自分のネットワークをつくろう

民生委員一年生、先輩に指導されながら、今日も二人で地域を回る。
炉端会議のたまり場に顔を出す。

田中 「こんにちは。佐東さん いましたか」
佐東 「だあれ(奥から声が聞こえる)」
田中 「民生委員の田中です」
佐東 「どうぞ。あら、鈴木さんも一緒に。あがってください」
鈴木 「こんにちは。お邪魔します」
佐東 「今年から民生委員をしてる田中さん。そして隣町の民生委員の鈴木さん。この間、田中さんが顔出したから、今日の寄り合い教えておいたの。鈴木さんは、どうしたの?」
鈴木 「お邪魔します。すみません。話せば長いのですが、簡単に言えば、田中さん、まだ民生委員の仮免中なんです。それで慣れるまで、ついてあげているんです」
田中 「民生委員1年生の田中です。よろしくお願いします」
佐東 「挨拶の終わったところで、まあ座ってください」
南野 「初めまして、私は南野です。田中さんとはどっかでお会いしたような」
田中 「町内会が違うので、こちらの町内の方とは面識が薄くて、困っています。
どっかこっかで、お会いしているかとは思いますが」
中西 「私は中西です。きっと初めましてですね。外には買い物くらいしか出歩かないので、町会の人でもよく知らなくて」
下北 「私は、鈴木さんも田中さんよく知っていますよ。私が町会の役員をしていた時に、連合の集まりでお会いしてました。お二人とも、皆さんの意見をしっかり聞かれてお話しされたり、行事でもテキパキと指示されて、よく動いていらっしゃった」
佐東 「下北さんも、町会の仕事に熱心でお世話役さんだったから、顔も広いし、田中さんの人がらもよくご存じなんですね」
下北 「いやいやもうこの年では、皆さんのご厄介をおかけするばかりで、顔見知りの田中さんが民生委員になられたのは、本当に心強いですね」
中西 「私も出不精で、前の民生委員の方とは一度くらい訪問されてきたくらいの記憶しかなくて。こんなふうにみんなでお会いするのもいいですね」
南野 「袖ふれあうも多少の縁とは言いながら、ほとんど知らない方々とお会いして様子をうかがうというのも、田中さん、ほんとにしんどいことですね」
田中 「本当に初めてのことで、今日のように皆さんの寄り合いに寄らせていただくだけでも、ありがたいですね。この町会の様子や心配事、困りごと、そしてしんどい方の様子など、一人で歩いて聞いて回るというのも、広い地域ですから、すんなりとはいかなくて。実は失敗ばかりで、苦労しています。玄関口でけんもほろろに追い返されたこともありました」
佐東 「うちに来たとき、上がってもらってお話を聞いてね、これじゃまるでさっさと辞めてといってるような情ない町会になってしまっては、ちょっとまずいと思ったのよ」
下北 「それはいけないわね。うちの町内で邪険にして田中さんに辞められたと言われたら、それこそ恥ずかしいし、取り返しのつかないことになるわよ。
なにせ、いま民生委員のなり手もいないっていうし、これから私もお世話になることを考えれば、とってもそれは、ほってはおけないわね」
鈴木 「嬉しいですね。皆さんで田中さんを応援していただけるなんて。実は心配ですって頼まれて、一緒にきたんですが、野暮なことでした。私も1年生の時に皆さんにお会いしていたら、もっと頑張れたかもしれません。よかったね田中さん」
南野 「そう言われると、民生委員の仕事って、相手のふところに入っていかなきゃならないことだから、田中さんの心配も分かる気がする。それにしても、そもそも民生委員の仕事をちゃんと理解しないで、勝手な思い込みでいる人って、結構多くない。
私も自慢じゃないけど、きっとそう(笑)」
中西 「私も同じだと思う。主人に先立たれて独り暮らしをしていると、何かにつけて不安で、だから家に閉じこもってしまたんだけど、佐東さんの奥さんからお茶のみにおいでと誘われて、やっと家から出られるようになったというわけ。本当に民生委員の方と会う事なんてなかったから、よくわからないというのが、ほんとのところね」
佐東 「そうだと思ってね。今日お呼びしたというわけ。一人だとなかなか聞けないことも、こうしてみんなで聞いてみると、いろいろわからないことも、少し見えてくるでしょう」
田中 「ほんとに助かります。いままで前の方がお世話をしていた人とは面談してきたのですが、それでもその人の性格とか生活とかは、引き継ぎを受けて記録見ても、実際に会わない限り良くわからないというがほんとのところです。
まだ私の知らないところで心配事を抱えて、一人であるいは夫婦で悩んでいる人もいらっしゃるわけで、探すというのも実に手間も時間もかかることなんですね。もちろん私自身民生委員の仕事について、十分理解しているかという問題も確かにありますね」
下北 「本当にご苦労なことですね。みんなでこうして会ったのも大事なご縁です。私たちがお話を聞いてだけでは、さっきの邪険にした人たちの問題が解決するわけではないでしょう。こんな集まりをお知り合いに声がけしてもらって、田中さんに話してもらえれば、誤解も解けて、協力もしてもらえるんじゃないの。私の方からも、町会の役員の方に話をしてみましょう」
鈴木 「願ったり叶ったりです。田中さんよかったね。ほんとによろしくお願いします」
佐東 「そこのところが一番大事。ここからはじめて、うちの町会の人に理解してもらい協力してもらえるよう、私たちもやらなきゃいけないと思うけど、どう?(みんな口々に賛同の声) 
それじゃさっそく田中さん、どんな協力が必要なのか、作戦会議を始めましょう」
南野 「その前に、民生委員さんってどんなことをされているのか、そこから教えてください。そこがそもそもわからなくては、誰かに伝えることもできないわ」
鈴木 「田中さん、わかることから、お話してください。足りないところは後で付け足しますが、それでいいですか」
田中 「鈴木さん、ありがとうございます。それじゃお話させていただきます」

不慣れな地域回りで苦労することが多い新任の民生委員さん。地域には数人の方が寄り合うところがきっとあります。
そこにお邪魔して、理解と協力をいただくことで、地域の確かな情報が入ってくることと、地域の問題を地域の人と一緒に考えていける拠点が生まれます。
もちろん一人で行動することを不安に思う人もおられるでしょう。田中さんのように先輩にしばらくついて現場で教えてもらうのもいいですね。保健センターの保健師さん、地域包括支援センターのスタッフ、社協の職員、時には派出所のお巡りさん、などと一緒に動くことも大事ですね。
まずは、ネットワークづくりを積極的に行うことが大事ではないでしょうか。ここでは、地域のキーパーソンともいえる「佐東」さんに出逢ったことが、幸いでしたね。表だって地域の活動は特別しなくても、お茶のみ話の場所は、特に女性たちは持っているのではないでしょうか。そんな人を見つけるのも、大切です。
そのまえに、理解を得るためには、皆さんにどんなお話をされるのでしょう。肝心要のことですね。そんなところから、気負わずスタートしましょうか。

〔2019年11月26日初稿、道民児連初任者研修で初出。道内14管内の研修会参加者が演じるシナリオです。石狩レポート(4)と併せてお読みください〕