秋冬春夏そして秋~店のない地区

食料品店が この地区から撤退して10年
8棟の市営団地も 今では老人団地
近くには 小さなコンビニ1店しかない
だから バスに乗って 買い物に出かける
車があればと ないものねだり
中秋 誕生日に 免許証は 返還した

厳冬 バスで町に出た
病院で診察と投薬 郵便局でお金を下ろして
ようやく 商業複合施設に行く
いろんな店が入っているから 買い物はここで済ます
帰りのバスは 2時間に1本しか走っていない
時間を持てあませば いつも飲食店で軽く食べる
あれこれ買って 重たくなった荷物
そうだ トイレットペーパー買い忘れ
急いで買い足し 滑る歩道を バス停へと向かう
ハアハアいいながら 家に辿り着く

早春 歩くのは健康にいいことばかりではない
重い荷物を持って運ぶという おまけ付き
気をつけていたにも関わらず 
家に戻ってきたところで 腰にきた
歩くことさえおぼつかない 這ってトイレに行く
買い出しに行ったおかげで 食べ物はなんとかなる
病院に行くことも出来ず
ひたすら 布団と仲良くしながら 快復を待つ
携帯電話が鳴った
離れている娘に 心配はかけられない
寝付いていることは告げずに 電話を切った
こんなこと 果たしていつまで続くやら
不安と腰の痛みを抱えながら テレビをつける  

初夏の浜風が ベランダに立つ頬にあたる
娘夫婦が 孫を連れてやってきた
婿と孫は 二人でどっかに遊びに行った
娘に 腰痛で寝込んだことがばれ 小言を聞かされる
娘は そろそろひとり暮らしをやめて
近くに 越してくるよう勧める
ここでの ひとり暮らしの限界を感じて
心配している娘のおもいが ひしひしと伝わる
この冬を越すには 体力に自信がなくなってきた
人生最後の 厳しい決断
この団地からの 我身の撤退
婿が戻ったら 三人で考えよう
まずは そう決めた 昼下がりだった

晩秋 我が家に 別れを告げた

〔2019年8月12日書き下ろし。父娘のいい関係が父の老後を担保する。婿もまた支援する。家族の根っこが腐らぬよう枯れぬよう、そう願わずにはいられない〕