市営住宅の5階まで 階段を上る
エレベータのない 古い集合住宅
建った当初は 若い世帯で溢れていた
若者たちは ここで子育てをして
社会に 子どもを送り出した
人生の大半を ここで過ごした
そしていま ここは老人世帯で溢れている
元気なうちは 階段も苦にはならなかった
買い物の荷物も 加齢とともに 少なくなってくる
階段が一番のバリアだ
階段が 健康のバロメーター
体力の衰えを実感する 体力診断装置
外出するのが だんだん億劫(おっくう)になってきた
出不精は いまは引きこもりって 言われる
孤独死するケースが多い イエローサイン
だから そうならないようにと
団地の中で 安否確認する奇特(きとく)な人もいる
ありがたいことと 感謝している
最近妻の体調が悪くなって 心配している
病院に連れていっても 階段の上り下りが 一番こたえる
だから 我慢して 薬のなくなった時にしか 病院にはいけない
いまは 気遣ってやれないことが 一番辛い
子どもでも 近くにいれば助けてもらえるが 離れていては我慢するしかない
もう少し 二人で頑張るしか ない
ただこの先 どうしたものかと 思案するばかりだ
「こんにちは」
「どちらさんで?」
インターホーンごしに相手を確認
初めて見る人だ
「この地区の担当の民生委員の伊東です」
ドアを開ける
「こんにちは」
「何か御用で?」
「この団地で 65歳以上の方のお宅にお邪魔して 何かお困り事があればと
皆さんのお宅を訪問しているのです」
「それはご苦労様です」
「いま同居されておられるのは 奥様お一人で 夫婦二人でいらっしゃるのですね」
「はい」
「何か お困りのことでもあれば お話していただければと思います」
このお宅の困っている様子は 近所の方からお聞きした
初めて伺うお宅の情報は こうして足で回って 手に入る
少しでも 何かのお役に立てばと思いながら
今日も 団地の階段に挑む 私の体力づくり
どんなに 崇高(すうこう)な思いを 持っていても
民生委員に いま求められるのは この階段を上り下りする体力なのだ
この階段の先に 私を求めて待っている人が きっといる
その笑顔に 会いたくて
一段目に 足をかけた
いつもここが 私の仕事のスタートライン
〔2019年10月16日書き直し。団地をまわる民生委員のご苦労を想像する。プライバシーにどこまで踏み込んでいいのか悩みながらも、支援を必要とする人の元に向かう〕