特定の人に偏(かたよ)る依存は、長続きしない。相手も疲弊(ひへい)し、共倒れの危険性が高い。老老介護はその典型で、介護している人が先に倒れる場合も起こりうる。
だから、助けてもらうときには、いろいろな人とのつながりを持っていると、お互いに気疲れなく、いい関係のまま続けていける。災害の時にも強い、そんな暮らす力をつけてみたい。
※ あきは居間でくつろいでいる。
はる 「あきさん、いたか」
あき 「はるさんかい、あがっておいで」
はる 「遠慮なくあがってきた。変わったことなかったかい」
あき 「なんもさ。あんたがお茶こ飲みに来るかと待ってたとこさ」
※ はるにお茶を入れ茶菓子をすすめるあき、そこに社協の神代(かみしろ)さん登場する。
神代 「あきさん、いたかい」
はる 「あの声は社協の神代さんじゃないの。いたよ。あがって来て」
神代 「あら、誰かと思ったらはるさんの声だった。あきさんずいぶん若返ったと思った。あきさんお邪魔(じゃま)します」
あき 「はいはい、わたしゃなんも変わらず、相変わらず年寄りしてるよ」(笑い)
はる 「きょうはどうしたの?」
神代 「近所まで仕事で来ていて、どうしてるかなって、様子を見に寄ってみたの」
あき 「どうせ、ついでに寄って見たんだよね。ご苦労様です」
神代 「ずいぶんなお言葉で。そんなら顔も見たし嫌味(いたみ)も聞いたから失礼します」
はる 「冗談、冗談。まあお茶の一杯でも飲んでいって」
神代 「それじゃ遠慮なく、いただきます」
なつ 「あきさん、ただいま。あがるよ」
あき 「あらあら、なつさん、おかえり。ずいぶん早かったね」
はる 「どうしたの?」
なつ 「あら、はるさんも、おや神代さんも来てたんだ。ちょうどいい。はいおみやげ」
※ なつ、菓子折(かいおり)をあきに手渡す。
あき 「どうもごちそうさま。ところで、どうしたの?」
なつ 「どうもこうも、行った先から台風21号、そのあとすぐに大きな地震で怖かったよ。北海道の全部が停電になってしまって、息子のところのマンションも水は出ないし、エレベーターも動かず、外は真っ暗闇でさ。階段を上り下りするだけの体力はないから、じっとしているしかなかったよ。息子夫婦は、地下鉄も動かず会社も停電で仕事にならないというんで、買い出しに出かけたけれど、3時間も4時間も並んでもお目当てのものは買えなくて、疲れ果てて帰ってきてたわ」(2018年9月6日北海道胆振東部地震)
神代 「それはそれは、大変だったね」
なつ 「停電も断水も2日ほどですぐに回復したからよかったものの、孫の学校も始まり、共稼ぎの夫婦が朝出ていくと、昼間はひとりぼっち。余震もしばらくあって、8階の部屋は結構揺れて心細かったよ。そんなこんなで、孫のことも心配だからしばらくいたんだけど、なにせおしゃべりする相手もなく、夜は夜で共稼ぎの夫婦はいろいろ忙しくて、話す時間もろくになくてさ、部屋にこもって寝てしまうという毎日。何だか、気疲れしてきて、だんだん一緒にいることがしんどくなってきてね」
あき 「それで、おしゃべりしたくてしたくて、戻ってきたというわけだ」
はる 「おしゃべりななつさんが、よくも我慢(がまん)していたもんだね」
神代 「一人暮らしをしている人が、子どものところでお互い気を遣って暮らすのって大変だって、よく聞かされるけど。お互い生活のリズムが違うから、悪気はなくても、ついついしんどくなってくるんだって。特に日中ひとりの状態になる“日中独居”って、ほんとに辛くて、なんだか身体の調子も悪くなってくるっていう話よ」
あき 「なつさんが札幌さ行ってしまって、はるさんと二人でどうしてるんだかと、いつも話していたけど、話し好きのあんたにはしんどかったんだね。また三婆(さんばばあ)の復活だわ」
神代 「これでまたにぎやかになって、3人の心配はいらないね」
あき 「神代さん、私らの心配をして顔出してくれたの。忙しいのにすまんかったね」
はる 「包括センターの佐藤さんも、顔を出していたのは、そんなこと」
神代 「気になる人がいたら、なにか変わったことがないか様子をみるのも仕事なんです」
なつ 「札幌じゃこんなあったかい人情なんて感じなかった。やっぱり自分とこはいいね」
はる 「それじゃ、みなさんに厄介(やっかい)かけながら、3人仲良く暮らしましょう」
あき 「ありがたいね。神代さんやら佐藤さんやらにはご足労(そくろう)をかけるけど、これからもかわいい三婆、よろしく頼むね」(笑い)
役所の地域包括支援センターや保健センター、社会福祉協議会の職員、民生委員・児童委員や自治会の人たちが、地域で暮らす高齢者や障がい者の安否を確かめることは、これからも大事な活動になります。近隣の方とのつながりをもって元気に過ごされるよう、心配りや気配りする「お互い様の関係づくり」が、地域の支え合いや助け合いの力を強めていくことでしょう。
そして、一人でやせ我慢することなく、「助けて」と伝えることのできる地域づくりが、いま求められているのです。それを担うのは、「他人事にしない」というおもいを持って地域で暮らす一人ひとりに他なりません。
人が寄り添いあい、ぬくもりあるマチになっていくには、一人ひとりがどのように考え動いていくのか、確かめあってみませんか。
〔2018年10月1日。秋田県小坂町・鹿角市「地域づくり研修会」での問題提起の寸劇。地元の言葉遣いに直して上演した〕