指す。(3)既存のボランティア活動支援との協働、行政との協働支援。(4)地域課題に対し、周りを巻き込みながら直接アプローチする」、がそれである。
「まちづくり市民会議」は、市政全般に関する問題点や課題を市民の視点から洗い出し、行政へ政策提言ができる、市民で構成する「会議体」である。類似の先行例のひとつに、愛知県新城市の自治基本条例(2013年4月施行)に規定されている「市民まちづくり集会」がある。「(市民まちづくり集会)第15条 市長又は議会は、まちづくりの担い手である市民、議会及び行政が、ともに力を合わせてより良い地域を創造していくことを目指して、意見を交換し情報及び意識の共有を図るため、3者が一堂に会する市民まちづくり集会を開催します。」というのがそれである。市長は特別な事情がない限り、年1回以上、「市民まちづくり集会」を開催しなければならないことになっている。ちなみに、2013年8月に「第1回市民まちづくり集会」が開催され、約400人 (総人口約50,000人の0.8%) の市民が参加している。関市にとって参考になろうか。
「まちづくりに関する満足度調査」は、市長が毎年、まちづくりに関する市民の意識調査を実施し、施策の改善や充実を図るためのものである。2013年1月に、18歳以上の市民3,000人を対象に実施された「平成24年度アンケート調査(まちづくり通信簿)」の結果が、同年3月に報告されている。
ところで、市長がマニフェストに掲げる「日本一しあわせなまち」をめざして、「市民主権・市民自治」によるまちづくりを確かで豊かなものにするためには、「地域委員会」「市民活動センター」「まちづくり市民会議」のそれぞれの機能が有機的・総合的に発揮され、三位一体の運営がなされることが必要不可欠となる。策定審議会や素案においては、この3つの組織・機関の連携・協働・相互補完に関して言及も規定もされていない。「関市自治基本条例の答申に関する附帯意見」として、次のような一文が付されているだけである。「5 協働施策の周知と推進/地域委員会、まちづくり市民会議などの協働施策について、広く市民に知られていないので、積極的な施策の周知に努めてください。また、市民活動センターは、自治会、福祉団体など多様な団体の参画のもとに運営されるよう望みます。」というのがそれである。
「まちづくりは人づくり、人づくりは教育づくり」といわれる。この考えに立って、以下に、「地域委員会」「市民活動センター」「まちづくり市民会議」と「日本一しあわせなまち」づくりのための主体形成を図る教育(「市民福祉教育」)の相互関係を図示することにする。
素案では、「住民」を「関市内に住む人」、「市民」を「住民、市内で働く人、市内で学ぶ人、事業者等」と定義づけている。筆者が作成した図 1では、「市民」(citizen)を、素案が規定する「市民」とは異にし、市民社会における主権者としての意識を自覚的に持ち、まちづくりに主体的・自律的に参画する、独立したひとりの理性的な人間として捉えている。また、「市民性形成」は、市民性(市民としての資質と能力)を育成するための教育(シティズンシップ教育)を意味する。「まちづくり学習」は、すべての住民の生命(生きる力)と生活、そして人生の質的向上の実現をめざし、多様な主体が連携・協働して、住民が抱える個別具体的な生活問題や地域の社会問題を解決するために主体的・自律的に行動する実践的な態度や資質、能力を育成する教育・学習活動をいう。図中の「市民」「市民性形成」「まちづくり学習」の用語について筆者は、とりあえずこのように考えている。
10月26日17時
図 2は、「市民活動センター」に関する管見を示したものである。それは、次のようなメモ書きとともに、2013年1月に開催された第13回策定審議会に個人的見解として提示したものである。
(1)市民活動センターは行政が設置し、その運営は行政、社会福祉協議会、自治会連合会、民生委員児童委員協議会、NPО・ボランティア団体、まちづくり協議会等による「協働運営方式」を採る。
(2)市民活動センターには、行政(福祉政策課、市民協働課、生涯学習課)と社会福祉協議会等の職員(コミュニティソーシャルワーカー、ボランティアコーディネーターなど)を配置する。
(3)市民活動センターに、自治会連合会や民生委員児童委員協議会等の事務局を置く。
(4)市民活動センターは、業務のひとつとして「地域委員会の設立と支援」「まちづくり市民会議の開催と運営」を所掌する。
(5)市民活動センターを、市民や行政等から具体的な生活課題や地域課題を持ち寄り、課題解決のための「プラットホーム」を設立し、市民や行政が連携・協働して課題解決にあたる、文字通りの、市民の・市民による・市民のためのセンター(市民活動の拠点)とする。
(6)およそ以上のような市民活動センターを構想・設置するとすれば、その場所は、例えば「わかくさ・プラザ」(学習情報館、総合福祉会館、総合体育館の3つの施設で構成される複合施設で、人々が行き交う「出会い」「ふれあい」の場、そして「生涯学習のまちづくり」の拠点となっている。)内に置くことが望まれる。
10月26日 図2
最後に、筆者が策定審議会で提案したもののうち、明確には素案に規定されなかった「学ぶ権利」について一言述べておきたい。
市長がマニフェストに掲げる「市民主権・市民自治」を実現するためには、子どもから大人まですべての市民を対象にした、関市の「まち」に関する理解・診断と「まちづくり」に関する「意識」「知識」「スキル」の醸成・育成が必要かつ重要となる。素案には、「市民の権利」のひとつとして、「まちづくりに関して学習し、意見及び要望を提案できること。」という規定がある。それについては、「市民は、まちづくりに関することを学び、意見や要望を自由に提案できます。これは、誰にも阻害されることはありません。」と「解説」されている。この解説をみるかぎり、「学ぶ権利」についての規定は必ずしも十分ではなく、曖昧なものにとどまっているといわざるを得ない。また、この権利保障を担保する規定も明文化(条文化)されているわけではない。そこで、「市民主権・市民自治」を画塀に帰させないためにも、主体的・自律的に「学ぶ権利」を独立条文として規定することが極めて重要となる。例えば、次のような規定が考えられよう。

(学ぶ権利)
1 市民は、まちづくりに関して、自ら考え行動するために学習することができます。
2 行政は、市民のまちづくりに関する学習の機会を確保するとともに、自主的な学習活動を支援します。

なお、同じ岐阜県内の大垣市では、2015年度から地元の歴史や文化、産業等を学ぶ「ふるさと大垣科」(仮称)が新設され、すべての小・中学校で授業が開始される。その内容等については不明であるが、ここで、戦前の「郷土教育」が浅薄な愛国心の育成(「愛国心教育」)に繋がった “負の遺産” を持っていることには十二分に留意する必要があることを付記しておく。筆者がいう「学ぶ権利」は、ユネスコの「学習権宣言」(1985年3月)に基づくものであり、すべての市民が主体的・自律的に学習する権利である。強調しておきたい。

付記
2月20日付けで、関市長から筆者(策定審議会委員)に「関市自治基本条例素案の答申のお礼について」と題する文書が届いた。そのなかで、「今後は、条例素案のパブリック・コメントを実施し、より多くの市民から意見を求めるとともに、市民や議会に素案の内容を丁寧に説明し、条例を制定する上で最も大切である普及啓発に努めてまいります。」と記されている。「市長、議会及び行政」による今後の取り組みを見守りたい。

佐賀県鹿島市における福祉教育の取り組み経過と課題

佐賀県鹿島市では、1995年9月22日、市議会において「福祉のまちづくり宣言」が決議された。翌1996年3月25日には、「鹿島市福祉教育に関する条例」(以下、「鹿島市福祉教育条例」と略す。)が公布された。爾来、鹿島市では、教育委員会が中心となって、すべての小・中学校を福祉教育推進校に指定し、「福祉のまちづくり」のための福祉教育が計画的・継続的に実施・展開されている。独立条例に基づく福祉教育の取り組みは、筆者(阪野)の知る限り、他に例がない。
今日、中央教育審議会などにおいて教育委員会の廃止論や不要論等、制度のあり方をめぐる議論がなされている。それは、教育の政治的中立性と継続性・安定性の確保を危うくする可能性をはらんでいる。福祉のまちづくりに関しては、地方分権改革や社会福祉制度改革の推進が図られるなかで、全国の地方自治体で行政主導による条例制定の取り組みがなされている。しかし、その条例の多くはいわゆる理念条例にとどまり、そこには一定の限界がみられる。福祉教育については、学校福祉教育から地域福祉教育への移行が叫ばれているが、その実態はいまだ学校における、疑似体験を中心にした「思いやりの心」の育成に偏りがちである。
こうしたなかで、鹿島市における福祉教育の取り組みの経過を跡づけることは、今後の学校福祉教育、とりわけ福祉の(による)まちづくりの主体形成を図るための学校福祉教育のあり方について検討する際の、ひとつの視座や視点を見出すことが期待される。そこで、本稿では、基礎的な作業としての資料紹介を中心に行い、それをめぐって若干の所見を述べることにする。
以下に、「福祉のまちづくり宣言」から今日までの福祉教育の取り組みの経過に関する資料を時系列順に紹介する。

「福祉のまちづくり宣言」決議/1995年9月22日
すべての市民が人間として尊重され、社会参加の機会を平等にもち、自立した生活を送られる社会を実現することは、私たちの願いであります。
こうした社会実現のためには、一人ひとりが人間として尊重されることを基本に等しく社会のサービスを受けることができ、意欲や能力に応じて社会参加の機会が平等に与えられなければなりません。
このため、私たちは高齢者や障害者等からこれらの機会が奪われがちなさまざまな妨げを取り除き、すべての人が自らの意思で自由に社会参加できる「福祉のまちづくり」を目指します。
このような自覚と認識にたち市民が安心して生活できる人にやさしい「福祉のまちづくり」に積極的に取り組むことを宣言します。
以上、宣言する。
平成7年9月22日
佐賀県鹿島市議会

「鹿島市福祉教育条例」制定についての市長の提案理由説明要旨/1996年3月4日
今後、行政・住民一体となって考えていかなければならないことの一つに福祉の問題があります。その一つの試みとして、平成8年度から福祉教育実践委嘱事業を始めます。予算的には小さな事業でありますが全国でも初めての取り組みだと思います。高福祉・高負担、このジレンマから抜け出るためにもボランティア活動の日常化を図る必要があり、小学生・中学生全員にボランティアの実体験を通して学習をするプログラムを組みました。いわば、義務教育内での必須科目的にボランティアを取り入れようということであります。長い時間がかかると思いますが、継続することによりやがて鹿島市が、福祉の心にあふれる人で一杯になることだろうと、私は今から胸を躍らせているわけです。
(『市議会定例会・平成8年度施政方針及び市長提案理由説明要旨』1996年3月、3ページ)

「鹿島市福祉教育条例」制定についての質疑、討論、採決/1996年3月14日
O議長(青木幸平君)
日程第1、議案第10号、鹿島市福祉教育に関する条例の制定についての審議に入ります。
O福祉事務所長(平野俊和君)
この条例は、9月22日に決議した「福祉のまちづくり宣言」の一環として、人づくりを基本とした豊かな福祉社会の実現を目指して制定するものである。
福祉のまちづくりについては、全体の施策が必要と思われるが、当面教育に限って制定するものである。
条例は7条から成るが、精神的なものを中心としている。第1条の目的については、すべての市民が福祉に関する理解や意識高揚を図り、福祉のまちづくりに結びつけたいということである。第2条は、市が市の責務として、福祉教育の推進についてあらゆる機会を提供するというものである。第3条は、直接かかわる福祉団体等における福祉教育の推進について規定したものである。第4条は、市民の福祉教育への参加について、端的には市民の責務という形で規定したものである。第5条は、学校における福祉教育、特に教育委員会なり各学校についての取り組みを規定したものである。第6条は、あらゆる階層から必要に応じて市民福祉推進委員会を設置し、調査、審議をするというものである。第7条は、この条例の施行に関して必要なものについては別に定めるという委任事項である。附則は、平成8年4月1日から施行するということである。
O市長(桑原允彦君)
この条例を教育委員会の方で担当するか福祉の方でするかという議論もした。将来的には教育現場に限ったことではないというスタンスをとるためにも、福祉事務所の方でこの条例を作成した。
子供たちが一生懸命福祉に対して頑張っている姿を大人が見れば、必ず我々もやらなければという気持ちになるだろう。そういう気運の中から全市民的な動きも出てきてくれればという期待を込めている。また、ぜひそうあらねばならない。9月の定例議会において福祉のまちづくり宣言を行ったが、それを受けた形になっている。そういう意味でも、将来的には全市民的な取り組みがぜひ必要である。
O教育長(迎 昭典君)
今日、生涯学習、生涯教育がいわれている。福祉もまさにそれに一致するものであり、福祉教育こそは学校教育を基盤としながらも、生涯にわたってやるだけの値打ちのあるものである。
予算については、福祉教育推進校に対して、小学校に5万円、中学校に10万円つけたい。社会福祉協議会からも予算がつく。
将来的には、学校教育だけでなく、生涯学習の一環として福祉教育を推進していくことになると、一層の予算の手だても必要になってくる。
O市長(桑原允彦君)
この条例は全市民的に波及するということを位置づけている。今回の計画に対して、霧の役目をまず子供たちにしてもらう。そこからこれを波及しようという手法を想定している。
O教育長(迎 昭典君)
当然、年間計画や指導計画、あるいは事後の評価報告は伴う。しかし、文部省や県教委が求めるような、あのような煩雑な報告は求めない。
学校の先生の負担は免れない。しかし、今心配なのは、各地区の方々の協力が得られるかどうかである。地域の方々の協力なしには、学校の先生の指導だけではできない。できるだけ子供を地域に返す、地域の実態に学ばせるという姿勢が根本にある。地域の方々の力添えを得ながらやっていきたい。
学校の過重負担にならないように十分気をつけていきたいし、いかなければならない。
O生涯学習課長(大串昭則君)
福祉教育に関し、今後は6地区公民館合わせて、事業の充実を図っていきたい。
O市長(桑原允彦君)
地方の時代の到来のためには地方が自立し、民と官が一体となって自分たちのまちづくりをやらなければならない。地方分権の究極は、国は助けてくれないということである。行政の一番大きな役割は、住民が乗ってくれるような、あるいは乗りやすいような仕組みづくりを、あるいは提案をいかにしていくかということが重要な仕事になってくる。今回の条例も、住民に対する提案であり、執行部の決意である。
O市長(桑原允彦君)
児童・生徒たちが認知症や寝たきりの老人と接する。そこから人間教育が始まる。
福祉の理念の中には、受ける側に感謝の気持ちを持てという要素は入れる必要はない。受け手側の人間性、道徳感、考え方の問題は、別に論じるべき問題である。
今回のことは簡単にできるとは思っていない。特に学校現場は大変だと思う。方向性や理念が確かであればとにかくやろう。現実的な課題や問題点は走りながら考えよう。このように思っている。
O福祉事務所長(平野俊和君)
福祉教育を大上段に振りかぶることなく、民生委員会や地域懇談会などいろいろな機会をとらえて、福祉教育についてのお願いや要請を今後もしていきたい。
O議長(青木幸平君)
起立全員であります。よって議案第10号は提案のとおり可決されました。
(『鹿島市議会定例会会議録』鹿島市議会事務局、1996年3月、306~320ページ)

「鹿島市福祉教育条例」公布/1996年3月25日
(目的)
第1条 この条例は、全ての市民が福祉に関する制度及び実情を正しく理解し、福祉意識を高めるとともに、市民自ら参加する福祉についての実践活動を行うことにより、福祉教育の推進を図り、もって福祉のまちづくりに寄与することを目的とする。
(市における福祉教育の推進)
第2条 市は、市民に対して生涯にわたる教育の場を通じて福祉教育の推進に努めるものとする。
(福祉団体等における福祉教育の推進)
第3条 市民福祉の向上を目的とする団体(以下「福祉団体」という。)及び福祉施設を経営する者は、その活動を通じて福祉教育を実施するよう努めるものとする。
2  福祉団体及び福祉施設を経営する者は、市及び教育委員会に対し、福祉教育に関する指導又は助言を求めることができる。
(市民の福祉教育への参加)
第4条 市民は、福祉の意義を理解し、福祉活動を実践するために、自主的に学習を行うとともに、福祉教育に積極的に参加するよう努めるものとする。
(学校における福祉教育)
第5条 教育委員会は、児童・生徒に対する福祉教育の充実推進を図るため、すべての小・中学校を福祉教育推進校に指定する。
2  福祉教育推進校は、児童・生徒に対し、計画的に福祉教育、活動の機会を設定し、福祉活動についての理解と関心を深めるよう努めるものとする。
(市民福祉推進委員会)
第6条 市は、福祉教育、活動について調査及び審議するため、市民福祉推進委員会を置くことができる。
(委任)
第7条 この条例の施行に関し必要な事項は、市長が別に定める。
附則
この条例は、平成8年4月1日から施行する。
(『平成10年度 福祉教育推進報告書』鹿島市教育委員会、1999年3月、37ページ)

鹿島市教育委員会における取り組みの経過/1995年度~2012年度
(1)平成7年度
桑原市長は、官と民が一体となった福祉のまちづくりの中で、特に福祉教育を重視した。鹿島市でも核家族化が進み、独居老人が多くなると同時に、祖父母と同居していない子どもが増加した。そのような子どもたちは、人間の情緒を育てる「生・老・病・死」に触れることもできない。そこで、お年寄りと接する機会を与えれば、その体験ができるのではないかと考え、教育委員会に提案した。教育長、市内校長会もこれに賛同した。市長、教育長、教育次長は、市内教職員へ福祉教育の意義の説明とその啓発のため、1月から3月にかけて市内全小中学校を訪問した。また、教育委員会は、関係諸機関とも連携をとった。
平成8年3月14日には、3月定例議会において「鹿島市福祉教育に関する条例」が可決成立し、正式に福祉教育の推進が決定された。
(2)平成8年度
平成8年4月から、全小中学校において教育課程の中に福祉教育が位置づけられた。特に、中学校2年生では「ふれあい活動」という高齢者との日常福祉実践活動が、民生委員の協力を得て開始された。1班6人程度でグループをつくって独居老人や老人のみの世帯を週1回~月1回程度訪問し、話し相手、肩もみ、草むしり、ごみ捨て、障子張り、網戸洗い、石運び等を行った。
初年度でいろいろな課題も出てきたが、交流、体験を通して小中学生が学んだものには計り知れない大きな成果があった。高齢者からも多くの感謝のお便りが届いた。
(3)平成9年度
福祉教育が2年目を迎え、各小中学校ともに特色ある取り組みが行われてきた。「ふれあい活動」では、中学生と高校生がごく普通にあいさつや声かけができるようになり、地域での温かい雰囲気ができてきたという民生委員からの報告もあった。また、この活動によって、将来の進路をヘルパー志望とする生徒の声もあった。一方、施設との交流も開始された。しかし、課題も多く出てきた。まず、時間の問題である。生徒たちの部活動や塾等の都合と高齢者の都合が合わず、計画がうまくできない。また、ナイフ事件で「中学生は怖いので辞退したい。」ということも出てきた。民生委員の方からは、多忙で負担が大きいという課題が出された。
(4)平成10年度
3年目を迎え、児童生徒に福祉の心が着実に育ってきた。中学生の殆どが高齢者と交流を希望し、自分の将来を考えた上で、何か手助けをしたいと考えている。これは、小学校1年生から実施している小中一貫の福祉教育の大きな成果である。特に、自発的に近所の高齢者との交流を考え、生徒自身から「何か手伝うことはありませんか。」と働きかけた。
(5)平成11年度
4年目を迎え、各学校とも地域の実態を考慮した取り組みが定着してきた。地域の高齢者、障がい者、ボランティアの人、施設の人等との交流をとおして、福祉に対する理解も広がってきた。しかしながら、「ふれあい活動」を希望してくださる高齢者の方々が減っており、お宅を訪問しての活動というものが難しくなってきた。そこで、地域のボランティアの方々が主催していらっしゃる「生き生きサロン」が増えたこともあり、そこで一緒に集団で活動させていただいた。
(6)平成12年度
5年目を迎え、小学校では学年ごとに行う実践活動が定着してきて、年間指導計画がしっかりしたものになってきた。また、手話教室や盲導犬教室も多くの学校で開かれるようになり、高齢者ばかりでなく障がい者へも対象が広がってきた。しかしながら、個別に交流を希望される高齢者世帯の方々が減少を続け、今後の「ふれあい活動」の実施について検討が必要になってきた。
(7)平成13年度
6年目を迎え、着実に児童生徒に福祉の心が育ってきたことが大きな成果であった。また、地域の中でも、小さいながらも子どもたちと高齢者等との温かい交流が生まれてきた。さらに、施設においても、受け入れの協力体制もでき、幅広い活動ができてきた。本年度は、中学生が行う「福祉ふれあい活動」の見直しを行った。まず、ふれあい希望者の減少という実態から、児童生徒が身近な活動相手を探すこととした。次に、活動の学年を学校行事等との関連から、1年生とした。これまでの教育委員会主導から、生徒自身の働きかけによる活動となり、総合的な学習とも関わらせながら理想的な福祉教育が定着してきた。
(8)平成14年度
新しい学習指導要領がスタートし、「総合的な学習の時間」が全面実施となった。その時間を活用して、活動ができるようになった。中学校1年生の活動では、生徒自身が「ふれあい活動」の協力者探しを行った。いろいろな問題にぶつかりながらも、たくさんのグループで有意義な活動ができた。小学校では、盲導犬コンサートを実施し、盲導犬や障害をもった方々とのふれあいができた。
(9)平成15年度
新学習指導要領の完全実施2年目にあたり、「総合的な学習の時間」の内容の充実と関連して各学校での福祉教育も時間を有効に使い、充実した内容になってきた。福祉講演、ふれあい活動、疑似体験等活動も多岐に広がりを見せている。また、地域のお年寄りとのふれあい活動は、どの学校でも定着してきており、日常的に交流する児童も見られるようになった。
(10)平成16年度
小学校では、新潟中越地震被災者の方への募金活動が広がった。また、3年間の地域指定を受けたエイズ(性)教育推進事業を通して「命の大切さ」や「生きることの喜び」について福祉と関連づけながら学ぶことができた。しかし、中学校では、高齢者の受け入れ先がここ数年減少しているなど今後再度検討が必要になってきた。
(11)平成17年度
市民の方から高齢者・障がい者疑似体験セットの寄贈により、小学校では疑似体験活動の広がりが見られた。10年目を迎え、福祉教育は各学校の地域性を生かした取り組みが定着している。個人情報保護条例の施行により、独居老人の住所等の情報の入手が困難になり、福祉行事の招待状や年賀状の発送が困難になってきた。情報収集から行うことも考えられるが、収集した個人情報の管理などの検討が必要になってきた。
(12)平成18年度
個人情報保護条例の施行から昨年度継続が途絶えた独居老人との交流が、地区の民生委員さんを通じて本人の承諾を得、再会できる学校が出てきた。高齢者・障がい者擬似体験セットを活用して実践する学校も多くなってきた。各教科や総合的な学習の時間との関連を図りながら中身の濃い実践ができるようになってきた。
(13)平成19年度
全校児童に呼び掛け、集めてきたプルタブで、車いすを1台購入し、プレゼントした学校が出てきた。2年以上かかったが、プレゼントできたことで「プルタブ集めを続けてきてよかった。」との感想を持つことができた。また、学校で施設や老人会と交流活動を行った後、自主的に活動を続ける意欲的な子どもたちも出てきた。
国語で盲導犬について学習し、総合の時間で実際に盲導犬を見て、また、国語でまとめの学習を行うなど、各教科や総合的な学習の時間との関連を図りながら、中身の濃い学習ができるようになってきた。
(14)平成20年度
老人会などの地域の方や福祉施設の方との交流が定着し、お年寄りの方から喜ばれている。また、子どもたちにお年寄りを思いやる身持ちが育ってきて、さらに交流を深めたいという声もあがっている。
高齢者・障がい者の疑似体験を小学校5校、中学校2校で実施し、日常生活でのたいへんさ等を身をもって学ぶことができた。
「福祉のつどい」において、中学校の「福祉ふれあい活動」の実践発表を行い、多くの市民の方々に、活動状況等を知ってもらうことができた。
(15)平成21年度
各学校では、福祉教育が計画的に実践されており、高齢者や障がい者等との交流を通して、子どもたちは自己有用感を感得し、次への意欲をもつことができた。
「福祉のつどい」において、中学校の「福祉ふれあい活動」の実践発表を今年度も実施し、活動状況等を広報した。
プルタブ回収をそれぞれの学校で行ってきたが、取組結果を子どもたちに還元できるように市全体での組織の構築が提案された。来年度、検討予定である。
(16)平成22年度
中学校の総合的な学習の時間が減少し、活動を見直す時期に来ている。これまでと同じ活動ではなく、学校教育全体でどのように福祉教育に取り組むのか検討が必要である。
長年各学校で取り組んできたプルタブ回収については、業者が回収を行わないという理由から、新たにペットボトルキャップを回収する「エコキャップ運動」に参加する学校が増えてきた。(ペットボトルのキャップを回収して再資源化事業者に販売することで得られる売却益の一部を開発途上国の子どもへのワクチン代として寄付する運動。)
(17)平成23年度
東日本大震災の被災者の方への支援活動が広がった。募金活動を行ったり支援物資を募ったり等、自分たちができることは何かを考え実践することができた。「鹿島市福祉のつどい」で鹿島小学校のファンタジーブラスバンド部がオープニングアトラクションとして演奏を披露し、皆さんに喜んでいただいた。中学校では、総合的な学習の時間が週1時間に減少したことで、前年度よりは活動時間に制限があったが、各学校の創意工夫で充実した活動ができた。
(18)平成24年度
古枝小学校、東部中学校が、ペットボトルのキャップを回収し世界の子どもたちへワクチンを届ける取組を行い、合わせてポリオワクチン100人分以上を回収することができた。「鹿島市福祉のつどい」では、北鹿島小学校の和太鼓クラブがオープニングアトラクションとして見事な演奏を披露した。鹿島小学校のボランティア委員会が青少年赤十字に加盟し、新たな取り組みを始めた。
(『平成24年度 福祉教育推進報告書』鹿島市教育委員会、2013年3月、1~3ページ)

福祉教育の成果と課題/2012年度
1 成果
(1)各教科、総合的な学習の時間をクロスさせての実践
生活科や総合的な学習の時間を利用して実践をしているが、各教科の学習と関連を図り、高齢者や園児との交流など児童生徒の発達段階に応じた活動ができた。
(2)主体的に考える力を育てる体験活動
疑似体験自体や点字や手話などの技術習得を目的とするのではなく、高齢者や障がいのある人が安心できるサポートとは何かを考えたり、視力や聴覚に障がいのある人が社会参加を図る際のサポートのあり方を考えたり、さらに当事者とのコミュニケーションを実際に図ったりすることで、子どもたちに主体的に考えさせ、その後の振り返りをしっかりと行う取組ができた。
(3)地域の方々との交流行事として定着
中学校では、例年は交流の受け入れ先が不足し、交流相手を見つけることが難しかったが、民生委員・児童委員の方や保護者のご協力で受け入れ先をご紹介いただき有意義な交流ができた。毎年の恒例行事として、お年寄りをはじめ地域の方々にも定着してきて、楽しみに待っていただいている。老人会などの団体や地域の方と更に連携を深めていきたい。
(4)ボランティア精神の高揚
ペットボトルのキャップで世界の子どもにワクチンを届ける取組を複数校が実施し、ポリオワクチン100人分以上となるキャップを回収することができた。子どもたちは、協力の輪が広がり成果を出せた達成感と人の役に立ったという充実感を味わうことができた。
福祉の学習をとおして、高齢者なとの交流相手に喜んでもらえたことで、自己有用感を感得し、また取り組みたいという意欲が出てきた。
さまざまな福祉体験活動を通して、児童・生徒の中にお年寄りや身近な家族を気遣う気持ちが育ってきた。
2 課題
(1)時間調整の難しさ
交流する相手方の時間と学校の生活科や総合的な学習の時間を合わせることが難しい。
(2)活動の見直し
地域の方は「このようなふれあい活動を長期的・継続的に実施してほしい」と願っておられる。その期待に応えつつ、マンネリ化しないように地域の方とともに活動を見直し、児童生徒の関心・意欲を高める工夫を重ねていく必要がある。
(3)単元計画の見直し
中学校では総合的な学習の時間が35時間に減少した。限られた時間内で目標が達成できるように福祉教育のカリキュラムの改善を毎年することが大切である。
福祉教育と各教科との関連を図った単元の工夫は、今後もさらに充実させていくことが必要である。
高学年の活動が授業やカリキュラムの関係で取りにくく、活動内容が限定されてしまいがちになるなど、学年間のかたよりもあるので、全学年で継続した取組がなされるよう計画する必要がある。
中学生1年生のふれあい活動が、何らかの形で2、3年生の活動につながれば、福祉教育が更に意義あるものになると思われる。
(『平成24年度 福祉教育推進報告書』鹿島市教育委員会、2013年3月、28ページ)

以上の諸資料をめぐって若干の所見を述べ、本稿のまとめにかえることにする。
(1)鹿島市福祉教育条例は、「福祉のまちづくり宣言」の一環として、豊かな福祉社会の実現をめざして制定されたものである。そのねらいは、すべての小・中学生を対象に、「義務教育内での必須科目的にボランティア」を取り入れ、ボランティア活動の日常化を図ろうとするところにある。そのためのツール(手段)として、中学校1年生全員(2000年度までは中学校2年生)に対し、1年間にわたり継続して地域の高齢者等とふれあう「ふれあい活動」が義務づけられている。それは「福祉教育の総まとめ」でもある(『平成24年度 福祉教育推進報告書』4ページ)。なお、鹿島市には現在、小学校が9校(本校7校、分校2校)、中学校が2校ある。
鹿島市では、福祉教育が福祉のまちづくりを進めるための小中一貫の教育活動として位置づけられていることは、高く評価することができる。しかし、実際には、「福祉教育」イコール「ボランティア活動」イコール「ふれあい活動」、と矮小化されて捉えられている感がある。小・中学生にとって、地域・社会の構成員や福祉のまちの形成主体としての役割は何か。その役割を遂行できる資質や能力を育成するための、福祉教育の本質的かつ具体的な方策は何か。それをいかに実施・展開すべきか、等々について検討する余地が多分に残されている。
鹿島市の福祉教育実践の中心である「ふれあい活動」は、その活動を通して思いやりの心や感謝の気持ちを経験的に学び取らせようとするものである。したがってそこから、“知識”よりも、「ふれあい活動」のための機能的な“技術”“技能”を育てることを重視することに結果している。「福祉」や「まちづくり」に関してどのような知識を身につけさせるかについては、明確には定まっていない。また、どのような価値観の獲得・育成を図るかは、さらに不明確である。
要するに、鹿島市の福祉教育には、「ふれあい活動」にとどまらず、子どもの発達段階に応じた地域・社会への参加や問題解決活動の取り組みを進める。それを通して、地域・社会に変化をもたらし、「福祉のまちづくり」に主体的・能動的に関わろうとする子どもの育成を図る。こうした福祉教育の展開に向けて、より一層の検討と創意工夫が求められる、といえよう。例えば、①福祉教育は、学校教育の「領域」ではなく「機能」として捉え、学校外の領域においても多元的・複層的に遂行されることが必要かつ重要となる。それを前提に、福祉教育を全教科・全領域に位置づけ、学校内外のあらゆる場面で取り組むための具体的な教育内容と方法、それに評価のあり方について検討する。②これまでいわれてきた地域参加・還元型学習や問題解決型学習としてのそれだけでなく、学校と地域、知識と体験などの往還型学習としての福祉教育の学習内容・方法やカリキュラムのあり方を問う。あるいは、③福祉教育を軸とした「総合的な学習の時間」の年間指導計画に基づいて、年間を通して系統的・継続的な福祉教育活動の展開を図る。④中学校学習指導要領にいう「その他特に必要な教科」として「福祉」や「まちづくり」に関連する教科を設置する、ことなどが考えられよう。
(2)18年間の、福祉教育の取り組みの経過を概観すると、活動の「計画化」や「体系化」、「地域化」などへの指向を読み取ることができる。例えば、次のような記述がそれである。これらはまた、福祉教育活動の拡大と深化の過程でもある。

「小学校では学年ごとに行う実践活動が定着してきて、年間指導計画がしっかりしたものになってきた」(2000年)。
「各教科や総合的な学習の時間との関連を図りながら中身の濃い実践ができるようになってきた」(2006年度)。
「『福祉のつどい』において、中学校の『福祉ふれあい活動』の実践発表を行い、多くの市民の方々に、活動状況等を知ってもらうことができた」(2008年度)。
「『エコキャップ運動』(ペットボトルのキャップを回収して再資源化事業者に販売することで得られる売却益の一部を開発途上国の子どもへのワクチン代として寄付する運動。)に参加する学校が増えてきた」(2010年度)。

周知の通り、福祉教育は、福祉文化の創造や福祉の(による)まちづくりをめざして日常的な実践活動に取り組む主体形成を図るための教育活動である。またそれは、歴史的・社会的存在としての地域の社会福祉問題を学習素材とし、その解決をめざして展開される意図的な教育活動である。それゆえに、福祉教育は、そもそも学校内で自己完結するものではなく、地域に出向き、地域に軸足を置いた取り組みが求められる。とともに、体験学習が重視されることになる。ここで留意すべきことのひとつは、福祉教育の体験活動が、単なるイベント的なそれにならないよう、また体験至上主義に陥ることのないようにすることである。福祉教育は、福祉のまちづくりに関して「学び」「気づき」「ふりかえり」、そして「変わり」、「動く」ことを導き出すことが求められ教育活動である。それをより確かなものにするためには、地域の社会資源の活用やそれとの連携、さらには新しい社会資源の開発が必要かつ重要となる。これは、前述の資料「福祉教育の成果と課題/2012年度」に指摘されている諸点に通底するものでもある。
(3)鹿島市と鹿島市社会福祉協議会は、協働して、2013年3月に「鹿島市地域福祉計画・地域福祉活動計画」を一体的に策定した。この計画の特徴のひとつは、計画策定にあたって、課題解決の方策として「自助、共助、公助」の視点が重視されたことにある。また、必ずしも十分であるとはいえないものの、地域福祉計画と地域福祉活動計画の「将来像や基本目標の共有化」が図られ、「地域福祉実現の両輪」「計画の連携・補完」などと、二つの計画の相互関係に注意が払われている。一体的策定の意義のひとつはここにある。しかし、内容的には両計画を合本製本したものにとどまり、その効果には疑問が残る。
そうしたなかで、地域福祉計画では、福祉教育の「具体的な取り組み」に関して次のように記述されている(『鹿島市地域福祉計画・地域福祉活動計画』鹿島市・鹿島市社会福祉協議会、2013年3月、62~63ページ)。

◎福祉教育の推進
現状と課題(略)
具体的な取り組みと役割
①家庭や地域での福祉に関する学習機会の提供
◆家庭において親から子へと地域福祉教育がなされるために、親を対象とした地域福祉に関する勉強会の実施を検討します。また、家庭内での実践を通して、親から子へ、子から孫へと福祉に関する教育が受け継がれるように意識啓発を進めます。
◆一人でも多くの人が福祉に関心を持ち、思いやりや助け合いの精神について理解し、自らが積極的に行動することができるよう、地域福祉について学習する機会を提供します。
②学校教育における福祉教育の推進
◆学校教育の中で課外活動の時間や総合的学習の時間を活用し、社会福祉協議会などと連携しながら、体験型の福祉教育を推進していきます。
③住民や児童・生徒と福祉施設等との交流の促進
◆地域においては、住民や児童・生徒と福祉施設などとの交流を促進します。
■住民・地域・市(行政)の目指すことや役割(略)

また、地域福祉活動計画では、福祉教育に関して次のような計画化が図られている(『鹿島市地域福祉計画・地域福祉活動計画』91ページ)。

◎福祉教育の推進
①学校等における福祉教育の推進
具体的な取り組み
◆学校での福祉教育の協力
子どもの頃から福祉に対する理解と関心を高め、「福祉のこころ」の育成や地域社会との連帯意識を育むことを目的として、市内の小中学校で行われる福祉教育やボランティア体験学習の実施に協力します。
◆福祉教育の推進・学校との連携の強化
子どもたちがボランティア活動へ関心を持ち、参加意識を高められるよう、福祉教育の推進を図ります。
◆地域での福祉教育の実施
子どもから大人まで福祉に対する理解と関心を高め、地域支え合いの意識の向上を図るため、地域福祉ボランティア講座等を開催するとともに、障がいについての理解を深め、誰もが暮らしやすい地域づくりを進めるため、地域の特別支援学校等と連携して事業を実施します。
主な事業
●学校等での福祉教育への支援

以上を一瞥すると、計画内容は新味がなく、具体性に欠けるものになっていると断ぜざるを得ない。地域福祉計画については、18年間にもおよぶ教育委員会による学校福祉教育の成果や課題が、十分に反映されているとはいえない。地域福祉活動計画に至っては、社会福祉協議会にありがちな、学校福祉教育への単なる支援や紹介・斡旋にとどまっている。
今日、福祉教育は、従来の学校を中心にした福祉理解・啓発の福祉教育から、地域を基盤とした、地域ぐるみの、福祉の(による)まちづくりを進めるための福祉教育(「市民福祉教育」)の推進を図る時期にある。鹿島市社会福祉協議会の地域福祉活動計画には、主体的・自律的な、魅力ある地域福祉を推進するための福祉教育の計画化が欠落している。「地域福祉は、福祉教育ではじまり、福祉教育でおわる」といわれる。社会福祉協議会には、地域福祉やその主体形成を促すための福祉教育の本質について再認識することが強く求められよう。
周知の通り、地方分権改革や社会福祉制度改革などの推進が図られるなかで、ここ10数年来、基礎自治体としての市町村では「福祉のまちづくり条例」を制定する動きが活発化している。鹿島市は、1995年9月、「市民が安心して生活できる人にやさしい『福祉のまちづくり』に積極的に取り組むこと」を宣言した。1996年3月、鹿島市福祉教育条例の制定に際して、当時の市長は、「長い時間がかかると思いますが、継続することによりやがて鹿島市が、福祉の心にあふれる人で一杯になることだろうと、私は今から胸を躍らせているわけです」。「将来的には全市民的な取り組みがぜひ必要である」、と語っている。また教育長は、「将来的には、学校教育だけでなく、生涯学習の一環として福祉教育を推進していくことになる」と述べている。
当時の市長や教育長の福祉・教育理念や“熱い思い”を想起するとき、福祉や教育を取り巻く状況が大きく変化しているなかで、鹿島市はいま、「福祉のまちづくり宣言」の次の段階(ステージ)として、「福祉のまちづくり条例」を制定する時期にあるといえるのではないか。その際、これまでの学校を中心とした福祉教育活動の積み重ねを基盤に、子どもをはじめ高齢者や障がい者、さらには外国籍住民など、各界各層の住民の参画を得て取り組むことが肝要となる。その過程はまた、地域ぐるみの福祉教育(住民の主体形成)の実践そのものでもある。地域ぐるみの福祉教育を如何に展開するかは、鹿島市やその小地域(行政区の単位を示す「部落」等)の歴史や特性、住民の生活実態や生活意識などに即して、多くの地域住民がその同一性と多様性・異質性を意識しながら、「福祉」や「まちづくり」について互いに学び合うことにかかっている。参加型・往還型、社会還元型・問題解決型の相互教育・学習活動としての「市民福祉教育」の展開が期待されるところである。

謝辞
本稿の諸資料を収集するにあたっては、鹿島市教育委員会教務総務課学校教育係のM女史にご高配を賜った。ここに記して衷心より感謝の意を表します。

福祉のまちづくり条例にみる「福祉教育」条文(Ⅱ)

3 福祉のまちづくりに関する市町村条例

市町村の「福祉のまちづくり条例」については、(1)木下聖がその論稿で扱っている38本の条例をベースに、(2)「福祉、まちづくり、条例」のキーワードでGoogleウェブ検索した条例を加え、そのうえで(3)市町村のウェブサイトに掲載されている条例・例規集から検索した条例を整理した50本の条例を検討対象とした。
その名称は多様であるが、ほとんどの条例で「福祉のまちづくり」などに関する「教育」「学習」「広報」「啓発」「情報提供」「意識の醸成」等の条・項文規定がある。それらのうちで、「福祉教育」について独立条文で規定する条例は次の18本(36%)である。神戸市(1977年1月10日公布、以下「公布」略。)、箕面市(1996年3月29日)、福岡市(1998年3月30日)、宇都宮市(2000年3月24日)、宮崎市(2000年12月20日)、金沢市(2001年3月23日)、若桜町(2001年3月30日)、新居浜市(2002年12月25日)、筑後市(2003年9月26日)、高浜市(2003年9月30日)、多治見市(2003年12月22日)、石狩市(2004年3月29日)、七尾市(2004年10月1日)、出雲市(2005年3月22日)、士別市(2005年9月1日)、都城市(2006年1月1日)、松江市(2008年6月26日)、志摩市(2008年6月30日)。
以上のうちから、代表的あるいは特徴的なものとして、「福祉教育」の条文とその前後の条文を8本紹介する。

(1)兵庫県神戸市/神戸市民の福祉をまもる条例/1977年1月10日公布
第4章 市民福祉の推進体制
第1節 福祉教育の推進
(福祉教育の理念)
第45条 福祉教育は、第2条に規定する市民福祉の基本理念並びに福祉に関する制度及び実情を正しく理解し、福祉意識を高めるとともに、市民みずから市民福祉を充実するための実践的な方法を身につけることをめざして推進されなければならない。
(市長等による福祉教育の推進)
第46条 市長及び教育委員会は、すべての市民に対し、生涯のあらゆる教育の場を通じて福祉教育を行うよう努めるものとする。
2 市民福祉の向上を目的とする団体(以下「福祉団体」という。)及び施設を経営する者は、その活動の場を通じて福祉教育を実施するよう努めなければならない。
3 市長及び教育委員会は、必要と認めるときは、福祉団体又は施設を経営する者の行う福祉教育に対し、助言又は専門技術的指導を行うことができる。
(市民の福祉学習及び福祉教育への参加)
第47条 市民は、福祉を理解し、及び福祉活動を実践するための自主的学習を行うとともに、福祉教育に積極的に参加するよう努めなければならない。

(2)大阪府箕面市/箕面市福祉のまち総合条例/1996年3月29日公布
(学習機会の確保)
第18条 市長は、障害者、高齢者等が地域社会でのあらゆる場面に参加し、それぞれの時期に応じた教育が受けられるよう学習機会の確保に努めなければならない。
(福祉教育の推進)
第19条 福祉教育は、市民自らが基本理念及び地域福祉に関する実情を理解し、地域福祉を充実することを目指し、主体的に推進するものとする。
2 市長は、学校教育、生涯学習等あらゆる機会を通じて福祉教育の推進に努めなければならない。
(福祉活動への支援)
第20条 市長は、自主的に地域において福祉活動を行う市民に対し、必要に応じて情報の提供、助言又は協働による支援を行うものとする。

(3)栃木県宇都宮市/宇都宮市やさしさをはぐくむ福祉のまちづくり条例/2000年3月24日公布
(意識の高揚)
第8条 市は、市民及び事業者が自主的に福祉のまちづくりに関する活動に取り組むよう意識の高揚に努めるものとする。
(福祉に関する教育の充実)
第9条 市は、高齢者、障害者等に対する思いやりのある福祉の心をはぐくむため、福祉に関する教育の充実に努めるものとする。
(生涯学習の機会の確保)
第10条 市は、高齢者、障害者等が生きがいを持って、豊かな生活を送ることができるよう生涯学習の機会の確保に努めるものとする。
(情報の提供)
第11条 市は、市民及び事業者の福祉のまちづくりに関する自主的な活動を促進するため、情報の提供に努めるものとする。
(ボランティア活動への参加及び支援)
第16条 市民及び事業者は、福祉のまちづくりに関するボランティア活動に積極的に参加するよう努めるものとする。
2 市は、市民及び事業者が行う福祉のまちづくりに関するボランティア活動を支援するため、必要な施策を講ずるものとする。

4)石川県金沢市/みんなで支え合う健康と福祉のまちづくりの推進に関する条例/2001年3月23日公布
(健康福祉教育の推進及び人材の育成)
第9条 市は、健やかで思いやりのある心を育むため、健康と福祉に関する教育を推進するとともに、必要な人材の育成に努めるものとする。
(ボランティア活動等の促進等)
第10条 市は、健康と福祉のまちづくりを推進するため、健康と福祉に関するボランティア活動その他の非営利活動(以下「ボランティア活動等」という。)への市民及び事業者の参加を促進するとともに、ボランティア活動等を支援するために必要な施策を講ずるものとする。
2 市は、市民が健康で心豊かな生活を営むことができるよう、生涯を通じての学習及び文化活動の機会を確保するなど、必要な支援に努めるものとする。
(情報の提供)
第12条 市及び事業者は、市民が健康と福祉について必要とする情報の提供に努めるものとする。
(普及活動の促進)
第14条 市長は、健康と福祉のまちづくりについての理解を深めるため、その普及活動に努めるものとする。

(5)愛媛県新居浜市/新居浜市みんなでつくる福祉のまちづくり条例/2002年12月25日公布
(社会参加への推進)
第8条 市は、すべての市民が等しく社会参加ができるよう、福祉のまちづくりにおけるさまざまな活動を支援するために必要な条件整備に努めます。
2 市は、移動手段の確保が困難な障害者、高齢者等の移動を容易にするための施策を推進します。
(福祉教育の推進)
第9条 市は、学校教育、生涯学習等のあらゆる機会を通じて福祉教育の推進に努めます。
(広報啓発活動の充実)
第10条 市は、福祉のまちづくりについて、市民及び事業者が理解を深め自主的に活動することを促進するため、広報啓発活動の充実を図り、適切な情報の提供に努めます。
(ボランティア活動等の推進)
第17条 市は、市民が社会に貢献する活動にいつでも自由に参加できるよう、ボランティア団体及び非営利活動団体等の育成や活動に対し、必要な支援策を推進します。

(6)岐阜県多治見市/多治見市福祉基本条例/2003年12月22日公布
(地域福祉の啓発)
第8条 市は、市民と事業者が地域福祉に関する正しい知識を深め、地域福祉活動に積極的に参加しようとする意欲を高めるために必要な施策を実施します。
(権利の尊重と擁護)
第9条 市民、事業者と市は、高齢者、障害者等の自己決定に関する権利を尊重します。
2 市は、高齢者、障害者等の自己決定に関する権利を擁護するため、社会福祉事業者や関係機関と連携しながら適切な援助を行います。
(福祉学習、教育の推進)
第10条 市民は、生涯にわたって福祉に対する正しい知識を得るよう、自主的な学習に努めます。
2 市は、市民が福祉に対する正しい知識を得るとともに、高齢者、障害者等をはじめ市民相互に対する理解と思いやりを持つことができるよう、社会福祉事業者、教育機関等と協力し、福祉教育の推進に努めます。
(ボランティア活動等への支援)
第18条 市民と事業者は、自らの意思に基づいて、地域福祉に関するボランティア活動(以下「ボランティア活動」といいます。)に参加します。
2 事業者は、雇用している人が、積極的にボランティア活動に参加することができるよう支援に努めます。
3 市は、市民と事業者によるボランティア活動その他の市民活動を促進するために、必要な支援を行います。

(7)北海道士別市/士別市福祉のまちづくり条例/2005年9月1日公布
(福祉の心の醸成)
第9条 市は、すべての市民がお互いの人権を尊重し合い、障害者、高齢者等を思いやり助け合う福祉の心及び社会奉仕の精神等の醸成が図られるよう努めるものとする。
(啓発活動、情報提供等)
第10条 市は、市民及び事業者の福祉のまちづくりに関する理解を深め、自主的な活動を促進するため、必要な啓発活動、情報の提供、助言及び指導を行うものとし、啓発活動及び情報の提供に当たっては、障害者、高齢者等の特性に応じた取組みを行うよう努めるものとする。
2 市は、障害者、高齢者等が情報を円滑に利用し、意思表示できるようにするため、必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(相談支援体制の充実)
第11条 市は、福祉のまちづくりや保健福祉に関する市民の相談に適切に対応することができるよう、必要な相談支援体制の充実に努めるものとする。
(福祉教育の充実)
第12条 市は、障害者、高齢者等に対する理解が深められるよう、福祉教育の充実及び学習機会の提供その他福祉の心の醸成を図るために必要な施策を講ずるものとする。
(ボランティア活動の振興)
第15条 市は、市民及び事業者が障害者、高齢者等の福祉に関するボランティア活動を実践できるよう、必要な施策を講ずるものとする。
2 市は、障害者、高齢者等が自らの状況に応じたボランティア活動を実践できるよう、環境の醸成に必要な施策を講ずるものとする。
(地域福祉活動の推進)
第16条 市は、市民の理解と協力のもと、住民参加による地域福祉活動を推進するよう、必要な施策を講ずるものとする。

(8)島根県松江市/松江市ひとにやさしいまちづくり条例/2008年6月26日公布
(情報の提供)
第8条 市は、市民、地域を構成する主体等及び事業者がひとにやさしいまちづくりを推進するために必要な情報の提供に努めるものとする。
(学習機会の提供と福祉教育の充実)
第9条 市は、市民、地域を構成する主体等及び事業者がひとにやさしいまちづくりを推進するために必要な学習ができるよう、その機会の提供に努めるものとする。
2 市は、将来を担うこどもたちをはじめ、すべての人が高齢者、障害者等に対する理解を深め、思いやりの心を養い、お互いに助け合える地域社会をつくるため、学校教育、社会教育等の場において、体験学習やボランティア活動を通じて、福祉教育が充実されるよう努めるものとする。
(啓発活動)
第10条 市、市民、地域を構成する主体等及び事業者は、ひとにやさしいまちづくりの推進に関する広報その他の啓発活動に努めるものとする。
(ボランティア活動への参加等)
第11条 市民、地域を構成する主体等及び事業者は、ボランティア活動に取り組むように努めるものとする。
2 事業者は、その雇用する者がボランティア活動に参加しようとするときは、必要な便宜を図るように努めるものとする。
3 市は、ボランティア活動を促進するため、関係機関と連携し、情報の提供並びに人材の育成及び活用その他必要な支援を行うよう努めるものとする。
(地域づくり)
第12条 市民、地域を構成する主体等及び事業者は、地域の課題を共有し、連携してその解決に努めるものとする。
2 市は、地域の課題解決に向けた市民、地域を構成する主体等及び事業者の取り組みに対し、必要な支援を行うよう努めるものとする。

「福祉教育」の文言が条・項文中にある条例は、「福祉教育」の条文見出しのある上記の条例を除いて、4本を数える。以下にその条・項文のみを紹介する。

(1)兵庫県尼崎市/尼崎市民の福祉に関する条例/1983年3月31日公布
(福祉活動)
第13条 市民は、市民福祉を理解し、福祉活動を実践するための福祉教育を通じて、福祉意識の高揚に努めるとともに、近隣、地域、職域等の地域生活を通じて、福祉活動に努めなければならない。
2 市長及び教育委員会は、市民の福祉活動の促進を図るため、次の各号に掲げる施策を行うものとする。
(1) コミユニテイ活動及びボランテイア活動の育成に関すること。
(2) 福祉教育に関すること。
(3) 福祉活動に必要な情報の提供等に関すること。
(4) 前各号に掲げるもののほか、市民の福祉活動の促進を図るため必要と認められること。

(2)東京都狛江市/狛江市福祉基本条例/1994年3月31日公布
(計画の策定)
第5条 市は、第3条に規定する基本理念を実現するため、市民の生活の視点から市民福祉に関する基本的かつ総合的な福祉のまちづくりを推進するための計画(以下「福祉計画」という。)を策定し、次に掲げる事項を基本とする施策を推進しなければならない。
(7) 福祉のまちづくりに対する市民の関心を高め、活動への参加を促すため、学校及び地域における福祉教育を推進すること。

(3)岡山県岡山市/岡山市くらしやすい福祉のまちづくり条例/2001年12月21日公布
(魅力と特色のある教育の推進)
第20条 市は、関係機関、団体などと連携して、国際化、情報化などに対応した教育を推進するとともに、郷土に愛着と誇りがもてる教育や福祉教育など、魅力と特色のある教育の推進に取り組みます。

(4)富山県高岡市/高岡市福祉のまちづくり条例/2005年11月1日公布
(福祉のこころの醸成)
第19条 市は、すべての市民がお互いの人間性を十分に尊重し、高齢者、障害者等に対する正しい理解を深め、温かい思いやりと助け合いのこころを高めるため、福祉教育の実践に努めるとともに、学校、家庭、地域社会において、人間愛の精神、福祉のこころ、社会奉仕の精神等の醸成が図られるよう必要な施策を講ずるものとする。
2 市は、福祉に対する市民の理解を高めるとともに、ノーマライゼーションの理念の普及を図るため、広報、啓発活動の展開、市民交流の促進その他の必要な施策の実施に努めるものとする。

なお、ボランティア活動について、その「促進」「推進」「振興」「支援」「参加」等の文言を用いて独立条文で規定する条例は50本中19本(38%)である。また、「ボランティア活動」の文言が条・項文中にある条例は6本(12%)を数える。公共的施設等のバリアフリー化を主な目的とする条例においては、ボランティア活動に関する規定はほとんど設けられていない。なお、「福祉ボランティア活動の推進」について規定する加古川市の条例については、その細部にわたる規定内容等の評価はともかくとして、留意しておきたい。以下がそれである。

兵庫県加古川市/加古川市福祉コミュニティ条例/1982年6月22日公布
第10節 福祉ボランティア活動の推進
(福祉ボランティア活動の推進)
第44条 福祉ボランテイア活動は、高齢者及び障害者の人権を尊重し、市民の相互扶助精神に基づく市民の自主的なものでなければならない。
(福祉ボランテイア活動の助長)
第45条 市長は、市民及び事業者の福祉ボランテイア活動を援助するため、情報の提供、助言、指導等必要な措置を講ずるものとする。
(福祉ボランテイア活動への参加)
第46条 市民は、一人ひとりがその日常生活を通じ、自らの持てる技能及び時間等の提供により、単独又は団体活動に参加することによって、高齢者及び障害者の日常生活の移動、介助等の援助を行い、第40条に定める在宅福祉施策の推進に協力するよう努めなければならない。
(福祉ボランテイア活動への便宜供与等)
第47条 事業者は、その雇用している勤労者が福祉ボランテイア活動に参加しようとするときは、業務に支障のない範囲において必要な便宜の供与に努めるとともに、自らも福祉ボランテイア活動に参加するよう努めなければならない。

4 むすびにかえて

以上、基礎自治体と広域自治体の「福祉のまちづくり条例」に規定されている「福祉教育」の条文について整理・紹介した。最後に、それらを概観したうえでの問題点や課題をめぐって、若干の所見を述べたい。それをもって本稿の「むすびにかえて」おくことにする。
(1)「福祉教育」の独立条文のほとんどが、福祉教育を高齢者や障がい者に対する「理解」を深め、併せて「思いやりの心」を育むものとして規定している。その際、「理解」の視点や内容、方法については、一部を除いて必ずしも明確ではない。高齢者や障がい者を画一的・抽象的に(絶対的)「弱者」としてみるのか、個別具体的な「社会的弱者」としてみるのか。弱者に対する「強者」の側に立つ理解なのか、社会的弱者の側に立つ理解なのか。人権の実現・保障の視点や、社会的包摂の重要性を念頭においた理解なのか。先ずはこれらの点に留意すべきであろう。
「思いやりの心」は、あたかも福祉教育の接頭語のようである。また、その内容は不明瞭でもある。「思いやりの心」は、響きの良い言葉であるがゆえに、精神主義への偏向が促進されたり、人間の生き方という道徳面に力点が置かれたりする危険性なしとしない。「福祉のまちづくり」という名のもとで、社会や国家に尽くす従順で御しやすい人間づくりの福祉教育の推進が企図されないとも限らない。道徳の教科化や教育委員会の廃止などがもっともらしく、またかまびすしく語られる今日、こうした想いがするのは筆者だけであろうか。道徳の教科化は特定の価値(観)を小・中学生に強制的に注入し、教育委員会の廃止は教育行政の政治的中立性や継続性・安定性を脅かし侵害することにつながる。
(2)まちづくりには、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」、加えて「ネットワーク」が必要である。そして、こうした地域・社会資源を総合的に整備・調整・開発・保全・再生し、効率的・効果的に組み合わせて住民の生活問題や地域の課題の解決を図ることが肝要となる。福祉のまちづくに関してはさらに、地域住民と専門職による協働(共働)的な地域診断(アセスメント)や、アウトリーチ(出前)活動による積極的なニーズの把握や新たなニーズの掘り起こしが求められる。
以上のうちから、福祉のまちづくりに関する専門的な知識および技能を有する「ヒト」(「人材」)についてみると、その「育成」「確保」「活用」等を独立条文で規定するのは、都道府県条例で10本(21%)、市町村条例では5本(福岡市、金沢市、多治見市、七尾市、高岡市。10%)と少ない。まちづくりは「人づくり」といわれるように、地域リーダーや専門職の育成・確保が重要であることは多言を要さない。福祉のまちづくりやそのための改革実践が画餅に帰すことのないようにするためにも、人材育成・確保の福祉教育システムの整備が強く求められる。
福祉のまちづくりに関する必要な「情報」についてみると、その「収集」「提供」「利用」等を独立条文で規定するのは、都道府県条例で36本(77%)、市町村条例では50本中32本(64%)を数える。それ以外の条例でもそのほとんどに、「情報提供」に係る文言が条・項文中に設けられている。それは、山形県金山町(1982年4月施行)や神奈川県(1983年4月施行)での条例化を嚆矢とするが、国(「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(通称;情報公開法)、2001年4月施行)に先駆けて数多くの地方自治体で情報公開の手続きに関する条例が制定されたことに起因するといってよい。ただし、住民の要請に応える受動的な情報提供では住民主体の福祉のまちづくりは進まない。行政による積極的で能動的な情報提供と、住民による情報の収集・選別・編集とネットワーク化、そして共有化、そのうえでの有効活用が厳しく問われることになる。これはまた「福祉教育」の内容や方法のあり方に通じる。
(3)地方分権の推進が図られ、市民主権や市民自治が叫ばれるなかで、住民による、住民のための、地域特性を生かした福祉のまちづくりが求められている。また、住民の地域・生活ニーズが高度化し、価値観やライフスタイルが多様化するなかで、行政だけではそれらに対して効率的に、きめ細かく、臨機応変に対応することが困難になってきている。その一方で、住民による福祉のまちづくりへの参加意欲が高まり、NPОやボランティアなどの市民活動が活発に展開されてきている。多くの地方自治体によって、地方自治条例である福祉のまちづくり条例が制定される要因や背景のひとつはここにある。
ところが、前述の木下が指摘するように、福祉のまちづくり条例は「そのほとんどが行政主導で規定されてきている。こうした状況から、条例が当該自治体の市民の間に、そのねらいを含めてどの程度浸透しているかは疑わしいと言わざるを得ない」(前記論文、70ページ)。とすれば、およそ半数の福祉のまちづくり条例がボランティア活動の促進や支援策について規定していることに、多少の不安要素があり、ある種の危険が伴うことを指摘せざるを得ない。ボランティア活動の官製化が進み、市民「参加・参画」という名の「動員」や、行政の「下請け」化、「補完」化を促すことに結果するのではないか。危惧を覚えるところである。
ボランティア活動をはじめNPО活動や自治会活動を中心とした地域活動などの「市民活動」は、総じて福祉のまちづくりを推進するための活動であり、広範で総合的な分野にわたる。また、それは、一人ひとりの、全ての市民の権利であり責務である。さらに、市民活動は、市民の主体性と自律性、活動の革新性と創造性が尊重されなければならない。そこに求められるのは、市民相互および市民と自治体(行政)との真に対等・協力の関係である。そして、お互いが認識を広め、相互理解を深めるための学習と熟議である。福祉のまちづくり条例が規定する「福祉教育」や「ボランティア活動」には、こうしたことが含意されているであろうか。筆者がかねてからいう「市民福祉教育」のレーゾンデートル(存在理由)のひとつがここにある。
(4)福祉のまちづくり条例といっても、条文とその内容の密度や比重は異なるものの、①バリアフリーのまちづくりについて定めた条例、②まちづくりの理念や原則について定めた条例、③まちづくりのための市民参加・協働について定めた条例、④福祉コミュニティの形成・発展について定めた条例、⑤これらのいずれかを総合的に定めた条例等々、その名称も含めて多種多様である。いうまでもなく、福祉のまちづくりは一人ではできない。複数の住民がそれぞれが抱える生活問題や地域の課題を共有化、それぞれの立場や属性、考え方などについての異質性や同一性、さらには共同性を認め合いながら、課題解決に向けた学習すなわち福祉教育(市民福祉教育)に取り組むことが必要かつ重要となる。福祉のまちづくり条例は、それがどのような内容を主にするものであっても、福祉教育の条文規定は欠かせない。
前述したように、福祉のまちづくり条例に類するものに自治基本条例や市民活動支援条例、市民参加・協働条例などがある。それらにはいずれも、広報・啓発、情報提供、学習・教育などに関する条文が規定されている。また、市町村地域福祉計画や都道府県地域福祉支援計画、さらには社会福祉協議会が策定する地域福祉活動計画などにも福祉教育に関する計画内容が盛り込まれている。これらの規定や計画と、福祉のまちづくり条例の「福祉教育」条文との相乗的な効果を生み出す工夫や新たな取り組みが求められる。
また、福祉のまちづくりの都道府県条例と市町村条例には、ほぼ同じ内容の福祉教育の条文規定がある。両者は、建前上は競合することはなく、併存する。都道府県条例では広域的観点から福祉教育に関する必要十分な条文を規定し、市町村条例では地域の実態や特性を十分に考慮した条文内容であることが求められる。ただし、福祉のまちづくりや福祉教育の理念や構造および内容、性格や特性などを考えたとき、市町村条例の方が都道府県条例よりは同等以上に効果的であり、市町村条例における「福祉教育」条文の質・量ともに充実した規定が求められよう。

付記(1)
市町村の「福祉のまちづくり条例」として検索し、検討対象としたのは、次の市町村の条例である。公布順に市町村名のみ記す。一番古いのは阿南市/阿南市社会福祉基本条例/1972年3月29日公布、一番新しいのは久喜市/久喜市総合福祉条例/2010年3月23日公布、である。
阿南市、神戸市、加古川市、尼崎市、町田市、狛江市、世田谷区、箕面市、仙台市、府中市、川崎市、小平市、調布市、横浜市、三鷹市、福岡市、池田市、札幌市、上越市、宇都宮市、宮崎市、金沢市、若桜町(鳥取県)、函館市、岡山市、板橋区、新居浜市、厚木市、筑後市、高浜市、豊中市、多治見市、美唄市、石狩市、茅野市、七尾市、出雲市、高山市、士別市、鶴岡市(旧藤島町)、高岡市、都城市、世田谷区、八戸市、西東京市、那覇市、松江市、志摩市、練馬区、久喜市。

付記(2)
茅野市では、2013年1月1日、「茅野市たくましく・やさしい・夢のある子どもを育む条例」(2012年12月27日公布)が施行された。次の条文規定に基づいて福祉教育の推進が図られているのであろう。なお、この条例は、例規集の「第1編 総規」中にある。紹介するとともに、留意しておきたい。
(子どもの社会参加の促進)
第14条 市は、子どもが社会の一員としての責任を果たせるように社会参加をする機会を拡充し、子どもの意見が適切に社会に反映される環境の整備に努めるものとする。
2 市は、子どもの個性を伸ばし、人間性を豊かにする文化的・社会的活動に子どもが参加し、体験することができる場を確保するように努めるものとする。
(福祉意識の醸成)
第15条 市は、子どもが全ての人を思いやる心を育むことができるように福祉意識の醸成に努めるものとする。

福祉のまちづくり条例にみる「福祉教育」条文(Ⅰ)

1 はじめに

1990年代後半以降、地方自治条例である「福祉のまちづくり条例」制定の取り組みが、広域自治体としての都道府県を中心に進められた。それは、「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」(通称;ハートビル法)が1994年9月から施行されたことをひとつの契機とする。その後、1998年12月から特定非営利活動促進法(通称;NPO法)が施行され、市民の社会参加の促進とまちづくりの推進が図られた。また、「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(通称;地方分権一括法)が2000年4月から施行され、それに基づいて地方分権改革が進んだ。2000年5月には社会福祉事業法が社会福祉法へと改正・改称され、同年6月から施行された。そこでは、国や地方自治体における福祉政策の主要な柱に「地域福祉」が据えられることになり、地域福祉を新機軸とするこんにちの社会福祉の方向が示された。次いで、2000年11月から「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(通称;交通バリアフリー法)、2003年4月から改正ハートビル法、2006年12月からハートビル法と交通バリアフリー法を一体化した「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(通称;バリアフリー新法)がそれぞれ施行された。そして、2003年4月からは、社会福祉法が定める市町村地域福祉計画と都道府県地域福祉支援計画に係る規定が施行された。
こうした地方分権改革や社会福祉制度改革などを受けて、基礎自治体としての市町村において福祉のまちづくり条例を制定する動きが活発化することになる。その内容については、木下聖(埼玉県立大学)も指摘するように、当初は障がい者や高齢者に対する公共的施設等のバリアフリー化を主な目的とする条例であった。その後は、各自治体の福祉政策の基本方針や、すべての人を視野に入れた福祉のまちづくりを総合的に推進するための仕組みについて規定する条例へと変化していく(木下聖「地方分権下での基礎自治体における『福祉のまちづくり』条例の活用と福祉政策の展開―バリアフリー推進から福祉の総合的な展開へ―」『埼玉県立大学紀要』第11巻、2010年3月、63~70ページ)。
福祉のまちづくり条例については、いわゆる「自治基本条例」や「市民活動支援条例」「市民参加・協働条例」などと同様に、確立された考え方があるわけではない。また、それらの条例は、名称も内容も多様であり、必ずしも明確な共通性をもっているわけでもない。内容も、理念条例から手続条例まで多様である。
そこで、本稿では、「福祉のまちづくり条例」という名称の条例と福祉のまちづくりの推進を目的に掲げる条例を、とりあえず「福祉のまちづくり条例」として扱うことにする。条例の取捨選択については、明確な基準を設けてはいない。そうした限られた範囲内で収集した各条例のうちから、福祉のまちづくりの主体形成にとって重要な「福祉教育」に関する条文に焦点を当て、主として条文の紹介とそれをめぐる若干の考察を行うことにする。

2 福祉のまちづくりに関する都道府県条例

こんにち、福祉のまちづくり条例は全ての都道府県で制定されている。その制定に先鞭をつけたのは、兵庫県(福祉のまちづくり条例、1992年10月9日公布)である。それに次いで、大阪府(大阪府福祉のまちづくり条例、1992年10月28日)、山梨県(山梨県障害者幸住条例、1993年10月14日公布)、愛知県(人にやさしい街づくりの推進に関する条例、1994年6月14日)、滋賀県(だれもが住みたくなる福祉滋賀のまちづくり条例、1994年10月17日公布)がそれぞれ制定している。その後、2000年までに累計で43の都道府県において制定され、一番最後は徳島県(徳島県ユニバーサルデザインによるまちづくりの推進に関する条例/2007年3月20日公布)である。
「福祉教育」について独立条文で規定する条例は次の7本(15%)である。「福祉教育」とそれに関する条文(前後の条文)を紹介する。

(1)兵庫県/福祉のまちづくり条例/1992年10月9日公布
(福祉教育の推進)
第8条 県は、高齢者等に対する理解と思いやりのある児童を育成するための福祉教育を推進するものとする。
(県民の意識の高揚等)
第9条 県は、県民及び事業者に対し、福祉のまちづくりに関する意識の高揚及び知識の普及に努めるものとする。
2 県は、市町、県民及び事業者に対し、福祉のまちづくりに関する必要な情報の提供、指導又は助言を行うものとする。
(住民の意識の高揚等)
第10条 市町は、住民及び事業者に対し、当該地域の福祉のまちづくりに関する意識の高揚に努めるものとする。
2 市町は、住民及び事業者に対し、当該地域の福祉のまちづくりに関する必要な指導又は助言を行うものとする。

(2)愛媛県/人にやさしいまちづくり条例/1996年3月19日公布
(調査、研究及び情報の収集)
第9条 県は、人にやさしいまちづくりに関し、調査、研究及び情報の収集に努めるものとする。
(啓発及び情報の提供等)
第10条 県は、人にやさしいまちづくりに関し、事業者及び県民の理解を深めるよう啓発に努めるとともに、市町、事業者及び県民に対し、必要な情報の提供、指導及び助言を行うものとする。
(学習機会の充実及び福祉教育の推進)
第11条 県は、県民が生涯を通じて人にやさしいまちづくりに関し学習を進めることができるよう、その機会の充実に努めるものとする。
2 県は、高齢者、障害者等に対する理解と思いやりのある児童及び生徒を育成するため、福祉教育を推進するものとする。

(3)宮城県/だれもが住みよい福祉のまちづくり条例/1996年7月10日公布
(情報の提供)
第8条 県は、だれもが住みよい福祉のまちづくりに関し、県民及び事業者の理解を深め、自発的な活動を促進するため、適切な情報の提供を行うものとする。
(福祉教育の充実等)
第9条 県は、高齢者、障害者等に対する県民の理解を深め、思いやりのある心をはぐくむため、高齢者、障害者等の福祉に関する教育の充実及び学習の機会の提供に努めるものとする。
(ボランティア活動の促進)
第10条 県は、県民及び事業者が高齢者、障害者等の福祉に関するボランティア活動を実践できるよう必要な施策の推進に努めるものとする。

(4)島根県/島根県ひとにやさしいまちづくり条例/1998年6月30日公布
(学習機会の充実等)
第8条 県は、ひとにやさしいまちづくりの推進について、県民の主体的かつ積極的な取組の意欲が増進されるよう、学習機会の充実、啓発活動の推進その他必要な施策を講ずるものとする。
(福祉教育の充実)
第9条 県は、次代を担う子どもたちが高齢者、障害者等に対する理解を深め、思いやりの心を育むよう、体験学習の充実、ボランティア活動の促進その他必要な施策を講ずるものとする。

(5)鹿児島県/鹿児島県福祉のまちづくり条例/1999年3月26日公布
(啓発及び情報の提供等)
第9条 県は、福祉のまちづくりに関し、事業者及び県民の理解と関心を深めるため広報その他の啓発活動の推進に努めるとともに、必要な情報の収集及び提供に努めるものとする。
(調査及び研究)
第10条 県は、福祉のまちづくりを推進するため、必要な調査及び研究に努めるものとする。
(ボランティア活動の促進)
第11条 県は、県民の福祉のまちづくりに関するボランティア活動を促進するため、必要な施策の推進に努めるものとする。
(福祉教育の充実及び学習機会の提供)
第12条 県は、児童及び生徒が高齢者、障害者等についての理解を深め、思いやりのある心をはぐくむことができるよう、福祉教育の充実に努めるとともに、県民が福祉のまちづくりに関する学習に取り組むことができるよう、その機会の提供に努めるものとする。

(6)栃木県/栃木県ひとにやさしいまちづくり条例/1999年10月14日公布
(情報の提供)
第8条 県は、ひとにやさしいまちづくりに関し、県民及び事業者の理解を深め、自発的な活動を促進するため、適切な情報の提供に努めるものとする。
(福祉教育の充実等)
第9条 県は、高齢者、障害者等に対する県民の理解を深め、思いやりのある心をはぐくむため、高齢者、障害者等の福祉に関する教育の充実及び学習の機会の提供に努めるものとする。

(7)鳥取県/鳥取県福祉のまちづくり条例/2008年3月28日公布
(広報活動等の推進)
第7条 県は、福祉のまちづくりについて、事業者及び県民の理解を深めるとともに、その協力が得られるよう広報活動等を推進するものとする。
(福祉教育の推進)
第8条 県は、児童及び生徒が福祉のまちづくりについての理解を深め、高齢者、障害者等に対する思いやりの心をはぐくむよう、体験学習、ボランティア活動その他必要な教育活動を推進するものとする。
(情報の収集及び提供)
第9条 県は、高齢者、障害者等をはじめとするすべての県民が安全かつ快適に利用できる施設の整備の促進に資する技術その他の福祉のまちづくりに関する情報の収集及び提供に努めるものとする。
(調査及び研究)
第10条 県は、福祉のまちづくりを推進するため、必要な調査及び研究に努めるものとする。

福祉のまちづくに関する教育や学習の振興・充実・推進等について、条文見出しに「教育」や「学習」の文言を用いる条例は36本(77%)を数える。それ以外の、神奈川県(1995年3月14日公布)、広島県(1995年3月15日公布)、新潟県(1996年3月29日公布)、それに石川県(1997年3月22日公布)の条例ではそのいずれもが、「みんなのバリアフリー街づくり」(神奈川県)、「バリアフリー社会の推進」(石川県)、「福祉のまちづくり」(広島県、新潟県)について理解を深めたり、意識の高揚を図ることについて条文あるいは項文で規定している。
条文見出しに「教育」や「学習」の文言を用いる条文の一部を紹介する。

(1)大阪府/大阪府福祉のまちづくり条例/1992年10月18日公布
(啓発及び学習の促進等)
第7条 府は、事業者及び府民が福祉のまちづくりについて理解を深めるよう啓発するとともに、福祉に関する学習を促進するため必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
2 府は、高齢者、障害者等の自由な社会参加を促進するため、ボランティア活動の支援及び介助に係る人材の養成等に努めるものとする。
3 前二項に定めるもののほか、府は、事業者及び府民に対し、福祉のまちづくりに関する情報の提供、技術的指導その他必要な措置を講ずるものとする。

(2)大分県/大分県福祉のまちづくり条例/1995年3月15日公布
(教育の推進)
第9条 県及び市町村は、高齢者、障害者等に対する理解とやさしさのある児童及び生徒を育成するための教育を推進するものとする。
(県民の意識の高揚等)
第10条 県は、県民及び事業者に対し、福祉のまちづくりに関する意識の高揚及び知識の普及に努めるとともに、市町村、県民及び事業者に対し、必要な情報の提供、指導及び助言をするものとする。

(3)東京都/東京都福祉のまちづくり条例/1995年3月16日公布
(都民の責務)
第5条 都民は、福祉のまちづくりについて理解を深め、自ら福祉のまちづくりに努めるとともに、相互に協力して福祉のまちづくりを推進する責務を有する。
2 都民は、都がこの条例に基づき実施する福祉のまちづくりに関する施策に協力するよう努めなければならない。
3 都民は、高齢者や障害者を含めたすべての人の施設、物品又はサービスの円滑な利用を妨げないよう努めなければならない。
(教育及び学習の振興等)
第8条 都は、福祉のまちづくりに関する教育及び学習の振興並びに広報活動の充実により、福祉のまちづくりに関して、事業者及び都民が理解を深めるとともに、これらの者の自発的な活動が促進されるよう必要な措置を講ずるものとする。

(4)茨城県/茨城県ひとにやさしいまちづくり条例/1996年3月28日公布
(広報及び情報提供)
第9条 県は、事業者及び県民に対し、ひとにやさしいまちづくりに関し、必要な広報及び情報の提供を行うものとする。
(教育の充実)
第10条 県は、児童及び生徒に対し、ひとにやさしいまちづくりについての理解を深め、やさしさや思いやりの心を醸成するための教育の充実に努めるものとする。
(学習機会の充実)
第11条 県は、事業者及び県民に対し、ひとにやさしいまちづくりに関する学習機会の提供に努めるものとする。
2 県は、事業者及び県民がひとにやさしいまちづくりに関して行う学習について、必要な技術的指導その他の支援を行うものとする。

なお、ボランティア活動について、例えば以下のように「促進」「支援」等の文言を用いて独立条文で規定する条例は18本(38%)である。また、「ボランティア活動」の文言が条・項文中にある条例は、大阪府(1992年10月28日公布)、滋賀県(1994年10月17日公布)、石川県(1997年3月22日公布)、島根県(1998年6月30日公布)、秋田県(2002年3月29日公布)、それに鳥取県(2008年3月28日公布)の6本(13%)である。要は、半数(51%)の条例でボランティア活動に関する規定がある。

(1)山梨県/山梨県障害者幸住条例/1993年10月14日公布
(ボランティア活動)
第18条 県は、すべての県民があらゆる機会、あらゆる場所を利用して、障害者の福祉に関するボランティア活動を実践することができるような環境を醸成するよう努めなければならない。

(2)熊本県/熊本県高齢者、障害者等の自立と社会的活動への参加の促進に関する条例
(通称:やさしいまちづくり条例)/1995年3月16日公布

(ボランティア活動の促進)
第11条 県は、県民及び事業者が高齢者、障害者等の福祉に関するボランティア活動を実践できるよう必要な施策を講じなければならない。
2 県は、高齢者、障害者等がみずからその能力に応じ、ボランティア活動を実践できるよう必要な施策を講じなければならない。

(3)富山県/富山県民福祉条例/1996年9月27日公布
(ボランティア活動の支援)
第15条 県は、県民が行う福祉に関するボランティア活動を支援するため、活動基盤の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。

(4)三重県/三重県ユニバーサルデザインのまちづくり推進条例/1999年3月19日公布
(ボランティア活動等の促進)
第12条 県は、ユニバーサルデザインのまちづくりに関し、ボランティア活動を始めとする自由な社会貢献活動を促進するため、情報の提供、活動基盤の整備その他必要な施策を推進するものとする。

自治基本条例にみるまちづくり学習とその権利(Ⅱ)

(4)「生涯学習」を条文の見出しに表記している自治基本条例
①北海道厚沢部町/厚沢部町素敵な過疎のまちづくり基本条例/2009年4月1日
(学び、共に高める生涯学習)
第28条 町は、町民一人ひとりが生涯の各期において、自ら学び、楽しみ、仲間と共に高めることができるよう、ふさわしい学習機会の提供、施設の整備、指導者の育成、推進体制づくりを進めます。
②兵庫県朝来市/朝来市自治基本条例/2009年4月1日
(生涯学習の推進)
第17条 市民は、自らが生涯を通じてさまざまな学習を重ね、豊かな人間性を育むよう努めるものとする。
2 市長等は、市民のまちづくりに関する学習の機会を確保し、まちづくり活動への参加が促進されるよう努めなければならない。
③兵庫県養父市/養父市まちづくり基本条例/2009年7月1日
(生涯学習の推進によるまちづくり)
第18条 市民は、生涯学習に努めるとともに、自らの知識や能力をまちづくりに還元するよう努めます。
2 市は、市民の社会参加を促進するため生涯学習の機会を提供し、自主自立的なまちづくりの活動を支援しなければなりません。
④兵庫県丹波市/丹波市自治基本条例/2012年4月1日
(生涯学習)
第21条 市民は、豊かな人間性を育み、生活の充実や技術の向上などを図るとともに、市政やまちづくりに参画するための知識や考え方を学ぶため、生涯を通じてさまざまな学習を行う権利を持っています。
2 市長等は、市民の学習の機会を確保するとともに自主的な学習活動を支援するよう努めなければなりません。
3 市長等は、市民の学習権を保障するため、市民の参画のもとに生涯学習に関する計画を策定しなければなりません。

以上のほか、⑤静岡県川根本町/川根本町まちづくり基本条例/(生涯学習の推進)第12条 町は、町民自らが生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことができる地域社会の実現を図るよう努めます。/2012年7月1日、⑥兵庫県西脇市/西脇市自治基本条例/(生涯学習)第34条 市は、市民の多様な学習活動を支援し、市民主体のまちづくりを推進するため、生涯にわたって学習する機会を提供するよう努めるものとします。/2013年4月1日、⑦兵庫県佐用町/佐用町まちづくり基本条例/(生涯学習の推進)第17条 町民等は、自ら生涯を通じてさまざまな学習を重ね、豊かな人間性を育むよう努めるものとする。2 町長等は、町民等のまちづくりに繋がる学習の機会を提供し、まちづくり活動への参加を促すよう努めなければならない。/2013年4月1日、がある。
生涯学習について独立した条文で明確に規定するのは、以上の7例にとどまっている。いまひとつ、生涯学習という見出しではないが、独立条文で生涯学習について規定する条例に、⑧滋賀県野洲市/野洲市まちづくり基本条例/(学び合い)第7条 市民は、互いにふれあいやきずなを通し、生涯にわたって学び合い、知恵や力をはぐくみます。/2007年10月1日、がある。これを加えると、その数は8例となる。
以上の条文は、大雑把にいえば、①や④のように生涯学習を推進するための具体的な取り組みや計画策定などに多少なりとも踏み込んだ規定をするものと、⑧に代表されるように実質的には理念的・原則的な規定にとどまっているものがある。
周知のように、ユネスコの「学習権宣言」(1985年3月)は、「学習活動は(中略)、人々を、なりゆきまかせの客体から、自らの歴史をつくる主体にかえていくものである」と謳っている。生涯にわたる多様な学習活動は、住民自身が「なりゆきまかせ」の日常的・他律的な意識や行動から抜け出し、自己の側に地域を引き寄せ、地域と向き合い、対話(観察、考察、理解)することを促す。そして、まちづくりに主体的・自律的に取り組む過程を通して、自己変革、自己変容がもたらされる。それは、「自らの歴史をつくる主体」形成を促す過程である。その意味において、まちづくりにとって生涯学習の推進は極めて重要となる。留意すべきである。
今日では、いわゆる自己完結型の生涯学習から社会還元型のそれに移行するなかで、まちづくりに焦点化した地域還元型の生涯学習の展開が求められている。その際、行政サイドからまちづくりや市町村政への住民参加や住民との協働が強調されるあまり、学習主体としての地域住民という視点や住民の学習権保障が後景に押しやられる。また、前述の社会的弱者がより社会的周辺に追いやられたりする。こうしたバイアス(偏り)やリスク(危険性)がないとはいえない。自治基本条例の制定に際して強く留意すべき点である。

(5)学習機会の提供や学習支援について規定している自治基本条例
①兵庫県伊丹市/伊丹市まちづくり基本条例/2003年10月1日
(学習の機会の提供その他の支援)
第11条 市は、市民がまちづくりに関し理解を深めるために必要な学習の機会を設けるよう努めるものとする。
2 前項に掲げるもののほか、市は、市民のまちづくり活動を促進するため必要な助成その他の支援を行うよう努めるものとする。
②山形県白鷹町/白鷹町協働のまちづくり条例/2004年4月1日
(まちづくりの学習等)
第10条 町は、町民がまちづくりに関する情報を把握し学習できる機会を設けるよう努めなければならない。
2 町は、町民のまちづくりへの意識高揚を図るため、公益に関する教育の推進に努めなければならない。
③埼玉県草加市/草加市みんなでまちづくり自治基本条例/2004年10月1日
(人材の育成)
第18条 市は、パートナーシップによるまちづくりを進めるため、学習の機会を提供するとともに、専門家の派遣などの技術的な支援を行い人材を育成します。
2 市民は、パートナーシップによるまちづくりを進めるため、自らまちづくりに関する学習に努め、人材の育成に努めます。
3 市は、パートナーシップによるまちづくりに必要な能力を備えた市職員の育成に努めます。
④北海道白老町/白老町自治基本条例/2007年1月1日
(町民活動)
第14条 町民は、自ら行う町民活動が安定的かつ活発に行うことができるよう町民活動団体を組織することができます。
3 町は、学習機会の提供等により、町民活動団体の支援に努めます。

以上のほか、⑤愛媛県四国中央市/四国中央市自治基本条例/(学ぶ機会)第9条 市は、市民が生涯にわたって学ぶ機会を提供するよう努めまする。/2007年7月1日、⑥埼玉県越谷市/越谷市自治基本条例/(協働による豊かな地域環境の創造)第9条 市民および市は、市民が主体的にかかわりあい、助けあい、学びあいながらいきいきと生活し、未来にわたって豊かな人間関係と、安全で安心な生活環境を受け継いでいけるまちづくりをすすめます。/2009年9月1日、⑦茨城県ひたちなか市/ひたちなか市自立と協働のまちづくり基本条例/(まちづくりの最高規範)第3条 この条例は、ひたちなか市のまちづくりの最高規範とします。5 市は、この条例が市内のあらゆる地域、あらゆる世代の市民に理解され、親しまれるための学習機会の確保に努めます。/2010年4月1日、⑧大阪府大坂狭山市/大坂狭山市自治基本条例/(学習機会の提供)第20条 市は、市民がまちづくりに関し理解を深めるため、必要な学習の機会の提供に努めるものとする。/2010年4月1日、がある。
住民のまちづくりに関する学習のニーズは、それが日常的で個別具体的な地域生活に基づくものであることから、広範かつ多岐にわたる。そこで、多様で総合的な学習機会と学習支援が、「いつでも、どこでも、だれにでも」提供されることが必要となる。それに応えるためには、学校や公民館などの教育機関・施設の有機的連携や、まちづくりをテーマにした地域懇談会や住民座談会、ワークショップなどの開催が求められる。そうした地域全体の学習環境の整備が図られることによって、子どもや高齢者、障がい者などを含めたすべての地域住民の、まちづくりや市町村政への理解や関心、参加を促すことになる。こうした点について規定する以下の自治基本条例に注目しておきたい。

①岩手県洋野町/洋野町まちづくり基本条例/2009年4月1日
(子どもの権利)
第12条 子ども(20歳未満の町民をいいます。)は、その年齢に応じて、まちづくりに参画する権利とまちづくりに関して教育を受ける権利を有します。
②福岡県嘉麻市/嘉麻市自治基本条例/2010年12月28日
(学校と地域との連携協力)
第31条 教育委員会は、地域と連携協力し、保護者、地域住民等の学校運営への参加を積極的に進めることにより、地域の力を活かし、創意工夫と特色ある学校づくりを行うものとする。
2 教育委員会は、地域及び市長と連携協力し、学校を核としたコミュニティづくりを進めるものとする。
③愛知県新城市/新城市自治基本条例/2013年4月1日
(市民まちづくり集会)
第15条 市長又は議会は、まちづくりの担い手である市民、議会及び行政が、ともに力を合わせてより良い地域を創造していくことを目指して、意見を交換し情報及び意識の共有を図るため、3者が一堂に会する市民まちづくり集会を開催します。
3 市長は、特別な事情がない限り年1回以上の市民まちづくり集会を開催します。
④北海道士別市/士別市まちづくり条例/2012年4月1日
(高齢者や障がい者等のまちづくりへの参加)
第27条 市民・議会・行政は、高齢者や障がいのある人などもまちづくりに参加できるよう、その環境づくりを進めます。
⑤山梨県富士河口湖町/富士河口湖町自治基本条例/2013年4月1日
(高齢者の役割と権利)
第8条 高齢者は、これまでに培った知恵と経験を活かし、その活動を通じて地域社会の発展に貢献しながら、いきいきと心豊かな生活を送り、まちづくりに参加及び参画することができます。
2 町民及び町は、高齢者がまちづくりに参加及び参画するための環境づくりに努めなければなりません。

①のまちづくりに関して教育を受ける子どもの権利と、②の学校を核としたコミュニティづくりの推進についての規定は、福祉によるまちづくりをめざす市民福祉教育(学校福祉教育)にとって注目に値する。③については、「市民まちづくり集会」が、地域が抱える課題の解決策を検討する課題解決型学習の場となることが特筆されよう。④については、その表現に多少違和感を覚えなくはないが、「障がい者」のまちづくりへの参加を条文見出しに表記しているのはこの自治基本条例のみである。①のように、「子ども」のまちづくりへの参加・参画に関しては、北海道ニセコ町まちづくり条例で「(満20歳未満の町民のまちづくりに参加する権利)第11条 満20歳未満のの青少年及び子どもは、それぞれの年齢にふさわしいまちづくりに参加する権利を有する。」と規定されて以来、その条・項文規定をしている自治基本条例は30例以上を数える。子どもは次代を担う存在として特に重視すべきである、という考え方に基づくのであろう。それに対して、⑤のような「高齢者」のまちづくりへの参加・参画に関する規定は、数例に過ぎない。なお、子どもや高齢者、障がい者を条文上で強調することは逆差別になりかねない、という議論もあるであろうことを付記しておく。

ここで、自治基本条例についての住民の主体的な学習と制定過程への住民参加について若干述べておきたい。
大多数の自治体では、自治基本条例を制定するに際して審議会や委員会を設置し、制定過程に住民参加による検討作業を組み入れている。それは、おおよそ行政主導型 住民主導型 行政と住民の協働型の3つに類型化されそうであるが、数名の公募委員と数回の会議で制定されたものから、住民による自主的な学習活動から始まり、制定委員会の委員の大多数が公募委員によって占められ、しかも制定会議や住民懇談会などの会議を100回以上も開催して熟議を重ねて制定されたものもあり、その格差は大きい。行政主導型では、時流に乗って制定した感があり、制定手順や条例の内容構成が標準的なものになりがちである。住民主導型では、制定過程を通して学習による住民の意識変革や合意形成が促され、それぞれの地域(自治体)に相応しいやり方で、地域の現状や課題を反映させた制定内容になっているものもある。
なお、行政主導型か住民主導型に関して付言すれば、条例の名称が「自治基本条例」か「まちづくり基本条例」か、「市」と「市民」の語順が「市及び市民」か「市民及び市」か、さらには市民の「権利と責務」についてその内容の差異や濃淡は勿論のこと、「権利」規定が多いか「責務」規定が多いか、等々をめぐって自治基本条例と条文について精査する必要があろう。ちなみに、「まちづくり基本条例」という名称の自治基本条例と「まち(むら)づくり」という文言をその名称に含む条例は、全部で123例(288例中の42.7%)を数える。北海道三笠市のそれは「三笠市未来づくり基本条例」(2009年4月1日)である。
住民主導型の一例として、埼玉県越谷市における自治基本条例の制定の取り組みから、特筆に値する点を項目的に簡単に紹介しておくことにする。(1)審議会委員が募集される前に、市民による自主的な自治基本条例に関する勉強会が全8回開催され、参加者は100名を数えた。(2)審議会は公募市民26名、学識経験者4名によって構成された。(3)審議会の開催が計89回、審議会による骨子案に関する懇談会や素案についての説明会の開催が計40回、参加者は延べ924名を数えた。(4)骨子案と素案に関するパブリックコメントがそれぞれ実施され、合わせて32名、88件の意見が寄せられた。(5)2009年4月に越谷市自治基本条例が施行されたのを受けて、翌2010年4月に自治基本条例推進会議が設置され、条例の適切な運用、普及、見直しに関する調査審議が行われている。2011年度では条例推進会議が9回開催され、答申が出された。以上のような取り組みは、住民の、住民による、住民のための自治基本条例制定のそれとして評価されよう。なお、越谷市自治基本条例の条文内容と制定過程におけるその変遷については、審議会会長として重要な役割を果たした櫻井慶一の論文が参考になる。櫻井慶一「逐条解説『越谷市自治基本条例』―制定過程の条文の変遷を中心に―」『生活科学研究』文教大学生活科学研究所、2011年3月、171~184ページ、がそれである。審議会における議論の様子が垣間見えて興味深い。
最後に、全国の自治体における自治基本条例の制定経過と施行状況に関する調査結果を纏めた次の論文を紹介しておくことにする。阿部昌樹「自治基本条例の制定経過および施行状況に関する自治体アンケート調査」『大阪市立大学法学雑誌』第59巻第4号、大阪市立大学法学会、2013年3月、588~642ページ、がそれである。阿部は、2011年10月現在で自治基本条例を制定している225の市区町村を対象にアンケート調査を実施し、143の自治体から回答(回収率63.6%)を得ている。その論文のなかで次のように述べている。

多くの自治体においては、自治基本条例を制定した後に、自治基本条例の制定を踏まえて、あるいは、自治基本条例に規定された事項を実施するために、新たに制定された条例がほとんどないことや(ほとんどなく:阪野)、自治基本条例の規定に基づいて、あるいは、自治基本条例の制定趣旨を踏まえて、新たに実施されるようになった施策も、それほど多くはない。(621ページ)
批判的な立場をとるならば、自治基本条例は、自治体の行財政運営や住民と自治体の行政組織との関係を大胆に変革することを企図して制定されているにも関わらず、そうした効果を発揮し得ていないという解釈も可能である。(620ページ)

阿部の調査によると、自治基本条例の制定および施行が自治体にどのようなインパクトをもたらしたかという点については、積極的評価を下すことはできず、むしろ消極的にしか評価し得ないといえそうである。また阿部は、「自治体としての施策の策定や実施に関与する人々の意識や行動の変化は、あるにはあるが、それほど顕著なものではない」(622ページ)という。住民のまちづくりに関する学習権を明確に位置づけ、それを保障するための方策と、まちづくりを推進する行政職員の育成を図るための方策を具体的に提起することが強く求められるところである。その方策のひとつに市民福祉教育がある。

付 記
大阪府箕面市が1997年4月1日から施行した箕面市市民参加条例(全9条)や1999年10月1日から施行した箕面市非営利公益市民活動促進条例(全14条)をひとつの契機に、2000年以降、自治基本条例や市民参加条例、市民活動支援条例等の市民参加・協働に関するさまざまな条例(「市民参加・協働条例」)が全国各地で制定されている。その現状と課題について、大久保規子は、それらの条例を次の8つに分類して分析・検討を加えている。(1)自治基本条例、まちづくり基本条例等、自治の基本原則を定めるもの(自治基本条例型)、(2)参加・協働の理念・原則を定めるもの(参加理念・原則型)、(3)ワークショップから、パブリック・コメント、審議会まで、多様な参加・協働手法の総合的な体系化を図るもの(参加総合型)、(4)パブリック・コメント等、個々の参加・協働手法の具体的しくみを定めるもの(参加個別型)、(5)市民・NPО活動の支援・促進に関するもの(支援型)、(6)参加・協働に関する規定とNPО活動の支援・促進に関する規定を1つにまとめたもの(参加・支援総合型)、(7)主にコミュニティ組織について定めるもの(コミュニティ型)、(8)環境保全、まちづくり、福祉等、個別分野における参加・協働のしくみを定めるもの、がそれである(大久保規子「市民参加・協働条例の現状と課題」『公共政策研究』第4号、日本公共政策学会、2005年1月、24~37ページ)。
また、大久保らは、2011年11月から12月にかけて、全国の1660自治体(岩手県・宮城県・福島県内の自治体を除く)を対象に、市民参加・協働条例に関する包括的な全国調査を実施し、約6割の自治体から回答を得ている。その結果の一部を以下に記し、参考に共することにする。まちづくりと市民福祉教育に関して留意しておきたいところでもある。
(1)市民参加・協働条例を制定済みの自治体は、自治基本条例を入れて全体の約3割。人口規模の大きい自治体ほど制定率が高い。制定を検討中の自治体が約2割を数える。条例の有無を問わず、参加・協働の必要性は共有されている。
(2)制定済みの自治体では、市民活動の活発化等の効果がみられるが、その反面、制度の認知度が低く、参加者の固定化や参加者層の偏り、市民と行政のニーズのミスマッチ等の課題も出ている。コーディネーターを含む人材育成や地域の実情に応じた細やかな仕組みの整備が必要である。
(3)制度の運用についてきめ細やかな工夫を行う自治体もある一方で、ほとんど制度の運用実績のない自治体もあり、制度の実効性について自治体間格差がみられる。

自治基本条例にみるまちづくり学習とその権利(Ⅰ)

「まちづくりは人づくり、人づくりは教育づくり」「福祉によるまちづくりの最大の問題は、住民の『学習権』保障とその一環としての市民福祉教育の推進である」。これは、特に目新しいものでもなく、新味に欠けることを承知しているうえでの、筆者(阪野)の管見のひとつである。なお、まちづくりの英訳については、学界や学者によってさまざまであり、確定されたものはなさそうであるが、とりあえず community planning を考えている。
まちづくりや自治に関する基本原則や、行政の基本ルールなどを明文化した条例に「自治基本条例」(総称)がある。それについては、確立された考え方やコンセンサス(合意)を得た定義が存在するわけではない。一般的には、地域の住民が抱える多様な生活課題や地域課題を解決し、安全・安心なまちづくりをめざして、住民(法人や団体を含む「市民」)と自治体職員、市区町村長、市区町村議会議員の4者の役割や責務、相互関係などを明らかにすることを目的として制定される、市区町村の最高規範ないし最高位条例であるといえる。例えば、総務省(「地方行財政検討会議」)は、2010年6月、「地方自治法抜本改正に向けての基本的な考え方」について纏めるが、そのなかで「通常の条例の上位に位置する基本条例(「自治憲章」)を考えることもでき」るとして、次のように述べている。いささか長きにわたるが引用しておくことにする。

人口減少・少子高齢化社会の到来、家族やコミュニティの機能の変容をはじめとする時代の潮流の中で、住民に身近な行政の果たすべき役割は従来に増して大きくなることが見込まれ、地方公共団体は、これまで以上に住民の負託に応えられる存在に進化を遂げなければならない。
一方、現実には、地方公共団体の行政運営に対する地域の住民の関心は都市部を中心として低いと言わざるを得ない。例えば、地方選挙の投票率は国政選挙より総じて低く、全体として見れば低下傾向にある。
このような状況を克服し、自らの暮らす地域のあり方について地域の住民一人ひとりが自ら考え、主体的に行動し、その行動と選択に責任を負うようにする改革が求められている。これは、一つには、住民に身近な行政は、地方公共団体が自主的かつ総合的に広く担うようにすることであり、もう一つには、地域住民が自らの判断と責任において地域の諸課題に取り組むことができるようにすることである。この2つの観点から地方自治法のあり方を抜本的に見直す必要がある。(2ページ)
地域住民が自らの判断と責任において地域の諸課題に取り組むことができるようにする観点からは、地方公共団体の組織及び運営や住民自治の仕組みについても、法律によって定められる基本的事項の枠組みの中で可能な限り選択肢を用意し、地域住民自身が選択できるような姿を目指すべきである。
この場合の選択の方法としては、通常の条例のほか、通常の条例の上位に位置する基本条例(「自治憲章」)を考えることもでき、また、住民投票制度の導入を構想することもできよう。 (4ページ)

自治基本条例の嚆矢は、北海道ニセコ町が2000年12月27日に制定し、翌2001年4月1日から施行した「まちづくり基本条例」であるといわれる。以来、NPО法人公共政策研究所のウェブサイトによると、2013年8月現在で288の自治体において自治基本条例が制定、施行されている。
さて、本稿のねらいは、住民(市民)主権や住民(市民)自治によるまちづくりを実質化するための「学習」や「学習権」が、自治基本条例のなかでどのように位置づけられているかを明らかにするために、若干の基礎的整理を行うことにある。そこで、とりあえずは、「学習」や「学ぶ権利」などの文言のある自治基本条例と条文を抽出することにする。ただし、紙幅の制約から、その整理作業は限られたものになる。以下では、自治基本条例を、多少煩雑な感じはするが、(1)まちづくりの理念や目標、原則のひとつとして「学習」について規定しているもの、(2)「学習権」を条文の見出しに表記しているもの、(3)住民の権利や責務のひとつとして「学習権」について規定しているもの、(4)「生涯学習」を条文の見出しに表記しているもの、(5)学習機会の提供や学習支援について規定しているもの、という5つの枠組みを設けて整理する。また、条文はできる限り自治基本条例の制定順に記載することとし、それぞれに施行年月日を付す。なお、「人材育成」は「学習」を含意するが、「人材育成」の文言のある自治基本条例と条文については、今回は採りあげない。また、288の自治基本条例についてはひととおり目を通したが、見落としているものについてご指摘いただければ幸いである。

(1)まちづくりの理念や目標、原則のひとつとして「学習」について規定している自治基本条例
①新潟県柏崎市/柏崎市市民参加のまちづくり基本条例/2003年10月1日
(まちづくりの目標)
第6条 市民と市は、まちづくりの基本理念に基づき、それぞれに協働し、次に掲げるまちづくりの推進に努めるものとする。
(2)すべての市民が学ぶ喜びを持ち、生涯にわたって学習できるまちづくり
②青森県五戸町/五戸町まちづくり基本条例/2004年7月1日
(まちづくりの基本理念)
第2条 まちづくりは、町民、自治会等、その他の団体(以下「町民等」という。)及び町が協働を基本とし、次に掲げる事項を重点的に守り育てることを目指して行うものとします。
(2)郷土の文化と学ぶ心
③福島県三春町/三春町町民自治基本条例/2005年10月1日
(学習と能力向上)
第7条 町民、議会及び町は、郷土の歴史、地方自治及び民主主義等について自ら学び、その能力の向上を図りながらまちづくりを進めることを原則とする。
④北海道登別市/登別市まちづくり基本条例/2005年12月21日
(まちづくりの基本理念)
第2条 まちづくりの基本理念は、次に掲げるものとし、市民及び市はこの理念に基づきまちづくりを推進しなければならない。
(1)市民は、市民自治を実現するために自ら学び、市民の権利を行使し、まちづくりに積極的に参画するよう努めること。

以上のほか、⑤広島県三次市/三次市まち・ゆめ基本条例/(まちづくりの目標)第6条(4) 歴史と伝統を継承するとともに、学ぶ喜びをもてるまちづくり/2006年4月1日、⑥北海道上富良野町/上富良野町自治基本条例/(基本理念)第3条(4) わたしたちは、学習や心身の健康づくりを惜しまず、自らを高めます。/2009年4月1日、⑦千葉県流山市/流山市自治基本条例/(目指すまちの姿)第5条(6) 生涯にわたって学ぶことができるまち/2009年4月1日、⑧岐阜県輪之内町/輪之内町まちづくり基本条例/(まちづくりの基本理念と基本施策)第三条四 生涯現役で生きがいの溢れる生涯学習を推進するまちづくり。/2010年4月1日、⑨北海道置戸町/置戸町まちづくり基本条例/(人を大切にするまちづくり)第5条 町民、議会及び町は、生涯学習などの学習活動がまちづくりにつながることを大切にして、子どもからお年寄りまで全ての町民が、互いを認め合い、健康でこころ豊かな人を育て、安心して暮らすことのできるまちづくりを行います。/2010年4月1日、がある。
以上のように、まちづくりの理念や目標、原則のひとつとして学習が明文化されている。しかし、その数は9例と少ない。また、理念や目標、原則としての規定だけでは、住民の学習活動や自治体による学習機会の提供、学習活動の支援などが具体的に推進されるとは限らない。すなわち、総則的な理念規定だけではその具体的な推進は担保されない。そこで、総則的な規定の次に置かれる、条例の中心的・本体的な内容・部分をなす実体的事項に踏み込んだ規定を設ける必要がある。そもそも自治基本条例そのものがいわゆる理念条例に過ぎないが、②は全体でわずか14条と短く、文字通りの理念条例・規定にとどまっている。それに比して、⑥は40条、⑦は41条から構成されており、詳細な規定がなされている。なお、条文数の多寡によって、まちづくりやその学習、それらに関する諸権利の規定などに違いがあるであろうことは推測に難くない。

(2)「学習権」を条文の見出しに表記している自治基本条例
①滋賀県甲良町/甲良町まちづくり条例/2003年4月1日
(地域学習の原則)
第4条 町民および町は、ともに地域学習を重ねながら、まちづくりに関する情報を共有活用し、地域学習の成果に基づきまちづくりの意思決定を行う。
(学ぶ権利)
第7条 町民は、まちづくりに関し、自ら考え行動するために必要な情報や考え方を学習する機会を得る権利を有する。
②大分県九重町/九重町まちづくり基本条例/2005年2月1日
(地域学習の原則)
第4条 住民、議会及び行政は、共に地域学習を重ねながら、まちづくりに関する情報を共有、活用し、その成果でまちづくりの意思決定を行うことを基本とする。
(学ぶ権利)
第8条 住民は、まちづくりに関し、自ら考え行動するために、学習する権利を有する。
③北海道遠別町/遠別町自治基本条例/2006年4月1日
(学ぶ権利)
第11条 わたしたち町民は、生涯にわたり学習機会を選択して学ぶ権利を有する。
④福岡県うきは市/うきは市協働のまちづくり基本条例/2007年4月1日
(学習の権利)
第8条 すべての市民は、まちづくり関して自ら思考し行動するために、学習する権利を有する。

学習権を独立した条文で明確に規定するのは4例にすぎない。①と②には、学習権規定の前に「地域学習の原則」の規定があり、条文の語句や表現も類似している。まちづくりは先ず、住民の地域への関心とそれに基づく地域理解、地域診断から始まる。その点に関して、①と②の規定は条例の構成と条文の内容において評価できよう。

(3)住民の権利や責務のひとつとして「学習権」について規定している自治基本条例
①埼玉県富士見市/富士見市自治基本条例/2004年4月1日
(市民の権利)
第6条 市民は、まちづくりの主体であり、市政に参加する権利及び市政に関する情報を知る権利を有する。
2 市民は、自ら考え行動するために学ぶ権利を有する。
②岐阜県岐阜市/岐阜市住民自治基本条例/2007年4月1日
(市民の権利及び役割)
第6条 市民は、市政に関して知る権利を有するとともに、広くまちづくりに参画する権利を有する。
2 市民は、自らまちづくりに関して学ぶ権利を有する。
③埼玉県熊谷市/熊谷市自治基本条例/2007年10月1日
(市民の責務)
第7条 市民は、主体的にまちづくりに参加するよう努めます。
3 市民は、自ら考え行動するためにまちづくりについて学ぶよう努めます。
④岩手県花巻市/花巻市まちづくり基本条例/2008年4月1日
(市民の権利)
第6条 市民は、まちづくりに参画する権利を有します。この場合において、参画しないことによる不利益な扱いを受けないものとします。
3 市民は、生涯にわたり学ぶ権利を有します。

以上のほか、⑤岩手県宮古市/宮古市自治基本条例/(市民の権利)第6条4 市民は、生涯にわたり学ぶ権利を有する。/2008年7月1日、⑥青森県おいらせ町/おいらせ町自治基本条例/(生活に関する権利)第4条(5) 子どもから高齢者まで誰もが、生涯にわたり自由に学ぶ権利/2009年4月1日、⑦鳥取県日吉津村/日吉津村自治基本条例/(村民の権利)第8条3 村民は、生涯にわたり学ぶ権利を有します。/2009年4月1日、⑧北海道名寄市/名寄市自治基本条例/(市民の権利及び役割)第11条 市民は、まちづくりに参加する権利、知る権利及び学ぶ権利に基づいて、自らの意思により主体的にまちづくりに参加するものとする。/2010年4月1日、⑨高知県須崎市/須崎市自治基本条例/(市民の権利)第5条(5) 生涯にわたり学ぶ権利/2011年1月1日、⑩東京都新宿区/新宿区自治基本条例/(区民の権利)第5条4 区民は、区の自治の担い手として、生涯にわたり学ぶ権利を有する。/2011年4月1日、⑪新潟県燕市/燕市まちづくり基本条例/(市民の権利)第5条3 市民は、まちづくりに関して自ら考え、行動するために、学ぶ権利を有します。/2011年4月1日、⑫滋賀県長浜市/長浜市市民自治基本条例/(市民の権利及び責務)第5条 市民は、まちづくりに参画する権利及びまちづくりに関して必要な地域学習を選択して学ぶ権利を有する。/2011年4月1日、⑬埼玉県白岡市/白岡市自治基本条例/(市民の権利)第4条3 市民は、まちづくりに関し、自ら考え主体的に行動するために必要な事項を学習する権利を有する。/2011年10月1日、⑭岩手県西和賀町/西和賀町まちづくり基本条例/(町民の権利)第6条2 町民は、等しく学ぶ権利を有します。/2012年4月1日、⑮石川県七尾市/七尾市まちづくり基本条例/(市民の権利)第6条4 市民は、まちづくりに関し、生涯にわたって学ぶ権利を有する。/2012年9月1日、⑯兵庫県西脇市/西脇市自治基本条例/(市民の権利)第16条2 市民は、自ら考え行動するため、生涯にわたって学習する権利を有します。/2013年4月1日、がある。
以上の条例は、①のように住民をまちづくりに参加する権利主体として捉え、まちづくりに関して自ら考え、行動するための学習権について規定する条例と、⑥のように住民が有する権利(「生活に関する権利」)を並列的に列挙し、そのひとつとして生涯学習の権利を位置づけている条例とに大別される。前者は①、②、③、⑧、⑪、⑫、⑬、⑮、⑯の9例、後者は残りの7例である。
いうまでもなく、学習権の保障は、①や②にみるように、まちづくりや市町村政に参加する権利(住民参加)と、まちづくりや市町村政に関する情報を知る権利(情報公開)が伴っていなければならない。自治基本条例では、住民参加と情報公開を前提に、住民がまちづくりや市町村政について主体的・積極的に学習できる条件整備にまで立ち入って規定することが望まれるところである。
また、まちづくりに参加する権利は、そこに暮らす全ての住民が有する権利である。とりわけ子どもや高齢者、障がい者、生活困窮者、外国籍住民などの社会的弱者に対する生涯学習の権利保障は、ノーマライゼーションとソーシャル・インクルージョンの実現に向けた福祉によるまちづくりを推進するに当たって、特に重視されるべきである。しかし、そうした規定は皆無である。住民(市町村民)のなかに社会的弱者も包含されているのであろうが、高齢者や障がい者などがひとりの住民として、またセルフヘルプ活動・運動としてまちづくりに参加・参画する権利と、それを保障するための生涯学習の権利について特別規定する必要性と重要性は高い。高齢者や障がい者などが置かれている社会的困難・不利・孤立・排除等の実態をみるとき、多言を要さないであろう。

富山県における福祉教育の取り組みの経緯と今後の方向性

富山県社会福祉協議会(以下、富山県社協)は、1977年度から始まる国庫補助事業としての「学童・生徒のボランティア活動普及事業」(富山県の事業名称は「児童・生徒のボランティア活動普及事業」)に先駆けて、1973年度に富山女子短期大学付属高校と清光女子高校(現・高岡龍谷高校)の2校を「福祉教育指定校」に指定し、福祉教育事業を開始した。1977年度から2013年度までに、富山県社協から児童・生徒のボランティア活動普及事業の「推進校」指定を受けた学校は、小学校327校、中学校133校、高等学校80校、特別支援学校15校、計555校(延べ数)を数えている。なお、この「推進校」指定事業は2013年度をもって廃止される。
こうした学校福祉教育の推進を図るために、富山県社協では、学校現場等での実践に有用な教材の開発と普及に積極的かつ計画的に取り組んできた。小学校5年生(『ともに生きる』1981年)や中学校1年生(『共に生きる』1987年)を対象にした「福祉読本」、5歳児を対象にした福祉絵本(『みんな、なかま』1990年)、小学校高学年生向けの福祉DVD(『ともに生きる』2006年)、小学校4年生向けのボランティア読本(『ボランティアの本』2010年)、などの作成・配布がそれである。そのうち、例えば福祉絵本(『みんな、なかま』)についていえば、配布はひとまず2010年度で終わるが、20年間で20万人以上の5歳児の手元に届けられている。
周知の通り、1990年代に入ると、学校福祉教育から地域福祉教育への移行・進展の必要性や重要性が指摘され、その実践を推進するための体制の整備やプログラムの開発、人材の養成などが進むことになる。その証左のひとつとして、全国社会福祉協議会(以下、全社協)が、1996年3月に『地域に広がる福祉教育活動事例集―福祉教育の考え方と実践方法・先進的事例に学ぶ―』と題する「福祉教育モデル事例集」を発行したことを挙げることができる。その後、全社協は、2004年9月に「社会福祉協議会における福祉教育推進検討委員会」(委員長・大橋謙策)を立ち上げ、2005年11月に『社会福祉協議会における福祉教育推進検討委員会報告書』を纏める。それをひとつの契機に、「地域を基盤とした福祉教育の展開」「福祉教育が地域福祉の根幹をつくる」という視点・視座に立って、(地域)福祉教育実践に関する研究会の報告書を矢継ぎ早に作成し、公表・提案する。『福祉教育の展開と地域福祉活動の推進』(福祉教育実践研究シリーズ①、2008年3月)、『学校・社協・地域がつながる福祉教育の展開をめざして』(福祉教育実践研究シリーズ②、2009年7月)、『住民主体による地域福祉推進のための「大人の学び」』(福祉教育実践研究シリーズ③、2010年11月)、『地域福祉は福祉教育ではじまり福祉教育でおわる』(福祉教育実践ガイド、2012年3月)、『社会的包摂にむけた福祉教育~共感を軸にした地域福祉の創造~』(2013年3月)、などがそれである。
併せて、全社協は、人材養成のあり方についての検討や研修・養成プログラム等の研究開発を進める。『これからの福祉教育実践と福祉学習サポーター・実践者への研修のあり方~福祉教育の質的向上をめざして』(2001年3月)、『「協働」による福祉のまちづくり推進のための人材養成のあり方研修プログラム』(2005年3月)がその報告書である。発行時期は前後するが、『ボランティア ア・ラ・カ・ル・ト―「障害理解」プログラムの手引き―』(1999年3月)も注目される。
これらは、福祉・教育を取り巻く社会・経済情勢や社会的背景についての分析・評価・検討に基づくものであることは多言を要しない。そうした社会・経済の潮流と福祉・教育の動向を踏まえて、富山県社協では、2007年度から新たに「福祉教育地域指定推進事業」に取り組むことになる。その実施要綱の概要は以下の通りである。ちなみに、2010年度に地域指定を受けた市町村社協は13か所、その年度の参加者は児童・生徒を中心に1,302名を数えている。2012年度のそれは、12か所、1,323名となっている。

福祉教育地域指定推進事業実施要綱
1 目的
学校に通う子ども達が地域社会の中で暮らしていくことの意味を理解し、他者との関りを学ぶ中で、市町村社会福祉協議会をはじめ、いきいきサロンや小規模作業所等地域の社会資源と学校と社会福祉協議会が体験学習の企画段階から積極的に協働し、学校に限らない地域に根ざした子どもたちのボランティア体験学習・活動を推進することを目的とする。
2 実施主体
市町村社会福祉協議会
3 事業の実施
市町村単位に原則として2年間指定し、市町村社会福祉協議会が本事業の活動計画を作成し、いきいきサロンや小規模作業所、地区社会福祉協議会等との協働を図りながら、福祉教育・ボランティア体験学習に関わる事業を新たに実施する。
4 助成対象事業
(1) 教員と子どもと地域住民による地域福祉活動実践
(2) 福祉教育連絡会やボランティア活動研究会の開催
(3) 各学校における体験学習や研究活動に対する個別的支援の実施
(4) 地域の伝統・文化活動のボランティア活動による継承
(5) そのた、本事業の目的に即した事業

地域指定を受けた市町村社協による本事業への自己評価(「事業の成果・今後の課題」)は様々である。2012年度のそれをみると、「事業の成果」としては次のようなものがある。「子どもたちの地域福祉への理解や参加を促し、地区社協と連携したプログラムを提供することができた」「種々の体験学習によって福祉教育への興味・関心につながった」「親子の交流も深まった」「学校と地域が連携し、円滑に事業が実施されている」「小学生に民謡を伝承することができ、三世代間の交流が深まった」「児童生徒がボランティア活動やノーマライゼーションに対する理解を深め、ボランティア活動への参加意欲が高まった」「地域で暮らす障害者、ボランティアの存在を身近に感じながら日々の生活を送るようになった」等々がそれである。
その反面、「今後の課題」も少なくない。「車椅子体験、手話体験、視覚障害者体験に偏った」「特定の施設・団体との連携にとどまっている」「長期休業中のイベントボランティアが中心になっている」「福祉教育に取り組む姿勢に地域差がある」「地域に定着してきた反面、事業の発展・拡大に伴い、参加者の負担も出てきた」等々である。
以上から、地域指定の福祉教育実践とはいえ、その取り組みは児童・生徒の体験活動、しかも一過性のイベントを中心に据えたものが多いことがうかがえる。また、その評価は、市町村社協福祉教育担当者の主観的で総括的、抽象的なものにとどまっているといわざるを得ない。福祉教育実践における評価(リフレクション、振り返り)は、様々な立場や局面、内容や方法などによって行われるであろうが、福祉「教育」である以上、妥当性と信頼性、それゆえの客観性が問われることはいうまでもない。今後は、“地元”における、“まちづくり”に向けた福祉教育の戦略的で継続的かつ計画的な取り組みと、それに対応した科学的で客観的かつ多面的な評価を行うための工夫や改善が求められよう。
そこで、富山県社協は、2012年12月、児童・生徒のボランティア活動普及事業を総活し、福祉教育地域指定推進事業の充実強化策について検討するために、「福祉教育推進検討委員会」を設置した。検討委員会では、6回の委員会でのさまざまな議論を踏まえて、2013年8月、「『福祉教育サポーター』養成確保事業要綱」の成案を得ている。
福祉教育サポーターについては、例えば、2005年11月の全社協報告(『社会福祉協議会における福祉教育推進検討委員会報告書』)では、次のように述べられている。「地域を基盤とした『質』の高い福祉教育を推進するには、地域において地域住民が地域の生活・福祉課題の当事者であることの気づきや、課題解決に向けての行動力を高めたり、自らの暮らしを主体的に築いていけるような『学び』の環境づくりを広げることが求められます。そのためには、地域において、そうした『学び』の環境づくりを促進するキーパーソンとなる人材養成や、福祉教育の取り組み意義を理解し支援するサポーターとなる人材養成、さらに福祉の専門職に対する働きかけや学習機会の提供などが不可欠といえます。福祉教育推進のためのサポーターづくりとは、地域において福祉教育推進の理解者や実践者,協働者を増やすことを意味します。」(53ページ)。
富山県社協の福祉教育推進検討委員会では、全社協のこうした考え方の提示や、2001年3月の全社協報告(『これからの福祉教育実践と福祉学習サポーター・実践者への研修のあり方』)などの資料提供が行われ、各委員が主体的・協同的に学習を進め、理解を深めた。併せて、埼玉県社協の「福祉教育・ボランティア学習推進員養成研修」や鳥取県社協の「福祉学習サポーター講座」、名古屋市社協の「福祉学習サポーター養成研修」や宇都宮市社協の「福祉共育サポーター養成講座」、あるいは神戸市(こうべ市民福祉振興協会)の「こうべUD大学」「こうべUDサポーター」や可児市(NPОなんでもサポートセンター岐阜)の「岐阜コミュニティ創造大学」「コミュニティ創造士」など、全国各地の福祉教育やまちづくりに関するサポーター養成確保事業について分析・評価し、議論を重ねた。それらを踏まえて作成されたのが「『福祉教育サポーター』養成確保事業要綱」である。 以下にその要綱を紹介する。

「福祉教育サポーター」養成確保事業要綱
1 趣旨
人は、生まれ育った地域(地元)が、また移り住んだ地域が、安全で、安心して、より豊かに暮らすことができる“まち”になることを願う。そうした願いをかなえるのは、他ならぬそこに住む、子どもから大人までの住民、一人ひとりである。
“まちづくり”は、一人ひとりの住民が、その地域(日々の生活圏域)に存在する多様な生活問題や福祉問題について関心と理解をもつことから始まる。そして、その関心を高め、理解を深めるためには、何よりも“学習”が不可欠となる。
まちづくりは、一人ではできない。仲間をつくり、その輪を広げ、行政や関係機関・団体などと連携することが必要となる。また、まちづくりは、一人ひとりの住民が、できることを、できるときに、できるところで、しかも焦らず、かまえず、足元を確かめながら取り組むことが大切である。
「地域福祉は福祉教育ではじまり、福祉教育でおわる」といわれる。「まちづくりは人づくり、人づくりは教育づくり」である、ともいわれる。それは、福祉によるまちづくりを進めるためには、「福祉教育」の推進を図ることが必要かつ重要であることを意味する。
福祉教育はこれまで、学校を中心に考えられ、取り組まれてきた。そして、今日、とりわけ2011年3月に発生した東日本大震災をひとつの契機に、住民同士がお互いに支えあう地域福祉のあり方が改めて問われている。それを受けて、全国各地で、子どもから大人まで生涯学習の視点に立って、学校だけでなく、地域ぐるみで、地域に根ざした福祉教育を組織的・計画的に推進していこうとする取り組みがなされている。
地域に根ざした福祉教育とは、一人ひとりの住民が、それぞれの地域に生きるために努力する姿や態度、行動そのものに、教育的な価値を見いだす教育活動をいう。それはまた、地域とそこでの生活に根ざすことを通して、より豊かな日々の暮らしとそれを可能にする新しい“まち”を創ることに、主体的・自律的に取り組む住民を育てることである。
富山県社協では、1973年度から「児童・生徒のボランティア活動普及事業」やそれにともなう「福祉副読本」「福祉絵本」「福祉DVD」などの作成に取り組み、学校における福祉教育の推進を図ってきた。そのうえに、2007年度からは、「学校に限らない地域に根ざした子どもたちのボランティア体験学習・活動を推進する」ことを目的に「福祉教育地域指定推進事業」に取り組んでいる。地域福祉の推進が図られ、子どもから大人までの住民参加の必要性や実践がますます重要視される今日、福祉教育地域指定推進事業の実施・協力体制の整備・充実を図ることが強く求められている。
「福祉教育サポーター」(仮称)制度は、以上のような考え方や現状認識のもとに、福祉によるまちづくりをめざして設置しようとするものである。
2 福祉教育サポーターとは
福祉教育サポーターとは、
① 福祉や教育、そしてまちづくりに関心のある多くの人が、
② 地元や職場での日々の生活や活動などで得た知識や経験を、
③ さらに確かで豊かなものにするために学習(研修)を行い、
④ それによって自分や自分たちの能力と地元の魅力を再発見し、
⑤ 求められる見識(判断力、考え方)と企画・実践力(福祉力、教育力)、そして意欲(情熱、向上心)を活かし、
⑥ 何よりも自信と誠意と信念をもって、
⑦ 行政をはじめ学校や社会福祉協議会(以下、社協)、社会福祉施設、公民館、NPО、自治会・町内会、企業などが行う、
地元ならではの、新しいまちづくりとそのための「福祉教育」の事業・活動を支援する人をいう。
3 福祉教育サポーター制度のねらい
高校生以上の地元住民をはじめ、ボランティアやボランティアサポーター、NPО職員、民生委員・児童委員、福祉推進委員、地域(福祉)活動者、とりわけ団塊世代や高齢者・障がい者などと、福祉や教育の関係機関・組織・団体・施設などが連携・協働して、福祉教育サポーター制度の取り組みを進める。それによって、地元での人材の発掘と活用、地元の人々によるまちづくりや福祉教育に関する事業・活動の活発化、その内容の高度化などが図られる。何よりも、地元の人々にとっては、まちづくりの活動や運動の機会の創出と、それに参加・参画することによって個人の自己実現と生きがいの創造を促す。また、地元にとっては、住民の地元への関心力や地元の自治力などの向上が促される。そして、それらを通して、福祉による新しいまちづくりのさらなる進展が期待される。
4 福祉教育サポーター制度の特徴
本制度の大きな特徴は以下の諸点である。
(1)福祉教育サポーターは、従来の福祉・教育実践者に限定するのではなく、まちづくりとそのための福祉教育の事業・活動に関心と意欲をもつ地元の人々に対する研修(学習)を通して、主体的・積極的に応募してもらう。
(2)福祉教育サポーターの養成は、県社協や関係機関・組織・団体・施設などと連携・協働しながら、市町村社協と地区社協が中心になって地元で取り組む。また、そのためのカリキュラムなどを共同開発する。
(3)福祉教育サポーターの計画的・継続的な研修と認証・登録を行うことによって、一定水準の資質と能力を備えた人材を確保する。将来的には、地域(県や市町村の区域)でリーダー的な役割を果たす「福祉教育アドバイザー」(仮称)の創設を考える。
(4)福祉教育サポーターは、地区社協に若干名配置し、活動の場は主として地元の小学校区とする。
(5)福祉教育サポーターは、コーディネートの知識と技能を習得・活用して、地元で、組織的かつ計画的なまちづくりとそのための福祉教育の事業・活動の推進を図る。
(6)市町村社協は、県社協等と連携しながら、「福祉教育サポーター設置検討委員会」(仮称)を設置し、福祉教育サポーターの養成・確保に取り組む。またその後、「福   祉教育サポーター連絡協議会」(仮称)を設置し、福祉教育サポーター相互の情報交換と知識・技能の習得と経験を重ね、共有し、資質の向上を図る。
(7)県社協は、市町村社協職員(コミュニティワーカー)に対する福祉教育研修を計画的・継続的に実施する。とともに、「福祉教育サポーター事業推進検討委員会」(仮称)を設置し、市町村社協の「福祉教育サポーター設置検討委員会」(仮称)や「福祉教育サポーター連絡協議会」(仮称)との連携・協働を進める。
5 福祉教育サポーターの主な活動
福祉教育サポーターの主な活動として、次のような取り組みが考えられる。
(1)まちづくりやそのための福祉教育に関する事業・活動の情報の収集・提供と、地元住民に対する普及・啓発
(2)福祉や教育の関係機関・組織・団体・施設などが連携・協働して事業・活動を展開する際の、キーパーソンとしての連絡・調整
(3)社協や社会福祉施設、公民館などが行う、福祉教育研修やボランティア・まちづくり講座などの企画・運営および学習相談
(4)学校の「総合的な学習の時間」や課外活動(部活動、学校行事等)などにおける福祉教育活動に関する、子どもや教師への補助や協力・支援
(5)子ども・青年や高齢者・障がい者などが社協や社会福祉施設、公民館などで行う学習、文化、スポーツ、レクリエーション活動の支援や、福祉文化の醸成活動の支援
(6)地元住民が抱える生活問題や福祉問題を解決するための活動や運動への参加や活動支援 
(7)地元に所在する多様な関係機関・組織・団体などが行うまちづくりや福祉教育関係行事などへの参加や協力・支援

以上の「要綱」はあくまでも、「福祉教育サポーター」養成確保事業の指針を大綱的に定めたものである。富山県社協においては、今後、この事業を具体的に実施するに当たって、細目的な部分を「要領」として定める作業が必要となる。また、「福祉教育推進検討委員会」を発展的に解消し、2014年度に「福祉教育サポーター事業推進検討委員会」(仮称)を設置する。とともに、3か所の市町村社協を3年間モデル地区に指定し、連携・協働して福祉教育サポーター養成カリキュラムの研究開発などに取り組むことが予定されている。そのうえで、モデル事業の検証と評価を行い、2017年度から「福祉教育サポーター」養成確保事業が本格実施されることになる。
富山県社協が立案した「福祉教育サポーター」制度に類する取り組みは、既に全国各地で実施されている。しかし、サポーターを養成確保したものの、住民や活動現場(学校や社会福祉施設等)にあまり周知されていない、そのために活動の機会や場所が少ない、その結果サポーターの数も増えないといった悪循環を抱え、制度の衰退やさらには廃止に至る事例がみられる。同じ轍を踏まないためにも、富山県社協では、事業の本格実施に向けてどういう点に留意すべきであろうか。そのいくつかを指摘しておくことにする。
(1)福祉教育サポーター制度は、サポーターを属人的に捉えるのではなく、個々の地元住民の属性や地元との関係性などに留意しながら、サポーターとしての機能や役割、活動のプロセスを重視する制度である。
(2)福祉教育サポーター制度の普及・拡大を図るめには、制度の周知度や認知度を高めるとともに、地元のニーズとサポーターの適確なマッチングを図るための仕組みをつくることによって、活発な活動(活用)を促すことが重要となる。
(3)福祉教育サポーター活動の持続的発展を可能にするためには、定期的・計画的な研修を行うことによってサポーターの資質の向上を図るとともに、サポーター同士だけでなく、地元での人的ネットワークの拡大と連携強化を図ることが必要となる。
(4)福祉教育サポーター制度における養成カリキュラムは、「まち学習」(地元が抱える地域課題の発見と理解・診断)から「まちづくり学習」(協働による課題解決策と具体的活動の検討・協議)へ、という流れによって構成される。
(5)福祉教育サポーターには、福祉教育実践に関するプランナー、コーディネーター、そしてファシリテーターとしての知識と技能が求められるが、そこから、サポーターの養成研修では、講義のほか、ワークショップやフィールドワークなどを重視した参加体験型の学習法を取り入れることが肝要となる。
(6)福祉教育サポーターの「認証・登録」制度の導入は、サポーターに強いインセンティブ(奨励、刺激)を与えて活動の活発化を促すとともに、サポーターの一定の水準を保証することになり、サポーターの活用(活動)促進が期待される。
(7)福祉教育サポーター制度を充実・発展させるためには、福祉教育サポーターの活動の効果・成果を適正に検証・評価し、それを活かしてその後のサポーターの活動の内容や方法、活用のあり方などについて検討することが必要かつ重要となる。
(8)福祉教育サポーター制度の効果的な実施・展開を可能にするためには、市町村社協の役職員に対する福祉教育(事業)研修の充実、オール社協による福祉教育推進事業の取り組みの強化、そして何よりも「福祉教育地域指定推進事業」の充実・改善が求められる。

自治基本条例と市民福祉教育(第1報)

自由民主党の政務調査会が2011年9月に、「チョット待て!!“自治基本条例”~つくるべきかどうか、もう一度考えよう~」という政策パンフレットを出している。それは実に面白いものである。その意味は、人々を信じさせる強いメッセージ性もなく、それ以上に何の理屈もロジックもない、という点においてである。そこでは、多くの人々を信じさせたいという一念で、空虚な言葉が無意味に書き連ねられているだけ、といわざるを得ない。まるで、伝統的な暮らしや文化を過度に重んじる環境のなかで育った“やんちゃ坊主”が、周りのことも考えられずに駄々をこねているようなものである。等閑視してよい代物であるとはいえ、なぜ駄々をこねるのかを考え、その気持ち(内容)を理解することも必要であろう。
周知の通り、自治基本条例は、北海道の「ニセコ町まちづくり基本条例」(2000年12月制定、2001年4月施行、2005年12月第1次改正、2010年3月第2次改正)を嚆矢とし、2013年4月現在、273の市区町村で制定されている。2013年1月現在の全国の市区町村数は1742(東京23区を除くと1719市町村)であるから、およそ16パーセントの地方自治体で制定されていることになる。今後もその数は増えていくものと推測されるが、その背景には地方分権改革の進展がある。また、そうしたなかで、「新しい公共」の創出や「新たな支え合い」の強化が叫ばれ、行政への住民(市民)参加や行政と住民(市民)との協働によるまちづくりの推進が図られていることも、背景のひとつと考えられる。
地方分権改革に関していえば、1993年6月の衆参両議院で採択された「地方分権の推進に関する決議」などを契機として、1995年5月に地方分権推進法(1995年7月施行)が制定された。以後、1999年7月の地方分権一括法(2000年4月施行)や2006年12月の地方分権改革推進法(2007年4月施行)などによって、政府・自民党は、1990年代以降、総合的・計画的な地方分権改革を積極的に推し進めることになる。なかでも、地方分権一括法は、475本の関連法を改正または廃止するもので、この改正によって機関委任事務制度の廃止や、国の地方自治体に対する関与(統制)の見直し、地方自治体への権限の移譲などが図られた。それによって、国と地方自治体の関係は、上下・主従の関係から対等・協力の関係へと変わることになる。要するに、地方分権一括法は、地方自治体に対して、地方分権のための法的根拠・保障を与えたものである、といえる。そして、地方分権の推進に対応すべく、行財政基盤の強化や自治の効率化を目標に、1999年から政府主導で推進されたのがいわゆる「平成の大合併」である。
以上のことを、地方自治体(とくに市町村)のサイドに立って平易に要約すれば、地方自治体は、国(中央政府)から独立した地方政府として、地域のことは地域で決めるという「自己決定・自己責任」の考え方に立って、主体的・自律的な自治体運営(「団体自治」)を図る必要性と重要性が増大した、ということである。また、1993年の国会決議に始まるこれまでの地方分権改革は、地方自治体の権限の拡大、しかも形式的なそれに偏りがちであり、地方自治のもうひとつの要素である「住民自治」(地方自治は、その地方自治体の住民の意思と責任に基づいて行われるべきであるということ)をどのように実現し、その強化を図るかが、2000年代に入って問われるようになった、ということである。これは、国による縦割り・全国画一行政が破綻するとともに、国民愚民観や自治体蔑視意識の変革、いいかえれば住民(市民)や自治体職員の自治意識の拡大が求められることを意味する。さらには、社会、経済、政治、文化などのあらゆる側面でグローバル化が急速に進むなかで、世界に開かれた地域社会の創造や地方自治の展開が欠かせないことになる。こうしたところに、その地域独自の住民自治の仕組みについて定めた自治基本条例制定のひとつの根拠がある。そして、前述のように、北海道ニセコ町の条例がその最初であった、ということである。なお、「自治基本条例」という名称の条例は、東京都杉並区のそれ(2002年12月制定、2003年5月施行)が最初で、その後は「まちづくり条例」よりはむしろ「自治基本条例」の方が多数となっている。
ここで、自己決定・自己責任の考え方に関して加筆しておきたい。そのひとつは、自己決定は、その結果の影響を受ける者が決定を下すべきである。自己決定は最大限、尊重されなければならない。自己決定には自己責任が伴う。ただし、自己責任には限界がある。また、責任を強く求めたり、責任を回避あるいは転嫁することは許されない、ということである。いまひとつは、すべての住民(市民)に自己決定の要求や能力が備わっているわけではない。また、住民(市民)は、すべての問題に対して正しい認識や判断ができ、それに基づく行動がとれるわけではない、ということである。このように考えたときにまず求められるのは、実践や運動としてであれ、制度としてであれ、住民(市民)の「参加」(参集、参与、参画)と「協働」(共働)、それに「学習」(教育)である。そして、それらのための仕掛けと仕組みである。自治基本条例とその制定に関して留意すべき点である。
さて、冒頭に記した自民党のパンフレットは、「自治基本条例の制定そのものに、問題があるわけではありません」としている。それもそのはずである。地方分権改革に積極的に取り組んできたのは、ほかならぬ自民党政府だからである。しかし、パンフレットの表紙では、「注意! 自治基本条例によって、○住民生活に本当に役立つか、○住民間の対立をかえってあおることはないか、○地方行政の仕事を妨げ、議会の否定にならないか、○特定団体に地方行政をコントロールされることはないかなど、注意しなければならない点が多数あります」と記している。一見穏やかないい回しであるが、「本来のあるべき姿とは異なる偏った自治基本条例が増えてきている」として、本文では、自治基本条例の制定をめぐっていくつかの点について批判している。その主な論点は次の3点であろうか。(1) 国→都道府県→市区町村という上下方向(上意下達)に、国が地方自治体を支配・統制する国家統治の考えと、主権には憲法が規定する国民主権と国際社会における国家主権しか存在しないという考えに基づく批判、(2) 外国籍住民や子どもなども意見を表明し、まちづくりに参加する権利が認められることは、過度な権利主張を招き、とりわけ外国籍住民については地方参政権の付与に繋がるのではないかという警戒心、(3) 条例の構成や内容がパターン化しており、それは「国家の概念を否定し、個人やグループの存在と発言に重きを置く」特定の考え方(「イデオロギー」)に基づいた「組織的な動き」によるのではないかという疑心暗鬼。すなわちこれである。(1) については「分権型社会」や「シティズンシップ」、(2) については「意見表明権」や「ソーシャルインクルージョン」、(3) については「直接民主主義」や「熟議と参加のデモクラシー」等々の言葉を思い起こすだけで、反論するには十分である。要するに、パンフレットの内容は「不審」と「不信」(2つの「フシン」)に基づく何ものでもない、と断ぜざるを得ない。
なお、(3) について加筆すると、パンフレットの記述内容は、要するに松下圭一(法政大学名誉教授)の、国家統治を批判する「市民自治」の政治学に異を唱える立場からのものである。すなわち、そこでは、多くの自治基本条例は「市民」中心の「補完性の原理」と「複数(政府)信託論」が反映されており、「国家の否定が根底にある」とする。いうまでもなく、市区町村は都道府県や国の下請け機関ではなく、地方と国の関係は補完性の原理(principle of subsidiarity)に基づくものである。また、議員内閣制と二元代表制という仕組みの違いはあるものの、市民(国民)は国政への信託(the trust of citizen on the government)だけでなく、都道府県や市区町村(首長と議会)に対しても信託(選挙と納税)を行っている。さらに、阪神淡路大震災(1995年1月)を契機に、ボランティアやNPОなどの市民活動が広がりを見せ、地域の課題は住民自らが解決していこうとする意識(地域やまちづくりへの関心、自治意識)が高まっている。それは、東日本大震災(2011年3月)に際して、より顕著になっている。こうしたことだけを考えてみても、パンフレットの内容は、理論的でもまた現実的でもなく、説得力のある論拠が欠けているといわざるを得ない。自治基本条例の動向や内容に批判的見解を展開するパンフレットが発行された後も、例えば2012年4月から2013年4月までの間に、32の市町で自治基本条例が制定・施行されていることはその証左である。
ところで、筆者(阪野)は、昨年の12月から、S市の自治基本条例策定審議会の委員(公募委員)として策定のための審議に参加している。審議会は、公募委員が17名、公共的団体等の推薦による委員が10名、そして学識経験者が3名、計30名の委員で構成されている。これまで、グループ討議を中心にした審議会が5回開催され、筆者はそこから多くの気づきと学びを得ている。まさに、審議への参加の過程が学びの過程である。それらを踏まえた、現段階におけるとりあえずの条例私案の一部を、以下に記すことにする。
なお、審議会ではまだそこまで至っていないが、S市の総合計画と自治基本条例との相互関連性について十分に討議する必要がある。“車の両輪の関係”にある総合計画と自治基本条例が相俟ってはじめて、S市独自の住民自治の仕組みが創設されるのである。留意しておきたい。

1 前文
S市は、日本の○○○に位置し、豊かな自然や積み重ねられた歴史、育まれてきた文化など貴重な地域資源にあふれた、○○○のまちとして発展してきました。
わたしたちは、先人から受け継いだこのまちを次世代に引き継ぐとともに、安全・安心で、より豊かな地域生活を営むことができる持続可能な、しかも世界に開かれたまちを自らの手で創りあげます。
そのためには、年齢や性別、国籍などの違いを問わず、すべての市民一人ひとりの人権を尊 重し、人のつながりと地域の絆を大切にする必要があ ります。また、すべての市民一人ひとりが市政に関心を持ち、まちづくりについての理解を深め、関心を高めるとともに、その取り組みに主体的・積極的に参画することが求められます。それによってはじめて、市民が国際社会と直接向き合い、次世代につなげる「日本一しあわせなまちS市」づくりが可能となります。
わたしたちは、地方自治の本旨にのっとり、S市の自治の基本理念や原則、しくみなどを明らかにし、市民主権と市民自治の実現とその進展をめざすS市の最高規範として、この条例を定めます。
2 総則
(1)目的
この条例は、S市のまちづくりに関する基本的な理念並びに市民、議会及び行政の役割を明らかにすることにより、安全・安心で、豊かな地域生活を営むことができるまちを協働して創りあげ、市民主権の自治を実現することを目的とします。
(2)定義
④まちづくり 安全・安心で、豊かな地域生活を営むことができるように、市民、議会及び行政が取り組む一連の持続的な活動をいいます。
⑤協働 市民、議会及び行政が互いに尊重し、対等・平等な関係で協力及び連携することをいいます。
⑥自治 共生と協働の考え方のもとに市民自らが意思決定し、行動することをいいます。
(3)条例の位置付け
①市民、議会及び行政は、この条例は市の最高規範であることを認識し、この条例を誠実に遵守します。
②議会と行政は、他の条例、規則、計画等の制定及び改廃等にあたっては、この条例の趣旨を最大限に尊重するとともに、整合を図ります。
3 基本原則
市民、議会及び行政は、次の基本原則に従い、まちづくりを推進します。
①市民一人ひとりの基本的人権を最大限に尊重します。
②市民の価値観や生活観の違いを認め合い、対等な関係を築きます。
③相互に情報を積極的に提供し、十分な説明責任を果たし、共有します。
④主体的・自律的な意思と相互理解のもとに参画し、協働します。
⑤家庭・学校・地域の連携による教育力の向上を図ります。
⑥地域の豊かな自然や歴史、文化などの特性を活かします。
⑦平和と安全、そして福祉の新しい文化を創造します。
4 市民の権利と責務等
(1)市民の権利
①市民は、安全・安心で、豊かな地域生活を営む権利を有します。
②市民は、まちづくりに参画する権利を有します。
③市民は、議会及び行政が保有する情報を取得する権利を有します。
④市民は、生涯にわたり学習する権利を有します。
(2)市民の責務
市民は、まちづくりの担い手であることを自覚し、主体的・自律的な活動に取り組む責務を有します。ただし、市民は、活動に取り組まなかったことを理由として不利益を受けることはありません。
(3)事業者の役割
事業者は、社会的責任を自覚し、地域社会の発展に貢献します。
(4)子ども・青年の権利
①子ども・青年は、自分の意見を表明する権利を有します。
②子ども・青年は、まちづくりに参画する権利を有します。
③市民、議会及び行政は、子ども・青年を地域社会の一員として尊重し、その有する権利の実現と擁護を図ります。
○  市民活動センター
市は、市民が主体的・自律的に、協働して取り組むまちづくりを推進するために、市民活動センターの組織と機能及び活動内容等の整備充実を図ります。
市民活動センターでは、まちづくりに関係する市民や機関・組織・団体等との連携を図り、まちづくりのための、課題に応じたさまざまなプラットホームを形成します。
プラットホームでは、地域の課題についての相互学習や情報の共有、それに解決策・役割分担についての協議などを行い、課題解決を促します。

以上の私案で強調したい点のひとつは、住民(市民)の生涯にわたる学習権を主軸に据え、それを保障するための条件整備に関する内容をも含んだ条例にすべきである、ということである。それは、「まちづくりは人づくり、人づくりは教育づくり」という考えに基づいている。そして、まちづくりの主体形成とそれに基づく課題解決のための重要な拠点のひとつに、「市民活動センター」を位置づけるべきである、ということである。
ところで、これまでに制定された自治基本条例で、住民自治の理念を実質化するための「学習」(市民 (性) 教育、市民福祉教育)について明確に規定したものは、決して多くはない。そういうなかで、例えが次のような規定がある。

伊丹市まちづくり基本条例(2003年10月施行)
(情報の共有)
第6条 市は、市民の知る権利を尊重しなければならない。
(学習の機会の提供その他の支援)
第11条 市は、市民がまちづくりに関し理解を深めるために必要な学習の機会を設けるよう努めるものとする。
岐阜市住民自治基本条例(2007年4月施行)
(市民の権利及び役割)
第6条 市民は、市政に関して知る権利を有するとともに、広くまちづくりに参画する権利を有する。
2 市民は、自らまちづくりに関して学ぶ権利を有する。
新宿区自治基本条例(2011年4月施行)
(区民の権利)
第5条 区民は、区政に関する情報を知る権利を有する。
4 区民は、区の自治の担い手として、生涯にわたり学ぶ権利を有する。
丹波市自治基本条例(2012年4月施行)
(市民の権利)
第5条 市民は、年齢、性別、国籍、障がいのあるなし等にかかわらず一人ひとりが人間として尊重され、また、自治体における主権者として平等に市の施策や地域の自治活動、まちづくりに参加・参画する権利を持っています。
3 市民は、市政に関する情報を知り、これを得る権利を持っています。
4 市民は、自ら主体性を保ち豊かな生活と地域社会へ寄与するために、生涯にわたり学ぶ権利を持っています。

これらの規定からいえることは、学習権の保障には情報の提供と共有が必要である。市民主権・市民自治のまちづくりは、それに参加することのできる条件整備が図られ、参加の機会と手段が豊かであることによってのみ可能である、ということである。
自治基本条例の制定は、市民主権・市民自治を実現するための始めの一歩であり、条例の制定がその終わりではない。すべての住民(市民)が、条例により一層の理解と関心を深め、その必要に応じて改正し、より確かで豊かな条例にしていく。そのためには主体的・自律的な学習(市民 (性) 教育、市民福祉教育)が不可欠となる。いずれにしろ、自治基本条例を活かし、より内実の濃い住民自治の実現を図ることができるか否かは、一に住民(市民)のそれに対する理解と関心、そして参加にかかっているのである。ここで、この点を強調しておきたい。
最後に、「市民主権」について規定する、2、3の自治基本条例を紹介しておくことにする。「市政の主権者」「まちづくりの主体」など、その表現(用語)はまちまちである。

善通寺市自治基本条例(2005年10月施行)
前文
……地方分権時代を迎えた今こそ、市民主権という地方自治の原点に立ち返り、平等に情報を持ち合い、市政に参画することができる仕組みを設けることが必要です。市民、市、市議会はともに力を合わせて明日の善通寺を創造し、この仕組みを次世代に引き継いでいくこととします。……
平塚市自治基本条例(2006年10月施行)
(自治の基本理念)
第4条 市民は、まちづくりの主体です。
2 市政は、主権を有する市民の信託によるもので、議会及び市長はその信託にこたえます。
3 市は、国及び他の自治体と対等な立場で連携し、協力して共通する課題及び広域的な課題の解決を図ります。
多治見市市政基本条例(2007年2月施行)
(市民主権)
第2条 より良い地域社会の形成の主体は、市民です。
2 市民は、市政の主権者であり、より良い地域社会の形成の一部を市に信託します。
3 市民は、市政の主権者として、市の政策を定める権利があり、その利益は、市民が享受します。

参考文献
(1) 松下圭一『市民自治の憲法理論』(岩波新書)岩波書店、1975年。
(2) 松下圭一『日本の自治・分権』(岩波新書)岩波書店、1996年。
(3) 岡崎晴輝「市民自治と自己決定の理念」『政治研究』第52号、九州大学、2005年、1~23ページ。
(4) 中北浩爾「松下圭一と市民主義の成立」『立教法学』第86号、立教大学、2012年、94~108ページ。

付記
本拙稿は当初、「自治基本条例と市民福祉教育―駄々をこねる、やんちゃ坊主の2つの“フシン”―」というタイトルで「雑感」にアッフしようと書き始めましたが、引用の関係でやや長文になったことから、このカテゴリーにアップしました。

市民主権・市民自治と市民福祉教育

1995〈平成7〉年7月施行の地方分権推進法や2000〈平成12〉年4月施行の地方分権一括法などによって、地方分権改革が推進されている。それは、明治維新、戦後改革に次ぐ「第3の改革」ともいわれる。2011〈平成23〉年5月と8月、2013〈平成25〉年6月には、「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」(第1次一括法、第2次一括法、第3次一括法)が公布・施行された。こうした地方分権改革は、国から独立した地方公共団体が自らの権限と責任において、自主的・自発的な地方行政を行う「団体自治」の強化を求める。とともに、地域主権や住民(市民)主権の確立のもとで、住民(市民)主導・優位のまちづくりをめざす「住民自治」(「市民自治」)の推進を必要不可欠とする。
本論に先立ちここで、上述のうちから、ひとまず次の文言をめぐって若干のコメントを付しておきたい。「主権」とは、他に譲ることのできない、また他から侵されることのない最高の自己決定権。「住民」(residents)とは、県民や市・町・村民など、一定の行政区域に住んでいる人。「市民」(citizen)とは、市民社会や公共性などについての理解と関心のもとに、まちづくりへの主体的参加と協働を進めることができる人。「住民」は、生涯にわたる教育・学習によって、また相互交流や実践活動などを通して「市民」へと自己変革、自己変容する。「市民主権」「市民自治」は、単なる理想概念ではなく、未だ不完全であるが、未来に向かって実現せんとする規範概念。すなわちこれである。
さて、こんにち、国家統治から住民自治へ、ローカル・ガバメント(local government)からコミュニティ・ガバナンス(community governance)、ネイバーフッド・ガバナンス(neighborhood governance)への転換の必要性が指摘され、そのあり方が問われている。国家と国民、自治体(地方政府)と住民の関係は、これまでもっぱら、「支配者」対「被支配者」、「統治者」対「被統治者」という支配的・権力的関係、すなわち「上下の関係」にあった。1990年代以降、地方分権や地域主権が叫ばれ、その改革が推進されるなかで、時代状況は支配からの解放、権力かの自由、すなわち「対等・協力の関係」を求めている。まちづくりの主役である住民が地方政府や行政の運営に参加(参集、参与、参画)する、住民主導・住民優位の自治関係を形成する必要がある。自治体のあり方を決めるのは主権者としての住民一人ひとりであるという住民主権に基づいて、住民自治を充実、発展させていかなければならない。そして、地域社会の持続可能性を確保し、すべての住民にとって安全・安心で、豊かな地域社会の維持・再生を図らなければならない。いま、そうした状況と時期にある。
主権者としての「住民」を名実ともに住民自治の主体として位置づけ、「市民」へと形成、変容させるためには、自治体と住民との支配的・権力的関係を解放する。とともに、住民自らが、単なる行政サービスの顧客や、政治や行政の観客(「観客民主主義」)としてしか関与してこなかったという、これまでの意識の変革や状況からの脱却を図る必要がある。換言すれば、主権者としての住民が、その権利を能動的・積極的に行使することができる仕掛けと仕組みを創造、構築するとともに、一人ひとりの住民が、まちづくりへの参加について自発的・内発的に、主体的・能動的・自律的に意思決定し、行動することが肝要となる。
住民自治とは、平易にいいかえれば、「住民自らが考え、意思決定し、行動すること」である。その際、ある一定の地域を自分(自分たち)の「こと」や「もの」としてのみ考えることは、異質者や外部者を排除する排他主義を生み出す。共生や協働のない自治は、個人主義や利己主義を加速させ、社会的孤立を生む。留意すべき点である。
自治体(地方政府)の意思決定の主体は住民である。住民は、地域のありようを決定する主権者であり、主役である。また、自治体の政策立案・決定・実施は、自治体の首長や議員、行政職員などにその全てが委ねられがちであるが、それらには信託されている限りにおいてその役割や機能を果たすことが求められる。とりわけ、その地域なかでも近隣地域における個別具体的な諸問題や矛盾については、その解決や克服に向けて住民自らが主体的・積極的に、単独であるいは協働して政策を立案・決定し、実施することが必要かつ重要となる。そして、住民には、その自らの決定や行動を自由に実行することができるとともに、その結果については自己責任を負うことが求められる。自己責任の伴わない自治は、身勝手な利己主義や自己中心主義に陥る。これが「住民主権」や「住民自治」(「近隣自治」)の本義である。
ところで、地域の諸問題や矛盾について主体的・能動的・自律的に議論し、決定することができる住民(「市民」)は、果たしてどれほどいるのか。いわれるように、政治や行政、地域が抱える諸問題や矛盾、まちづくりなどに無知、無関心の住民は決して少なくない。その無知、無関心が、権利意識や役割(責務)意識の自覚を妨げている。とはいえ、そうした無知、無関心は必ずしも固定的・不変的なものではない。一人ひとりの住民は、生涯にわたる教育・学習によって意識変革や態度・行動の変容、自治意識や公共心の覚醒や醸成を期待することができる存在である。それも地域(近隣地域)における集団的実践としての参加と討議を通じて可能となる。参加デモクラシーと討議デモクラシーが要請され、その実質化が求められるところである。具体的には、民主的な参加と討議の“場づくり”からはじまり、住民自治のための住民の“意識づくり”、住民自治の推進に取り組むリーダー等の育成に向けた“人づくり”、そしてそれらを実現するための “仕掛けづくり”と“仕組みづくり”などが必要となる。
いうまでもなく、住民自治や近隣自治は、それ自体が目的ではない。それは、すべての住民にとって安全・安心で、豊かな地域社会の維持・再生を図るための手段である。住民自治や近隣自治の推進を図るに際して、手段の自己目的化に陥ることのないよう留意する必要がある。また、住民自治や近隣自治を実現するためには、希薄化した住民間の関係性を再生し、低下した住民間の連帯感や協働意識の醸成・向上を図る。とともに、近隣住民が抱える日常的な地域生活上の諸問題や矛盾に対する理解と関心、それらを解決するための具体的な実践活動や社会運動(市民運動)への主体的・能動的・自律的な参加を通して、地域社会の一員としての当事者(場合によっては、私事として受けとめる当事者性)意識や自治意識の醸成・向上を促す。これらが必要かつ重要となる。
なお、自治意識とは、地方自治や住民自治・近隣自治に関する知識や、自治運営についての関心や意見などをいう。それは、住民の地域・近隣に対する自覚と意識、日常的な地域生活上の必要と要求に支えられるものである。したがって、単なる知的理解だけでなく、具体的な実践や運動(「体験学習」)によって、その醸成・向上が図られることになる。その際、行政の透明性の確保と説明責任の遂行、行政からの住民に対する積極的な情報提供と住民との共有などが必要不可欠となる。
以上の諸点を福祉教育に関していうとすれば、「市民福祉教育」のあり方が問われるとともに、市民福祉教育を具体的に実践・展開する「場」や「機関」「組織」が求められることになる。そのひとつは、従来からの学校や社協、福祉施設、それに公民館などであるが、ここでは「市民活動センター」に注目しておきたい。その際の市民活動センターは、行政主導の市民活動「支援」センターではなく、行政や社協、NPO等の民間組織・団体などによって共同設置され、行政、社協、NPО、住民(市民)などによって共同運営されることが望ましい。そして、そこに、ひとつのプラットホームとして、「市民自治」「まちづくり」「福祉教育」などをキーワードにした「市民福祉教育推進プラットホーム」を形成し、福祉の(による)まちづくりのための市民活動・運動や協働活動の推進を図ることが期待される。そのプラットホーム(「横割りのゆるやかなネットワーク」)を開設・管理・運営するのは、行政、社協、学校、PTA、福祉施設、公民館、自治会・町内会、民生委員・児童委員、NPО・ボランティア団体、保健所、医師会、商工会議所・商工会などになろう。
最後に、イギリスの政治学者であるジェームズ・ブライス(James Bryce)が、その著『近代民主政治』(Modern Democracies,1921年)のなかでいった「地方自治は民主主義の学校である」ということばを思い起こしておきたい。地域の諸問題や矛盾に向き合い、地方自治の実践を展開するなかで民主主義を学ぶことができ、民主主義が育まれる、といった意味である。同様に、「福祉の(による)まちづくりは民主主義の学校である」ともいえようか。その点において、市民福祉教育は、真の自治と民主主義を確立するための教育活動である。
(小滝敏之『住民自治の視点と道程』公人社、2006年。小滝敏之『市民社会と近隣自治』公人社、2007年、等参照)

自己教育力と市民福祉教育

市民福祉教育は、福祉文化の創造や福祉の(による)まちづくりをめざして日常的な実践や運動に取り組む主体的・自律的な住民(市民)の育成を図るための教育活動である。市民福祉教育のこのような規定は、内実的には、子どもから大人まで、教育の全領域において、また生涯学習とのかかわりで「自己教育力」(self-directed learning、self-educational ability)の育成を必要とする。
自己教育力という言葉(概念)は、社会教育における基本的な概念のひとつである「自己教育」と同様に、多義的で、その解釈は多様であ。たとえば、稲川三郎は、その著『自己教育力を育てる指導の実際』(黎明書房、1985年)で、自己教育力とは、「字義的に解釈すれば、『自分が』『自分を』『教育する』『力』ということになる。あるいは、『自分で』『自分を』『教育することのできる』『力』ということになる。と言うと、『自分が自分を』『自分で自分を』というのであるから、同じひとりの自分の中に、『教育する自分』と、『教育される自分』とが、なければならないということになる」(70ページ)と述べている。稲川によるこの部分の説述については、平易で分かりやすいとはいえ、その本質すなわちその性格や内容などについて理解するには不十分であるといわざるを得ない。
ところで、学校教育の改善策のひとつとして自己教育力の育成を最初に提唱(政策提言)したのは、1980年代の中央教育審議会である。具体的には、第13期中央教育審議会に設置された「教育内容等小委員会」が、1983年11月にそれまでの審議結果を取りまとめた「審議経過報告」においてである。そこでは、「自己教育力とは、主体的に学ぶ意志、態度、能力などをいう」として、次の3点について説いている。(1)「自己教育力とは、まずもって、学習への意欲である。児童生徒に学習への動機を与え、学ぶことの楽しさや達成の喜びを体得させることが大切である」。(2)「自己教育力は、さらに学習の仕方の習得である。今後の社会の変化を考えると、将来の日常生活や職業生活において、何をどのように学ぶかという学習の仕方についての能力を身に付けることが大切である」。(3)「自己教育力は、これからの変化の激しい社会における生き方の問題にかかわるものである。特に中等教育の段階では、自己を生涯にわたって教育し続ける意志を形成することが求められている」(『文部時報』第1279号、ぎょうせい、1983年、32~33ページ)。すなわち、自己教育力は、(1)学習への意欲、(2)学習の仕方の習得、(3)生き方の探求(生涯にわたる自己教育の意志の形成)、の3つの構成要素からなる、というのである。
なお、この「『自己教育力』の育成」等の「報告」は、「答申」でないがゆえに、学習指導要領の改訂にはつながらなかった。また、自己教育力という言葉に関しては、教育内容等小委員会の報告が出される10年以上も前、1971年4月の社会教育審議会答申(「急激な社会構造の変化に対処する社会教育のあり方について」)のなかで、社会教育の基礎は「自発的な学習意欲」にあることが力説されている。中央教育審議会は、1981年6月に「生涯教育について」の答申を出すが、そこでは、「今日、変化の激しい社会にあって、人々は、自己の充実・啓発や生活の向上のため、適切かつ豊かな学習の機会を求めている。これらの学習は、各人が自発的意思に基づいて行うことを基本とするものであり、必要に応じ、自己に適した手段・方法は、これを自ら選んで、生涯を通じて行うものである。その意味では、これを生涯学習と呼ぶのがふさわしい」とされた。この点を付記しておく。
第13期の中央教育審議会教育内容等小委員会報告以降、自己教育力について述べているものに、1984年9月に内閣総理大臣(中曽根康弘)の諮問機関として設置された臨時教育審議会の答申がある。たとえば、1986年4月の第2次答申では、「初等中等教育の改革」に関する「教育内容の改善の基本方向」について、「初等中等教育においては、生涯にわたる人間形成の基礎を培うために必要な基礎的・基本的な内容の修得の徹底を図るとともに、社会の変化や発展のなかで自らが主体的に学ぶ意志、態度、能力等の自己教育力の育成を図る」と述べ、具体的には「創造力・思考力・判断力・表現力の育成」(『教育改革に関する答申(第一次~第四次)』大蔵省印刷局、1988年、87ページ)を重視している。また、同答申では、「これからの学習は、学校教育の自己完結的な考え方を脱却するとともに、学校教育においては自己教育力の育成を図り、その基盤の上に各人の自発的意思に基づき、必要に応じて、自己に適した手段・方法を自らの責任において自由に選択し、生涯を通じて行われるべきものである」(67ページ)。そのためには、「生涯学習を可能にし、促進し得るような社会の制度と慣行を生み出す学習社会の建設」(65ページ)をめざした、「生涯学習体系への移行」による「21世紀のための教育体系の再編成」が必要である、としている。
その後、第15期中央教育審議会が、1996年7月、「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」の第1次答申において、「ゆとり」のなかで「生きる力」を育むことを重視する、と提言した。その点に関して次のように述べている。「これからの子供たちに必要となるのは、いかに社会が変化しようと、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力であり、また、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性であると考えた。たくましく生きるための健康や体力が不可欠であることは言うまでもない。我々は、こうした資質や能力を、変化の激しいこれからの社会を『生きる力』と称することとし、これらをバランスよくはぐくんでいくことが重要であると考えた」。
次いで、2003年10月には、第2期中央教育審議会によって、「初等中等教育における当面の教育課程及び指導の充実・改善方策について」答申がなされた。そこでは、「生きる力」を知の側面から捉えた「確かな学力」の育成を進めるべきであることの考え方が示された。そして、「子どもたちに求められる学力としての『確かな学力』とは,知識や技能はもちろんのこと,これに加えて,学ぶ意欲や,自分で課題を見付け,自ら学び,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する資質や能力等までを含めたものであり,これを個性を生かす教育の中ではぐくむことが肝要である」と述べている。
「自己教育力」は、およそ以上のような答申や報告に基づく教育施策の歴史的変遷のなかで、今日の学校教育におけるひとつの鍵概念である「生きる力」や「確かな学力」などに包含される重要な能力として位置づけられている、といえよう。なお、発表(発行)の時期は前後するが、ここで、当時日本教育新聞編集局長であった有園格の次の論説に留意しておきたい。「自己教育力のとらえ方、考え方にはさまざまな解釈、論理の展開がみられる。しかしこれは自己教育力を人間の基本的な諸能力、価値志向、生き方の探究などを包括した統合概念として位置づけてきたからである。だからといって統合概念としての自己教育力の位置づけが間違っているとはいえないし、むしろ人間の問題を統合的にとらえる教育観および教育実践の目を育てることに役立つものと考える」(「教育改革論議と自己教育力」北尾倫彦編集『自己教育力を考える』(別冊指導と評価2)日本図書文化協会/図書文化社、1987年、18ページ)。
ここで、自己教育(力)に関するひとつの言説を紹介しておくことにする。今日おいてもしばしば引用あるいは援用される、梶田叡一のそれである。
梶田は、その著『自己教育への教育』(明治図書、1985年)で、「教師によって、またその学校での教育によって、教えられ育まれてきたものを土台として、自分自身でさらに学び、成長し続けることができるかどうかということ」、すなわち「自己教育の力を育てるということは、学校教育の持つ本質的な使命である。いや、教育という営みの全てが持つ本質的な使命と言ってもよい」(11ページ)。「自己教育とは、結局のところ、その人の生き方の問題にほかならない。(中略)自らの接するところ体験するところのすべてを、自己の認識の拡大深化のための糧とし、自己成長のためのきっかけとする、というのが自己教育である」(49、52ページ)と説いている。そして、自己教育への構えや意欲、そのための技能(「自己教育の構えと力」)を意味する「自己教育性」は、次の4つの側面が特に重要な意義をもつと考える。(1)成長・発達への志向、(2)自己の対象化と統制(コントロール)、(3)学習の技能と基盤、(4)自信・プライド・安定性、がそれである。それぞれについて、梶田は、(1)は、自分なりの「ねがい」(長期的な目標)と「ねらい」(当面の目標や課題)、そして「やる気」(達成と向上の意欲)をもって、自己の成長・発達をめざす力、(2)は、自分自身の現状や課題、可能性などについて認識、評価し、自分自身をコントロールして一定の方向へ向けていく力、(3)は、基礎的・基本的な学力(知識、理解、技能)と、それに基づく学び方の能力(知識、技能)、(4)は、以上の3つの側面を支える、自分なりの自信とプライド、そしてそれに支えられた心理的な安定性、であると述べ、自己教育力はこうした4つの側面から構成されるとしている(36~53ページ)。
以上から、ここで、論拠が不十分であることは承知のうえで、市民福祉教育のひとつの鍵概念となる自己教育力についての管見を述べておくことにする。
その要点は、自己教育力は学習への意欲の形成や学習の仕方の習得などとして狭く捉えるべきではない。自己教育力は、学校教育においてのみ育成されるものではない。それは、稲川がいう「自分が自分を」「自分で自分を」教育する力だけではなく、他者や、自分を取り巻く社会的状況や文化的環境、自分のライフステージやライフスタイルなどによって影響される。すなわち、自己教育力は、生涯にわたって自発的に学ぶ意欲(欲求と意志)や姿勢をもって、地域・社会の新たな変化や問題状況に主体的かつ積極的に対応し、自分ひとりであるいは他者と協働しながら、課題解決を自律的・能動的に図るために必要な能力である。それは、自らの生き方について、自省しながら是正・改善し、よりよい生き方を創造していく能力でもある。そういう点において、自己教育力は、「自己学習」「自己形成」「自己啓発」「自己統制」「自己陶冶」「自己実現」等々の概念を統合したものである。そしてそれは、福祉の(による)まちづくりにつながり、またつなげなければならない重要な概念である、といえよう。市民福祉教育は、こうした自己教育力をいかに育成し、その伸長を図るかが問われるのである。
なお、自己教育力に似た言葉に「自己学習力」がある。それは、知識や情報などを対象に、単に自分でそれらを学び、身につれる力を意味する。自己学習力は、自己教育力とは異なり、自らの「生き方」の問題やよりよい価値の創造を含まない言葉(概念)である。付記しておく。