阪野 貢 のすべての投稿

張り子の虎

男は自分勝手なやつだった
品性は貧しく 素養もたかが知れていた
世の流れに逆らうことでしか 自己主張できなかった
信念も揺れ 虚勢を張って生きてきた 

男は心寂しいやつだった
世の中に反発して 気取ったポーズをしたかった
世の中に染まらず 他人と違う存在でいたかった
普通の生き方を拒み 強がって生きてきた 

男は心弱いやつだった
見かけ倒しが暴かれぬよう 強がるしかなかった
才覚のなさを見破られぬよう 意気がるしかなかった
演じ続けることで くじけそうな自分を騙して生きてきた

男は怠惰なやつだった
人前ではしゃきとして 如才なくこなした
ひとつ事が終われば だらしなく脱力した
緩んだ糸を張り直すのに 苦労しながら生きてきた

男は心優しいやつだった
弱き者への関心は 思いのほか熱かった
弱き者が虐げられることは 許せなかった
黙止することが出来ず 実直に生きてきた

男は不思議と憎めないやつだった
人儲けの才覚は 人一倍長けていた
世の中への発信力は 人一倍冴えていた
信じた人の懐で育てられて いつも生きながらえた

男はポジティブなやつだった
苦渋を味わいながらも 一抹の望みを捨てなかった
失意のどん底にいても いつかを信じた
救い手が差し伸べられて いつも生きながらえた

男はただの小心者だった
伴侶は そんな男を丸ごと受け入れ自由にさせた
伴侶は 男と半世紀甘いも辛いも味わいながら歩いてきた
伴侶は 人生をともにこのまま全うすると…
男は張り子の虎のままで
人のおもいの中に 今日も生きながらえる

〔2020年10月20日書き下ろし。男は張り子の虎に見たて、いまも虚勢を張る〕

持ちつ持たれつ

ひとりで踏ん張ったって
いずれ息切れしてぶっ倒れる
我慢は美徳なんて 信じちゃいけない
自立できるひとなんて だれひとりとしていない
誰かの肩に 寄っかかることもあるだろう
だから 持ちつ持たれつって当たり前のことかな

生まれてこの方 誰ひとりとして 
一人ぼっちで生きてきたひとなんぞ いるわけない
暮らすってのは 他人様のお世話を前提に成り立っている
余計なお世話をするなってのたまうひとも
余計じゃないお世話は 受けるんだろう
必要な時に必要な手助けがあれば 少し暮らしが楽になる
その丁度いい間を取った関係で いたいというのが小さな欲
これぐらいは お互いに痛くもかゆくもない
それが 持ちつ持たれつの居心地いい関係づくりかな

大事なのはさ 俺もあんたもここで暮らし続けるってこと
いつまでも若くはないし 病気もする
夫婦だって 家族だって 友だちだって 赤の他人だって
気にかかるひとが 元気で不安なく暮らしているなら安心だけど
「助けて!」って突然声をあげたら 駆けつけるのが人情だろう
そこだよ そこなんだ!
「助けて!」って声を出しても 誰かがそばにいなけりゃ助けられない
それこそ 持ちつ持たれつの本意じゃないかな

自分勝手で口うるさく罵(ののし)るひとも いることはいる
誰も近づけないから 余計に意固地になって生きている
頑固でなかなか言うことも聞いてくれないひとも いることはいる
誰も面倒に巻き込まれたくなくて 遠ざけられている
歳を重ねるほどに面倒くさくなるひとも いることはいる
確実に身体も気も弱くなるから 強がるのもよくわかる
きっと持ちつ持たれつのいい関係をつくれなかったんだ

そんなひとをほっとけなくて 孤立させちゃなんないって 
世話を焼く奇特なひとは いつの世でもいる
人間の性根を 太く育てながら生きてきたひとたち
でも 一方的にお世話を焼くわけじゃない
そこに 人としての品性が磨かれてゆく道がある
それが 持ちつ持たれつから得られる仁の徳じゃないかな

※持ちつ持たれつ:互いに依存し合い助け合うことによって、両者とも存続するさま。

〔2020年10月17日書き下ろし。持ちつ持たれつの関係づくりは互酬性とも重なってくる。徳が磨かれず損得勘定する人が目につくご時世の中に、民生委員児童委員は動く〕

安倍政権の遺産

7年8カ月の長期政権の遺産
民主主義の選挙で選ばれた数を信奉した
民主主義の根幹の憲法を遵守せず国会を軽視した
民主主義の閣議決定を重宝し法手続きを崩壊させた
民主主義のシステム上に専制政治を確立した

選挙で勝てば 民意は手中にあると豪語した
民意は 承認の手先に変わり主権を失った
異論を排除し 批判を封じ込めた
従わぬ者は敵視し 不都合な真実は隠蔽した

管政権発足から1ヶ月
前政権継承の一端に その手腕を見せ始めた
学術会議や中曽根康弘元首相の葬儀への対応
ほんの始まりではあるが 終わりにしなければならない
危機感を感じたときにこそ 声を上げなければならない
支持率の急低下は 健全な世論のバロメーターか
 
相互的寛容と自制心
政治の劣化と政治家の堕落により
二つの民主主義を支える柱は
不気味な音を立てて 崩れていく
民主主義社会への警鐘に 耳を塞いではならない

〔2020年10月18日書き下ろし。世界もまたその渦中にある。米大統領選挙はトランプが負けると、内戦さえ想定する危険水域に近づく〕

学芸会とシナリオづくり

半世紀近い昔のことだった
新卒の初めての学芸会
僻地の小学校で担任したのは6人の子ども
図書室にあった学芸会劇脚本集を見た
普通学級を想定したシナリオばかりで
読んでもつまらなかった
これをアレンジしても仕方ないと諦めた
この程度のシナリオが目にとまり
どこかで演じられているとしたら…
なんともおぞましかった
偉そうにそう直感した

だいたい6人の劇なんてそもそもあり得ない
初めて書いた
これがオリジナルシナリオの始まりだった
「実りある明日」
壮瞥町仲洞爺の開拓を取り上げた
四国から入植して ようやく稲を植え収穫にこぎ着けた
その実りの秋の喜びを 30分の劇に仕立てた
当日部落の人たちも 大いに楽しんでくれた
子どもたちの上気した顔が いまも目に浮かぶ
4年間毎年 世界でたった1回だけ上演する劇を 子どもたちと創った

閉校となり 白老町の小学校に異動した
学年で学芸会の演目が決まっていた
偶数学年は劇だった
担当した6年生は80名近かった
スタッフとキャストに半分ずつ分けた
それでも44名が出演する大所帯のシナリオを書いた
核戦争後の未来をテーマに描いた
「仮面の国からの招待~失われた顔」
上演時間1時間
子どもたちはみな躍動していた

2年生を担任したときには
みんな可愛い小鳥さんにして
嵐の中で助け合い思い合う世界を描いた
子ども劇の醍醐味を味わった
その後早来小学校に異動して ここでも4本のシナリオを上演した

生涯で10本のシナリオしか書かなかった
2本のシナリオは 書き直して再演した
子どもと離れたときから 書けなくなった
子どもと一緒にいて その声を聞きその顔を見ていたから
台詞回し一つでも その子に見合ったものを大事にした
自閉症の子も知的な障がいのある子も 一緒に演じた
シナリオは 子どもたちとの共同作品になった
子どもたちと劇を創る喜びは 一体化され感動を共有した

子どもたちがそこにいるから 子どものおもいをことばにのせた
子どもたちはいまを生きるから 子どもと生まれた意味を問い続けた
子どもたちは未来に生きるから 子どもに生きる意味を問い続けた

子どもと世界で一つの劇を上演した遠い昔
その始まりは 書くしかなかった
子どもとふれあうことのない世界に生き長らえて
いまは 散文詩を書くことしかない
夢は子どもと創る演劇の世界
叶わず夢のまた夢か

〔2020年10月17日書き下ろし。学芸会の季節、いまは学習発表会。多忙な教師たちはシナリオを探して、ほどよく手直しして演じさせる。自分ならきっと熱情が失せてゆくであろう〕

笑顔の対価

ここの仕事に欠かせないこと
笑顔だと話題になるたびに
男は笑うことを強要した

ここの仕事に就くまでは
笑顔が求められることはなかった
男は笑うことなく強要した

ここの仕事を続けるためには
笑顔をすることを求めた
男はまねごとで用は足りた

ここの仕事は温かみを失いトラブった
笑顔が消えそうな空気が流れた
男は責任を回避して居座った

ここの仕事の評価は
笑顔が溢れる職場を創ることだった
男は笑顔の意味を解せず孤立した

ここの仕事はマスク越しにでも
笑顔を心からできる人を信じた
男は眉間にしわ寄せ自滅する

福祉の仕事と人を生き返らせるには
座を追われる前に
男は去るべき時を知るべきだった

〔2020年10月16日書き下ろし。福祉の世界に管理と営利を持ち込んだ者たちへ笑顔の真の意味を問う〕

利心

利心を育てよ
事にあたってその本質を見極める

利心を学べよ
事の本質を聡明に解き明かす

利心を鍛えよ
事に臨んで揺らぐことなく遂行する

利心を発揮せよ
事の解決を迅速に対処する

利心を広めよ
事にあたって逞しく生きる力と化す

利心を福祉に注げ
利は欲にあらず
利は福祉社会を創る心の構えとなる

※利心(とごころ):するどい心。しっかりした心。

〔2020年10月13日書き下ろし。利心という言葉に惹かれた。この心を持って人と社会を見たい〕

知ったかぶりの男

知ったかぶりの男がいた
見たこと聞いたことが
独断と偏見に満ちた言葉に変わる
さもさもらしくオレ様気取りでよくしゃべる

知ったかぶりの男がいた
見たこともないのに聞いたこともないのに
見苦しいその言葉づかいが鼻につく
さも分かったふりしてオレ様気取ってよくしゃべる

知ったかぶりの男は知らない
見たことも聞いたことも
見てないことも聞いていないことも
当事者ぶった横柄なその態度
嫌みで鼻持ちならない男だと

知ったかぶりの男は知ってる
メディアがつくる政治ショー
メディアは露出度上げてヨイショする
メディアは人気がすべてのバロメーター
落ちるまでの消耗品
みんなもバレバレだって知っている

知ったかぶりの男は知らない
オレ様気取った上から目線
偉そうにふんぞり返るその態度
世間も呆れる食傷気味な男だと

知ったかぶりの男は知っている
メディアが操る俗界の一翼担う
俗人は飽きっぽく移ろいやすい
次の出番はないかも知れない
廃棄期限までせっせと稼ぎに精を出す

〔2020年10月14日書き下ろし。メディアに露出して評論家や政治家の如くのたまう方々、 俗界ではもう飽き飽きしてるんですが…〕

いやだな

道内のコロナ患者が増えてきた
「低レベルの流行の持続」から「拡大傾向」に悪化した
道内の人口10万人当たりの1週間の新規感染者数
11日時点で3・75人
1人の感染者が平均何人にうつすかを示す指標
「実効再生産数」は1・27
関東圏の1・07 関西圏の1・00を上回る
いやだな

感染状況に応じた対策の基準
北海道バージョンは 5段階の警戒ステージ
1で一般的な感染対策の徹底
2で出勤抑制や感染リスクの高い会合の自粛
3で不要不急の外出の自粛などを要請
4で休業要請やイベント規模の見直しの要請
5は最悪のステージで国が緊急事態宣言するレベル 
全道の外出自粛や道外との往来自粛 イベント開催の自粛や施設使用制限
ステージ移行の目安になる 1週間の新規感染者数や一部の数値
すでに2や3に達して 入院患者数も2に近づく
なんだかいやだな

3密避けて 観光客は移動する
気をつけて気を配って 注意を払って移動する
友と会うことも遠慮して 気遣いながら移動する
せめて北の秋の自然と食を満喫して欲しい
少しでも出会いとふれあいが生まれて欲しい
しばらく観光客も観光地も我慢が続く
でも互いに気疲れしてしまいそう
いやだな

緩んだ空気を締め付ける予感がする
自粛をさらに促す予感がする
規制をかける予感がする
景気が止まる予感がする
すごくいやだな

たいしたことないやと軽視する
おバカな大統領の口車には乗らぬよう
大丈夫だと過信する
そんな空気を流さぬよう
いまこそ踏ん張りどころと心して
次の山場に堪えるパワーをつけたい
うつらないうつさない気持ちで動く
強い思いのこもった「いやだな」
その行動がコロナと闘う力に変わる

〔2020年10月14日書き下ろし。道内の感染拡大が心配される。いやだなという気持ちを強く持たなければならない局面になった〕