「鳥居一頼の世語り」カテゴリーアーカイブ

威厳を羽織る

後継者指名の日を迎えた

腹を決めるまで どれだけ苦悩の年月を数えただろうか
その器に足るだけの人材を 育てなければならなかった
営々と半世紀 紡いできたおもいと事業を継承し 
新たな展望を切り拓く若い力が いまこそ必要とされた
変革は 若き者たちに託される

後継者ともくされる者の 真価が問われる時がきた
積み上げてきた信望と実績を 
統括者の力量として いかに付加するのか
多くの職員が納得し 信頼できる指導者でなければ 
ポストコロナ時代を 乗り切ることは難しい
中長期的な展望を視野に入れた 
経営理念とビジョンを 標榜しなければならない
負わされる課題は重く大きい
このプレッシャーに打ち勝つ 精神力も求められる

老いは 確実に下り坂を心身に強いていく
それゆえに 退路を断ち決断した
威風堂々と 退場の舞台をつくる
後継者を公表する日を 静粛な気持ちで迎えた

厳粛な面持ちで 後継者を指名した 
1年余の育成期間が 了承された
精魂が込められた 改革と展望 
精気に満ちた ポジティブなおもい
精誠(まごころ)に溢れた メッセージ
感情が抑制された語りゆえに 
その姿は 威厳を羽織る

〔2021年1月30日書き下ろし。発表の日まで体調の維持管理を徹底し、当日を迎えた。その心境はいかばかりであったのか。一人の人生の決断には、受け渡される若い世代もまた大きな覚悟を強いられる〕

須々田秀美「めごいなぁ」

えへで 泣ぐんたな
泣き顔(つら)くぁして 泣ぎ声(ごえ)ば出すこのいっとぎ
顔(つら)こひしゃげで 流す涙顔(つら)こ
めごいなぁ

ちっちぇーまなごど にらめあい
じへっど顔(つら)こ見でれば 泣ぐべがど思(おも)たこのいっとぎ
にまらっと わいはのほほえみけし
めごいなぁ

こちゃこいってへば どすべがど
ゆったど両手ば伸ばし 抱(だが)さってきたこのいっとぎ
やっこして 香(かま)りっこえー顔(つら)っこ
めごいなぁ

さじば自分(ふとり)で持づど ごんぼほって
口(くぢ)のまわりば のったど散(ち)らがすこのいっとぎ
どだばど にったどして
めごいなぁ

何(なだ)がさわがね 声っこ出して
指(ゆび)っこさす方(ほ)さ 目っこ向かせ
こいだなっておもちゃば 取(と)てやたこのいっとぎ
んでねんでねって 頭(あだま)っこふるふぐれっ顔(つら)っこ
めごいなぁ

裸(はだが)っこで 湯(ゆ)こさ入って
湯(ゆ)こかまして 悪(わる)さばするこのいっとぎ
にまにまど笑う 赤(あげ)ぇ顔(つら)っこ
めごいなぁ

めごくて めごくて
たんだたんだ めごくて
包(つづ)みこまれる 命このぬぐだまり
めごくて めごくて
たんだたんだ ありがてなぁ
包(つづ)みこむ 二人(ふだり)の深(ふけ)ぇ慈しみ
命こあるうじ 一緒(いしょ)じに行くべ

〔2021年1月29日。白神山地ブナ林再生事業に取り組む日本山岳会青森支部の須々田秀美氏は、97年春日本ユニセフ協会の事業で共にベトナム北部を旅した20年来の友人である。青森県平川市に在し、弘前弁で「めんこいしょ」を表現する。津軽弁でも太宰の故郷とはまた違う風情が醸し出されている。ご鑑賞ください〕

いずれにしても

「私は、常々、世の中には国民の感覚から大きくかけ離れた数多くの当たり前でないことが残っていると考えてきた。それらを見逃さず、現場の声に耳を傾けて、何が当たり前なのか、そこをしっかりと見極めた上で、大胆に実行する。これが私の信念です」

いずれにしても 当たり前が国民の感覚とズレていただけのことです
どっちみち 現場を見極めきれずに不発に終わるのは自明の理です
いずれにしろ 大胆な実行は意固地な老害を呼び込んだだけです
いずれにせよ 信念もただの世迷い言に過ぎません
 
「国民から信頼される政府を目指していきたいと思います」

いずれにしても 政府の前にあなたです
安倍さんと代わったところで 不信の二文字変わらない
いずれにしろ みんな同じ穴の狢のようです
周りのよいしょも変わりばえしない そのまんま
どっちみち 自助できなければ生活保護と ことばが尖って心を刺す

「行政の縦割り、既得権益、そしてあしき前例主義、こうしたものを打ち破って、規制改革を全力で進める」

どっちみち あなたの言い分 言葉の飾りってことでいいですね
いすれにせよ 規制改革って いまさらの話だよね
いずれにしろ 既得権で潤ってきたのは誰のか 自分が一番よく知ってるでしょ

「国民のためになる、ために働く内閣をつくります」

いずれにしろ あなたが大将 檄飛ばすだけ
みんなへいこらして 言うこときくしかありません
いずれにしても あなたの言うこと きこうがききまいが
導く力あるフリ バレただけです
いずれにせよ 緊急事態宣言どうするの
やっぱり延長かけるしかないですね
どっちみち このコロナ禍では何をやっても無駄みたい
おさまるまで 家で布団かぶって寝るしかないか

耳障りな〈いずれにしても〉が多用され
いずれにしても 結論ありきで終始する
どっちみち 長く続く人ではないと見切りをつけて
いずれにしろ 政局を招いて次の人に代わります
いずれにせよ 離れた民心は元に戻らず…ですね

〔2021年1月29日書き下ろし。菅義偉首相の昨年9月16日、首相就任会見での発言を振り返ってみた。予算委員会の質疑応答を聞きながら、閣僚の耳障りな言葉が心をざわつかせる。いろんな考え方があるけど、私の言ってることが正しいという開き直りか〕

散らかった頭

机上はカオス
散らかしたまま 整理のつかない状況そのもの
本と雑誌と資料が積み上げられている
小説から評論 歴史書からエッセイ
福祉や教育の専門書や新書や文庫本 
1週間分の新聞は 連載をまとめて切り抜く
ネットで必要な情報を 毎日2時間かけて検索し読む
データ化して印字された 1年間分のファイル五冊
コロナや政治と社会情勢 国内外の世界情勢 関心のある論文などなど
日付毎にラベルが貼られ 50センチに積み上げられている

過去の自分のレポートは
机をはみ出し 脇机とプリンターの上と 
足下の収納ボックスに放り置かれる
書き始めてる原稿の断片の幾つかが
添削の赤字にまみれて 訂正を待つ
情報の山は 散らかった頭の中のように
何の脈路もなく 机上とその付近に雑然と置かれてる

恩師と新たに取り組む本の執筆が 始まったばかりだ
一年という長丁場で じっくり腰を据えて取り組む
資料のつまみ食いをしながら 原稿の肉付けとなる
周辺情報も 読んでおかないと落ち着かない
いまの構想は仮り住まいのようなもの いつもガラリと変わる
頭のゴチャゴチャを 思うがままに楽しむ

誰にも縛られず 好きなことに時間を費やす
いまはそのことを 楽しむ余裕があるのが嬉しい
ただそれだけのことが 意味もなく面白い
散らかった頭のままで もう少し時間稼ぎをしよう
そうこうしていくうちに 構想が固まりだして
散らかっていた頭で 交通整理がきっと始まる
試行錯誤の連続で 失敗を糧に出来ない性分からか
またやらかすだろうと 内心諦めながら
資料の山の中を 散らかった頭でかき分け始める
そのときを告げるまで あがいている自分がいい

〔2021年1月27日書き下ろし。今日も恩師と原稿チェック。机上の煩雑さにあきれながら、いまを楽しむ自分を映す〕

野間晴美「かいらしおすやろ?」

ぐずぐずゆうて 泣かはりまっせ
顔がはじけて 泣き声ではる とおもたとたん
顔を崩して こぼれる涙
かいらしおすやろ

つぶらなお目めと にらめっこ
じーっと顔見て 泣くやろか とおもたとたん
ニコッと まさかのほほえみ返し
かいらしぃなあ

おいないすると ちょっとためろうて
ゆっくり両のてえのばして からだをあずけはった とおもたとたん
やらかい におい立つお顔
かいらしおすやろ

スプーンをもつんやて ごんたゆうて
口のまわりに ぎょうさん散らかさはるわ とおもたとたん
ほれやったったと にたり顔
かいらしぃなあ

ことばにならへん 声だして
指さす方に 目を向かせ
おぼしきおもちゃを さしだそう とおもたとたん
ちゃうちゃうと かぶりをふって ふくれっつら
かいらしおすやろ

素っ裸 湯船で
お湯とほたえて てんごしゃはるとおもたとたん
満面の笑みをうかべる 赤ら顔
かいらしぃなあ

かいらしぃて かいらしぃて
ただただ かいらしぃて
包み込まれる いのちのぬくもり
かいらしぃて かいらしぃて
ただただ おおきにどす
包み込む 二人の深い慈しみ

いのちの限り 共に歩まん

(2021年1月27日。共同研究者の京都華頂短期大学名賀亨先生のご紹介で、華頂短期大学附属幼稚園
教頭野間晴美先生から、ほっこりとする京都弁で『めんこいしょ』の翻訳が届きました。ご鑑賞ください〕

まずは1ヶ月の様子見

緊急事態宣言
全国一斉は無理でしょ
ヤバいところから始めます
さては1ヶ月様子見します

医療現場の清掃業務すらも厳しい最中
その実態すら把握できずに 体制強化を装う
まずはGOTO再開の目処を立てます
1兆円出します しないと誰かさんに叱られる
もう二週間切りました

これだけ手を尽くしたのに
セーブできなかった責任は あんたらでしょ
しっかり守らなきゃ 罰則つくって厳しくします
特権階級は夜の銀座も病院も治外法権 いい気なものです
心優しき民は コロナ疲れの限界超えて
ともかく二週間堪えるしかない

後手後手って 言われ放しの国会論争 
生煮え対策 どうにでもなる
与党は よいしょに専念
支持率下がろうが 老いの一徹 
野党の追撃 かわすだけのこと
いつもの展開 二週間はすぐ過ぎる

感染拡大 収まりつかない
医療体制も逼迫 移動制限も限界
誰もが予想できないこの事態
もとは事前の対策怠った つけ払いだけのこと
2週間では ステージ2に下がる気配全くなし
1ヶ月 先延ばしするしか打つ手なし

ワクチン接種の時期も心許ない
行政改革相河野太郎と官房副長官坂井学でバトルする
世界でも供給遅滞が続く中 契約通りに届く確証薄し
結果は1ヶ月延ばした先に見えてくる

そもそも緊急事態宣言の期間設定に無理がある
不確定要素がありすぎて 様子見しながら
規制強化の法案通し 強権発動準備する
そうでもしないと オリンピックに間に合わない
コロナ対策とオリンピック開催を 天秤にかけて迷走する

この政権の様子見は 
見切りをつける 
潮時は間近か

〔2021年1月26日書き下ろし。国会答弁聞いていて、この国難を乗り切る指導力に不安を強める。総理!総理です!〕

付記
2月末までの「宣言」延長論強まる
政府内で、緊急事態宣言の“延長論”がさらに強まっています。
政府内では、東京などの首都圏に関してオリンピック・パラリンピックを実施するため感染者数が宣言解除の目安よりもさらに減少する必要がある、などの声が一部で出ています。
さらに、26日の新規感染者数が東京など各自治体で軒並み前日を大幅に上回ったことから、菅総理周辺も「このままでは解除は難しい」などとして延長する可能性を示唆しています。政府は、今週いっぱい感染者数や医療提供体制のひっ迫度合いなどの推移を見極めたうえで、来週早々にも判断する見通しですが、延長した場合の幅については少なくとも2月末まで、との見方が有力視されています。(TBS系(JNN)2021年1月27日)

尾身氏、情報共有に不満 コロナ対応で課題3点提示
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は26日の衆院予算委員会に参考人として出席し、これまでのコロナ対応に関し不満を示した。政府と地方自治体の間で感染状況に関する迅速な情報共有ができず「最もフラストレーションを感じた」と表明。国民への情報発信、責任と権限の一元化と合わせた3点が改善すべき課題だと訴えた。
緊急事態宣言再発令中を理由に「過去を振り返る余裕はない」と断った上で発言。情報発信については、「コロナ疲れ」で国民の理解が得られにくくなったと指摘。感染が落ち着いた昨夏の段階で「医療提供体制や保健所機能の強化をしておけばよかった」と述べた。
(共同通信2021年1月26日)

理念なき教師

相模原市緑区の障がい者施設「津久井やまゆり園」
16年7月26日 入所者ら45人が殺傷された
「税金を障がい者に使うのは無駄。重度障がい者は殺した方が良い。俺は殺せる」
20年3月16日 植松聖被告に 横浜地裁は死刑判決を言い渡した

障がい者差別による凄惨な事件 
判決は 現場の教師にどんな問題と影響を与えたのであろうか
3月コロナで全学休校措置の取られたタイミングで
休校の対応と学年末の多忙さに追いまくられて
猟奇な殺人事件として 瞬時に流されていったのか
我関せず 心動かされることもなかったのか
被告への同意の感情を 押し隠したのか

学校教育は 崇高な仕事を担う資質を要して 
尊敬に足る者としては存在しない
特別な人間 選ばれし人間が 教鞭を取るわけではない
ごく普通の平凡な人間が その役割を託されているだけだ
なかには 勘違いして偉ぶる者もいることはいる
熱心に仕事に励む者も ずぼらな者も当然いる
そつなく仕事をこなし フリータイムを謳歌する者もいる
能力に乏しくとも 子どもに好かれている者もいる
千差万別 一概に教師に資質と人間性は語りきれない
だた 理念に燃え努力する者が救われてほしいとは願う 

理念なき教師の三失態
決してやってはいけないことを
やってしまうのは 罪が深いという
いつも依怙贔屓(えこひいき)して
いたぶるのは 犯罪もどきという
存在を平気で否定することが
わからないのは 教師失格という

教師失格の三態
差別と蔑視感を変えずに齢を重ね 
教壇に立っていることを 欺瞞という  
さもさもらしく非難するポーズをとって
教壇で教えることを 偽善という
人権問題を考えることなくスルーして
教壇で稼ぐことを 強欲という

〔2021年1月24日書き下ろし。教育が関わる社会的な事件から真摯に学べないことは学校と教師の質を劣化させる。校長の指導力も強く問われる〕

付記
「障害者や犯罪者が子供でいたら…」 教員が差別的ツイート 特別支援学校
群馬県西部の特別支援学校に勤務する再任用の60代女性教員が、ツイッターに障害者を差別する内容の投稿をしていたことが明らかになった。
県教育委員会によると、女性教員は昨年10月中旬にアカウントを開設し、「障害者や犯罪者が子供でいたらいない方がまし」「労災にならないように気をつけます。いきなり強くつかんだり殴ったりする障害のある人」などと投稿。複数回ツイートし、学校の取り組みや上司や同僚の実名を出して、批判するなどしたという。学校名が書かれていたことで発覚し、今月中旬、学校が県教委に報告した。女性教員は調査に対し、「日記のような個人記録として書いた。フォロワーがゼロで、誰でも読めるという認識が薄かった」などと認めているという。投稿は県教委の指導で削除した。県教委は「指導する立場の教員が差別的な内容を投稿することは不適切で、あってはならない」とし、今後、女性教員の処分を含めて検討するという。(毎日新聞 2021年1月23日)

ヘッドハンティングの功罪

福祉は人なり
異業種からの人材選択
公募よりも人脈で適任者を探す
一本釣りのヘッドハンティング

福祉は人なり
異業種からの人材登用
福祉の心の短期醸成は難しい
福祉の人となる短期養成は難しい
福祉の経営の短期取得は難しい

福祉は人なり
異業種からの人材養成
現場は何を求めているのかを示し
指導性が発揮される機会を与え
任せられると判断するまで
その人が福祉の人となるよう導く

福祉は人なり
異業種からの人材育成
福祉の理念を学び生かそうと根を張る
利用者の声を聴き取り身に添う
職員に胸襟を開いて人望を得る

福祉は人なり
異業種からの人材活用
マンネリ化し低下した福祉意識を刺激する
前向きに課題を可視化し解決へと協働する
環境改善や組織改革に汗して取り組む
さらに次代を背負う人材を見出し育てる

福祉は人なり
異業種からの人材不適
組織に人材の資質を見極め育てる機能がなければ
利用者尊重の介護の意向は無視される
市場原理に動かされ管理主義に注力する
組織は硬直化し機能は形式化する
不協和音が生まれ信頼関係が崩れ環境が乱れる
理念はアクセサリーとなり福祉は形骸化する 
さらに自己保身に走り自己正当化に腐心する

福祉はカネなり
福祉を儲け主義で運営するところは
福祉へのおもいの是非は問われない
福祉に不適な者も功ありて罪なし
福祉は人なり
福祉を人間主義で運営するところは
福祉へのおもいの是非が問われる
福祉に適切な者は功ありて罪なし

〔2021年1月24日書き下ろし。福祉施設の経営者はプロパーの昇任と外部からの登用がある。外部登用の是非を一度振り返ってみてはいかがでしょう〕

銀の涙は舞う

少女は 厳寒の空に舞った
銀の涙は 風に巻かれて雪と散る
銀の涙が 綿毛のように大地を覆う

少女は 澄んだ空に染まった 
銀の涙は 藍色に染まらず雪と散る
銀の涙が 風花(かざばな)のように心を飾る

少女は 心のままに自由に舞った
銀の涙は 涸れることなく雪と散る
銀の涙が 命の滴(しずく)のように地上に降る 

少女は 一瞬光を放って空を駆けた
銀の涙は 光を浴びて雪と散る
銀の涙は 虹のように天上に輝く

少女の悲嘆と慟哭は
銀の涙となり 邪悪な世界を叩く
少女の絶望と恐怖は
銀の涙となり 無慈悲な世界に満ちる
少女の希望と夢は
銀の涙となり 心ある世界に舞う

〔2021年1月23日書き下ろし。自死した子どもへの鎮魂歌を捧げたい〕

小中高生440人自死する

令和2年1月から11月までに 
2万919人が自死した

アイヌ文化を復興するための空間と施設
ウポポイ(民族共生象徴空間)のある町
白老町の人口は1万6353人
ひとつのまちが消えてしまう人が 自死した

道内で一番小さな音威子府(おといねっぷ)村
人口699人
村の3分の2の人口に当たる
440人の小中高校生の子らが 自死した
うち307人は高校生
残る133人が小中学生だった

子どもが死に神に取り憑かれているときに
そのサインはあったのだろうか
そのサインに気づかなかったのだろうか
そのサインを見逃していたのだろうか
それともサインそのものが 
分からなかったかもしれない

親も教師も友だちも
子どもが深い悩みの果てに逝ったことを 悔やみ続ける
表情や言葉の変化に気づかなかった
何か言いたげなそぶりに声をかけられなかった
心に刺さったトゲを抜いてあげられなかった
悩みを理解し得なかった
苦しみを分かち合えなかった
憤りを引き受けてあげられなかった
自傷に気づかなかった
見守りが突き放しと受けとめられた

なぜ死を選んだのか
死への誘惑を拒めず追い込まれた
その恐怖に戦慄を覚える
紡げなかった信頼
救えなかった悔恨
探りきれない因果

ナイーブな心の深淵を覗(のぞ)くことはできなくても
その子の頑なな心をほどくには 静かに語り合うしかない
その子の悩みを そばで聞いてあげるしかない
その子をかけがえのない存在だと 認め合うことしかない

自死へと追い詰めた後悔の先にあること
自死のサインを感じとるには
子どもと向き合い語り合う関係づくりしかない
異変を感じる心のアンテナを磨き続けるしかない
そして守り抜くという強い意思を表明することだ

自死した子ども一人ひとりの冥福を祈りつつ
弱き者を自死へと追い詰めた歪(いびつ)な社会への
声なき警鐘として 受けとめよう
蔑(ないがし)ろにされた人がつながる力を取り戻す
声なき願いとして 受けとめよう

※白老町と音威子府村の人口は令和2年12月末現在です。

〔2021年1月23日書き下ろし。自死に追い詰められ恐怖にただおののく。想像するだけで痛い!身近にいることを忘れてはならない〕

付記
自殺、11年ぶり増 女性大幅増・小中高生過去最多 昨年、速報値
2020年は自殺者数が11年ぶりに増え、2万919人(速報値)だったと22日、厚生労働省が発表した。女性が6976人で前年より885人(14・5%)増加。若い世代の増加も目立ち、小中高生は1~11月だけで440人(前年同期比18・3%増)と、過去最多だった1986年の年間合計を上回った。厚労省は新型コロナウイルスによる生活の変化などが背景にある可能性があるとみている。
警察庁の統計をもとにした厚労省の発表によると、男性は1万3943人(前年比135人減)。女性と合わせて前年より750人(3・7%)増えた。人口10万人あたりの自殺者数は16・6人。例年、3月発表の「確定値」ではさらに増える傾向にある。
…厚労省の担当者は、コロナ禍による経済的な影響や生活環境の変化、学校の休校、外出自粛などが影響した可能性があるとして「厳しい状況だ。女性は幅広い年代、職業、原因・動機で増加しており、悩みに応じて支援していきたい」と話す。
…小中高校生の自殺者のうち307人が高校生で、初めて300人を上回った。女子児童・生徒の自殺者は前年同期より48・8%増えた。(朝日新聞2021年1月23日)