校長室の風景(その4) 「助けて!」

昼休みの清掃時間 
静寂な校長室に 突然起こった悲痛な叫び声
「こっちょ 助けて!」

三年生の男の子は 1階の会議室を友だちと掃除していた
会議用の長机が 窓際にいくつも積まれていた
なにかのはずみで その机が 倒れた子どもの頭の上に かぶさったという
机の角か脚の部分がぶつかり 下の長机と板挟みになってしまった
当たり所が悪く 出血した
周りの友だちも 本人もビックリした
血が顔に流れてきたから 余計にあせった

廊下に飛び出して 真っ直ぐ走って 左のドアが保健室
怪我をしたら保健の先生 当たり前に指導されていること
でも 子どもは右にまわって 校長室のドアを 泣き叫びながら開けた
「こっちょ 助けて!」
見ると 額の上と頭の後ろが出血していた

養護教員に すぐ応急手当を指示し 
教頭に 救急車を手配するよう連絡 脳外科に搬送を依頼した
母親に連絡し 担任の車で病院まで同行させる
子どもは 傷口を縫う代わりにテープで塞がれ 脳にも異常はなかった
子どもが戻って 大事に至らなかったことを確認して 安堵した

どうして校長室に飛び込んできたのかを 聞いた
「こっちょのこと 一番先に思いついたから」
「こっちょは すぐに助けてくれると思ったから」

校長室は いつも子どもで あふれていた
子どもが 危機的な事態に遭遇したときに 
とっさの判断で 校長室に向かったという事実に
彼らとの 日常的なふれあいの結果として 
この事態を 収拾できたことが 幸いだった
それ以上に あの切迫した子どもの叫び声が いまも鮮烈に心に残る
「こっちょ 助けて!」

悩んでいる子が 心の叫び声を 素直に声に出すには
その声を受けとめ 真剣に聴くことしかない
それが いま子どもたちが求めている 人間教師である
校長も 人間教師への道程を歩む 一人の教師にすぎない
校長室は その共育の場であることに 心したい 

〔2019年10月2日書き下し。校長室に飛び込んできた子の思いは、校長との信頼関係に他ならない。人間教師への過程は、いまも続く生涯のテーマである。なお校内の子どもの事故は、未然に防止する対策を確認、リスク管理を徹底したことは必然であった〕