「老爺心お節介情報」第16号
Ⅰ 先日、日本の公的扶助研究の杉村宏先生から、ご高著【生きるということー私家版・生きる意味を公的扶助ケースワーク論に問うー】(萌文社刊行)をご恵贈賜りました。
この本は、杉村宏先生の60年近くに及ぶ公的扶助実践と研究、まさにこの分野の“生き字引”である先生の論稿で、とても勉強になりました。杉村宏先生は、北海道大学名誉教授であり、法政大学名誉教授でもあります。また、日本社会福祉学会の名誉会員でもあります。
本書は、杉村先生が公的扶助研究会の機関誌「公的扶助研究」に連載されたものに加筆修正されてまとめられたものです。
生活困窮者支援に関わる人や生活福祉資金に関わる人にはぜひ読んでもらいたい本です。ぜひ購読して読んで下さい。
杉村先生は、日本社会事業大学での先輩であり、私の学部学生時代からいろいろな点で教えを頂いた先生ですが、ご恵贈賜ったものの礼儀として、読んで感想を述べることが必要かと思い、いくつか書かせていただきました。
その感想を皆さんと共有して、いろいろ考えていただければと思い、「老爺心お節介情報」として送信します。
①今日の生活困窮者支援や生活福祉資金の「特例給付」をみていて、改めて「貧困」とは何かを考えていますし、江口英一先生が指摘した“不安定就業層”の問題の重要性を認識しています。その際、P89のラウントリーの「生理的生存」と「生理的な能率」の問題やP91~95の消費自体を住民が“選択”できなくなっている「生活の社会化」の持つ意味を改めて考えなければ今日の貧困問題は分析できないと思っていましたので、意を強くすると同時に、その解決の難しさに思いが至ります。
②P117の人間観の転換と生存権保障のところでは、資本主義的、あるいは労働経済学的な視点での社会政策だけでなく、近代市民社会成立時に、フランスがなぜ「博愛」を取り入れたのか、社会思想史的研究の側面が必要かと思いました。
私自身、労働経済学的社会政策からだけでは分析が無理と考えて、1960年代にフランスの社会思想に“解”を求めたのですが、研究が深まっていません。廣澤孝之さんの【フランス「福祉国家」体制の形成】等が参考になるのかなと考えてきました。
③P142の4つの「貧困観」、「権利観」、「人間観」、「自立観」は全く同感で、これをどう醸成するかで私は日本福祉教育・ボランティア学習学会を創設し、その普及に取り組んできましたが、相模原事件といい、新型コロナウイルスの感染者への蔑視、排除を目の当たりにして“無力感”さえ覚えるこの頃でした。
④ソシャルケアサービス従事者研究協議会を2000年に立ち上げ、“ソーシャルワークの楽しさ・怖さ・醍醐味”を訴えてきましたが、P143の“生活保護制度によって生活困窮者を支援しようとする公的扶助CWと当事者の間には対立する関係など存在しないが、生活困窮者が直面する貧困と生活保護制度の間には乖離や対立が存在する。それは本来対立関係にないはずのケースワーカーと当事者の間に、往々にして対立を持ち込むことになることがある。”という指摘は、ソーシャルワーク機能を考える上で重要ですね。
⑤公的扶助ケースワーカーなので、“クライエント”という用語を使用するのは、あるいは妥当なのかも知れませんが、私は潜在化している福祉サービスを必要としている人(クライエントになりきれていない人)へのアウトリーチ的アプローチをするのがソーシャルワークだと考えていますので、“クライエント”、“ワーカビリティ”、“インテーク”という用語については疑義を呈しています。
Ⅱ 「聴覚障害者等の電話の利用の円滑化に関する法律」2020年6月12日公布。
手話通訳者が通訳オペレーターとなって手話又は文字と音声を通訳することにより、聴覚障碍者等とその他の者の意思疎通を仲介する仕組みー電話リレーサービス。
(「新ノーマリゼーション」2020年11月号参照・(公財)日本障害者リハビリテーション協会)
Ⅲ 法政大学の宮城孝先生から情報提供を頂きました。私はまだ読んでいませんが、皆さんと情報を共有したいと思います。
『仮説住宅 その10年』 宮城孝他編著、御茶の水書房、6500円
(2020年12月9日記)