「鳥居一頼の世語り」カテゴリーアーカイブ

鬼ごっこ

鬼ごっこしてる
蜘蛛の子を散らしたかのように 逃げる鬼
鬼の鬼は十数えて 鬼を追い回した
大の大人の鬼たちは 童心にかえったように 
キャアキャアと楽しげに 逃げ回る

人間たちは 木陰に隠れてじっと見ていた
人間たちは 入れてもらえなかった
人間たちは 次の鬼が知りたかった

鬼ごっこは 続いた
まだ1年以上も 続けなければならなかった
鬼の鬼は 本心飽き飽きていた
鬼の鬼は すぐにでも誰かにタッチしたかった
鬼の鬼は コロナ疲れで嫌気がさしていた

鬼ごっこは まだ続く
タッチしたくない鬼が 人間たちの人気をさらっている
タッチしたい鬼は 鬼徳はあるが鬼の鬼になるには線が細い
タッチしたくもない鬼が 媚を売るように目配せする

鬼界の鬼の 鬼ごっこ
人間たちは 退屈しのぎに ただ見てる
奇怪な鬼の 鬼ごっこ
人間たちの世界を牛耳る次の鬼決め ただ見てる 
異界の鬼の 鬼ごっこ
人間たちは 老いて動けぬ鬼を ただ見てる

追っかける鬼の望みは ただひとつ
真っ赤な嘘を 平然とつけること
えっ みんな鬼の鬼になっちゃうって?
それじゃ 誰を選んでも構わない!
鬼の悩みは まだ当分続く 
鬼ごっこも しばらくは終わらない

鬼界の鬼の 鬼ごっこ
人間世界を嘲(あざけ)りながら 
コロナ禍だろうが
自然災害起ころうが
キャアキャアと いまを愉しむ

〔2020年7月9日書き下ろし。次の鬼は誰か? 誰の手にタッチするのやら、鬼は怖い〕

千載一遇の悪機

7日札幌でひとりだけ 新型コロナ感染者が出た
夜都内の接待を伴う店で 感染したかは不明
死活に関わり リスクを覚悟で働く人たち
新宿歌舞伎町や池袋の街は クラスターに晒(さら)される 

新型コロナの
予想できない強い感染力
どこにいるのかあなどれない潜伏力
ウイルスの運び人に仕立てる拡散力

感染者が 増えてゆく
移動の制限が 取り沙汰される
経済的な損害は 小さくない
心理的なウェルビーイングが 損なわれ 
さらに社会的なつながりが 失われる

感染は 出会い頭に瞬時にやられる
千載一遇の悪機に ただ平伏するしかない
くしゃみで飛散するウイルスを感知する
ウイルス感知センサーでもあれば
事前に危険を察知して ガードできるのに
夢の夢物語

いまは 行動制限の期間だと心して
気を引き締めるしか 取る術(すべ)はない
感染者は 身をもってリスクを知らせる
今夏の梅雨前線が 無慈悲にもたらす水害の 
後にくるかもしれない
第2波 第3波の流行に備えて
心緩ますことなく 
ウェルビーイングをめざして 万全を期すしかない 

※ウェルビーイング(well-being):健康で幸福な状態。良好な状態。満足の行く状態。

[2020年7月8日書き下ろし。コロナ下で梅雨前線が大暴れしている。ダブルで気を緩ますことなく、自他の身を守ってほしい]

いままでというバイアス

濁流に飲まれし命 ただただ無念
天災と諦めきれぬ思い ただただ無情
被災地の無惨な爪跡 ただただ憮然(ぶぜん)

天気予報の確率を 誰が咎(とが)めよう
命の存亡に関わる 気候の急激な変動
ハイレベルのコンピューターを駆使しても
読み切れない事態が 現実そのもの
毎年繰り返される
五十年に一度 百年に一度の枕詞は 何の意味もない

毎年 降水と被害記録は更新中
毎年 被災地を変更中
毎年 予測不能は継続中

頼れるのは 現代科学の粋を集めたコンピュータシステム
その分析能力と 人間の叡智で導き出す気象予報
たとえ外れても 気象庁への信頼は 揺らぐことなど心配無用
ただ 切羽詰まった警報発令前に 
迅速に動くしか 防ぐ手立てはない

〈いままで〉こんなに水が出たことはない
経験知が 避難を躊躇させる
経験知が 安心のバイアスをかける
経験知の 根強い思い込みを棄てよう
最悪の想像をして 動くしか命は守れない
最悪の想像をして 逃げる支度をしておこう
最悪の事態を逃れたら それに越したことはない

〈いままで〉に縛られず 最悪の事態を想定した
直感に従う勇気も いま必要かもしれない

※バイアス(bias):考え方や意見の偏り。偏向。

〔2020年7月8日書き下ろし。想定外の水害、避難誘導のタイミングが今回も問われている。〈いままで〉というバイアスを解き放したい。台風シーズンはまだである〕

不都合な人たち

いつも都合よく進むわけではない
語彙不足では さしつかえることばかり
それをくぐって ことを為す

いつも都合よく運ぶわけではない
本心明かせば 疑われることばかり 
様子を見ながら ことを為す 

不都合なことは 隠し通す
不都合なことを 記録には残せぬ
不都合なことゆえに 闇に葬る

不都合なことが 露見した
道理に合わぬことだと 批判されても
動じることなく 受け流す

都合よく トラブル起こり
不都合なことは 上書きされる 
都合よく 批判をかわし
不都合なことは 忘れ去られる

不都合なことを抱えた
ご都合主義の面々は 
堂々と 裏通りを闊歩する
不都合なことをしでかした
ご都合主義の面々は
次々と 仁政を放棄する

〔2020年7月6日書き下ろし。ご都合主義の政治家のいまをおもう〕

老いの蹉跌(さてつ)

齡89の老男が 静かに呟(つぶや)いた
90がどんな年なのか 分かっていれば 
それなりの準備と覚悟を しているのにと

齡80の老男が 病後に諭すように呟いた
これから先は もらいもの
延命治療はいらない
お迎えが来たら 天命に従うだけと

齡70の老男は 呆れたように嘆いた
頭と体の 老いのバランス崩れ
何かとしくじり 地団駄踏む
こうなるだろうと知りつつ ドジを踏む
何の予見か 意味すらない

齡60だった男は 70を知らなかった
新しい病と 次々に縁を結び
体のガタに 身をさいなまれる
10年間 痛い目にあいながら老いを積む

齡50だった男は 志高く仕事に燃えてた
頭は冴え 口も体もよく動いた
明日への不安も不満も 難なく乗り越えた
老いは まだまだ先の別世界だった

別世界は 現実になっていた
70で ひとつだけわかったことがある
心のありように 老いは見つからなかった
それだけが 幸いなことだった

蹉跌をきたすも 
心は老けぬよう 
今を生きる

※蹉跌(さてつ):物事がうまく進まず、しくじること。

〔2020年7月6日書き下ろし。老いと向き合い、失敗の毎日。めげずに前に!〕

豪雨が暮らしと命を叩(はた)く

3日からの九州南部を襲った豪雨により、亡くなられた方々に哀悼の意を表します。
また被害にあわれた方々へ、心よりお見舞い申し上げます。
復旧に当たる多くの方々への深い感謝と、被災地の一日も早い復旧を願うばかりです。

歌人与謝野晶子は 夫鉄幹とともに 熊本県人吉市を訪ねた
球磨(くま)川の 川下りを楽しみ 歌を詠む

大ぞらの山の際(きわ)より初(はじ)まると同じ幅ある球磨の川かな

その大川が暴れた
川下の集落を 情け容赦なく押しつぶし
決壊した濁流は 逃げる余裕すら与えず
終の住処の老人ホームを 飲む込む
夜明けの目覚めを襲われ ただ身を任す
職員も駆けつけた地元の人たちも 突然の事態に茫然自失
緊急避難もままならず 救助不能に陥った
「ごめんなさい」と最期にかけた別れの言葉
痛恨の思いを語る職員の そのやるせなさに静かに添いたい
球磨村渡地区の 特別養護老人ホーム「千寿園」が水没した
60名余の入所者のうち
14名が心肺停止 3名が低体温症
5日そう発表された

九州付近に停滞した梅雨前線に 線状降水帯が形成された
同じ場所で次々に積乱雲が発達し 長時間雨が降り続けた
3年前の福岡・大分両県を襲った九州北部豪雨
2年前の岡山・広島・愛媛各県に広域被害をもたらした西日本豪雨
みな同じ気象現象だった

繰り返される 甚大な自然災害
起こるだろうと予想されても 対策不能 
違った場所を狙い撃ちする 熾烈な豪雨
ハザードマップの想定を 遙かに凌駕する
強靱な国土造営にはほど遠い 
人智の及ばぬ自然の脅威に 
ただただ畏敬の念を強くする

今夜もまた 降り続く雨音聞きて
眠れぬ夜に 不安を抱えて身を横たえる
全てを失い 路頭に迷う明日なき日々に
光明与える政治を見せよ
10兆円の予備費は コロナ禍対策だけでは済まされない
緊急性をもって迅速に当たれなかった いつもの失政
心して ここで挽回せしめよ
為政者の施しを与える感覚は 決して許されない
コロナ禍での 最初に起こった不幸な災害
復旧支援対策のあり方が 今後の災害発生時への試金石となる
全国の自治体は
災害対策の点検を 急がねばならない
減災への暮らしの点検も 一人ひとりがなすべきこと
被災地からの教訓を生かさねば 尊い犠牲は無駄となる  

〔2020年7月5日書き下ろし。予想された深刻な災害が発生した。自治体の対策本部が十分に機能するよう人材と器材・物資の供給を切にお願いしたい。まだ今夏は始まったばかりである〕

付記
避難中に突然の濁流 「ごめんなさい」力尽きて離した手
雨が降り続く4日午前3時ごろ、球磨(くま)川そばに立つ特別養護老人ホーム「千寿(せんじゅ)園」(熊本県球磨村)。夜勤の男性職員は、一段と激しくなった「ゴー」という雨音に気づいた。60人以上が入所する施設内は、断続的に停電が続いていた。午前5時ごろ、隣を流れる球磨川の支流を見ると、堤防付近まで水かさが上がっていた。
「ごめん、朝早いけど雨が危ないけん。起きよう」。他の職員と共に入所者全員を起こし、1階の畳部屋や、会議室がある2階に避難させた。
心配して来た近所の人たちも加わり、1階で入所者に付き添ううち、施設の入り口まで水かさが迫っていた。数台並べた食卓テーブルの上に車いすを置き、入居者を乗せた。 その時、「バリンッ」と窓ガラスが割れる音が聞こえた。くるぶし辺りだった水かさが一気にひざまで上がった。冷蔵庫、食器棚、調理器具が、すべて押し流されていった。助けを求める声も聞こえたが、目の前の人を助けるので精いっぱいだった。テーブル上の車いすも浮き始め、2台の車いすを両手でつかんで耐えた。すぐに濁流は首の辺りまで上がり、とっさに入所者2人の脇を抱え上げた。2人の唇は紫がかっていた。
泥水を飲みながら耐えたが、手足がしびれだした。力が入らなくなった。「ごめんなさい」。そう言って、手を離した。「助けたかったのに、だめだった。どうしても力が入らなかった」。2人がどうなったかを見る余裕はなかった。そこから、壁やカーテンをつかんでじっと耐えた。なんとか、一命を取り留めた。
1階にいた他の人々がどんな状況だったのか、「目を配る余裕もなかった」。男性の家も、屋根まで浸水し、家財は流された。「ごめんなさい」。男性は当時の様子を振り返りながら、何度もそう繰り返した。「誰が悪いとかじゃないとは思う。ただただ、助けられなかった申し訳なさが大きくて」(朝日新聞2020年7月5日)

魚心あれば水心

魚心あれば 下心
下心あれば 水心

魚心と水心に 挟まれて
下心なしには いい目に会えぬ
水心に魚心を マッチさせるに
下心なくては うまくはいかぬ

人には 下心あり
為すこと 成すこと
魚心と水心の兼ね合いを
みなほどよく つなぐ

人には 下心あり
人の間に立ち回り
魚心と水心の微妙なバランスを
みなほどよく つりあわす

下心を 見下すことなかれ
下心を 否定することなかれ
下心は 隠しきれない本性
下心は 己の素直な本心
下心こそ 己の本来のありよう

下心は
相手により 使い分けられる
相手がいて したたかに働く
相手もまた 計算高く仕掛けてくる

下心は
相手と探り合いを 愉しむ
相手とのやりとりを 悦ぶ
相手を認めることで わかり合う 

おろそかには出来ぬ下心
魚心あれば水心を誘う下心

こころ躍る 恋の駆け引きこそ 
下心のなせる
この上ない面白さ

※魚心あれば水心(うおごころあればみずごころ):魚に水を思う心があれば水もその気持ちをくみとるであろう,の意、相手が自分に好意を示せば,こちらも好意をもって応対する用意がある。
※下心(したごころ):心の底で,ひそかに考えていること。たくらみ。もくろみ。本心。内心。真意。

〔2020年7月4日書き下ろし。若者よ、恋のバトルの下心を大いに愉しんでほしい〕

無駄と断捨離

無駄を省く
ただいるだけの国会議員の歳費は 無駄遣い
だから議員の定数 大幅削減
国費の節約と国政の活性化
少数精鋭で 顔を突き合わせて議論する
党利党略暴き出し 国民目線の可視化を促す
これって 国会議員の断捨離

無駄を省く
政治的理念も失せて 金を使った票集め
党費と税金 無駄遣い
烙印押された 議員の始末
出処進退 不良議員の裁量と
責任取らずに 嘯(うそぶ)く者たち 
これらも国益ならず 断捨離に

無駄を省く
コロナ禍の 経済支援の金に群がり
官と紐付き企業が結託し 
多額な委託金の 無駄遣い
バレたら正当な契約だと 嘯きかばう者たち
私利私欲を肥やす者たちも 断捨離に

断捨離は
国を動かす者たちの 無駄を省いて
国民の誰もが 暮らしやすい
国をつくることでしかない
その心がけを失いし者たちには 
そのバッジに どんな価値があるというのか

無用の用?

※無用の用(むようのよう):一見何の役にも立たないようにみえるものが、かえって大切な役割を果たしていること。不用の用。

〔2020年7月3日書き下ろし。今日師との語らいから話題になった〈無駄を省く〉ということ。無用の用の存在でいたい〕

貶(おとし)めると墓穴を掘る

「こんちは。大家さん、いらっしゃいましたか?」

「おやおや、ようこそ。ようやくお顔が見られた」

「はいはい、たどり着くまで4ヶ月ほどかかってしまい、足もすっかり棒のようになりました」

「なにをおっしゃいます、お丈夫そうな足のどこが棒ですって」

「棒は棒でも、箸にも棒にもかからない話を聞いてもらいたくて、お邪魔しました」

「ここじゃなんですから、上がってください」

「いやいや上がると話が長くなりそうな気がしますんで、今日のところは玄関口で失礼させていただきます」

「そうなら、話とやらをさっそくお聞かせ願いましょうか」

「それがですね、隣の町会でコロナに感染したという方が出ましてね。ご本人は入院されておるんですが、その家族に辛く当たる人が出てきて困ったことになったと、あっしのところに相談ぶってこられた人がこぼすんですよ」

「いまどき世間じゃよく聞く話だね」

「なんでもひどいのが、そこの家の玄関に〈コロナの家・早く出ていけ〉と張り紙までされたっていうから、温厚なあっしでもはらわた煮えくり返りましてね」

「そのお怒りはよくわかりますね。コロナに罹ったのはその人の責任でもありませんし、ましてや家族がそんな目にあう筋合いなんぞ、これっぽっちもありません」

「その町会の人に、それでどうしたんだいって聞いたんですよ。すると、おおよそ誰がやったのか見当はついているんだが、面と向かってものを言うと角も立つし、かといってほっとくこともできずに困ってるんだって、そればっかりで」

「流行病(はやりやまい)は、時が経てば収まりもつくだけけど、今度のは未知のウイルスで移りやすく重くなりやすい。亡くなる人も多いから、不安と言えば不安なんでしょうね」

「そうかといって、罹った人を責めるばかりか家族まで責めようという魂胆が許せない!」

「ひどい世の中になったもんだね。昔から世間は病気を責めるよりも、罹った人にひどい仕打ちをしてきたもんだよ。ハンセン病が治ったにも関わらず、いまも苦しんでおられる方もいらっしゃるというしね。薄情なことでもみんながするから、正しいと思い違いしてやってしまうんだね。
人間ってもんは元来臆病もんだから、コロナに自分や家族が罹らぬように用心にこしたことはないけれど、それが過剰になって相手に屈辱を与えるようなことを平気でするようになるんだね。
それを許しちゃなんないと息巻いて、証拠もないのに、あんたのやってること許せないって直談判するのは無理でしょ」

「そこんところが歯がゆくてたまんなくて、つい大家さんに泣きついた次第です」

「わたしにもいい知恵は思い浮かばないけど、大事なのはそんなことは許さないよっていうメッセージを、どう皆さんに伝えるかっていうところだね」

「そうなんです。不安なのはそいつだけじゃありません。いつなんどき罹るのか神様だってご存じない。もしものときに、理不尽な目にあう怖さや世間体から、お年寄りなんて黙って家に閉じこもってしまうことだってあるでしょう」

「そんなことまで、想像できずに、自分だけよければそれでいいという輩が多くなってきました。そもそもこんな時代だから、人の本性がはっきり見えてきて、ある意味つき合いやすくなったかも知れません」

「そりゃそうですね。そんな人はソーシャルディスタンスを取りゃいいですから」

「社会的距離と心理的距離のダブルでというところですかい。それはそれでまた、世間から疎外するという別の問題になってしまうんじゃないですかね」

「そう考えると、どうしたもんだか一向に埒(らち)があきません」

「まずは、病気について、私らは正しく知っているんだろうか。わかったつもりで暮らしていることがそもそも問題かも知れないね。〈わかってるよ、でも…〉って否定から入ると、突っかかって攻撃的になる。〈わかってるよ、だから…〉って入ると、肯定した上でどうしようかって相談になる」

「なるほど。〈でも〉と〈だから〉の違いで態度が全く逆になるってことですね」

「そこでね、こう考えるのはどうだろう」

「さすが大家さん!」

「わたしはまだ何にも言っちゃいませんよ」

「おっといつもの早とちり。なんせ知恵袋の大家さんのこと、期待ですぐに反応しました」

「困ったお人だ。そう期待されても困るんだが、自分らの町会にコロナの患者さんが出たと知ったなら、こんな近くでも罹る人が出るという恐怖ではなくて、もっと注意しましょうという〈サイン〉が出たと思いましょう。新しい生活様式とか言われて、随分気を遣ってきたにも関わらず、誰もが罹る病気なんだと正しく知ることが、まず第一ですね」

「そうですね。何かやらかす輩は自分勝手な屁理屈付けて、さも正義感ぶっていろいろ悪さするってニュースにも流れていましたけど、結局は怖いもんだから自分の近くにはいてほしくないって、臆病もんの話ですよね」

「怖がることも悪くはない。当たり前の心持ちだね。けど、それを困っている人にぶつけるのはお門違いも甚だしい。だから、サインが出たなら、まず一番心配なのは罹った人の家族でしょって。その家族の心配事を少しでも小さくしてあげることが、ここで暮らすということだし、逃げるわけにもいきません。だから、お互い気まずさを抱えて暮らさなければなりません。
それでも、その気まずさを抱えて生きていくしかないのなら、そのことに気づく人が一人でも二人でもいると、病気で苦しむ人や家族を二重に苦しめることから、少しでも救うことになりはしませんか。お互いに心を和らげることはできませんか。
避けて通ることができないことなら、そんな想像力や行動力がとても必要なことだと思いますね」

「それって、罹った人や家族を恨むのは、所詮は恨む人の人間性に尽きますが、気まずさの元をせめて病気にしておきましょう。気まずいよ、だからこそ一緒に気まずさを抱えて暮らしていきましょうよ。そうすれば、お互い不幸な出来事を少しでも小さくできる。そんな町会をつくるのに、大事なサインを出していただいたということでしょうか」

「そんなところですかね。どっかでまた誰かが罹ったときにも、この教訓を生かしてみんなで支え合っていければ、コロナに打ち勝つ勇気をもらうことになりませんか。
その気まずさが、一緒にそこで人と関わって生きてゆく実感とでもいうんでしょうか、きれいごとでわかったフリをするよりは、気まずくとも何とかしようとあらがうほうが人間くさいかもしれません」

「さすが、亀の甲年の功の大家さん。悪いサイクルはいつでも回せるけれど、その痛みを受けとめて、守ってあげられる町会ならば、罹っても頑張れる気がしますね。悪い噂をばら撒くもんも張り紙するもんも、みんな地域で安心して暮らしたいと思いながらも、やり方が間違っているし、憎しみまで買います。顔をしかめるようなことをするようじゃ、誰からも相手にされず、逆に浮いてしまってまったく逆効果というわけですね。
すんなりとは解決しませんが、悩みを少しずつでもみんなで背負うことで、小さくしてゆくってことですね」

「私らが大事にしたいのは、いまの世だからこその〈人のつながり〉です。そのつながりはほんとにもろいもんです。だから、こんなときにしっかりとつなぎ直さなきゃいけません。そのチャンスがやってきたと、前向きに考えてみたいですね」

「その通りです。いまからひとっ走りしてきます。ありがとうございました。結果はまた電話なりでお伝えします、ごめんください」

「はいはい。気をつけて。相変わらず人のいいお人だ。頑張ってくださいよ」

〔2020年7月2日書き下ろし。地域に罹患者が出ると嫌悪、蔑視、排除などさまざまな悪しき感情が生まれている。大家さんの回答には納得されましたか?〕

食材の宅配

コンテナ付きの軽トラで
坂道の多い住宅街を走る
所々の玄関先で
発泡スチロールの箱を確かめて
配達する若い女の子
明るくハキハキと応える姿は 清々しい

一日60軒
箱の中には 2~4人前の食材が詰まっている
年寄りだけじゃなく 若い人からの注文も多くなった
注文は 3週間後のメニューでセレクト
カットされた食材は 6日コース2人前7260円也
月曜 サーモンの蜂蜜生姜焼き
火曜 ミルフィーユチーズとんかつ
水曜 メカジキのバター醤油炒め
木曜 鶏唐揚げ丼
金曜 八宝菜
土曜 ハンバーグとキノコと南瓜のスープ

手作りの食材でも 
単品からグレードの高いものまで
メニューは 豊富に取り揃っている
他に レンジでチンと出来合いを 
手軽に時短で出来るのもいい
6日間コース2人前10720円也

カタログをもらった
料理の手順も書いてある
眺めるだけでも おいしそう
これで我慢しときましょう
今夜のおかずを 考えるヒントになりそう
何をつくるか考えるのも 結構しんどいときがある
その手助けに タダでもらった貴重な情報
男子厨房に立ち トライしてみたくなる
酒の肴のカタログがあると もっと嬉しいな

散歩の途中で出会った がんばる若い人の
快活な笑顔が 今日一番のご馳走だった

〔2020年7月1日書き下ろし。住宅街を軽トラで宅配中の働く若い女性に出会ったコロナ禍でのありふれた日常の中に市井の暮らしを感じる〕