阪野 貢 のすべての投稿

寂しいお盆

「おいででしたか」

「お待ちしてました。上がってください」

「まずは、お線香をあげさせてください」

「いつもお参りいただき有難うございます。お供えまで有難くいただきます」

「いえいえ先代には、どれほどうちの親父もお袋もお世話になったことか、こうして代わりにお線香をあげられるだけでも、ありがたいです」

「そうおっしゃっていただいて、今年も無事お盆を迎えることが出来ました。さあさあ冷たい物でも」(2人席を立って茶の間に行く)

「大家さんにはいつもお世話になりまして、今日も遠慮なく寄していただきました」

「こちらこそ、宅のとりとめのない世間ズレしたお話を聞いていただいて、本当にご迷惑をおかけするばかりで、申し訳ありません」

「いえいえそんな、私の方がいつも教えを請うばかりで、感謝しております」

「ボケ防止には、おしゃべりが一番といいますが、女の私には茶飲み友だちがおりますので十分は間に合いますが、宅は家に籠もっていますので、あなたがおられるだけで本当に助かっているんです」

「何バカなことを言っているんです。酒の用意をお願いします」

「はいはい、今日はごゆっくりされてください」

「有難うございます。お言葉に甘えまして」(ビールと肴が運ばれてくる。ビールをコップに注ぎ、杯を掲げて飲み始める)

「今年は子どもらも、戻っては来られないというから、寂しいお盆ですね」

「やっぱりあれですか、帰省に規制がかかって気勢が上げられない」

「来ましたね、さっそく。そうなんですよ。こんなに東京で感染が一気に広がって行くなんて思いもしませんでしたからね。それを最初の流行とは質が違うなんてわけの分からん理屈をこいて、判断は好きにして押しつけた。GOTOキャンペーンが止められない。困った内閣です」

「いろんな知事がうちにはご遠慮くださいみたいなことを、遠回しにおっしゃっていますが、ダメージをもろに受けたのは沖縄の離島。知事は緊急事態宣言を出っしゃったわけで、あれを見ちゃうと、うちさくるなって、やっぱり警戒心は強まりますよね。GoだのStayだの犬でもあるまいし、うざったらいこって」

「そこなんだね。曖昧なことしかいわないから怖さが増して、時に攻撃的もなるから、余計に怖い」

「青森に帰省した人の玄関口に、なんで戻ってきた、すぐ帰れって書いた紙があったって。ショック受けますよね。何百年もの間同じ土地で先祖代々生きながらえてきた地縁が、いとも簡単に壊れていくんですね、哀れというか」

「ただね、そう思ってもしちゃいけないって、普通じゃ自制心とか道徳心とかが働くところだけども」

「とおっしゃいますと」

「いえね、本心みんなそう思っているだけのことで、そうした人を表立って批判できないところに、世間は追い込まれているんじゃないかと。田舎は特に高齢者も多いから、自衛しなきゃいけないのでしょう」

「していいこととしてはならないことの何かギリギリのところで暮らしているようで」

「普通ならどこどこの家の息子が東京から帰ってきたなんて、普段は見向きもしないし、息子も近所周りして挨拶することもなくなったから、知ることもない。でもこのご時世、近所で監視が始まった。おや見慣れない人、見慣れない車ってなことになると、詮索センサーが一斉に動き出して、情報が集まってくる。伝え聞いた正義感に燃えるもんが、一言忠告に出向くと息巻いて、まあまあと押しとどめるそぶりしながら、背に腹はかえられないとばかりに、背中を押している。その家のもんとは多少しこりを残しても、仕方ないとあきらめる。ほとぼりの冷めた頃に、謝りの一本を入れればいいだろうと高をくくる」

「とりあえずこうするしかなかったからごめん、ってことですか」

「いいね。今日のキーワードは〈とりあえず〉ですよ」

「えっ、〈とりあえず〉ですか」

「そうそう、いまの内閣のやってることは、世間のやってることと大差ない。〈とりあえず内閣〉ってとこですね。やることなすことその場限りで、とりあえずそこんところを繕っておけば、いいだろうとすればするほど、仕立てが下手だからすぐにほつれる。ほつれたらまたとりあえず何の考えもなしに、縫いつくろう。その繰り返しで、指導力も政策企画能力も推進力も何もないことがバレてしまった。十兆円の補正予算も、解散選挙で勝つためのばら撒き軍資金で準備はしたが、東京を含めて全国に感染拡大しちゃって、どうすることもできなくなった」

「広島と長崎の原爆の記念式典でも挨拶の中身が上書きされただけだと非難は受けるは、長崎では何しに来たのかと遺族会には詰め寄られるはで、弱り目に祟り目でしたね」

「記者会見もそこそこに出ていったのは、もう話すべき〈言葉〉がないということ」

「どういうことで」

「安倍さんの言葉には、心に響くものがないから、天下の読売新聞の世論ですら、救いようのないくらい支持率ガタ落ちで、不支持に至っては54%とかばいようがない。威勢のいいフレーズはあったけれど、そもそも〈言葉の力〉がない。だから国会を開けない」

「独善的な米国やブラジルの大統領と別格としても、ともかくコロナの対応は失態続きで評判は悪いですね。感染者や亡くなった人の数では、世界でも少ないのに、その指導力は全く最低レベルですね」

「確かに数から見ると少ないから普通は良くやっているって評価されて当たり前だけども、政策としては成功しているとは言い難いから、皆さん不満をこんなカタチで吐き出して、政治を担う者たちに檄を飛ばしているのかもしれない」

「えっ、エールですか?」

「逆もまた真なり。そういう風に解釈して煙に巻くのが上手いから政治家ともいえますね。決して過ちを過ちとは認めない。もう一つ、誰かに責任を押しつければ一件解決」

「いやはや、黒いものを赤だと言いくるめるこれも〈言葉の力〉ですか」

「彼らはそうだと思い込んでいるから、たちが悪い。日本語を歪曲させて、不正義を正義に変えるくらいは朝飯前でしょ。そもそも政治に正義はあるのかと、広島の〈黒い雨裁判〉で不信感というより怒りさえ感じましたね」

「これが選挙前の判決ならば、公訴取り下げを平気でやる人。広島の原爆記念式典で控訴しませんと挨拶したら、支持率グッとアップしたものを、そのあたりの政治感覚のズレが、はっきり見えたということですか」

「おっしゃるとおり。ただね、いまひとつ考えなければならないのは、怖い数字です」

「数字というと」

「コロナの世界の感染者が11日に2千万人を超えたとニュースがありましたが、1千万人を超えたのが6月29日なんです。たった1ヶ月半で倍になり、亡くなった人も70万人も超えているという深刻な事態です。日本も、5月の25日に緊急事態宣言が解除された時には1万7千人弱で820人の方が亡くなっていましたが、今日5万人を超えましたね。7月からここ1ヶ月で倍に感染者が増えているんです」

「それでも、重症者が少ないとか医療崩壊はしないとか、旅行は随意にとか、感染地区の営業は規制をかけますとか、この夏みんな中途半端にやり散らかして、特に何もしないことにしたんですかね」

「国会を開いても、打つ手もない。ただ腐(くさ)されるだけで、そこで余計な言葉でも吐いたものなら、その尻拭いをみんなこぞって忖度させられる。開くはずはないでしょ」

「コロナには勝手に一時休戦。まずはジムで体力づくり、健康維持で次に備えるという、優雅な夏休みをされておられるのですね」

「一致も察知も行かない日々、日銭を稼ぐのに汲々とされてる方や、夏休みにどこにも行けずに家で過ごす子も、この熱暑の中辛抱して暮らしているにもかかわらず、議員は選挙区に帰省して軍資金集めに奔走してることでしょう」

「ホットなニュースです! 米国とドイツが共同開発しているコロナのワクチンの臨床試験が順調なら、暮れには有効で安全なワクチンが大量につくられそうです」

「それは嬉しいですね。一刻も早くワクチンの供給が始まれば、犠牲者も減りますし、その先の経済の見通しの段取りも付けやすくなりますね」

「先が見えることで、暮らしを立て直すという目標がはっきりしますね。ワクチンの開発が成功なら、ほんと素直に嬉しい。研究している人たちって、マジに人類の救世主ですね」

「おっしゃるとおりです。人間の叡智というのは侮れない。研究者の並々ならない精進と研究への真摯な姿勢に感謝するしかありません」

「なにかこうして酒を酌み交わしているのは、申し訳ない気がしますが」

「いえいえ、ご先祖さんもさぞ気をもんでいたことでしょう。少しでも明るい兆しが見えたことを伝えるいい機会となりました。このまま無事ワクチンの開発、製造が進みますよう、とりあえず乾杯しましょう」

「それでは、とりあえず遠慮なくいただきます」

〔2020年8月13日書き下ろし。ワクチン開発のグッドニュースが入ってきて、不安が少しでも解消されることが、今日の救いになりました〕

付記
新型コロナの政府対応「評価せず」66%…読売世論調査
読売新聞社が7~9日に実施した全国世論調査で、新型コロナウイルスを巡る政府のこれまでの対応を「評価しない」は66%(前回7月3~5日調査48%)に上昇し、同様の質問をした2月以降6回の調査で最も高くなった。「評価する」は最低の27%(同45%)。安倍首相が新型コロナへの対応で指導力を発揮していると思わない人は78%に上った。
安倍内閣の支持率は37%で前回調査(7月3~5日)の39%からほぼ横ばいだった。不支持率は54%(前回52%)となり、2012年12月の第2次安倍内閣発足以降で最高となった。不支持が支持を上回るのは今年4月調査から5回連続だ。
政党支持率は、自民党33%(前回32%)、立憲民主党5%(同5%)などで、無党派層は46%(同46%)だった。
今年のお盆期間中の帰省に対する考えを聞くと、「(新型コロナウイルスの)感染が拡大する恐れがあるので自粛すべきだ」が76%に上り、「感染防止策を徹底していれば問題ない」の22%を大きく上回った。
政府が、7月から旅行代金の割引などで観光を支援する「Go To トラベル」事業を開始したことについては「適切ではなかった」が85%に達した。この夏の旅行について聞くと、「都道府県をまたいで旅行する」が12%、都道府県をまたがず「近場へ旅行する」が15%で、「旅行は控える」が67%に上った。政府は、観光需要を喚起するため、旅行費用の半額を補助する「GoToキャンペーン」事業を8月上旬にも開始する方針だが、国民の間では依然慎重な人が多いようだ。
国内で新型コロナウイルスの感染が再び拡大する「第2波」への不安を「大いに感じている」とした人は57%(前回6月5~7日調査52%)に上昇した。「多少は」38%(同39%)と合わせ、不安を感じている人は95%に達した。(読売新聞オンライン2020年8月9日)

コロナワクチンの初期試験で抗体 ファイザー開発、英科学誌に発表
【ワシントン共同】米製薬大手ファイザーのチームは12日、開発中の新型コロナウイルス感染症のワクチンを接種した人に、ウイルスに対抗する抗体ができたとする臨床試験の初期成果を英科学誌ネイチャーに発表した。
ワクチンはドイツの企業ビオンテックとの共同開発。7月末に3万人対象の臨床試験が米国で始まった。順調なら10月にも米食品医薬品局(FDA)の安全性や有効性の審査を受け、認められれば年末までに最大1億回分、来年末までに13億回分の製造を目指すとしている。日本政府は開発に成功した場合、来年6月末までに6千万人分の供給を受けることでファイザーと基本合意している。(共同通信社 2020年8月13日)

ペーパー教師誕生

教職課程のある大学ならば
必要単位を 取得させると
文科省は 教員免許交付する

教育実習することで
教師に不向きとよくわかり
免許だけでもとりあえず
だから 子どもに迷惑かけません

教育実習することで
教師の仕事を垣間見て
免許だけでもとりあえず
それも 資格のひとつです

教育実習した後で
教師への憧れ 見事に砕け
免許は取っても 
使い道は ありません

教育実習した後で
教育への志 見事に挫(くじ)かれ
免許は取っても
虚しさだけが 残ります

教育実習する前に
教える不安で
ドキドキしてた
教育実習しているときは
教室の片隅に黙って座る子に
毎日言葉をかけました
それしか できません
教育実習最後の授業
その子が初めて手を挙げて発表しました
それだけのことが 心に響きました
教育実習したことで
その子に
先生になってごらんって
背中を押されたように感じています

コロナ禍で 教育実習できません
文科省 実習なしで
教員免許交付します

採用後の落伍者が 目に浮かぶ

〔2020年8月11日書き下ろし。実習で教える人としての資質を試すことなく、採用されれば現場に入る。教師のなり手は不足中。さらなる質が問われそう〕

付記
教育実習なしでも教員免許 コロナ禍特例、文科省が通知
学校現場での教育実習の受け入れがコロナ禍で難しくなっていることを受け、文部科学省は11日、今年度に限り、大学の授業などを教育実習の代わりに単位として認める特例措置を発表し、全国の教育委員会などに通知した。「真にやむをえない場合」の措置だが、今年度は「教育実習なし」でも教員免許が取得できるようになる。
◇教育実習の特例措置についての文部科学省通知(骨子)
・教育実習の期間の全部または一部を、大学による実習などで代替できる(可能な限り、教育実習と組み合わせる)・大学による実習も困難な場合、教職課程の認定を受けた教育実習以外の科目で代替できる・特例措置を活用する学生がいることを念頭に、都道府県教育委員会は初任者研修などで十分に配慮する(朝日新聞2020年8月11日)

きみがただいるだけで

コロナ禍の夏
きみは生まれた

きみがただいるだけで
世界は どうしてこうも明るくなるのだろうか
きみがただいるだけで
ひとは どうしてこうも優しくなれるのだろうか

きみといるだけで
どうしてこころが安らぐのだろう
きみといるだけで
どうしてこころがぬくもるのだろう

きみが泣くと
世界中の悲しみを みんな集めたよう
きみが笑うと
世界中の喜びを みんな集めたよう

きみの小さなその手には
大きな愛を 握っている
きみの大きなその瞳には
大きな希望を 見つめている

きみとは会えなくても
きみがすこやかに育ちますよう
祈っています

きみとは出会うことがなくても
きみが仕合わせになりますよう
動く人に なります

〔2020年8月10日書き下ろし。敗戦の日を前に、世界中の子どもたちがすこやかに育ちゆく平和な世界をつくる誓いを、犠牲になった御霊に捧げます〕

トマトを食べた

6月5日
ゴーヤーとトマトの苗を買いに
園芸センターに行った
時すでに遅し
腰を痛めて 外に出られなかった
付けがここに回った

売れ残りのわずかな苗たちが
一角に集められ
半額の値札を付けて
処分されるのを待つ
その姿は痛々しい
中から 1本だけ選んだ
それしか めぼしい苗はなかった

庭の片隅に移植し 成長を楽しむ
脇芽を摘まぬと いつもの如く
自由奔放に 枝を伸ばす
その我が物顔の ふるまいがいい
花が咲き 下の方から実を結び
大きくなって 熟すのを待つ
毎日いまかいまかと 焦がれるのがいい

2ヶ月かけて ようやく1個
食べるに値するまでに 成長した
無農薬の赤いトマトを さっと水で洗って
工事中の口の中に 放り込む
甘酸っぱい果汁が 口に広がるのがいい
歯の腫れの痛みを忘れた
ひと坪農民の 収穫の喜び

百円の苗が 観察と世話という
小さな役目を 毎日与えてくれる
大それたことなど 出来るわけはない
隣には枝豆が 小さなサヤをたくさんつけて
中身の子豆を 育てている
夏の終わりには 間に合うだろう
ビールのつまみにと 希望を託すいまがいい
ひと坪農民の ささやかな歓び

〔2020年8月9日書き下ろし。いまは5種類の紫陽花が花の盛り。3本はいただいた切り花を刺したら根がついた。草花は、なにかほっとかれんところがいい〕

歯の改修工事中

今日は、長崎原爆の日。原爆資料館で見た、亡くなった弟を背負い焼き場で順番を待つ少年の姿が焼き付いて、いつも心に浮かびます。原爆手帳を持ったボランティアの師も十年前に逝きました。犠牲者の皆様のご冥福を心より祈ります。核なき世界を希求します。

3月 歯周病に冒された前歯を抜いた
いまプラッチクの仮歯で 体裁を繕う
いずれ 隣の歯二本を削って支える
保険でまかなうイミテーションの歯が入る

歯周病に冒された歯は 
両奥歯上下に及ぶ
口内は 惨状だった
80歳20本というスタンダードな目標は
当然クリアできると豪語していた
でも このありさまで意気消沈

今どきの歯科治療は興味深い
大して役に立っていない親知らずの利活用
抜歯しかない奥歯の後釜に
その親知らずを移植する
その前に歯の根を始末する

若手の腕の確かな
歯周病の専門歯科医が手腕を振るう
根の治療は、移植で抜かれる不要な歯の神経を抜く
抜かれた後の細い神経管に注がれた薬の影が
見事にX線に映し出される
かぶせ物は仮のものだから 固い物は御法度
前歯は 噛み切れず 左右の奥歯も 噛めず
悪戦苦闘しながら 
少しでも噛みたい欲求を満たそうと
残った元気な歯で セコセコと噛むしかない

次はいよいよ本格的に歯周病治療
歯肉剥離掻爬(しにくはくりそうは)
麻酔をかけて 歯肉を剥いで
歯に付着している悪しきものを掻き取る
その後薬を塗って 傷跡を縫う
3ヶ月かけて 上下の奥歯を順番に 
2~3本セットで 1時間の改修工事が続いた
時には あまりの気持ちよさに つい居眠りこいた

さらに 治療は続いた
再生の可能性のある 歯の骨の衰退した箇所に
骨の再生薬リグロスを注入し縫われた
年金生活者には 高価な薬だ
効果は1年後 楽しみが増えた

その治療から 3日目
腫れが引かない
痛み止めを飲んで 我慢する
昨日の夕食は 痛いといいながら
好物のおかずに 食い意地が勝つ
血の巡りをよくすると腫れるから
まだ2~3日は ブクブクうがいは御法度
酒も運動もお風呂も アウト

さて 抜糸後の改修工事
工期は長~い
そうなってしまったことに
深く後悔しながら
少しでも長く 好物を噛める歓びに
少しでも浸ることが出来ればと
希望を胸に 治療台に横たわることにしよう 

毎日3食後と就寝前に 欠かさず歯磨きしてきた
でも歯周病は 知らぬうちに侵略して
口内を占領することだけは 痛いほどよくわかった
こうなってからでは 遅すぎる
くれぐれも 歯の磨き方は
正しく 正しく 磨こう!

〔2020年8月9日書き下ろし。実体験中です。コロナ禍で感染リスクが高い歯科医の真摯な治療には、本当に感謝しています〕 

あなたが開き、広げる万華鏡の世界:心が躍る一冊―今中博之著『壁はいらない(心のバリアフリー)、って言われても』のワンポイントメモ―

あなたは、/壁をゼロにすることを/本当に願っていますか?/他者の喜びを/自分の喜びとしたいなら、/他者の苦しみも/自分の苦しみとしなければ/道理が合いません。/共に生きることは、/生半可なことではないのです。(16ページ)

私たちは、/他者から何かを伝えられ、/それに呼応する/言葉がなくてもいいし、/自分だけの言葉を/他者に語る必要もありません。/大きな壁の中では、私たちは、/秘密をたくさん持っていて/構わないのです。(44ページ)

誰かに「勇気をあたえたい」と思うあなたは、強者で賢者です。/だから、あなたに「ワタシを守る壁」なんて必要ありません。/私は、ワタシを守るために「仏教的なるもの」が必要でした。(188ページ)

〇筆者(阪野)は今中博之(ソーシャルデザイナー。敬称略)から、「名刺代わり」のご高著『壁はいらない(心のバリアフリー)、って言われても』(河出書房新社、2020年7月。以下[本書])のご恵贈を賜った。今中がいう「名刺代わり」とは、自らの人生を綴った自分史であり、怒りや安らぎを、その時々の心情を吐露した本でもある、という意味であろうか。また、今中は、本書は「少し毒気(どくけ)のある生き方エッセイ」であるという。誰をやり込め、傷つける「毒気」なのか。その対象は、「あなた」(「壁の中に籠りがちなあなた」「壁を壊して外に出たがるあなた」、「マジョリティのあなた」「マイノリティのあなた」、「中・高生のあなた」「大人のあなた」、しかも「見て見ぬふりをするあなた」「見ぬふりをして見るあなた」)なのか、「既成の知や制度化された知」(208ページ)なのか、あるいはもしかして今中、あなた自身なのか。
〇そんなことよりも、今中がそのような「気負い」をなくすきっかけは何だったのか。筆者は、その答えのひとつを次の一節に見出したい。「壁をコントロールできるなら、すべきだと書いてきました。無理やりにでも、意図的にそうすべきだとも書きました。でも、こうも思うのです。私は何さまだ‥‥‥自惚(うぬぼ)れるんじゃない、と。/仏教は、私に『無常』を教えてくれました。『無常』の『常』とは、『ずっとそのまま』ということです。それに『無』がつくと、『ずっとそのままは無いよ』となります。つまり『うつりかわる』ということです。うつりかわるものは、『すべてのもの』です」(183、184ページ)。「ずっとそのままは無いよ」は、「あなた」へのメッセージであり、愛娘(まなむすめ)へのそれでもある。
〇筆者は、本書を読み始めて早々に、何故か(本当に何故か)、子どものころに遊んだ摩訶不思議な世界である「万華鏡」を思い出した。3枚の鏡を組み合わせたもので、その内部に封入された対象物(オブジェクト)は次の三つである。「デザイン学・仏教学(仏教的なるもの)・社会福祉学」「デザイン(企て)・人生(生き方)・自分史(内省)」「哲学(生き方)・価値(選択基準)・思想(考え方)」。これらが、「一人ひとりで、共に」という理念・原理に基づいて「ソーシャル・イノベーション」(社会変革)をもたらす。そして、今中のほどほどでない“憤り”や“怒り”と、「仏教的なるもの」による“優しさ”や“安らぎ”を映し出す(図1参照)。今中の憤りや怒りは数知れないであろうが、筆者自身も優しさや安らぎを覚えるのは次の一節である。「愛する人を守るためには、私はワタシを守らなければならない。そのために壁の中に籠ることを肯定したい。けっして心のバリアフリーだけが幸せになる行為ではない」(217ページ)。
〇以下で、筆者が注目したい今中の言説のいくつかをメモっておくことにする(抜き書きと要約。見出しは筆者)。

「壊すべき壁」と「自分を守ってくれる壁」―「障壁」と「防壁」―
そもそも壁は二つあります。それは、「壊すべき壁」と「自分を守ってくれる壁」です。壁をゼロにしたからといって共生(きょうせい)が叶うわけではありません。大きな壁に囲まれているから孤独になる? そうとも限りません。壁は壊すものばかりではなく、自分の手で積まなけれはならないものもあるのです。/大きな心の壁は、豊潤(ほうじゅん)な孤独をあたえてくれるし、沈黙の中で生きる意味、死する意味を学ぶことができます。小さな心の壁は、他者と適度な距離感をあたえ共生には欠かせない存在です。一方で、壊すべき壁を完全にフラットにするなんて不可能です、きっと。(1、2ページ)

「弱さ」の分だけ「強さ」がある―「イーブンの法則」―
私たちは、なにかしら生活に困りごとをもっています。完璧に健康な人間などいません。永遠に続く富者(ふしゃ)がいないのと同じです。つまり、弱さのない人間などいません。逆に、私たちには、強さが必ずあるということです。ただ、強さが弱さを消すわけではありません。弱さを抱えて生きるから強さが発見できるのです。/弱い自分なんて嫌いだと言わないでください。弱さがなくなれば、あなたの強さもなくなります。それが、イーブンの法則というものです。/アトリエ インカーブ(知的に障がいのあるアーティストとデザイナーであるスタッフが協働する公的なデザイン事務所)のアーティストたちと20年近く暮らしてきて、この法則、案外当たります。(3、26ページ)

共に寄り添う前に、一人でいることを肯定する―「一人ひとりで、共に」―
当事者研究のスローガンの中に「一人ひとりで、共に」という言葉あるんです。「一人ひとり」は「壁を作りましょう」という意味で、「共に」という言葉はそれと矛盾するようですけど、「壁に籠っている人同士でやりとりをしましょう」という、そういう両価的なメッセージです。(熊谷晋一郎)/異なる価値観をもつ人々が共に生きるには、個々に壁を立てながらもつながっていく態度が必要ですね。壁に籠りながらも、つながりをもつ。/誰一人同じ価値観をもつ人はいません。それでも共に生きる。「一人ひとりで、共に」は、これからの共生社会の原理ではないでしょうか。(135、136、157~158ページ)

〇今中がいう重要な言葉や言説のひとつに、「観点変更」がある。「ヒトもモノもコトも、見る角度によって、美しくも、醜くも、優しくも、冷たくもなることを知った。少なくともアトリエ インカーブのアーティストに出会うまでは、私の見る角度は既成概念という鎖で固定されていた。/鎖がからだから溶け出してからは、ヒトもモノもコトも、見る角度や高さを少しずつコントロールすることができるようになってきた。私はそれを『観点変更』と呼ぶ」(今中博之『観点変更―なぜ、アトリエ インカーブは生まれたか―』創元社、2009年9月、273ページ)。これがそれである。本書を読んで「観点変更」について改めて認識したとき(28ページ)、何故か(本当に何故か)、秋竜山の「福祉マンガ」の次の4コマ漫画を思い出した(秋竜山『福祉マンガNo.2 みんないいひと みんないいこと』相模原市社協、1985年3月、48~49ページ。図2参照)。多言を要しないであろう(含蓄のある作品である)。
〇いまひとつ留意すべき今中の言葉(作法)に、「閉じながら開く」がある。今中はこう説明する。困っている人の存在やその人の悩みを「知って欲しい」と思う人が、多すぎる。その人たちは「いいひと」であり、悪意のない善意の持ち主である(89ページ)。しかし、「開きっぱなしだと害虫が侵入し(疲弊する)、閉じっぱなしだとカビ臭くなる(脆弱になる)」。そこで、「壁の中に籠りながら、時が来たら壁の上から顔を出す」(91ページ)。それが「閉じながら開く」である、という。前述の万華鏡は、そのオブジェクト(今中の思考の枠組み)によって、固定概念を覆(くつがえ)す新しい世界(壁のなかで繰り広げられる世界)をそのウチに開く。そして、ひと工夫加えることによって、万華鏡は外の景色を取り込み、ソトの世界を無限に広げるのである(本稿のタイトルの意味はここにある)。
〇例によって我田引水のそしりを免(まぬが)れないが、今中の言説から、「市民福祉教育」にかかわるであろう一節を抜き出すと、例えば次のようなものがある。「マジョリティ(多数派)には、(きっと)悪意はありません。ただ、悪意のない善意ほどややこしいものはない」(21ページ)。「多様性はややこしいのです。/初めて見る規格外は恐怖です。でも、それが多様性です。/もし、あなたが、つまずくことを躊躇するなら、多様性のある社会を実現したいなんて言ってはダメです。つまづくことを覚悟するしか、多様性のある社会は実現できないのですから」(108ページ)。「私たちは、見えない障壁に囲まれて生活しているようなものです。一見、自由が保障されているようで、その実、コントロールされています。/障壁は強く強靭(きょうじん)です。抵抗しても、歯が立ちそうにない」(165ページ)。
〇これらの「ややこしさ」について、文部科学省が2020年度からその充実を図るという「心のバリアフリー」教育は、どのように認識しているのか。市民福祉教育はどのように向き合い、どのような事業・活動や運動を展開しようとしているのか。(敗戦後の混迷期のように)政治・経済・社会のすべてが「劣化」した日本のいまの在り様は、それらの教育実践の拠り所である(新しい)「哲学・価値・思想」の必要性について強く迫っている。今中の本書は、それに応えてくれる一冊でもある。

付記
「アトリエ インカーブ」と今中博之、神谷梢の言説については、<雑感>(73)/2019年1月28日/本文、(95)/2019年9月19日/本文、(112)/2020年7月8日/本文、を参照されたい。

名より実を

おらほの名は 捨てられぬ
そんなに 後生大事なお名前ならば
家宝の如く 愛でるがいい

おらほのおもいは 変えられぬ
そんな 誰もが忘れたおもいでも
家宝の如く 執着するといい

おらほも 背に腹はかえられない
持参金 たんまり貢いでくれるなら
家宝は打ち捨て 打って出るしかない

煮え切らない 腐れ縁
ちゃぶ台返す 腐れ縁  
コップの中の嵐のごとし 腐れ縁

名如きで グダグダと策を弄する
小さな信念 小さな器の方々に
小同断結の リスク抱えた
アフターコロナの舵取りを
果たして任せられるのか

仲介せし異才の復活こそ 
いとおかしきことなり

※おかしい:興味深い。おもしろい。風情がある。情趣がある。

〔2020年8月7日書き下ろし。壊し屋と異名をとった政治家が最後の闘いに挑む姿を見たい〕

付記
立民、新党名投票受け入れ 国民との合流協議進展も
立憲民主党の福山哲郎幹事長は7日、国民民主党と合流した場合の新党名について、国民側が求めていた投票での決定に応じる意向を表明した。国会内で記者団に述べた。党名の選考方法で意見が対立し、停滞していた合流協議が進展する可能性が出てきた。
党名を巡っては、立民が「立憲民主党」を提案したのに対し、国民は民主的手続きによる選定を要求。さらに同党の玉木雄一郎代表は「無記名投票以外は考えられない」と明言し、2週間以上、膠着状態が続いていた。
国民の小沢一郎衆院議員が6日に立民の枝野幸男代表と会談し、投票に応じるよう説得していた。(共同通信社 2020年8月7日)

SNSと落選運動

通常国会が閉会
トップを切って
資金集めのパーティー開く
3密回避のパーティー会場
挨拶も時間も短縮して 感染対策大丈夫 
アソウ(麻生太郎)ですかと 納得します?

大物たちは
東京の感染拡大 何のその
ニカイ(二階俊博)目の緊急事態宣言が 出ぬうちに
スガ(菅義偉)りつきます 人脈に
いまが稼ぎ時です いましかない!

夜の街 バッジのお陰で歓待受ける
特権階級のお得意さん
感染広がり 「夜の街」と見下す発言
よくもしゃあしゃあ言えたもんだと 呆れてしまう
働く人の 辛苦も知らずに
女性蔑視 労働差別を 平気でなさる
北方領土で 女を買いたいと騒いだ男
接待された 歓び知って
ホダカ(丸山穂高)ら やめられない?

衆議院解散選挙の風向きが
いまは 一時おさまった
シンゾウ(安倍晋三)に悪い不意打ち 何度も食らった
狐と狸の化かし合い
風を読むなど 至難の業です
だからいまから 準備します「落選運動」
SNSを駆使して
政治という夜の街に 光をあてます
政治家という特権階級に メスを入れます

検察庁法改正を 廃案させたSNS
今度は 国民の代表にはしたくない代議士の選別
公選法で 合法の落選運動
政治にうとい 寝た子を起こす落選運動
子どもに 政治への関心を持たせる落選運動
政治も知らんくせにと息巻いた 代議士ら
知ってるもんも知らぬもんも 同じ一票持ってます
油断めさるな ご指名します落選運動

SNSが 新しい世論を創る

※落選運動:特定の候補を当選させる目的の選挙活動は公職選挙法で様々な制約があるが、落選運動は公選法の対象ではない。だから選挙期間外でも運動できるし、年齢制限もなく、選挙権がない18歳未満でも参加できる。ネット選挙の規制にもかからないため、SNSやメールで運動できる。

〔2020年8月7日書き下ろし。この夏じっくり地元選出の政治家が、本当に働いているのかどうかを評価してはいかがだろうか〕

躍動する太陽の子

札幌市内の小中学校
午前授業で 夏休み返上
連日30度前後の中を
クーラーなしで 授業を受ける
3密を避けて
授業も遊びも規制を受ける
放課後のグランド 
子らの姿はない

昼下がりの公園
子らが 三々五々集まってくる
東屋風の屋根の下で カードに集う数人
野球もどきの三角ベースで 広く場所を占領する数人
サッカーボールを蹴り合う数人
築山を駆け回って鬼ごっこに興じる いくつかのグループ
1年生から6年生まで 
行き場のない子らは みんなここに集まる
ブランコには 幼児の背を優しく押す
若い母親らも交じる
駐車している車中には 
外回りの営業マンが つかの間の午睡に沈む

ごくありふれた 夏の昼下がりの公園
学校で思いっきり遊べないストレスを
ここで 思う存分発散する
密着を避けるように 上手に動く子ら
元気に歓声をあげて 走り回る子ら
暑い陽ざしの下で
太陽の子になる

コロナ禍の想い出詰めて
短い北の夏に 
太陽の子のいのちが 
眩しく躍動する

〔2020年8月6日書き下ろし。広島の夏空を思い出しながら、コロナ禍でも外で元気に遊ぶ子らの姿に健康と世の平和を祈る〕

妖精さん

妖精さん
巷(ちまた)で こう呼ばれている
別称 働かないおじさん

若いときに 安月給に耐えて
企業戦士として 会社に貢献
その見返りに いまの処遇が約束された
ちょっとみ 正当論
周りは不服で 見下し論

企業の終身雇用と年功序列(給与体系)
多くは成果主義にシフトして
崩れてしまった
終身雇用も年功序列も
雇うリスクは 労働意欲と相まって
ただただ大きくなるばかり

秋には決まる 公務員65歳定年延長
ここに巣くう 妖精さん
してやったりとしたり顔
働くそぶりして 血税で生活安定
その席当分あかず 
役所は 妖精さんたちで老害化
若者は 就職難で生活困窮化
人生設計ままならず

教育公務員
終身雇用で年功序列の好待遇
定年まで 身分保障はバッチグー
忙しいといっては 責任回避の妖精さん
本も読まずに 教育語る妖精さん
子どもを知ったかぶりする 妖精さん
コロナ禍で 益々はびこる妖精さん

身近に妖精さんしている人いませんか?
すでに妖星化しているかもしれません

※妖星(ようせい):災害の前兆と信じられた,あやしい星。彗星 (すいせい)や大きな流星などをいった。

〔2020年8月3日書き下ろし。終身雇用、年功序列が残るそのシステムがしぶとく生き残る企業の中で中堅どころの40代50代のおじさんが働いている様子もなく それなりの給料をもらって妖精さんと呼ばれている。公務員と公立学校教員も、妖精さん化して職場で幅をきかせていませんか〕