1995年は、阪神・淡路大震災が発生し、のちに「ボランティア元年」と呼ばれた年である。その年の10月29日、日本社会事業大学を会場に日本福祉教育・ボランティア学習学会(以下、「本学会」)の設立総会・第1回大会が開催された。あれから早や20年が経過した。
2011年3月、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故が発生した。この大震災によって、いま、持続可能な地域社会や共生社会を如何に再生し創造するかが厳しく問われている。その意味において2011年は、「コミュニティ再生元年」と呼ぶべきであるといわれる(牧里毎治)。また、福祉教育・ボランティア学習は、「次の段階」(ネクストステージ)を描く必要があるともいわれる(原田正樹)。
本学会は、2014年11月に開催される第20回大会を節目に新たな歴史を刻むことになる。しかし、それを俟つまでもなく、本学会の存在意義と使命を考えたとき、東日本大震災を機に新たな歩みが始まっていなければならない。そういうなかで、福祉教育・ボランティア学習の内容や方法等の改善・充実を図るために、本学会に期待される役割は以前にも増して大きくなっている。
そこで、本稿では、本学会の20年を振り返るために、一面的ではあるが、全20回の全国大会の開催要綱から「大会趣旨」(「目的」「開催主旨」等)について資料紹介することにする。それは、本学会の過去を筆者(阪野)なりに“記録”に留めるだけでなく、その記録を通して福祉教育・ボランティア学習の新しい未来を切り拓くことを願うためでもある。その願いを十全にかなえるためには、各大会の「基調報告」「記念講演」「課題別研究」「自由研究発表」「シンポジウム」等の内容とそこでの討議を総合的に検討・評価する必要があることはいうまでもない。
なお、以下の資料は、各大会の『報告要旨集』(『発表要旨集』)と、そこに掲載されている「開催要綱」を基本に整理したものである(第2回大会を除く)。また、「大会趣旨」の前段に、各大会の開催期日、会場、開催地、大会テーマをそれぞれ記した。
本学会は、1995年11月に『学会ニュース』を創刊するが、各大会の開催前後に開催案内と事後報告の記事を掲載している。学会活動等を知るうえでも貴重な資料である。付記しておきたい。
第1回大会 1995年10月29日 日本社会事業大学 清瀬市
福祉教育・ボランティア学習の研究と学会活動のあり方を探る
ごあいさつ
今日、福祉教育・ボランティア学習は、一連の福祉改革や教育改革が進むなかで、国民の福祉活動やボランティア活動への理解と参加を促すために、また社会の変化に対応して主体的・創造的に生きる心豊かな人間を育成するためのひとつの方策として、その推進を図ることが強く求められています。それは、21世紀の日本の福祉社会を決するといっても過言ではありません。
そういうなかで、私たちは、福祉教育・ボランティア学習に関する研究課題や研究方法などについて、社会福祉をはじめ学校教育や社会教育などの研究者や実践家が連携・交流しながら体系的・学際的に研究するとともに、家庭や学校、地域社会、社会福祉施設、それに企業などにおける福祉教育・ボランティア学習の実践や福祉活動・ボランティア活動の具体的な進め方などを探ることをめざして、日本福祉教育・ボランティア学習学会の設立について準備を進めてきました。
この度、多くの皆様のご理解とご支援のもとに、設立総会と第1回大会を開催する運びとなりました。広くお誘い合わせのうえご参加くださいますよう、ご案内とお願いを申しあげます。
設立準備委員会/代表・大橋謙策(日本社会事業大学)
第2回大会 1996年11月23日~24日 日本社会事業大学 清瀬市
福祉教育・ボランティアを通して何を学び、何を伝えるのか ~福祉教育・ボランティア学習の理論化と体系化をめざして~
大会実行委員長挨拶
「福祉教育・ボランティア学習を通して何を学び、何を伝えるのか」―福祉教育・ボランティア学習の理論化と体系化をめざして―をテーマに第2回大会を開催する運びとなりました。
昨年は多くの人々の熱い期待と熱意によって学会を立上げ、順調に滑り出した学会を何とか軌道にのせ、しっかりとした基礎を作り上げてゆくことが今回大会事務局をお預かりいたしました私ども実行委員会の責任だと自覚しています。
それにしても、この一年の間、福祉教育、ボランティア活動を取り巻く社会状況は大きく変化し始めております。
例えば、全国各地で活発に議論が展開したのはNPО市民活動支援に関する立法化の動きに対してでした。この事は様々な提案が出され、法制化の動きが見られます。又、ボランティア活動の総合化を廻って拠点のあり方についての検討も、先の市民活動の支援立法化とのからみもあり、各都道府県段階で検討会がもたれ始めています。
これらはボランティア活動の広まりと深まりを背景に、実践の体系化、理論化を促すものでもあると考えております。
時代的背景を認識しつつ、我々学会を構成する者達がこの変動する状況に左右されることなく、実践の体系化、理論化に向けて議論を多面的に深める場を設定してゆくことを目指して、シンポジウムを組み、課題別研究という討論の場を設定しております。大変勇気づけられておりますことは自由研究報告に厚みがついてきたことです。
最後に、本大会が成功裡に終了することができますよう、参加者の皆様のご協力をお願い申し上げます。
第2回大会実行委員会/実行委員長・山崎美貴子(明治学院大学)
第3回大会 1997年11月29日~30日 森ノ宮アピオ大阪及びピロティーホール 大阪市
人、いのち、地域 ―教育の危機に立ち向かう
本音で語りあえる学会に
第3回目の「学会」を大阪で開催することになりました。学会のテーマは「人、いのち、地域―教育の危機に立ち向かう」であります。
子どもが育つ器は、家庭であり、地域であり、学校であります。近年、子どもとその教育をめぐる事件や話題は尽きません。
福祉教育やボランティア活動の学習性が注目されつつある背景は何でしょうか。教育の硬直化や衰退といった危機に、はたして福祉教育は特効薬たりうるのでしょうか。
本学会はスタートしたばかりの若い学会です。さまざまな課題が突きつけられています。参加者がこれらの課題を本音で語り合うことなしには「危機」の解決はありません。
実効委員会では、シンポジウムや課題研究など2日間のプログラムを通して教育や福祉の実践課題と、本学会そのものの学問的な課題にいささかでも答えられたらという願いをもって準備してまいりました。
自由研究発表にも奮ってご参加下さい。たくさんの方々の参加をお待ちしております。
第3回大会実行委員会/実行委員長・岡本栄一(西南女学院大学)
第4回大会 1998年11月28日~29日 長崎大学教育学部・長崎大学医学部記念講堂 長崎市
こころ・学び・動き ―私が変わる、地域が変わる
豊かで実りある大会に
日本福祉教育・ボランティア学習学会が、長崎で開催されることとなりました。初の地方大会に相応しいように、課題研究や自由研究、公開シンポジウムに長崎の特色を生かすことに努力をしてみました。
第4回大会のテーマを、『こころ・学び・動き―私が変わる、地域が変わる―』といたしました。
人と人が支え合う行為が、「福祉」あるいは「ボランティア」と呼ばれるようになってきました。その背景には、競争原理の考え方やもの中心の現代社会のあり方が、子ども同士や子どもたちを取り巻く家庭・学校・地域の連帯感の脆弱化と家庭・地域等の教育力の低下をもたらし、自分をコントロール出来なくなった子どもたちが、安易に自殺やいじめ、また、不登校やナイフ所持に走る情況があります。
このような現状に歯止めをかけ、真に「福祉」や「ボランティア」による支え合う社会の実現をめざすには、子どもたちに生きる力を身につけさせると共に、地域における学び合いとその動きを通して、地域に住む人々が、人としてのやさしさや連帯感に満ちた支え合うこころを持つことが望まれます。人を変えること、それは私を変えることであり、それによって、子ども、学校、家庭、地域を変えようとするものです。そこで、今大会は『こころ・学び・動き―私が変わる、地域が変わる―』をテーマにして、参加者が真摯に「福祉教育・ボランティア学習」のあり方について研究協議を行い、私たちの願いや思いが達成されるようにしようとするものであります。
学会及び参加者の学問的課題解決のため、長崎あげて準備をいたしてまいりました。多数の方々の御参加をこころからお待ち申し上げております。
第4回大会実行委員会/実行委員長・室永芳三(長崎大学)
第5回大会 1999年11月27日~28日 淑徳大学千葉キャンパス 千葉市
21世紀へのカウントダウン ~新しい座標軸を求めて~ 個人・家庭・地域・社会そして教育・文化
1999年。わたしたちは、この90年代最後の年に生きる中で、何につけても90年代を振り返るとともに、迫りくる2000年、さらには21世紀を意識せざるを得ません。もちろん、福祉教育・ボランティア学習についても同様です。特に、近年我が国の激動する社会福祉の分野、教育の現場、また変動する家族や地域社会という今日的状況と照らし合わせると福祉教育やボランティア学習のあり方は、今後の私たちの社会において重要な新基軸になっていくと考えられます。
そこで、本大会では2000年および21世紀を目前にして、福祉教育・ボランティア学習のあり方を、これまでの過去の蓄積をふまえつつ、新たに模索していこうとの思いを込めて、大会テーマを「21世紀へのカウントダウン~新しい座標軸を求めて~」としました。
また、本大会の開催地である千葉は、さまざまな意味で新しい部分と旧い部分を合わせもった地域です。そのまさに大会テーマにマッチした千葉で、皆さま方と福祉教育・ボランティア学習の模索をすることができれば何よりです。実行委員一同、至らぬ点もあるかと存じますが、来世紀への第一歩となるような学会づくりを目指したいと思っています。
皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。
第5回大会実行委員会/実行委員長・坂巻煕(淑徳大学)
第6回大会 2000年11月25日~26日 ホテルグランヴェール岐山・中部学院大学 岐阜市・関市
新時代の福祉教育・ボランティア学習を拓く ―総括と展望―
介護保険制度の施行や社会福祉法の成立、新学習指導要領の移行措置の実施など、福祉改革や教育改革の実践化が進むなかで、福祉教育・ボランティア学習への期待と関心が一段と高まっています。また、地域福祉を担う福祉マンパワーの育成や住民の主体形成のための福祉教育・ボランティア学習の取り組み、「総合的な学習の時間」や高校の教科「福祉」、完全学校週5日制等を視野に入れた学校内外における福祉教育・ボランティア学習の展開など、そのあり方が厳しく問われています。
21世紀を目前にした2000年という節目の年にあたり、日本のまん真ん中の岐阜において、「新時代の福祉教育・ボランティア学習を拓く」という大会テーマのもとに、これまで取り組まれてきた研究や実践を総括し、今後のあり方を展望します。
第6回大会実行委員会/実行委員長・渡邉栄(中部学院大学)
第7回大会 2001年11月24日~25日 とちぎ福祉プラザ 宇都宮市
―新世紀の福祉を創る― ~地域でのくらしを築く福祉教育・ボランティア学習~
新世紀をむかえて、わが国では政治、経済、社会のあらゆる場面で既成の価値観や枠組みを改革し、新しい価値観や枠組みを構築し始めようとしています。
教育の分野では、教育改革関連6法案が国会に提出され、「ボランティア活動等社会奉仕体験活動」等が位置付けられようとしている一方で、2002年からは「総合的な学習の時間」「完全週休2日制」が開始され、「開かれた学校づくり」への方向性を模索しています。
社会福祉分野では、社会福祉法の成立により、地域福祉への方向性が明確になり、地域での人々のくらしを支える新しい仕組みづくりがもとめられています。
このような福祉と教育の変革期において、それらと関係する福祉教育・ボランティア学習においては、学校と地域社会とが結びついた、学校での新しい福祉教育・ボランティア学習展開の課題、地域福祉を担う住民の主体形成や、市民のボランティア活動・NPО支援への課題、21世紀の福祉を担う人の福祉専門教育などについての課題があり、これらの課題に対して福祉教育・ボランティア学習の価値が改めて問われており、かつまた具体的な実践方法が喫緊に求められています。
そこで、栃木で開催される本大会のテーマ「新世紀の福祉を創る~地域でのくらしを築く福祉教育・ボランティア学習」とし、新世紀の福祉の目的となる、新しい地域でのくらしを築いていくひとつの方法として、福祉教育・ボランティア学習を捉え新世紀にふさわしい、価値や具体的な実践方法を模索します。
第7回大会実行委員会/実行委員長・石川渉(栃木県ソーシャルワーカー協会)
第8回大会(ひろしま大会) 2002年11月30日~12月1日 県立広島女子大学 広島市
―新しい公共の創造 ― 「市民参画型社会を拓く福祉教育・ボランティア学習」
大会趣旨
新世紀を迎えて、「まちづくり」「福祉」「教育」などへの市民の関心はかつてない高まりを見せており、市民参画型社会を具現化する取り組みが全国各地で展開されています。市民活動やNPО活動においては、その活動領域・分野・参加者はますます拡大し、市民社会、新しい公共の担い手として、主要な役割を担いつつあります。
このような状況の中で、社会福祉と教育は、<地方分権><住民参画>を指向する制度改革により、地域における相互関連性、結び付きをますます強めています。社会福祉の分野では、「地域福祉の推進」を基調に、福祉への計画段階からの住民参画の重要性と、これを可能とする福祉情報の提供、住民自身の福祉理解・学習の必要性と支援がこれまで以上に求められます。
教育の分野においても、2002年度より新学習指導要領に基づき「完全学校週5日制」「総合的な学習の時間」が施行され、児童生徒により豊かな地域での生活や、福祉などの幅広い体験学習場面を保障して行くことが関係者に求められています。
また、広島は人類最初の被爆地であり、“平和”を希求する市民による<平和学習><被爆者支援>が世代を超えて取り組まれてきました。
この広島大会では、<平和>と<福祉>について考えるとともに、福祉教育・ボランティア学習の実践・事例を相互に交流し、新しい市民社会を創造する理論と具体的実践方法について模索します。
第8回大会(ひろしま大会)実行委員会/実行委員長・吉富啓一郎(県立広島女子大学)
第9回とやま大会 2003年11月29日~30日 富山県総合福祉会館(サンシップとやま) 富山市
新しい「つながり」づくりと豊かな人間形成をめざして ~福祉教育・ボランティア学習を通して守るべきもの、変えるべきもの~
大会趣旨
グローバリズムとデフレ不況、急速な少子高齢化の下で、人々の生活は不安定さを増し、おとな社会における価値観の「ゆらぎ」は、児童・青少年の人格形成においても、かつてない深刻な状況をもたらしています。
教育の分野では、自ら生きる力の育成をめざして、総合的な学習など新しい実践が進められ、これまで以上に学校・家庭・地域の教育力の強化と相互の「つながり」が求められています。
福祉の分野でも、住民参画による公民協働のまちづくりをめざす地域福祉計画策定への取り組みが進められ、市町村合併の動きと並んで、新しい「つながり」が模索されています。
福祉教育・ボランティア学習には、新しい時代を生き、地域社会を支える住民が自らの主体形成をめざすとともに、21世紀の大半を担う児童・青少年の人間形成に寄与する使命が課せられています。
日本福祉教育・ボランティア学習学会第9回大会は、万葉の歌枕や立山・黒部などの美しく厳しい自然、真宗王国、越中売薬、忍耐・勤勉・進取の県民性、恵まれた居住環境、環日本海の交流拠点など旧き良きものと新しいものとが融合したここ富山の地で開催します。
本大会では、先人達や地域社会が築いてきた「つながり」を福祉教育・ボランティア学習の視点から見直し、今日の「ゆらぎ」を克服して新しい「つながり」を創り出していくための課題と方法について研究協議をします。
第9回とやま大会実行委員会/地元実行委員長・林溪子(富山短期大学)
第10回かながわ大会 2004年11月27日~28日 神奈川県立保健福祉大学 横須賀市
福祉教育・ボランティア学習の価値と展開 ―地域からの発信! 市民社会をいかに創造するか―
目 的
日本福祉教育・ボランティア学習学会は、1995年(平成7年)に福祉教育並びにボランティア学習の推進方策やその検証などに関し、学際的・実践的な研究と情報交換を目的に設立されました。その後の社会福祉改革や教育改革のなかで、福祉教育やボランティア学習は大変注目を集め、その実践は一層広がってきました。学習指導要領に位置づけされるとともに、学校だけでなく地域への広がり、また生涯学習の視点からの福祉の学びが重視されるようになってきました。そこでは福祉・環境・国際・人権など多様な領域でボランティアに関する実践と学習が積み上げられています。また地域福祉の推進の上でも、主体形成が大きな課題となっています。
しかし、一方で安易な福祉教育実践による形骸化が指摘されたり、より実践に即した教材開発や指導法、あるいは実践評価や推進システムの課題も浮かび上がっています。
また、国外では戦争とテロが繰り返され、国内でも自殺者が増えたり、虐待や暴力行為の増加など反福祉的な状況が進んでいます。こうしたなかで、あらためて福祉教育・ボランティア学習がもつ価値が問われています。
こうした中、今年で第10回の節目を迎えるにあたって、福祉教育・ボランティア学習の先駆的な取り組みをしてきた神奈川県での開催を企画しました。
この10年間の本学会の蓄積を総括し今後の展開を示すとともに、神奈川県内における実践の掘り起こしと研究の組織化をめざして開催いたします。
第10回かながわ大会実行委員会/学会長・山崎美貴子(神奈川県立保健福祉大学)、実行委員長・谷口政隆(神奈川県立保健福祉大学)
第11回こうべ大会~震災10年記念大会~ 2005年11月25日~27日 神戸大学 神戸市
ともに創ろう共生の社会 ―被災地からの学び―
目 的
「ボランティア元年」と呼ばれた1995年から10年の歳月がながれました。阪神・淡路大震災からの復興の過程は、企業・行政中心の現代社会に人間・市民の力(ボランタリズム)がいかに重要であるかを気づかせた過程といってもよいでしょう。ボランタリズムの高揚はこれからの社会にますます重要なものとなっています。
しかし、多くの犠牲のもとに得られたこの「気づき」は、今日、どのように社会に定着しているでしょうか? あらゆる人々が主人公となりえるような「福祉・共生」社会は、順調に形成されているといえるでしょうか? あらためて「一人ひとりの人間こそが社会を創造していくのである」という草の根民主主義の原則に立ち返り、<これからのありよう>を具体的に構築していくことが求められています。あらゆる人々が真に「福祉・共生」をキーワードとする社会形成の主人公になってゆく過程とはいかなるものか、また、その過程を支える仕組み・仕掛けとはいかにあるべきか、こうしたことに思いをはせなくてはならないでしょう。
本学会も設立して10年がたちました。わたしたちは、福祉教育・ボランティア学習を、<一人ひとりが「福祉・共生」社会の形成に十全に参加しえる環境を創ろうとする実践>と広く捉えています。当事者・子ども・市民のエンパワメントに資する福祉教育・ボランティア学習の輪郭を体系的に整理し、実践的・研究的課題を明らかにしてゆくことが本学会の使命です。
本大会は、「気づき」「思い」「学会の使命」を大切にしながら、<これまでの10年>をふまえて、研究的・実践的な新たな動きの基点をつくろうとするものです。
神戸での三日間、新しい出会いとつながり、または、これまでのつながりの再構築のなかで、ともに社会を創っていこうとする力強い息吹を発していきましょう。
第11回こうべ大会実行委員会/実行委員長・和田進(神戸大学)
第12回埼玉大会 2006年11月25日~26日 東京国際大学第一キャンパス 川越市
「人と人を結び きずなを紡ぐ 新しい社会観づくりをめざして」
目 的
21世紀という新たな時代を迎えた現代社会は、さまざまな変革を試みている。しかし、今日の社会問題からは、人間疎外の傾向が強まり、人間関係の希薄さが浮き彫りになってきている。
そして今日、人と人、人と社会、そして自然とのかかわりなど、「つながり」がさまざまな場面で注目され始め、新たな社会の価値を見出そうとしている。しかし、人間は、相互に結びあうとするとともに、異質な他者を排除し、抑圧することで対立することがある。特に、人々の生活基盤となる地域において、コンフリクトは生じやすい。
新たな社会の価値を考えていく上で、改めて自分と他者との問題を切り離して考えるのではなく、互いの違いを認め、相互に理解しあうことから、一人ひとりの”いのち”はかけがえのないものとして尊重できるよう、実践的に学ぶことが求められるのではないだろうか。
これからの福祉教育・ボランティア学習は、社会から疎外されかねない人々が孤立、排除されることなく、信頼と協働による新しい社会づくりをめざし、生活する身近な地域で支えあえる仕組みが創られるよう、ソーシャル・インクルージョンの具現化をめざす必要があると考える。
そのためには、生活する上で自他の福祉課題に気づき、互いに共有し、それらの解決に向けてともに行動する、人間としての学びを実践できる力を培い、地域社会資源を活用し、ネットワーキング社会を構築していくという、つまり「地域を紡ぐ」視点が大切にされよう。
そこで本大会ではテーマを「人と人を結び きずなを紡ぐ 新しい社会観づくりをめざして」として、地域を基盤とする福祉教育・ボランティア学習の展開について、実践と研究課題を明らかにすることから、新たな歩みの方向性を考える機会を創ろうとするものである。
第12回埼玉大会実行委員会/大会特別顧問・遠藤克弥(東京国際大学)、実行委員長・青木孝志(十文字学園女子大学)
第13回大会静岡大会 2007年11月24日~25日 静岡県コンベンションアーツセンター「グランシップ」・静岡英和学院大学 静岡市
「福祉と教育のつながりを深め、豊かな市民社会を創る」
目 的
わが国は、急激な少子高齢社会に伴なう社会的活力の低下や格差拡大等への対応策が求められており、その一環として市民による参加型社会を形成することが大きな課題となっている。
今般の改正介護保険法や障害者自立支援法等の新たな施策は、利用者自身のその人らしい地域生活が維持できるよう地域に密着した諸事業が位置づけられており、こうした人びとを地域社会で支える福祉力の向上への取り組みが今まで以上に重要性を増している。
また、教育の分野においては改正教育基本法においては、「生涯学習」や「学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力」等が、新たに新設され多様な「学びの場」の必要性、さらに学校教育としての福祉教育・ボランティア学習のあり方が検討されており、今後の教育関連施策に反映されることになろう。
こうした状況の中、地域社会や学校、職域等で展開されている福祉教育・ボランティア学習は、人権の尊重を基調として社会福祉問題を素材にした教育実践を通して、市民の主体形成を図り、福祉文化の創造を目指している。
そのためには、地域社会の諸課題の発見・把握を通し、分野・領域を超え、世代間をつなぎ、一人ひとりの市民が参加型社会を構成する一員として、課題解決に取り組む「原動力」としての役割が求められており、福祉教育・ボランティア学習の理念をふまえた実践方法等の深まりが必要となっている。
静岡大会では、「福祉と教育のつながりを深め、豊かな市民社会を創る」をテーマに設定した。静岡県は、福祉教育・ボランティア学習が実践されて40年の節目の年であり、今までに取り組んできた学校と地域社会のつながりの現状と課題を学びあい、これからの参加型の市民社会を創る「福祉」と「教育」の連携のあり方を探ることを目的に開催する。
第13回大会静岡大会実行委員会/実行委員長・志田直正(静岡英和学院大学)
第14回徳島大会 2008年11月29日~30日 徳島県郷土文化会館・四国大学 徳島市
「福祉教育・ボランティア学習の昨日、今日、明日 市民社会の創造とその実現を目指して」
目 的
今、日本の福祉と教育は経済の激流に翻弄され、両者の分断と格差社会の拡大がますます進んでいる。その中で、人口減少と産業格差に喘ぎながらも、子供民生活動、心の里親運動、善意銀行(日本のボランティアセンターのルーツの一つ)活動、そして老人大学など福祉教育・ボランティア学習を全国に先駆けて開花せしめた徳島県の実践とその歴史がある。
そこで、本大会は福祉教育・ボランティア学習の徳島の実践と歴史から福祉教育・ボランティア学習の昨日・今日を提起すると共に、生涯学習の見地から福祉教育の明日を展望し、確固たる市民社会の創造とその実現を目指すことを目的とする。
第14回徳島大会実行委員会/実行委員長・木谷宜弘(ボランティア研究所)
第15回あいち・なごや大会 2009年11月28日~29日 名古屋市高年大学鯱城学園・日本福祉大学名古屋キャンパス 名古屋市
「福祉教育・ボランティア学習の近未来を展望する ―共生文化創造への途―」
開催主旨
今日、私たちを取り巻く社会状況の厳しさは、貧困問題や自殺、虐待、凶悪犯罪など反福祉・反人権的な問題が次々に顕在化していることに示されています。また戦争や内戦は絶えることなく続き、世界各地で多くの人びとが苦しみにあえいでいます。しかしどんなに厳しい状況のなかでも、新しい未来を切り拓こうと努力している人たちの活動のなかには、人間としての尊厳や優しさを見ることが出来ます。そしてそこにはいのちと向き合う豊かな学び合いがあります。
福祉教育・ボランティア学習の実践が、今ほど求められている時代はありません。しかし、これまでの福祉教育・ボランティア学習活動は、福祉の理念を広げ、互いに理解を深めあううえで少なからぬ成果をあげてきたとはいえ、今日の厳しい状況を乗り越えて新しい時代を切り拓く力となるためには、これまで以上に創意に満ちた活動を積極的に追求し、新たな高みを目指さねばなりません。持続可能な社会を創り上げていくために、市民社会のあり方を問いつつ、そのなかで福祉教育・ボランティア学習の近未来をどのように展望するのか、あいち・なごや大会では、過去の実践に学びながら、現在の到達点や問題点を検討し、福祉教育・ボランティア学習のあるべき姿を明らかにするために、多角的に研究協議していきたいと思います。
第15回あいち・なごや大会実行委員会/実行委員長・宮田和明(日本福祉大学)
第16回ぐんま大会 2010年11月27日~28日 前橋市総合福祉会館・前橋商工会議所会館 前橋市
福祉教育・ボランティア学習の新たな価値を探る ~ノーマライゼーションの発展に向けて~
大会趣旨
私たちは誰もが幸せな暮らしを願いながら、日々の生活を営んでいます。しかし、今日の急速な少子高齢化や経済環境の変化は、私たちの生活に深刻な影響を及ぼしています。貧困問題をはじめ、孤立や孤独死、自殺、虐待、差別・偏見、人権問題、消費者被害、情報疎外、災害被害など早期に解決の必要な課題が山積しています。これらは、特定の人々の問題ではなく、まさに私たち自身が当事者であり社会的支援や対応が求められるすべての国民の問題です。福祉サービスが充実し制度が整っても、私たちがこれらの問題を認識せず、お互いを認めなければ、手を携えて問題を解決することは不可能でしょう。
福祉教育・ボランティア学習は、私たちの身近な福祉問題を学習素材として、これらと向き合い、つながり、市民として問題の軽減を図ることを目的として、教育や福祉の現場で長く実践を積み重ねてきています。そこにはノーマライゼーション社会の実現という基調があり、すべての人々の尊厳を守る確かな学びあいがあります。しかし、一方で高齢者や障害(障がい)者など支援を必要とする人々は福祉教育・ボランティア学習の対象として客体化されていることもあり、対等・平等なノーマルな社会的状況や生活環境にあるのか、あらためて問い直すことも必要ではないでしょうか。
ぐんま大会では、これまでの実践に学びながらノーマライゼーションの原点を再確認するとともに、これを発展させるための福祉教育・ボランティア学習の新たな価値を探ります。これからの実践・研究につながるよう研究協議していきたいと思います。
第16回ぐんま大会実行委員会/大会会長・鈴木利定(群馬医療福祉大学)、実行委員長・足立勤一(群馬医療福祉大学)
第17回京都大会 2011年12月3日~4日 同志社大学新町キャンパス 京都市
ボランタリズムから問う福祉教育・ボランティア学習の原点 ~大震災の年に改めて考える実践・研究のあり方~
開催趣旨
第17回京都大会は「ボランタリズム」を主題とし、「震災」をめぐる課題を柱のひとつとして進めていきます。3月に震災が発生してすぐ、ある大学生が「岩手県に支援ボランティア活動に行ってきます」と言い、友人と共に2週間の活動に出向いて行きました。彼らが支援活動に参加した動機は「京都でじっとしていられない」との思いからでした。
それは被災地で不自由な生活を余儀なくされている人たちの失意や悲しみや憤りなど、想像をはるかに超える悲惨な状況を目の当たりにして湧きあがってきた思いだったと想像できます。いま被災地で活動をしている多くのボランティアの人たちも、おそらく彼らと同じような思いで参加したのではないでしょうか。
このような、ボランティアの思いの根底にあるのは、さまざまな人たちのことが「気になる」あるいは「放っておけない」という意識です。このように他者の苦しみや悲しさといった不条理を放置できない精神こそが、ボランタリズムです。ボランティア活動はこのボランタリズムを基底にして始まる活動で、近年注目されている被災地支援のみならず、福祉・教育・環境・国際など多様な分野で多彩な広がりをみせています。そこには言い知れぬ「参加による学び」や「相手から貰う感動」があったはずです。
こうした視点から今回の大会では、ボランタリズムから福祉教育やボランティア学習のあり方を概観してみることにしました。一つには、福祉教育やボランティア学習の理念やその意味についてボランタリズムの視点から振り返ること。二つには、今回の「震災支援」を含め、さまざまな現代的な諸課題の解決に向かうなかでのボランタリズムを考えていくこと。そして三つには、市民社会創造に関わる上でこれからの福祉教育やボランティア学習を推進する主体(社協、ボランティアセンター、学校、NPOなど)のあり方を考えてみようというものです。
晩秋の京都、それぞれの研究を交差させながら福祉教育やボランティア学習の歴史と今にたち、過去と未来を行き来しつつ、あらためてボランタリズムとの関係性を深く見つめる機会になればと考えています。
第17回京都大会実行委員会/名誉大会長・岡本榮一(ボランタリズム研究所)、実行委員長・名賀亨(華頂短期大学)
第18回いばらき大会 2012年11月24日~25日 常盤大学 水戸市
大震災から問い直す「福祉教育・ボランティア学習」のちから ~かたる・つなぐ・くらし~
開催主旨
昨年3月11日に起きた「東日本大震災」は、今大会の開催地である茨城県内に多くの被害をもたらしました。それは被災当事者同士の支えあいを呼び起こすとともに、東北各県への思いにつながり、被災地支援の活動や取り組みを生み出しました。震災後の原発事故に伴う危険の増大と不安の拡大は、問題状況について情報を共有し、たすけあう必然ともなりました。
このような経験をいかに生かすかという視点から今大会では、震災の体験と震災後の活動を「かたる」こと、被災者と支援者を「つなぐ」こと、そしてこのような取り組みを日常の「くらし」に生かすこと、これらをいかに実現するかを探ろうと、「福祉教育・ボランティア学習」の「ちから」を検討していきます。
第18回いばらき大会実行委員会/実行委員長・池田幸也(常盤大学)
第19回いしかわ大会 2013年11月16日~17日 金城大学 白山市
実践と学びのコミュニティを拓く ~まーぜて いーいよ、みっけよう~
開催趣旨
「東日本大震災」とその後の我が国の社会状況は、生活困難に陥る中で社会的に孤立し、地域から排除された人々に対する「社会的包摂」の必要性を認識させてくれました。そのような「社会的包摂」の在り方を考えるとき、地域住民の意識変革とそのための福祉教育の役割について、より考察を深めていかねばならないと思われます。
石川県は、「善隣思想」が生まれ実践されてきた地であり、また「能登半島地震」や「ロシアタンカー油流出事故」等の被災から、復興のまちづくりを進めてきた地でもあります。そのような思想や経験を土壌に、福祉、医療、教育、ボランティアに係る人々が、「善隣館」を地域住民の生活ニーズに対応するサロンとして育んできました。
しかし、石川県もやはり能登・加賀の地域を問わず、都市化・情報化・国際化・少子高齢化等の社会変化の中でコミュニティの衰退と「善隣館」の機能縮小に直面しており、新たな「実践と学び」のコミュニティを「いかに拓くか」を模索しています。
いしかわ大会では、大会テーマを「実践と学びのコミュニティを拓く~まーぜて いいよ、みっけよう」としました。「まーぜて」とは、地域の中で孤立している人々や、学校の中で孤立している児童・生徒の心の叫びを意味し「いいよ」と、「みっけよう」はそのような阻害された人々の言葉にならない苦悩を理解し、発見し、包摂していく地域住民の意識変革の過程を、金沢の方言で現わしています。
本大会においては、石川県のこれまでの福祉教育実践及び直面する課題を通して、「善隣思想」と「社会的包摂」について議論を交わし、これからのコミュニティ創生の方法や課題を探求していきます。
第19回いしかわ大会実行委員会/大会長・奈良勲(金城大学)、実行委員長・平野優(小松短期大学)
第20会とうきょう大会 2014年11月8日~9日 日本社会事業大学 清瀬市
福祉教育・ボランティア学習の新機軸 ~孤立をのりこえて希望のある社会へ~
大会主旨
人権意識の広がりと高齢化の進行にともなって、社会福祉は従来の救貧的な発想から脱却することが求められ、大きな改革が行われてきました。そこでは、地域で暮らすために、行政的に提供されるサービスと並んで、住民の参加による福祉社会の創造が求められています。一方、教育の世界では、競争原理にもとづく画一的な教育が席巻している状況に対して、「生きる力」を育む教育が提起され、その中で、人権にかかわる体験を通した学び方や社会的有用感を味わうことの重要性が訴えられました。福祉教育・ボランティア学習は、そのような状況の中で重要な位置を占めてきました。
しかし今日、グローバル経済が進行する中で、雇用が不安定になり、所得格差や貧困が多くの人の関心になってきています。そして、それは経済的なことだけではなく、社会関係や生きる意欲にも影を落とし、孤立や社会的排除という問題につながっています。さらに、これらのことが世代を超えて繰り返されるという状況が見られます。このような民主主義の危機的状況を突破するために、個別の生活課題やニーズに応えて、制度をのりこえるサービスが創造されるようになってきています。また、さまざまな困難を抱える人やそのことに共鳴する人によって、当事者性を基盤にした学びあいも見られるようになってきました。そこでは、時間と空間の共有を大切にし、学習と実践を往復させる<省察>を軸にした新しい学び方が注目されています。
そのような最中、2011年3月11日に東日本大震災が発生し、多くの人命が失われるとともに、放射能被害で苦しむ人々が生まれました。これからの社会をどういうものにするのか。人が孤立させられ、生きづらい社会に向かうのか、それとも、希望を求めて人と人とがつながる社会に向かうのか、私たちは歴史の岐路に立っています。
福祉教育・ボランティア学習学会第20回大会は、以上のことを意識して、「福祉教育・ボランティア学習の新機軸 孤立をのりこえて希望のある社会へ 」をテーマとして掲げます。現代的な問題状況とそれに向き合う実践、そこでの学びの変革が先鋭化してあらわれる首都圏において、このことを深めたいと考えます。
第20回とうきょう大会実行委員会/大会長・大島巌(日本社会事業大学)、実行委員長・辻浩(日本社会事業大学)
以上を一瞥すると、各大会では、時局性や地域性などを考慮した企画や課題設定が行われているといえる。例えば、第3回大会では神戸連続児童殺傷事件に象徴される「教育の危機」、第5回・6回・7回大会では「21世紀の新時代」、第8回大会では「平和と福祉」、第11回大会では「阪神・淡路大震災から10年」、第17回・18回大会では「東日本大震災と支援活動」などをめぐるものがそれである。大会テーマに関していえば、第3回大会以降「地域」に焦点があてられ、また第8回大会では「新しい公共」「市民参画型社会」、第11回大会では「共生の社会」の文言が登場する。これらの背景には、ノーマライゼーションを踏まえたソーシャルインクルージョン思想の普及や、地方分権改革の推進に基づく地域福祉の進展という時代状況がある。また、「生きる力」や「地域力」「福祉力」の育成・向上を求める社会的認識がある。
いずれにしろ、本学会は、第1回大会で学会設立の趣旨が確認され、第2回大会以降「福祉教育・ボランティア学習の理論化と体系化」をめざしてきている。各大会では、その前回や前々回の大会の成果(到達点と残された課題)に留意しながら、また新たな課題を設定して研究・討議が重ねられている。その際、福祉や教育の制度改革をめぐるその時々の重要課題や、福祉教育・ボランティア学習の具体的実践における課題などが採りあげられている。しかし、そこでの研究・討議は必ずしもその本質や方法原理に迫るまでには至らず、歴史的・理論的な研究・討議も十分に行われているとはいえない。今日においても「安易な福祉教育実践による形骸化」(第10回大会)を指摘せざるを得ず、またICFの視点や「社会的包摂」の理念に基づく、「まちづくり」の主体形成(市民性形成)を図るための福祉教育・ボランティア学習についての実践と研究はいわれるほどには進んでいない。
社会的包摂に関しては、そこにおいて、あるいはその一方で、自立・自助の強制や自己責任の強要などによって一部・特定の人びとの排除や周辺化が生み出されている。2013年6月に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法、施行は2016年4月)や「子どもの貧困対策の推進に関する法律」(子どもの貧困対策推進法、施行は2014年1月)、同年12月に「生活困窮者自立支援法」(施行は2015年4月)が制定されたことは、その証左でもある。法律の制定の背景や課題について認識・理解する必要がある。また、包摂(あるいは「共生」)は、一面では、人間・社会・文化の画一化・均質化・平準化を促し、真の多様性や創造性の実現・向上を阻害している。留意しておきたい。
要するに、福祉教育・ボランティア学習やその実践の「理論化と体系化」は、未だ「道半ば」といったところである。
第20回大会では、「福祉教育・ボランティア学習の新機軸」が提起されよう。そこでは、時代の流れに飲み込まれない、ときにはそれに抗するための福祉教育・ボランティア学習の実践的・研究的課題が体系的に整理されることを期待したい。そして、本学会を構成する会員は、とりわけ平和と人権・民主主義の危機や政治の右傾化が進む今日的状況やその背景を認識しつつ、また理論(研究)と実践の往還を図りながら、実践の科学的分析や理論化・体系化、理論と実践の融合に向けての追究を多面的・多角的に、ねばり強く深めていく必要がある。
付記
本学会へのもうひとつの「思いと期待」については、拙稿「学会誕生の経緯、志のモノローグ―“天の時、地の利、人の和”を得て―」『ふくしと教育』通巻17号、大学図書出版、2014年8月、42~47ページを参照されたい。