鳥取県智頭町「杉下村塾」10年の歩み:河原利和のレポート―資料紹介―

〇筆者(阪野)は、本ブログの「ディスカッションルーム」(61)に「地域経営実践者としての寺谷篤志の挑戦、その記録:鳥取県智頭町地域経営講座「杉下村塾」を中心に―資料紹介―/2016年6月28日」をアップした。早速、ひとりの読者から、「杉下村塾」10年間の取り組みの概要(内容)について知りたい、という連絡をいただいた。
〇そこで本稿では、10年間「先生徒」(岡田憲夫の造語)であった河原利和(当時・智頭町地域づくりアドバイザー/とっとり政策総合研究センター研究員)が『平成10年度CCPT活動実践提言書』(1999年10月)に投稿しているレポートを紹介することによって、ひとまずそれに応えることにしたい。「私と杉下村塾―興味本位の参加から価値認識の参加へ―」(第10回杉下村塾特集/論文集:1~13ページ)がそれである。また、河原は、日本海新聞(1998年10月26日)で「1997年の提言書の主な評価を箇条書きで整理」している(『平成10年度CCPT提言書』、254ページ)。杉下村塾やそこでの「学び」(「地域共育」)について分析・評価するためのひとつの視点や枠組みとして、参考に供しておくことにする。
〇なお、杉下村塾は、発足時から10年、10回の期限を設定して開講された。最終回は、1998年10月23日から25日にかけて開講されている。以下では先ず、その開講案内とプログラムを紹介する。ちなみに参加者(「先生徒」)は26名であった。その名簿には、大学教員(岡田憲夫、杉万俊夫)や地域計画コンサルタント、郵便局長、学生・大学院生などが名を連ねている。彼・彼女らの住所は、鳥取県内が12名(46%)で最も多く、東京、京都、大阪、神戸、岡山、広島、愛媛などである。

▼第10回「杉下村塾」の概要
修正15時

加筆訂正16時

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▼「杉下村塾」10年の歩み―河原利和のレポート―
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▼河原利和「『智頭発』22世紀へのメッセージ」―『平成9年度CCPT活動実践提言書』の評価―
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〇いわゆる「地域リーダー」(住民リーダーや専門職・準専門職)の育成・確保が地方公共団体や各種の民間団体、それに大学などによって行われている。その分野は多岐にわたり、名称や形式、内容や方法なども多様であり、「百花繚乱」の様相を呈している。それは、激動する政治・経済・社会情勢のなかで、地域が抱える課題が多種多様であり、また深刻化していることへの対応(範囲・程度等)によるのであろう。
〇本稿で紹介した杉下村塾の「地域共育」事業・活動の系譜につながる組織に、「(一般社団法人)日本・地域経営実践士協会」(理事長/岡田憲夫、理事/平塚伸治・多々納裕一・寺谷篤志)がある。それは、「身の丈にあった地域経営による主体的なまちづくりについて、自己研鑽するための地域経営実践士(まちづくりの匠)を社会に普及させること」(定款第3条)を目的に、2013年3月に設立されている。そこでは、地域経営実践士の養成・研鑽のための「地域経営まちづくり塾」が、毎年開催されている。
〇まちづくりにおいては、こうした地域リーダーの養成とともに、一般住民に対する「まちづくりの主体形成」(関心・理解・参加)が必要かつ重要であることは多言を要さない。住民主体形成に目配りしたリーダー養成と、リーダー養成に目配りした住民主体形成のあり方が問われるところである。
〇上に紹介した河原のレポートは、「地域社会を単なる感情論で捉えるのではなく、地域に科学を持ち込むことが重要である」(第2回)としている。確かで豊かなまちづくりを推進するためには、大いに首肯するところである。ただ、地域に科学を持ち込むことによって、一般住民と地域リーダーや専門職との間に緊張関係が生じることになる。それを乗り越えるためには、両者の水平的なネットワークや「共働」のシステムを構築することが必要かつ重要となる。
〇ここで、コミュニティワークで言う「主体の転換」について想起しておきたい。「主体の転換とは最初の段階ではコミュニティワーカーが地域に介入し、地域住民を援助の『対象』として位置づけていく。しかし、コミュニティワークの展開のなかで、少しずつ地域住民が力をつけていくことで、専門職の関わりの度合いを薄めていき、最終的には『住民主体』で地域福祉が推進できるようにするという考え方である。(中略)今日、社会福祉の分野では従事者の高学歴化、専門職化が進んでいる。そのことによって『合理的な事業遂行のための協働』を押しつけられたのでは、地域住民の側は迷惑である。専門職によるパターナリズムや管理的統制が強くなることへの警戒」(原田正樹『地域福祉の基盤づくり―推進主体の形成―』中央法規出版、2014年10月、218ページ)が必要である。
〇この点は、「コミュニティデザイン」を説く山崎亮の言説に通底する(山崎亮『ふるさとを元気にする仕事』筑摩書房、2015年11月)。「住民はまちの主役であっても、まちづくりに関しては素人なのです」(193ページ)。「地域の課題を住民が主体的に考えて解決するための活動を手伝うのがコミュニティデザイナーなのです」(48ページ)。「地域の人たちから必要とされなくなること―それが僕たちの手掛けるプロジェクトの最終目標なのです」(171ページ)。留意しておきたい。

付記
(1) 本稿をアップするに際して、寺谷篤志先生から丁重なメールをいただいた。先生によると、杉下村塾の特徴は、「科学者と社会人という構成にしたこと」「社会の基本的かつ本質的なことについて議論したこと」「地域主体と住民自治を貫いたこと」などにある。
(2) 第3回杉下村塾の開催期日は1991年8月30日~9月1日である。
(3) 総務省の「(第5回)人材力活性化研究会」(2014年7月10日)に提示された「地域リーダー育成に関する研修の実態把握アンケート調査」の結果概要を紹介しておくことにする。

「地域リーダー育成に関する研修の実態把握アンケート調査」について
【調査目的】
都道府県が実施している「地域リーダー」を養成する研修・講習・塾・セミナー等の実施状況についてアンケート調査により把握し、今後の基礎資料とする。
【調査対象・方法】
都道府県が実施している研修等について、企画担当部局を通じて関係各課に調査票を配布・回収した。
【調査期間】
2014年2月21日(金)~3月7日(金)
【回収数】
130件
【結果概要】
〇都道府県が実施する「地域リーダー」を養成する研修の事業としての開始年度は様々。最近の開始年度別では2011年度・11件、2012年度・23件、2013年度・24件。
〇研修形態はほぼ「通学型」。年間2回以上開催の研修が6割で、2日間以上の研修が半数以上。
〇受講対象は、「都道府県・市町村職員」を中心に、「地域住民等」「NPOや地域づくり団体」「高校生・大学生等」などと幅広いが、基本的には「都道府県内の参加」がほとんど。「県外から参加」「広く全国から参加」を受け入れる研修は少数。
〇研修内容は、「事業計画づくりやコミュニケーションなど地域マネジメント」や「リーダーシップなどの活動に関する心構えや哲学」を学ぶなどの学習型の研修がそれぞれ2割、「それぞれの地域活動の課題を取り上げ、その解決を図る」という課題解決型の研修も2割。
〇カリキュラムは、「講師の講演・講義」や「ケーススタディ」などの室内研修が主となり、「フィールドワーク」の割合は低い。また、「講師との対話やディスカッション」という割合は少ない。
〇修了生に対するフォローは約7割が実施。その内訳は「修了証の交付」が主となり、「フォローアップ研修」や「補助・助成」などの具体的な支援は少ない。
〇運営上の課題は「受講者」「財源」の確保という運営面の課題の回答が多い一方で、「ステップアップ研修」「修了後の地域づくりへの実践」「評価方法」というアフターフォローを課題とする回答も多くみられる。
〇現在実施している研修を「今後も継続する」と回答した割合は半数以上であるが、約3割の研修は「内容の充実」を希望。

なお、総務省/人材力活性化研究会は、2012年3月、『地域づくり人の育成に関する手引き』を作成・発行している。そこでは、「地域づくり人」を次のように規定している。「この『手引き」では、地域づくりに関わる全ての人を『地域づくり人』として位置づけ、その役割として、団体や活動等を統括する役割の人材を『リーダー』、各事業の担い手として主体的に活動する人材を『プレーヤー』、リーダーやプレーヤーをできることで支える人材を『サポーター』として位置づける」(2ページ)。