バッターボックスに立つ

川砂をまいたバッターボックス
軟式用の黒い木のバットで構える
グリップを赤い手袋で握りしめる
スパイクは砂に沈む

静かにスイングを始める
1回2回と数を数えながら
庭に緑濃く茂る紫陽花の葉に向かい
球筋をイメージして徐々に強く振りきる
50回で右から左にスイッチする

ワンサイクル100回
これを二度すると顔から汗が噴き出す
その汗が全身に回るところで終わる
二年ぶりの快感だ

歩くことも面倒になった
思索などとは恐れ多いことだった
走ることは出来なくなった
手っ取り早く庭で汗をかく

60を過ぎてからスポーツとは縁遠くなった
好きだった野球もソフトもしたかった
バッテングだけは庭でも十分出来た
腰回りの運動にはもってこいだった

バッターボックスは聖域だった
雑草が生えるものなら天敵とみなし退治した
狭い庭の貴重な1畳ほどのスペースは
ここ十年丹念に整備されてきた

去年腰痛でボックスに立つことが出来なかった
運動へのモチベーションも下がった
雑草が我が物顔することだけは許さなかった
いつかの日のために整備を怠らなかった

6月快晴 気温も高まりコンディションは整った
目標は1日500本
十年前は1000本振った
いまは振れるだけでも良しとする

7月末からワクチン接種を無事終えて
全道を駆け回る体力づくりを心がける
都市間バスに何時間も揺られての移動に堪える
腰の強化が目的だ

汗をシャワーで流して一息つく
庭のベンチに腰掛け太陽を見上げる
片手に炭酸多めの夏の「サッポロクラッシック」
冷えたビールを口中に一気に放り込む

バットを無心で振り汗かくだけのことが
どれだけリフレッシュされるのか
二年ぶりの爽快さをビールで盛り上げる
こんなことで救われることが嬉しかった

足できれいにならされたバッターボックス
明日の出番を待って夏風に砂が巻かれる

「2021年6月13日。書き下ろし。ビールを飲み終えた勢いで書いた。夏の仕事へのモチベーションを高めることと、コロナ禍で自宅待機の体力づくりにはもってこいの運動だ〕