「うさぎとかめ」の真実

なぜかめは うさぎを起こさなかったのか
先週の宿題 出来ました?
(忙しくて そんな愚問を考える暇はない) 
(そうですとも たわいない幼児の“はてな”ですから)
でも どう言いふくめますか
(大人のずるさが 問われるところですが)

かめは うさぎが寝ていることには 全く気づかずに 通り過ぎた
(これが一番無難な回答 だから起こさなかったの)
かめは 相手のことなど考える余裕もなく 脇目も振らず歩いた
(そもそも うさぎが寝てるなんて 想像もしないですよね)
かめは 負けるとわかっていたけど ギブアップするのはいやだった
(うさぎはすでにゴール寸前と思いこみ 意地を通して歩き通しただけ)
かめは 勝たねばならぬ一心で 千載一遇の勝つチャンスを逃すわけにはいかなかった
(寝ているものは起こしてならぬ 賢明な判断 納得です)
かめが うさぎを起こしたら 負けるっしょ
(勝負は勝ってなんぼのもの 決して起こしちゃいけない これ鉄則)

幼児(おさなご)は またも首をかしげた
(どうも説得させるのは難しそう)
かけっこってさ 寝てるうさぎをあいてにして かけっこになるの
(相手は走ってはいない だからこの時点でかけっこは不成立ではないか)
そのまんまにして 勝ってもつまんないよ
(いやいや 競争だからこそ 相手に弱みを見せたら負けるんだよとはいうものの)
かけっこって おもいっきり 走ることだよね
(そうだね そこで相手とどっちが早いか決めるだよね)
かけっこって 早ければいいの?
(そうだよ それが競争ってもんだ わかってるね)
勝つの わかっているかけっこって へんなの  
(おっと鋭い突っ込み その通りだね でもそれじゃお話が…)
そんなの かけっこじゃない! 
(寝たうさぎが油断したばかりに負けたんだから うさぎがおバカだっただけなんだ)
それって 弱いものいじめと おんなじ
(どうして そこにいっちゃうのかな)
うまいことだまして かけっこで勝って えばるって つまんなくない
(自分の力を鼓舞しただけの競争は すでに競争にあらず)
かけっこって 早い子も遅い子も一緒に 思いっきり走るから 楽しい! 
(そのとおり かけっこが楽しいのは 勝ち負けだけじゃない ほんとはそこだよね)
かめさんに起こす勇気があれば きっと楽しくかけっこできたよね
(起こす勇気 現状を変える勇気 卑怯な性根を見透かされた一言です)

うさぎを起こそうというかめは 存在しなかった
うさぎも ただかめをからかってやろうというだけで
ともに かけっこを楽しもうという 思いすらなかった
うさぎが勝ったとしても ゴールインしたかめを ハグしながら 
ともに称(たた)え合う気高さは 思いもつかなかったろう
(9月1日、USOpenテニスで大坂なおみが15歳のココをハグする姿に世界中が感動!)

幼児の “はてな” に 競争社会の本質を突かれた
寝ているやつは 決して起こしてはならない
そいつに勝つためには 卑劣な手段を使ってでも 叩きつぶせ
そうできなければ 一生敗者のまま 終わってしまう
それでいいのか
相手を奈落の底に突き落とし 勝つことだけが求められる 辛辣(しんらつ)な競争社会
お互いにおもいあう 福祉の心を削ぎ落とした 非情な競争社会
自分よりも劣っている者を 容赦なく攻撃する 凄惨(せいさん)な競争社会

勝者は 強者であり正義であると 世間は 賞賛し追従した
敗者は 弱者であり無用であると 世間は 屈辱を与え排斥した
競争社会を 蔓延(まんえん)させた弊害は
健全な福祉社会の形成を 阻害した
福祉の精神的な貧困は 見落とされ
歪(いびつ)な福祉観が 世間で共有された  

熾烈(しれつ)な競争社会に 福祉社会を創造するには
違いを認め 乗り越えて 
ともに 人生というかけっこを 楽しむことにあると
幼子から 共生のありようを 教えられたのだった

 
〔2019年8月30日書き下ろし。日本の福祉の精神的貧困性を幼子の疑問によって解かれた。1990年11月20日「十代のボランティアを育てる指導者セミナー京都」にて、京都一灯園石川洋氏より紹介された幼稚園児のエピソードに学ぶ〕