「鳥居一頼の世語り」カテゴリーアーカイブ

正しく怒ろう

心優しい人だった
人を疑うことなど ほとんどなかった
善意あふれる人だった
人の過ちを咎めることなど したことはなかった
信望の厚い人だった
人の悪意をなじることなど 一度もなかった

相手の不誠実な態度と公務怠慢に 憤りを感じながらも
心優しい人は 自責の念にかられた
自分の人格的な未熟さが 事態を招いたのではないか
自分の軽率な言動が 反発を招いたのではないか
相手を責めることなく 自らを叱責した
自己否定の感情が 心を支配してゆく

心優しい人は 自壊寸前だった
自分の立ち位置が だんだん見えなくなった
急速に思考力も判断力も萎えて 不安が心を満たした
負のスパイラルから なかなか抜け出せなかった

心優しい人は 苦しみながらも問題の本質を理解した
相手の人間性とその公務意識に そもそもの問題があった
憤りが沸々と湧いてきたが 怒ったことの経験がなかった
その憤りに どう向き合うのかわからなかった
その憤りを どう処理するのかわからなかった

相手は人の良さを当て込んで 優しさにつけ込む
相手は反撃のないのを見込んで 甘く見てつけ入る
相手はしたたかに立ち回って 責任逃れの詭弁を準備する 

相手に怒りをぶつける
どう怒りをぶつけていいのか 戸惑うばかりだ
相手を責める
どう責めたらいいのか 皆目見当もつかない
相手が改心する
どう改心させるのか 不穏な気持ちが先立った 

私憤ではない 公憤である
私憤としての怒りは 時に自身の人格を傷つける
公憤としての怒りは 正当性が担保されなければ誹謗となる
仲間の支持を取り付け 正しく怒ろう
身勝手を許してはならない
仲間の支持をバックに 正しく怒ろう
公務怠慢を放置してはならない
仲間とともに ブレることなく正しく怒ろう
曖昧な妥協は 根治には決してならない

心優しい人たちの公憤とは
感情論ではなく 不始末への正当な改善要求そのもの
建前論ではなく 本音で迫る人材配置への改革要求そのもの
理想論ではなく 市民参画の道を拓く協働要求そのもの

〔2021年3月19日書き下ろし。人の良さにつけ込む言動が、有能な人材を失望させ市民活動を後退させる。市民は行政への正しい怒り方を身につけたい。要検証〕

民生委員信条に生きる

憤りに 小さく震える肩
悔しさに きつく噛む唇
やるせなさに 萎えてゆくおもい
傷心に のしかかる重責

不本意な諍(いさか)と抗(あらが)い
踏みねじられる誠意
許しがたい仕打ち
放置できぬ対応
避けられない対立

無能な者が 我が物顔で職責を汚す
そうでなければ まだ交渉の余地はある
無能な者は 人事考課の結果が示す
そうでなければ 異動まで我慢はできる
無能な者ほど 自己顕示欲を誇示する
そうでなければ やるべきことをわきまえる

市民とつなぐ 民生委員担当の無能さが際だった
なぜここに配置されたのかも 不思議だった
定年間近でも変わり者でも 市民は受け入れる
無能と評価されても 市民が支えてくれる
我慢してもらえるなら御の字 とでも考えたのか

開き直ったその言動は
利己的な気質と 職務へ軽視をさらした
心ある民生委員の意欲は 低下してゆく
心ならずも離叛し 寛容を捨てるしかなかった
活動が滞ることへの ジレンマに苦しみもがく

市民と協働して 積み上げねばならぬ福祉
市民が寄り添うことで 支えなければならぬ福祉
ますます重要な福祉の担い手を 支えきれなければ
まちの福祉施策は頓挫する
綿々と積み上げてきた実績を 評価しなければ
まちの福祉施策は信頼を失う
他人事に時間を費やすボランタリーな人を 尊重しなければ
まちの福祉施策は人材を手放す

まちの人も予算も収縮してゆく時代に
市民が担うべき福祉の現場とその人なりを 育て支えることこそ
行政が為さねばならぬことと わきまえたい
安直に福祉に思いなきものを配置する愚弄は 不信を増長させる
福祉と市民をつなぐ心ある人材は いまこそ求められている
コーディネーションする福祉の資質は 市民が育てることを心したい

行政と市民との板挟みになりながら
時に逃げ出したくなる事態に 心を折りながらも
プレッシャーに 押しつぶされそうになっても
焦燥感にかられ 立ち止まってしまっても
気力をふり絞り 福祉と向き合う民生委員がいる
決してひとりぼっちにしてはいけない
民生委員信条に生きる 気高き市民と協働してこそ
福祉の施策は 血の通った温情となる
民生委員は 行政の僕(しもべ)では決してない

※民生委員児童委員信条
わたくしたちは、隣人愛をもって、社会福祉の増進に努めます。
わたくしたちは、常に地域社会の実情を把握することに努めます。
わたくしたちは、誠意をもって、あらゆる生活上の相談に応じ、自立の援助に努めます。
わたくしたちは、すべての人々と協力し、明朗で健全な地域社会づくりに努めます。
わたくしたちは、常に公正を旨とし、人格と識見の向上に努めます。

〔2021年3月18日書き下ろし。自治体の人事異動の時期である。福祉行政の上で不適切な人材の処遇を本当に配慮しているのか、疑問である。市民力を見下してはならない〕

ともに在る道

人生に物足りなさを 感じています
存在そのものが 薄っぺらな気がします
幸せの実感は ほとんどありません
かといって 不幸というわけでもありません
物足りなさや薄っぺらさは 一体どこから来るのでしょう

あの男は いつもエネルギッシュで楽しそうだ
あの子は 思いっきり存在感をアピールしている
あの人は 誰にでも笑顔を周りにふりまく

幸せの実感の軽重
幸せの比較の大小
幸せの時間の長短
幸せの本質の貧富

どんな物差しで計るのか
どんな秤で量るのか
どんな数値が満足度となるのか

いつも幸せの度合いを 他人と比べる
時に安心し 時に不安になり
行ったり来たりで 疲れてしまう

他人と比べるって つまんなくない?
他人よりも幸せって ほんとかな?
幸せを競い合って なんぼのもの?

そこに見える利己心
さもしい妬(ねた)み
卑しい嫉(そね)み
心根の歪(ゆが)み
そして醜い貪欲さ

自己本位の秤に振り回されて
存在を薄っぺらにしてしまう
せめて他人の信託を秤にかけて
存在の重さを計ってみませんか
ゼロならば救いようはない
ちまちまと孤独に生きようか

そうなりたくないのなら
他人と比べて一喜一憂するよりも
他人と〈ともに在る道〉を見つけたい

〔2021年3月18日書き下ろし。他人と自分の境遇を比べる根柢に、さもしい利己主義が顔を出す〕

生き地獄をみる

自助と互助を 声高に世間は訴える
自分の身も家族も護れないものは 自業自得だと突き放す
自己責任が取れぬものは 存在する価値もない
極貧であろうが重篤であろうが 知ったことか
仕事をなくし 家をなくしても 差し伸べる手はない
この世は 生き残るに値するものだけが選ばれる
去りゆくものは ただ苦しむだけの運命を嘆くしかない
疫病・飢餓・天災・不況の波は 助かるものしか残さない
命乞いしても 不幸の連鎖を招くだけだと諦める
生きていることすら 無駄なことと悟るがよい
無知・無能なものは 無下に捨てられていくしかない
ましてや つまらぬ同情を求めても仇となる
死を選ぼうが 嘆き悲しむものすらいない
そもそも 世の乱れは愚なるものたちがいるだけのこと
虐げられ卑しめられ辱められ屈しながらも
生きながらえるには 息を殺して影に生きるしかない
選ばれしものも いずれ奈落の淵にいることを自覚せよ
 
今生に生き地獄がある
選ばれた人間の欲が蠢(うごめ)き 弱者をいたぶり殺す
今生に生き地獄をみる
選ばれぬ人間の欲は萎み 強者にいたぶられ殺される
今生に生き地獄を知る
利己心に憎悪が満ちて 互いの身も心も殺戮しあう

希望の一筋の光すら届かぬ世界で 
恥辱にまみれるものたちが 悲歎のうめき声を吐く
絶望の危機に瀕するものたちを 救うのは何だろうか?

〔2021年3月17日書き下ろし。地獄図以上の悲惨な世界が今生で起きていることに目をつぶってはならない。こんな世界を許してはならない〕

後払い

とばっちりを喰らいました
あの〈ぽんつく〉のお陰です
そこで後始末の作法です

数年後の後払い
まずは不足分払ってチャラにして
強い口調で言い切ります
絶対接待は受けてません
いつも割り勘です
ならば手土産まで用意して
出かける神経わかりません

数年後の後払い
ツケきくだけでもお見それしました
世間の常識覆す鈍感力
強気で開き直る虚勢力
ほおかむりの上手な人ほど
絶対と言い切る言葉は信用おけぬ

数年後の後払い
官僚は後塵拝し意気消沈
政治家は後腐れ残して意気揚々
絶対無いと断言するのはそちらの勝手
後味悪いこの始末
判断するのはあなたじゃない

見え透いた 弁解 詭弁 言い繕い
後出しジャンケン 見飽きた聞き飽きた 
関係者の皆さん
「後払い、まだ残金残っています」

〔2021年3月16日書き下ろし。2月2日『封印された絶対』参照。政治家の絶対は、絶対にありえない〕

夢を狩る

夢を狩れ
オオカミとなって 荒野に駈けよう
自然とひとつになって 心に響く音を狩れ
自然と戯(たわむ)れて 心に迫る言葉を狩れ

夢を狩れ
オオカミとなって 果敢に挑もう
自然といのちの調和に共鳴する 旋律を狩れ
青春の光と影に揺れ動く おのれ自身を狩れ 

夢を狩れ
オオカミとなって 貪欲に青き炎を燃やそう
授かりし感性を磨き 詩を旋律に踊らせよ 
狩りの獲物をさらし 批判を恐れず評されよ

夢の狩人となった
十九歳の誕生日を祝う

〔2021年3月15日書き下ろし。孫が夢の狩人になったことが素直に嬉しい。青春を駆け抜けていく青い炎が眩しい〕

猿になりたい

見猿聞か猿になりたい
低俗な情報の海に沈没寸前
見たくもないのに強いられる
知りたくもないのに聞かされる
溺れていても手は貸さず
溺れるままに捨て置いて
悪しき者は咎められることもなく高笑い

見猿聞か猿になりたい
世捨て人になれたなら 幸いか
しがらみを捨てたなら 身が楽か
無関心を装えば 救われるのか
悪しき者には有難いと感謝され
弱き者たちは一層苦難が続く

言わ猿にもなれそうもない
黙っていられない世の不条理
許しがたい不正と欺瞞
訴えたい正義と倫理
世に憚る者であっても
為すべき事を為さぬ悔いこそ
猿にも劣ると知らされる

※見猿聞か猿言わ猿:打ち消しの「ざる」を「猿」にかけた言葉。三猿 (さんえん)のこと。都合の悪いことや余計なことは,見ない,聞かない,言わない,ことの意で使う。

〔2021年3月12日書き下ろし。政治家の詭弁に食傷気味になりつつも、猿にはなれなかった〕

生まれてきた理由

The two most important days in your life are the day you were born
and the day you find out why.   by Mark Twain

人生で一番大切な日
生まれた日と
生まれた理由(わけ)がわかった日

生まれなければ 永遠に存在しない
生まれることで 奇跡の命を授かる
生まれたことで 人として生きる

幽遠な宇宙の摂理は 地球に生命を宿す
悠遠の彼方から 連綿と命の鎖を繋ぐ
唯一無二の存在を 尊厳するに充分な根拠

人として 命あるかぎり生きる
人ゆえに 人と社会に生きる
人として 四苦八苦に翻弄され生きる
人ゆえに 幸福を求め願い生きる

あらがい苦渋する
虐げられ苦悲する
卑しめられ苦辛する
憎み合い苦悩する
生きるに なんと苦悶苦闘することか

人柄を尊ばれる
能力を認められる
善行を称えられる
喜怒哀楽を分かちあう
生きるに なんと歓天喜地することか

今生に生を得た理由を知るには
残された時間は ごくわずかだ
解を求めるには 自他との真摯なかかわりしかない 
生きるとは なんと味わい深いおもしろきものなのか

※四苦八苦(しくはっく):〘仏〙 生老病死の四苦に、愛別離苦(あいべつりく:愛する者との別れ)・怨憎会苦(おんぞうえく:うらみにくむ人に会う苦しみ)・求不得苦 (ぐふとくく:求めても得ることのできぬ苦しみ)・五陰盛苦 (ごおんじょうく:人間のからだや心を形成する五つの要素から生じる苦痛や苦悩のこと。「五陰」は「五蘊ごうん」と同じで、色しき(物体)・受じゅ(感覚)・想そう(表象)・行ぎょう(意志)・識しき(認識)のこと)の四苦とを併せたもの。人間のあらゆる苦しみ)を加えた生きる苦しみ。

〔2021年3月11日書き下ろし。震災の日ふと立ち止まり、その理由を考える。いまだ解が見つからず四苦八苦している〕

ほほえみがえし

よいことするってどんなこと

その子のかおがほころんで
「ありがとう」って いってくれたとき
きみもいいえがおで おかえしするよね
ほほえみがえしっていうんだ

わるいことするってどんなこと

ひとつ よけいなことをかってにしたとき
その子には してもらいたくなかったこと
「ごめんなさい」って すなおにあやまると
こまったかおがほころんで
きみもホッとして おかえしするよね
ほほえみがえしっていうんだ

ふたつ わざといじわるしたとき
その子には とてもかなしいことなんだ
「ごめんなさい」って すなおにあやまらなきゃ
でも すぐにはゆるしてくれないよ
ほんとにわるいとおもったら こころをこめよう
こころがつうじたら きっとゆるしてくれる
かおをみあって ニコってできたらなかなおり

みっつ わるいことだとわかってしたとき
その子には なにがなんだかわけがわからない
しまいには おこってしまうよね
しんじていた子に うらぎられたようなきぶん
きみなら すぐにゆるすかな
そんなきぶんになんか とてもなれないよね
ともだちなんかで いたくない

わるいとしって してしまった子に
かしこいきみは そのわけをきくかもしれない
その子には しんぱいごとがあって
だれにも そうだんすることもできずに
ひとりで すごくなやんでいたら
きみが とてもしあわせそうにみえてきた
うらやましく にくらしくて
やつあたりしてきたかもしれない
わるいことだとしりながらも
どうしようもなかったかもしれない

その子のさびしさやかなしさに
きづいてあげられたらどうだろう
もし ゆるしてあげられるのなら
その子は きっとすくわれる
きみのえがおが その子をすくう
その子のえがおが きみもすくう
ほほえみがえしって すてきでしょ

〔2021年3月12日書き下ろし。悪意の根にあるのは人間不信。寛容を拒否する社会に、微笑み返しは幻想か〕