地域丸ごと児童館―実践報告―/古田稔幸(柳津児童館)
柳津児童館は、老人福祉センター(A型)との複合施設ということもあり、現在、0歳から97歳までの地域住民の利用で日々賑わいを見せている。施設の不備と少ない職員のなかで、地域の学校や諸団体・サークル、隣接する商業施設などのさまざまな社会資源との連携・協働を図っている。その現状と児童館活動の実践を報告する。
◆ 柳津児童館の概要
岐阜市公式ホームページ(福祉部子ども家庭課)は、「柳津児童館の概要」について次のように紹介している。
明るく利用しやすい児童館として気軽にご利用いただいています。建物には高齢者福祉センターも併設されており、高齢者の方とのふれあい事業も実施していて、あったかい雰囲気漂う児童館づくりを目指しています。
・小学生を対象に文化的行事、体育的行事、季節的行事、ふれあい行事等、土曜日を中心に実施しています。
・就園前の幼児とその保護者を対象に幼児クラブ、わいわい広場等を実施しています。
子育て中のお母さんを対象に、育児・発達等の相談を経験豊かな職員が随時受付けています。プライバシーは、厳守します。(必要に応じて専門機関への紹介もいたします。)
・中・高校生及び保護者を対象とした相談及びボランティアの育成、移動児童館(児童館の出前)を実施しています。
柳津児童館(開設当時は「柳津町児童館」)は、1966年に岐阜県で初めて開設された、歴史のある施設である。2002年には、当時の柳津町福祉会館内のコミュニティセンターであった2階部分に移設された。ちなみに1階部分は、福祉会館が開設された1987年の当時から、老人福祉センター(入浴施設付き)として現在に至っている。
その後、2006年に柳津町は岐阜市と合併し、柳津町児童館は「柳津児童館」(以下、「当施設」という。)と改称して再スタートをきった。同時に所管が岐阜市に移り、それまで柳津町社会福祉協議会(岐阜市社会福祉協議会と合併)が運営を担当していた当施設は、岐阜市から指定管理者制度に沿って社会福祉法人岐阜市社会福祉事業団に運営委託され、今日に至っている。
また、合併以前から実施していた「留守家庭児童会」は、引き続き当施設内で開設している。現在、その所管は岐阜市教育委員会であり、第2、第3教室が別の施設に増設されて定員は合併前の30人から80人に増えている。
前述のように、当施設は、その特徴のひとつとして、岐阜市で唯一、老人福祉センター(「柳津高齢者福祉センター」)との複合施設となっている。2006年の合併以前は、老人福祉センターの入口が1階に、当施設のそれは外階段を上って2階にあり、利用者の交流もさほどなかったと聞き及んでいる。合併以降は、当施設の特徴を生かした世代間交流の促進を図るために、外階段を閉鎖して入口を1階に統一した。その結果、当施設へは内階段を利用しての入館となるため、1階のロビーでくつろぐ高齢者の横を通って2階へ続く階段へ向かう子どもたちを見て微笑む高齢者の姿が見られるようになった。まさに複合施設のメリットを活用した当施設の自慢である。自然な世代間交流を生んでいるのである。
当然のことながら、機会を作って合同のふれあい交流事業も実施している。初夏の七夕飾りでは、1階玄関内に天井(「天上」)まで届く2本の竹笹を用意し、子どもと高齢者が同じ竹笹に願いごとを書いた短冊を飾る。秋の敬老の日近くでは合同の茶会を開催するなど、複合施設ならではの効果を狙った事業を展開している。
これらは、広い意味では、意図的あるいは無意図的な「福祉教育」に繋がるものでもあろう。
◆ 柳津地域の特性
当施設が立地する柳津地域は、農業、商業、軽工業、住宅地域が混在するとともに、保育所・幼稚園から小・中・高等学校、大学まで揃った文教地域でもある。
地域に居住する住民は、地域との結びつきが強く、“元気”である。例えば、秋祭りの「子ども御輿」の際には、父母が付き添って子どもたちが地域内を練り歩くが、祖父母たちが交通安全協会員として見守り役を務める。そこには、世代毎の役割(役割期待、役割遂行)があり、その結びつきは強い。とりわけ祖父母たちにとっては、居場所と出番を実感するときである。
地域全体の行事も盛んである。春の「桜まつり」、「どんと!こいこい祭り」(子ども向け)、夏の「夏祭り・花火大会」、「サイエンスフェスティバル」(子ども向け)、秋の「柳津ふれあいフェスティバル」、冬の「凧あげまつり」(2013年から実施)等々、地域・住民総出で開催される。また、文化的行事として秋に開催される「柳津美術展」「柳津芸能祭」では、地域住民の持つ多彩な趣味や特技に触れることができる。その他、地域内の各地区毎では、住民参加・住民協働による、多種多様なふれあい交流事業が実施・展開されている。
こうした地域住民の地域への思いや地域との結びつきが、当施設との関わりを広め、深め、高め合うことによって、日頃の当施設の諸事業・活動(児童館活動)にもプラスに機能していることは疑いのないところである。
◆ 児童館の広報・啓発活動
児童館は、児童の健全育成や子育て支援、地域組織化活動等の多様で高度な機能を持っている。しかし、地域や住民は、その点について十分に認識しているとはいえないのも事実である。児童館の機能を認識していなかったり、それを有効活用できていないことは、地域や住民にとって「宝の持ち腐れ」であるといわざるを得ない。
そこで、当施設では、児童館についての「広報・啓発活動」を重視し、その取り組みに力を入れている。具体的には、地域の公民館等の公共施設内に当施設専用の、職員手作りの「掲示板の設置」をお願いしたり、小学校の昼休みの放送(金曜日)で、土曜日に当施設が実施する「行事の案内」を依頼したりしている。
◆ 社会資源の活用と児童館活動の活性化
当施設では、利用者のニーズの把握を大切にし、それに基づいて事業・活動の精選と拡充を図ってきた。それに伴って、「新規企画のニーズ対応の仕方」「大きな企画を実施するに際しての人手不足」「行事に参加する幼児の弟妹の託児に係る人員不足」「駐車場不足」等々の問題が出てきた。その都度、職員自らが地域内を見回し、地域に出向いて積極的に働きかけることによって協力者や支援者を得て、活路を見出してきた。児童館内に座していては、とても協力者や支援者は得られないし、事業・活動の拡充も望めない。常日頃の積極的・主体的なコミュニケーション活動を通して、地域や住民との多様で重層的なネットワークを構築することが、児童館とその事業・活動の拡充にとっては必須となる。
例えば、当施設の利用者のための駐車場を借用する目的で始まった、隣接する商業施設との関わりが、商業施設内での「移動児童館」(児童館のアウトリーチ活動)の実施を促し、それが「児童館の周知」と「店の集客」というメリットをそれぞれにもたらした。さらに、その商業施設に出店しているベビー用品店と「マタニティー教室」を共同開催するなど、新しい分野への進出・展開が図られている。
また、地域行事で一緒になったことがきっかけで、地元の大学の学生たちとの交流も進み、今では当施設の必要かつ重要な“人財”となっている。特に彼・彼女らは、行事の際の「お手伝い」(ボランティア)だけでなく、個人的にも時間を作って当施設に足を運び、子どもたちの相手をしてくれている。教員や保育者をめざす彼・彼女らにとっては、「教育実習」という限られた学習機会よりも、自由に来館して子どもたちと真に向き合い、接することが、重要な学びの機会や場になっている。その際、当施設職員の資質や力量が厳しく問われることは多言を要さない。
さらに、当施設では、託児ボランティアをはじめ多くのボランティアを受け入れている。その一方で、地域や住民が独自に開催する子育てに関する企画については、教材の貸与や講師の派遣などをおこない、良好な関係を築いている。また、地域の高齢者の「ふれあいサロン」に職員が出向き、交流を深めている。それがまた、高齢者の孫やひ孫の当施設の利用促進に繋がっている。
これらを一例として、地域や住民との関係を広げ、深めていくうちに、当施設を中心とした複合的・重層的なネットワークが構築され、それがまた地域や住民における当施設の存在感を高めている。
こまめに地域を回って得た協力者や支援者は、児童館のみならず、子どもたちの良き理解者にもなる。それがさらに、地域・住民による、地域・住民のための子育て環境の整備を進めることになる。まさに「地域丸ごと児童館」である。それは、福祉のまちづくりに繋がる。
児童館は、“地域福祉の時代”といわれて久しい今日において、その時代の要請に応える地域福祉施設であり、(福祉の)まちづくりの拠点のひとつである。今後も、地域内を動き回って児童館を中心とした大きな仲間の輪(「絆」)を築き、地域や地域の子どもたち、そしてすべての住民の“幸せ”(福祉)のために、住民主体・住民参加・住民協働のまちづくりをめざして活動していきたいと念じている。それは、そこに児童館の今日的な重要な役割や存在意義のひとつを見出すことができる、と考えるからに他ならない。