欺瞞に宿る醜さ

心の醜さを 認めたくなかった
誠意を見せることに 苦心した
誠実を装うことに 執着した
言葉を飾ることに 修練した
いい人であることは 欺瞞だった

欺瞞に宿る醜さは 臆病さからだった
知恵のなさを 見透かれそうだった
だから 強がって虚勢をはった
欲の深さを 感づかれそうだった
だから ない素振りでスルーした

欺瞞が 心を満たしていった
正直になることは 不安だった
騙されることは 恥ずかしかった
馬鹿にされることは 許せなかった
弱い自分をさらけ出すのは 怖かった
いい人という鎧(よろい)を 身にまとった

欺瞞は 次第に露わになった
悪意を表すことを 黙認した
誠実さを演じることに 疲れてきた
失敗を論(あげつら)うことを 良しとした
信頼を裏切ることに 迷いはなかった

その浅ましさは すでに見抜かれていた
偽善者の仮面は 剥がされていた
上手にあしらわれていただけのことだった
騙されていたのは おのれ一人だった

有能だとかけた 自己暗示からの覚醒
我欲だけの 歪んだ動機の放棄
暴かれた 醜態からの自己嫌悪
欺瞞に宿る 罪悪感からの慚愧(ざんき)
素っ裸で立つ おのれの姿に驚愕する

いまも 自己否定できぬ者たちは
期満に満ちた世界に 惨めに彷徨(さまよ)う

〔2021年4月6日書き下ろし。どこの世界にも貪欲な者たちがいる。心を置き忘れて、自己崩壊するらしい〕