「大橋謙策の福祉教育論」カテゴリーアーカイブ

老爺心お節介情報/第8号(2020年8月8日)

「老爺心お節介情報」第8号

Ⅰ 新型コロナウイルスの件に伴う生活福祉資金の「特例貸付」業務と市町村社会福祉協議会の本来業務

全国の市町村社会福祉協議会並びに県社会福祉協議会は、生活福祉資金の「特例貸付」業務に翻弄され、大変苦労されていることと思います。
しかしながら、それを単なる金銭貸し付けの業務に終わらせることなく、私は生活福祉資金の相談者はいわば社会福祉協議会の業務にとって“宝の山”なので、大変でもこれをチャンスととらえて、以下のようなことを意識化して取り組み、かつ少し落ち着いたらその分析をしてほしいと社会福祉協議会職員にお願いしてきました。

①貸し付けの相談に来られた方々は、従来社会福祉協議会関係者が関わっていた住民の方々なのか、それとも違う属性を有している方々なのか、分析をしてほしい。
②新型コロナウイルスの件に伴う「緊急事態宣言」による休業を余儀なくされたことに伴う生活困窮の方々だとしても、その生活の安定性がなぜなかったのかを分析して欲しい。
③今まで、社会福祉サ―ービスにつながっていなかった方々が今回申請されてきたが、それは今まで申請の必要性がなかったのか、あるけれど相談の仕方が分からなかったからなのか分析して欲しい。
④とりわけ、在住外国人の方々へのアウトリーチや外国人の方々のアクセシビリティがどうだったのかを分析して欲しい。
⑤「特例貸付」と言っても、“貸付”なので、時期をみて、“償還”業務として訪問できるので、相談者がどのような生活をしているのか、どのようなニーズを有しているのかを改めて調査把握して欲しい。
⑥相談に来られた「一人親家庭」の生活様式及び子どもの学習面、栄養面(食事面)の状況把握とその分析をしてほしい。
⑦相談に来られた方々の交際範囲、ソーシャルサポートネットワークの有無など、身近に相談できる人やちょっとした支援をしてくれる人の有無について分析して欲しい。

皆さんにはお忙しい中、不躾に上記のようなことをお願いしてきましたが、同じようなことを考えている資料を読みました。社協職員がこのように考えてくれているのだと、とても心強く思いました。是非、読んで参考にして下さい。

『ひょうごの福祉』2020年8月号、兵庫県社会福祉協議会
特集「社協が取り組む生活福祉資金・新型コロナウイルス特例貸付から見えたもの」

(2020年8月8日記)

老爺心お節介情報誌/第7号(2020年8月4日)

「老爺心お節介情報」第7号

Ⅰ 「農福連携」の新たな展開

我々、社会福祉関係者は、障害者支援の捉え方が、旧来的、救貧的支援に留まっていないだろうか。「社会福祉の普遍化」に伴い、実践現場は多様化しており、新たな発想がもとめられているのではないだろうか。

①「富山県農福連携ガイドブック」(富山県9―「農福連携コーディネーターを配置
農福連携の12のパターンが紹介されている。――私の教え子の吉田勇次郎さんのNPO法人愛和報恩会の実践も取り上げられている。

②「新ノーマライゼーション」2020年7月号 (公財)日本障害者リハビリテーション協会
特集は「みんなで一緒に楽しく働く施設、経営者も」で、私の教え子の山根正敬さんが「恋する豚研究所」(社会福祉法人福祉楽団)の実践「障害のある梨にかかわらず、すべての人が働きやすい環境で美味しいものを作る」を紹介している。
この冊子では、神奈川工科大学の小川喜道先生の「イギリスにおける近年の福祉制度改革」について歩行者等支援情報通信システムも紹介されている。

Ⅱ 子どもの形成と福祉教育

最近の福祉教育の論説と実践には正直物足りなさを感じていた。その要因は、子どもの形成に関わる分析と提供される機会としての福祉教育、福祉学習とが必ずしもマッチしていないと感じていたからである。福祉教育が求まれれる背景には、高齢化の問題以上に、子ども・青年の発達の“歪み”があり、それを解決していく方法の一つが福祉教育であることを再確認して欲しい。

①上記のことを考えるのに、『ふくしと教育』(大学図書出版、2020年、通巻29号)の門脇厚司先生の話はとても重要である。
門脇先生の考え方を基に、野尻紀恵先生の論文を踏まえて、地域での「子育ての社会化」のシステムを地域福祉計画の中で同作るかが問われている。
旧来の療育、治療的児童福祉、要保護児童対策の児童福祉実践、研究から脱皮し、市町村における子育て支援の新たなシステムを々作るかを考えなければならない。
従来の地域福祉研究者には、子育て問題へのアプローチが弱いか、欠落している。
今季の地域福祉計画づくりがとても重要な機会である。

②『江戸東京野菜の物語』大竹道茂著、平凡新書
この本は、江戸東京の伝統野菜の復活について書かれている本であるが、その復活の過程において学校菜園は有効に使われており、ある種の福祉教育の機会になっている。“村を育てる教育”につながる実践である。
伝統野菜の復活は、地域づくりにも関わるもので、地域福祉の立場からも学ぶことが多い。

(2020年8月4日記)

 

老爺心お節介情報/第6号(2020年8月2日)

「老爺心お節介情報」第6号

Ⅰ 「日本語教育の推進に関する法律」令和元年(2019)6月28日公布

新型コロナウイルスの件で、様々な緊急支援が行われているが、その中で、従来あまり接点がなかったネパール、バングラディシュ、ボリビア等の在住外国人の方々からの相談が増大してきている。東京都社会福祉協議会等では、翻訳ソフトを活用して相談に対応してきているが、この機会に在住外国人の日本語能力やその子供たちの教育環境にも我々は目を向けて、教育行政や労働行政、危機管理の防災行政とも連携しつつ、今後の対応が求められている。

Ⅱ 「地域共生社会政策時代における地域福祉、地域包括ケア推進の10のポイント」

2020年度は、市町村の地域福祉計画の見直し、策定が、介護保険事業計画の見直しと共に展開される年度として取り組み始められている。地域福祉及び地域包括ケアを推進するのには何が必要なのかを、ある自治体の計画策定委員会に説明するために作成したものである。コンパクトに何が必要かをお互いに整理し、共有化させたいものである。

「地域共生社会政策時代における地域福祉・地域包括ケア推進の10のポイント」

2015年より厚生労働省で政策化が進められている地域共生社会政策は、我々日本地域福祉研究所が従来唱え、各地の市町村と協働して、開発、実践してきた「地域福祉」「地域包括ケア」の考え方及びシステムの具現化である。

(1)「地域福祉」とは、住民の自立生活(6つの自立要件――労働的・経済的自立、精神的・文化的自立、生活技術的・家政管理的自立、身体的・健康的自立、社会関係的・人間関係的自立、政治的・契約的自立――とその前提としての住宅保障)を基礎自治体である市町村を基盤に保障していく社会福祉の新しい考え方である。

(2)「自立生活」の保障の目的、内容は憲法第25条に基づく、“最低生活”の保障という“救貧”的考え方ではなく、憲法第13条に基づく、全ての国民が幸福追求、自己実現を図れるように支援するものである。
それは1995年、国の社会保障審議会の勧告でも提唱された考え方である。

(3)「地域福祉」を推進するためには、住民と行政との「協働」が欠かせない。したがって、住民参加による市町村の地域福祉計画づくりが不可欠である。
地域福祉計画は、従来の高齢者分野、子育て分野、障害者分野を統合的に地域福祉の視点を踏まえて策定すると同時に、健康増進計画や自殺予防、再犯防止、成年後見推進、農福連携等の従来の社会福祉行政の枠を超えて地域住民の健康と暮らしを守り、生きがいのある、差別・偏見のない、住んでいて良かったと思える市町村をつくる計画である。
できれば、策定された地域福祉計画の進行管理も含めて、日常的に市町村の社会福祉行政について討議できる、条例設置による「地域保健福祉審議会」(仮称)の設置が求められる。

(4)住民の自立生活を保障していくためには、戦後の社会福祉行政が行ってきた属性分野毎の縦割り福祉行政(高齢者福祉課、障害福祉課、子育て支援課等)を再編成して、住民の出来るだけ身近なところ、アクセスしやすいところで相談をたらい回しさせることなく、かつ子ども、障害者、高齢者、生活困窮者等区別なく、福祉サービスを必要としているすべての人及びその家族、「世帯全体」への支援を一か所(ワンストップ)で行える総合相談体制システムの構築及びその拠点整備が必要である。

(5)住民の自立生活を保障していくためには「地域トータルケアシステム」(地域包括ケア)という医療、介護、福祉の連携が欠かせず、医療機能の構造化と地域化(中核病院と開業医(かかりつけ医)との病診連携、開業医(かかりつけ医)と介護支援専門員、訪問看護、保健師、障害相談支援員等との連携)を日常生活圏域の地域包括支援センター単位で展開できるシステムの構築が必要である。

(6)住民の自立生活を保障していくためには、制度化されているサービスと近隣住民などによるインフォーマルサービスとが有機化される必要がある。
わけてもサービスを必要としている人を地域から排除せず、孤立させず、その人を支えるソーシャルサポートネットワーク(情緒的支援、手段的支援、情報的支援、人として認め、その人なりができる役割を遂行できるように支援)づくりが重要な機能となる。
これらの機能、活動を展開するシステムとして、先に述べた総合相談体制とリンクする形で、コミュニティソーシャルワークを展開できるシステムの構築が必要である。

(7)コミュニティソーシャルワークを展開できるシステムには、別紙に書いてあるコミュニティソーシャルワーク研修の要件を体得した職員の配置が必要である。
それは、地域という面を基盤して従来業務を展開してきた社会福祉協議会の職員がこれらの研修要件を身に付けて配属されることが望ましい。
そのためには、地域のニーズキャッチ(課題把握)機能、潜在化しがちな福祉サービスを必要としている人を発見し、つながる機能、自立生活支援に関わる生活福祉資金、成年後見制度、日常自立生活支援等の業務を担当地域ごとに総合的に対応できるようにするための社会福祉協議会の事務組織の改編が望まれる。

(8)「地域福祉」の推進には、相談の窓口、災害時の福祉避難所等において 社会福祉施設が大きな役割を果たせる。
施設を経営している社会福祉法人は社会福祉法により、地域貢献をすることが義務付けられているので、地域包括ケアセンター圏域ごとに施設連絡協議会を設置し、民生委員、児童委員や地区社会福祉協議会と協働して問題解決を図るシステムの構築が必要である。

(9)「地域福祉」は、街づくりにも貢献できる。空家を活用しての居場所づくり、障害者が農業分野で働く「農福連携」、社会福祉施設が日々使用するお米や野菜を地元農家と契約して使用する地産地消の活動等「福祉でまちづくり」という考え方が重要である。
そのために、商工会、JA等との連携が求めれる。

(10)単身高齢者、単身障害者が増大し、家族、親族に頼ることができなくなってきている状況を踏まえ、「最期まで、地域で暮らし、地域に見守られ、地域で看取られら地域生活総合支援サービス」の構築が必要である。

(2020年7月23日記)

老爺心お節介情報/第5号(2020年7月20日)

『老爺心お節介情報』第5号

『なぜ認知症のある人とうまくかかわれないのか?』石原哲郎著、中央法規、2000円

イギリスの故トム・キットウッド先生が提唱した「パーソン・センタード・ケア」の考え方を分かり易く解説してくれていますし、認知症に理解を深める二様が沢山書かれています。
私の「快・不快」を前提にした「求めと必要と合意」に基づく支援とも相通ずる考え方、実践が数多く紹介されています。
と同時に、マサチューセッツ工科大学のオットー・シャーマン博士の「U理論」や、スコットランドの「リンクワーカー制度」等が紹介されており、コミュニティソーシャルワークの考え方にも大いに参考になるものです。

(2020年7月20日記)

老爺心お節介情報/第4号(2020年7月14日)

「老爺心お節介情報」第4号

Ⅰ 令和元年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業

『介護ロボットの活用に向けた人材育成に関する調査研究事業』報告書
『介護ロボットを用いた介護サービスの質向上と業務効率化の指導――「介護ロボット・ICT使用コンサルテーション人財」のための教育ガイドラインーー』
社会福祉法人 善光会 令和2年3月
社会福祉施設に介護ロボットやリフト等の福祉機器をやみくもに導入しようとしてもうまくいかない。社会福祉施設自身が、業務の改善、品質向上への取り組みを行う中で、その課題に即した介護ロボットや福祉機器を導入した場合にはうまくいくということが事例を踏まえて書いてあります。

Ⅱ 『新版 隣保館運営の手引き』(全国隣保館連絡協議会発行、2018年9月)

同和地区、被差別部落と言われている地区において、コミュニティソーシャルワークへの関心と取り組みが始まっています。同和地区、被差別部落の地域改善の拠点になる隣保館の法的根拠や歴史、運営の指針等が良くまとめられています。、

Ⅲ 『高校福祉科』――資料の問い合わせ先 一般財団法人社会福祉研究所
「新学習指導要領に基づく福祉系高塔学校の教育実態に関する調査研究」、同ダイジェスト版

「福祉系高校を知る5つのポイント」
高校福祉科生徒の介護福祉士国家試験合格率87・8%/高校卒業後の就職先は、介護福祉現場が90・1%/就職者の地元就職率は90・3%/福祉・介護福祉・医療分野への就職定着率は82・7%/高校生の介護実習を受け入れた施設の86・2%が受け入れて良かったと回答。

※寸感(他人の土俵に乗って、相手の領域の問題で相撲を取れるように、意識して努力せよ)

救貧的な社会福祉制度に基づく支援を行っている際には、左程他の分野の動向に関心を寄せることなく、社会福祉制度に関わる政策をウオッチングしていれば、実践も研究も事足りた。この歴史が長かったので、今でも社会福祉学研究者、実践者の中には、社会福祉政策との関係だけで物事を考えている人が多い。
1980年代半ば、私は社会福祉研究者、実践家、社会教育研究者、実践家は“出されてきた政策には敏感であるが、政策が出されてくる背景には鈍感である”という指摘をしてきた。私は“出されてきた政策に敏感になるのは当然であるが、それ以上に出されてきた政策の背景に敏感でなければならない”と考えてきた。
しかし、いまや社会福祉は地域での自立生活支援を目的とするソーシャルワーク機能を展開する時代である。かつ、社会福祉政策も「地域共生社会」を創造するという社会哲学、社会システム、地域創生に関わる政策になってきている。
このような状況の中では、社会福祉学研究者、実践家はよほど関心と交流のウイングを広げないと時代に対応していくことができない。
私の恩師の小川利夫先生は、私に対し、視野狭窄、タコ壺論者と良く叱り、“他人の土俵に乗って相撲を取れるようにならなければ一人前とは言えない”といい、自分の土俵に相手を連れてくるのではなく、他人の土俵に乗って話ができるように、意識して広い他分野へ関心を持つ事を奨励した。私は、当時、自分の分野さえもカバーできないのに、他分野まではとてもと思いつつ、他人の話題に付いていこうと背伸びをしていた時期があった。
今の「地域共生社会」政策時代にあっては、地方自治論、地域経済論、都市計画論、社会システム論等の知見や研究動向も踏まえなければならない時代になってきている。
そのような中、“地域福祉”関係者は、必ずしも社会福祉施設関係者と連携、協働ができていたとは言えなかった。ここにきて、社会福祉法人の地域貢献の急速な展開の中で、社会福祉施設関係者と連携、協働が求められているが、“地域福祉”関係者はどれだけ社会福祉施設、施設を経営する社会福祉法人の状況を理解しているのであろうか。
社会福祉法人の地域貢献を声高に言うのではなく、施設法人が現在どのような課題に直面し、苦労しているのかを真摯に、謙虚に学びながら施設法人と社会福祉協議会、民生委員とが協働することが「地域共生社会」政策の具現化に繋がることになる。

(2020年7月14日記)

老爺心お節介情報/第3号(2020年6月29日)

「老爺心お節介情報」第3号

Ⅰ 一般財団法人長寿社会開発センター『生きがい研究』第26号(令和2年3月刊)

「独居高齢者の社会的孤立の課題と予防方略における精査の検討」
田高悦子(横浜市立大学病院医学研究科地域看護学分野教授)
「都営住宅における高齢者が感じる孤独死の不安と孤立化の現状に関する研究」
福島忍(目白大学人間学部人間福祉学科准教授)
「高齢者の社会関係と生きがいとの関連を改めて考える」
澤岡誌野(公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団)

高齢者の孤立の問題、一人暮らし高齢者の生活支援のあり方、介護予防等の施策が進められているが、どうみても縦割り行政である。地域福祉関係者はもっと市町村の社会教育の動向、保健分野の介護予防の動向に関心をよせ、出来れば一体的に取り組む可能性を探っていく必要がある。
私は、1985年に『高齢化と教育』(中央法規、室俊司共編)で、“高齢社会を共に生きる”ためには、教育、社会福祉、保健の横断的対応、世代交流を含めた対応の必要性を指摘したが、研究関心、実践動向はその当時より“縦割り”になっていないか。
また、1992年に「高齢者の生きがい対策に関する調査研究」(調査主査・千葉和夫日本社会事業大学教授)を行い、高齢者の生きがいと社会参加の重要性を論じている。
更には、1994年に東京都議会事務局の『調査資料77』の資料作りを担当し、かつ「高齢者の健康・生きがいづくりと地域自治体の役割」を執筆し、社会福祉の自立概念の再検討、「第3の人生」のライフ、福祉コミュニティの形成における高齢者の役割等について論述した。
1990年前後における“高齢社会対応策”に比し、今日、地域共生社会づくりといわれながら、地域福祉分野での論説は“視野が狭すぎる”のではないか。上記に挙げた文献の内容には必ずしも賛同しないし、評価もしないが、地域福祉関係者の視点を拡げておくためにもそれらの文献にも“目を通す”必要があるのではないだろうか。

(2020年6月29日記)

老爺心お節介情報/第2号(2020年6月2日)

「老爺心お節介情報」第2号

Ⅰ 新型コロナウイルスの件でも在住外国人の生活問題にも関心を寄せましょう

① 「外国人労働者の生活課題とソーシャルワーク」(『ソーシャルワーク研究』46-1、相川書房
② 「滞日外国人支援基礎力修得のためのガイドブック」公益社団法人日本社会福祉士会、2019年3月
③ 『多文化福祉コミュニティーー外国人の人権をめぐる新たな地域福祉の課題』 三本松政之、朝倉美江編著、誠信書房

(一読寸評)
『多文化福祉コミュニティーー外国人の人権をめぐる新たな地域福祉の課題』
本書を“一読”しての感想です。今後、読み込んだ後の評価は変わってくるかも知れませんが、取り敢えず本書を頂いたお礼として書かせて頂きます。

①「はしがき」に書かれている韓国の李先生の取り組みの中に、今日われわれが考えなければならない実践課題、理論課題があると思いました。
そのことが、後の章の中で必ずしも意識化されて書かれてないように受け止め、少し残念でした。
日本でも「移住者」に関しての法制上の問題、生活上の問題の“事象”については、それなりに研究が進んできたかと思いますが、その底流にある“社会的排除”の論理との関わりに関する理論研究が必ずしも深められていないと感じています。
② 平野隆之先生の論説である「主体」と「空間」を引用されていますが、私もそれは同じ考えです。ただ、私の地域福祉研究においては、それでは「主体」をどう形成するかを抜きにして“コミュニティ”づくりを語れないと考えてきたことです。
「移住者」の主体形成、生活支援(これはアメリカのハルハウスがイギリスのトインビーホールの考え方と違えたところです)をどういう形で展開するかです。イギリスのコミュニティソーシャルワークの定着化においても、これが大きな問題で、特にロンドンのケンジントン・チェルシー区のスペシャルパッチ(精神疾患の患者やエイズ患者の集積地と同時に「移住者」が集積した地区)の課題でもありました。
他方、「移住者」を受け入れる地域の“原住民”の意識と行動の変容問題です。日本のように稲作農耕文化による「共同」と「土着」がDNAに浸み込んでいる住民に働き掛け、“共に生きる”認識と行動への変容をどう作るかの問題です。
私の一つの仮設的実践は福祉教育による地域福祉の4つの主体形成をどう図るかでした。
この点の考察が殆どなかった点が残念です。この課題こそ、李先生の認識とも関わってくるのではないかと思いました。
③ 本書の編集で、「読書案内」、コラム等はとても参考になりますね。

Ⅱ 地域福祉計画策定や潜在化しているニーズへのアウトリーチを考える課題の一つが、単身障害者の把握とその支援のあり方です

① 「気分『感情』障害(躁うつ病を含む)の総患者数は、平成8年と度比べると、29年は男女とも約3倍増加している」
(『厚生の指標』2020年5月号、Vol.67 No、5 P51 図グラフのページ)
② 新型コロナウイルスの件に関わる申請者への支援等を考える際に、なぜその人の生活が脆弱なのかを、その人、家族のソーシャルサポートネットワークの脆弱性に着目することが重要である。そのために、インフォーマルケアのエコマップをどう描けるかの能力が問われる。

Ⅲ 「大橋謙策3度目の四国お遍路喜寿紀行」の前編分を送ります

写真付きで編集したのですが、容量が多すぎて、添付ファイルでは送れません。文章のみのを取り敢えず送ります。

(2020年6月2日記)

老爺心お節介情報/第1号(2020年5月28日)

「老爺心お節介情報」第1号

社会福祉協議会の関係者の皆様
地域福祉学会の関係者の皆様

皆さんお変わりなくお過ごしでしょうか。新型コロナウイルスの件では、未だ予断を許しませんが、呉々も留意の上頑張っていきましょう。

私は、この3月で東北福祉大学大学院を退職しました。少し、閑になるので、時々皆さんに一方的に、私が見て、読んで関心を持ち、皆さんと情報を共有しておいた方がいいと思われる情報を一方的に送ります。取捨選択して使って下さい。

ただし、大学教員を辞めるということは、教育・研究上迫られて情報を集めるとか、その立場にいるから自然と情報がはいってくるとかということが無くなり、皆さんが職務上知りえていること以上には情報を把握していないかも知れません。まさに、私が知りえたレベルでの情報を独善的に取捨選択して、「お節介爺さん」として送り届けるものです。そんな“お節介”は要らないという人は遠慮なく申し出て下さい。

① 高橋良太著「我が師を語るーー地域にある住民の福祉活動を掘り起こし、分析・整理し全国へ」
(雑誌『ソーシャルワーク研究』46-1、181号、相川書房)
# ルーテル学院大学名誉教授の和田敏明先生のことが書かれています。

② 山野良夫著「山里の拠点で、『引きこもり』、『ニート』の若者が地域活性化に向けて活動」
(全国社会福祉施設経営者協議会機関誌『経営協』2020年4月号

③ 『災害派遣福祉チームの育成に関する調査研究事業』2020年3月、富士通総研
# 令和元年度生活困窮者就労準備支援事業費等補助金・社会福祉推進事業。
## 今回の検討会には、全社協もきちんと参加しています。
### (株)富士通総研 国の医療・福祉分野の調査から検索できます。

(2020年5月28日記)

福祉教育・ボランティア学習の理論化と体系化の課題

出所:福祉教育・ボランティア学習の理論化と体系化の課題/第2回大会・基調講演/日本福祉教育・ボランティア学習学会、1996年11月23日。
謝辞:転載許可を賜りました大橋謙策先生と日本福祉教育・ボランティア学習学会に衷心より厚くお礼申し上げます。