冤罪(えんざい)

罪なき者が 牢獄につながれていた

警察は自白を強要し それを証拠にでっち上げる
検察はその証拠を元に 殺人罪で起訴し求刑する
裁判官は 無罪の弁護を取り上げず 懲役刑を申し渡す
被害者家族は 殺人で公に断罪されたことに区切りをつける
被告は なぜそういうことになったのか理解できなかった
十二年間 自由を奪われ服役した
家族は 身を縮め息をひそめて世間に生きた

弁護団は 粘り強く再審を要求し続ける
無罪への信念とその闘いに 感服する
やり直し裁判で 警察が隠蔽してきた無罪の証拠が出てきた
裁判長は無罪を言い渡した
問われるべきは 捜査のあり方
思い込みによる自白の強要と 間違えても正さない不誠実と不正義
問われるべきは 裁判のあり方
検察の出した証拠を採用 有罪の判決後の再審請求への不作為
問われるべきは 世の中
警察も検察も そして裁判所も 法の下で正義を正していると信じ込み
刑事司法の冤罪(えんざい)は 万に一つもあり得ぬと暗示をかける

人間の成すことだからこそ 間違えることもありうると
これを許容することは 刑事司法では決して許されない
国家が権力を持って断罪することだからこそ 間違ってはならぬと
法の番人が自白の信憑性を検証せずして 有罪にすることは断じて許されない 
世間は冤罪が真実だからこそ 間違えを正さねばならぬと 
口汚く罵(ののし)ったことへの卑劣さは 自ら許してはならない  

冤罪を晴らした彼女はこう語る
「すごくうれしいです。すぐに控訴断念をしなかったのは検察の悪あがきで、
そういうことはしないでほしかった」
親は「普通の生活に戻してあげたい」と小さな思いを語る  
無関心であったことをお詫びしながら これからの人生に幸あれと祈りたい

決して謝ることのない メンツで生きる警察・検察関係者 
刑事事件は 勝敗を決めるレースではない
人間が人間を裁くことの 神聖な審判の場である
証拠に 一点の曇りもあってはならない
それを汚した者たちにより 
社会正義と検察への信頼が 大きく揺らぎ損なわれた
正義を求めてやまない検察官の心は 無残に折られていく
ただ 回復への道筋に 権力者が法を変え検察人事に干渉する
権力と私欲にまみれた者たちが 裁かれることなく
次の犠牲者を 冤罪の罠にかけ 嘲笑う声がする

この悪しき闇のサイクルを 一体誰が断絶するのか
立ち上がれ 法の正義の実現に生きる 真なる支え人よ

〔2020年4月4日書き下ろし。新型コロナ感染問題の渦中に冤罪が明らかにされた。見過ごされない裁判。心にとめながら、徹底した検証と結果の公開を願う〕

付記
「滋賀再審無罪 司法の改革につなげよ」
自白は違法な取り調べによって得られたもので、信用できない。そもそも病死の可能性があり、殺害行為があったということすら証明されていない――。
03年に滋賀県の病院で患者の人工呼吸器の管を故意に外したとして殺人の罪に問われ、懲役12年の判決を受け服役した元看護助手の西山美香さんのやり直し裁判で、大津地裁はそう指摘して無罪を言い渡した。
事件はまさに砂上の楼閣だったことになる。刑事司法に関わるすべての人が、一連の経緯から教訓をくみ取り、過ちを繰り返さないための対策を講じていかなければならない。
裁判では、まず患者の死因が争点になった。判決は、有罪の根拠とされた「管が外れたことによる酸素欠乏」との鑑定結果は、解剖所見や診療の経過、他の看護師の供述などに照らして疑問があると指摘。「管を外した」という西山さんの自白についても、内容がめまぐるしく変わっていて、警察官による誘導があったと結論づけた。
判決によれば、西山さんには軽度の知的障害と発達障害があり、話す相手に迎合する傾向があった。取り調べた警察官に恋愛感情を抱き、優しい言葉をかけられるなどするなかで、捜査当局が描くストーリーに沿う供述調書を何通も作成された。04年の逮捕から無罪までの年月を考えると、自白に頼る捜査の危うさと罪深さを痛感する。
しかし警察・検察はいまだに謝罪せず、再審公判でも自ら無罪を求めることはしなかった。捜査を断罪する判決が確定したいま、なぜこれほど長きにわたって西山さんを苦しめてしまったのか。徹底的に検証して、結果を公表すべきだ。
過去の冤罪(えんざい)と同じ問題が、この事件でも浮かびあがった。
一つは証拠隠しだ。警察は西山さんを逮捕する前に、「たんを詰まらせた自然死の可能性がある」旨を鑑定医が述べたという捜査報告書も作っていた。だがそれが検察に送られたのは、裁判のやり直しが決まった後の昨夏だった。再審でも争う構えだった検察は、急きょ新たな立証をしない方針に転じた。起訴の前、当初の裁判中、そして再審請求があった後……。もっと早い時点で開示されていれば、事態は違った展開を見せたのではないか。証拠の取り扱いや審理の進め方について明確な規定がない再審手続きの不備も、改めてあらわになった。
無罪を言い渡した後、裁判長は「問われるべきは捜査のあり方、裁判のあり方、刑事司法のあり方。関係者が自分のこととして考え、改善に結びつけていかねば」と述べた。これを言葉だけに終わらせてはならない。(朝日社説2020年4月4日)