「こぶとりじいさん」の真相

さてと ふたりのじいさんのこと くらべてみようか
こぶをつけられてしまったのは どうしてだろう?

「いいおじいさんは お酒が好きで 歌も踊りも上手だったから 鬼にうけた」
(だから こぶを取られたんだね)
「でも もう一人は お酒も飲めず 歌も踊りも チョー下手くそだったから」
(それで鬼が怒って こぶをつけられてしまったんだよね)
「なんだ ただそれだけのこと」
(そう ただそれだけのこと いいとか悪いとかじゃなくて ただそれだけのこと) 
「でもどうして こぶをとってもらいたいって 思ったの」
(そこが このお話の大事なところだね)

飲んべえか 下戸か 
それだけで 大人は付き合い方が違ってくるんだ
「呑めば呑むほど酒の味 語れば語るほど人の味」
意地悪じいさんは お酒も飲めなかったし 
村のみんなと 楽しくおしゃべりしたことも きっとなかったしょ
だから じいさんのほんとの気持ちは 誰も分からなかったと思うよ
みんなの中にも おしゃべりの苦手な子っているしょ
みんなと仲良く遊べないからって ついつい意地悪してしまう
もしかして 意地悪してたの 村のみんなだったりして

それにくらべて 鬼とでもすぐに仲良くできるじいさんは
明るくて 酒は好きだし 歌はプロ並み 踊りも達者(たっしゃ)
きっと 村の人気者だったに ちがいない
いつも笑顔の人と 苦虫をかみつぶしたような顔の人
みんなは どっちと仲良くしたい?
誰とでも仲良くしなさいって よく言うけど
大人はずるくて つきあいやすい人を選ぶんだ ほんとだよ
だから 明るくてつきあいが上手だから いいじいさん
もうひとりは つきあいが苦手で 不機嫌そうにしていたから
村の人には 嫌われもんだったんだね
人は みんながみんな 明るく元気で健やか元気なわけないしょ
ほんとは 心の中に困ったことがあっても 
明るくふるまうことって 君にもないかい
人は 一人ひとり心のようすも 人とのつきあい方も みんなちがうんだ
感じ方や考え方 話すときの表情やことばづかい 態度 みんなちがうしょ
それは 性格がちがうだけのこと 人がらがちがうとも言うよ
二人のちがいって そこなんだ
それを比べて いいとかわるいとかって おかしくない
君がみんなに 意地悪な子だって見られたら とっても悲しくなるしょ
ほんとは みんなと仲良く遊びたい
でも 無視されて心が傷つけられると思うと 遊べない
悩んで苦しむほどに つらかったと思わない?
自分を守るためには ひとりぼっちでいるしかない
それで 村の人は 相手にしようとしなかったというわけ

とってもいやなおもいを ずっとしてきたじいさんが
鬼に会いに行くって 信じられる?
「こぶ」が とっても嫌で嫌でしかたなかったんだね
そのこぶのおかげで みんなが意地悪すると思っていたのかも知れない
あの明るいじいさんだって こぶに悩んでいたしょ
その二人が 同じ悩みを持っていたというのも 面白いね
こぶは 二人には劣等感そのもの
こぶのおかげで 顔がみにくいと 思っていたんだよ
かげで笑われたり バカにされたりしていたと 思っていたかもしれない
姿形(すがたかたち)が みんなとちがうことで 
君のまわりにも いじめられてる子って いるかも
こぶのない顔になりたいって 
子どものころから ずっとおもい悩んできたことが
鬼に こぶを取ってもらえるって聞いて
小躍りするくらい喜んで 山に登っていったんだね きっと
結果 チャレンジは 見事に大失敗!    
でも 勇気をふりしぼって危険をかえりみず 鬼に会いに行ったじいさん
すごい行動力のある人だと 思わない?

二つこぶをつけて里にもどった 悲しくてやりきれないじいさんを
村人たちは その心の傷に塩を塗るように 
罰が当たったと よってたかって 笑いものにしたんじゃないかな
なぜって?
他人(ひと)の失敗や不幸をあざわらう
いやしくてみにくい こころさもしく育った 
つまんない大人が たくさんいるからさ

そんな人間には 絶対なってほしくない
人をいい悪いって 性格で決めつけてはいけないってこと
自分の心で その人なりをしっかりと観て 判断する人に育ってほしい
もうひとつ 人はだれでもみんなと姿形がちがうことで 
二人のじいさんのように 悩んだり いやな目にあうこともある
でも なつ(NHK朝ドラ「なつぞら」のヒロイン)のように 困難にめげず
こころを強くやさしく耕す 開拓者に育ってほしい
子どもの君に きっとそう伝えたかったと思うんだ

北の大地に昇る朝日と目覚めの風に 元気をたくさんもらって 
君の人生を彩(いろど)る 大好きな人たちと 
はじける笑顔で 夢に向かって 大きく生きよう! 
いまを生きるじっちゃんから 未来を生きる君への伝言です 

〔2019年9月28日書き下ろし。なつロス・十勝ロスの始まりの日。まとめは、祖父柴田泰樹の心情を勝手に代弁する〕