自治基本条例にみるまちづくり学習とその権利(Ⅱ)

(4)「生涯学習」を条文の見出しに表記している自治基本条例
①北海道厚沢部町/厚沢部町素敵な過疎のまちづくり基本条例/2009年4月1日
(学び、共に高める生涯学習)
第28条 町は、町民一人ひとりが生涯の各期において、自ら学び、楽しみ、仲間と共に高めることができるよう、ふさわしい学習機会の提供、施設の整備、指導者の育成、推進体制づくりを進めます。
②兵庫県朝来市/朝来市自治基本条例/2009年4月1日
(生涯学習の推進)
第17条 市民は、自らが生涯を通じてさまざまな学習を重ね、豊かな人間性を育むよう努めるものとする。
2 市長等は、市民のまちづくりに関する学習の機会を確保し、まちづくり活動への参加が促進されるよう努めなければならない。
③兵庫県養父市/養父市まちづくり基本条例/2009年7月1日
(生涯学習の推進によるまちづくり)
第18条 市民は、生涯学習に努めるとともに、自らの知識や能力をまちづくりに還元するよう努めます。
2 市は、市民の社会参加を促進するため生涯学習の機会を提供し、自主自立的なまちづくりの活動を支援しなければなりません。
④兵庫県丹波市/丹波市自治基本条例/2012年4月1日
(生涯学習)
第21条 市民は、豊かな人間性を育み、生活の充実や技術の向上などを図るとともに、市政やまちづくりに参画するための知識や考え方を学ぶため、生涯を通じてさまざまな学習を行う権利を持っています。
2 市長等は、市民の学習の機会を確保するとともに自主的な学習活動を支援するよう努めなければなりません。
3 市長等は、市民の学習権を保障するため、市民の参画のもとに生涯学習に関する計画を策定しなければなりません。

以上のほか、⑤静岡県川根本町/川根本町まちづくり基本条例/(生涯学習の推進)第12条 町は、町民自らが生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことができる地域社会の実現を図るよう努めます。/2012年7月1日、⑥兵庫県西脇市/西脇市自治基本条例/(生涯学習)第34条 市は、市民の多様な学習活動を支援し、市民主体のまちづくりを推進するため、生涯にわたって学習する機会を提供するよう努めるものとします。/2013年4月1日、⑦兵庫県佐用町/佐用町まちづくり基本条例/(生涯学習の推進)第17条 町民等は、自ら生涯を通じてさまざまな学習を重ね、豊かな人間性を育むよう努めるものとする。2 町長等は、町民等のまちづくりに繋がる学習の機会を提供し、まちづくり活動への参加を促すよう努めなければならない。/2013年4月1日、がある。
生涯学習について独立した条文で明確に規定するのは、以上の7例にとどまっている。いまひとつ、生涯学習という見出しではないが、独立条文で生涯学習について規定する条例に、⑧滋賀県野洲市/野洲市まちづくり基本条例/(学び合い)第7条 市民は、互いにふれあいやきずなを通し、生涯にわたって学び合い、知恵や力をはぐくみます。/2007年10月1日、がある。これを加えると、その数は8例となる。
以上の条文は、大雑把にいえば、①や④のように生涯学習を推進するための具体的な取り組みや計画策定などに多少なりとも踏み込んだ規定をするものと、⑧に代表されるように実質的には理念的・原則的な規定にとどまっているものがある。
周知のように、ユネスコの「学習権宣言」(1985年3月)は、「学習活動は(中略)、人々を、なりゆきまかせの客体から、自らの歴史をつくる主体にかえていくものである」と謳っている。生涯にわたる多様な学習活動は、住民自身が「なりゆきまかせ」の日常的・他律的な意識や行動から抜け出し、自己の側に地域を引き寄せ、地域と向き合い、対話(観察、考察、理解)することを促す。そして、まちづくりに主体的・自律的に取り組む過程を通して、自己変革、自己変容がもたらされる。それは、「自らの歴史をつくる主体」形成を促す過程である。その意味において、まちづくりにとって生涯学習の推進は極めて重要となる。留意すべきである。
今日では、いわゆる自己完結型の生涯学習から社会還元型のそれに移行するなかで、まちづくりに焦点化した地域還元型の生涯学習の展開が求められている。その際、行政サイドからまちづくりや市町村政への住民参加や住民との協働が強調されるあまり、学習主体としての地域住民という視点や住民の学習権保障が後景に押しやられる。また、前述の社会的弱者がより社会的周辺に追いやられたりする。こうしたバイアス(偏り)やリスク(危険性)がないとはいえない。自治基本条例の制定に際して強く留意すべき点である。

(5)学習機会の提供や学習支援について規定している自治基本条例
①兵庫県伊丹市/伊丹市まちづくり基本条例/2003年10月1日
(学習の機会の提供その他の支援)
第11条 市は、市民がまちづくりに関し理解を深めるために必要な学習の機会を設けるよう努めるものとする。
2 前項に掲げるもののほか、市は、市民のまちづくり活動を促進するため必要な助成その他の支援を行うよう努めるものとする。
②山形県白鷹町/白鷹町協働のまちづくり条例/2004年4月1日
(まちづくりの学習等)
第10条 町は、町民がまちづくりに関する情報を把握し学習できる機会を設けるよう努めなければならない。
2 町は、町民のまちづくりへの意識高揚を図るため、公益に関する教育の推進に努めなければならない。
③埼玉県草加市/草加市みんなでまちづくり自治基本条例/2004年10月1日
(人材の育成)
第18条 市は、パートナーシップによるまちづくりを進めるため、学習の機会を提供するとともに、専門家の派遣などの技術的な支援を行い人材を育成します。
2 市民は、パートナーシップによるまちづくりを進めるため、自らまちづくりに関する学習に努め、人材の育成に努めます。
3 市は、パートナーシップによるまちづくりに必要な能力を備えた市職員の育成に努めます。
④北海道白老町/白老町自治基本条例/2007年1月1日
(町民活動)
第14条 町民は、自ら行う町民活動が安定的かつ活発に行うことができるよう町民活動団体を組織することができます。
3 町は、学習機会の提供等により、町民活動団体の支援に努めます。

以上のほか、⑤愛媛県四国中央市/四国中央市自治基本条例/(学ぶ機会)第9条 市は、市民が生涯にわたって学ぶ機会を提供するよう努めまする。/2007年7月1日、⑥埼玉県越谷市/越谷市自治基本条例/(協働による豊かな地域環境の創造)第9条 市民および市は、市民が主体的にかかわりあい、助けあい、学びあいながらいきいきと生活し、未来にわたって豊かな人間関係と、安全で安心な生活環境を受け継いでいけるまちづくりをすすめます。/2009年9月1日、⑦茨城県ひたちなか市/ひたちなか市自立と協働のまちづくり基本条例/(まちづくりの最高規範)第3条 この条例は、ひたちなか市のまちづくりの最高規範とします。5 市は、この条例が市内のあらゆる地域、あらゆる世代の市民に理解され、親しまれるための学習機会の確保に努めます。/2010年4月1日、⑧大阪府大坂狭山市/大坂狭山市自治基本条例/(学習機会の提供)第20条 市は、市民がまちづくりに関し理解を深めるため、必要な学習の機会の提供に努めるものとする。/2010年4月1日、がある。
住民のまちづくりに関する学習のニーズは、それが日常的で個別具体的な地域生活に基づくものであることから、広範かつ多岐にわたる。そこで、多様で総合的な学習機会と学習支援が、「いつでも、どこでも、だれにでも」提供されることが必要となる。それに応えるためには、学校や公民館などの教育機関・施設の有機的連携や、まちづくりをテーマにした地域懇談会や住民座談会、ワークショップなどの開催が求められる。そうした地域全体の学習環境の整備が図られることによって、子どもや高齢者、障がい者などを含めたすべての地域住民の、まちづくりや市町村政への理解や関心、参加を促すことになる。こうした点について規定する以下の自治基本条例に注目しておきたい。

①岩手県洋野町/洋野町まちづくり基本条例/2009年4月1日
(子どもの権利)
第12条 子ども(20歳未満の町民をいいます。)は、その年齢に応じて、まちづくりに参画する権利とまちづくりに関して教育を受ける権利を有します。
②福岡県嘉麻市/嘉麻市自治基本条例/2010年12月28日
(学校と地域との連携協力)
第31条 教育委員会は、地域と連携協力し、保護者、地域住民等の学校運営への参加を積極的に進めることにより、地域の力を活かし、創意工夫と特色ある学校づくりを行うものとする。
2 教育委員会は、地域及び市長と連携協力し、学校を核としたコミュニティづくりを進めるものとする。
③愛知県新城市/新城市自治基本条例/2013年4月1日
(市民まちづくり集会)
第15条 市長又は議会は、まちづくりの担い手である市民、議会及び行政が、ともに力を合わせてより良い地域を創造していくことを目指して、意見を交換し情報及び意識の共有を図るため、3者が一堂に会する市民まちづくり集会を開催します。
3 市長は、特別な事情がない限り年1回以上の市民まちづくり集会を開催します。
④北海道士別市/士別市まちづくり条例/2012年4月1日
(高齢者や障がい者等のまちづくりへの参加)
第27条 市民・議会・行政は、高齢者や障がいのある人などもまちづくりに参加できるよう、その環境づくりを進めます。
⑤山梨県富士河口湖町/富士河口湖町自治基本条例/2013年4月1日
(高齢者の役割と権利)
第8条 高齢者は、これまでに培った知恵と経験を活かし、その活動を通じて地域社会の発展に貢献しながら、いきいきと心豊かな生活を送り、まちづくりに参加及び参画することができます。
2 町民及び町は、高齢者がまちづくりに参加及び参画するための環境づくりに努めなければなりません。

①のまちづくりに関して教育を受ける子どもの権利と、②の学校を核としたコミュニティづくりの推進についての規定は、福祉によるまちづくりをめざす市民福祉教育(学校福祉教育)にとって注目に値する。③については、「市民まちづくり集会」が、地域が抱える課題の解決策を検討する課題解決型学習の場となることが特筆されよう。④については、その表現に多少違和感を覚えなくはないが、「障がい者」のまちづくりへの参加を条文見出しに表記しているのはこの自治基本条例のみである。①のように、「子ども」のまちづくりへの参加・参画に関しては、北海道ニセコ町まちづくり条例で「(満20歳未満の町民のまちづくりに参加する権利)第11条 満20歳未満のの青少年及び子どもは、それぞれの年齢にふさわしいまちづくりに参加する権利を有する。」と規定されて以来、その条・項文規定をしている自治基本条例は30例以上を数える。子どもは次代を担う存在として特に重視すべきである、という考え方に基づくのであろう。それに対して、⑤のような「高齢者」のまちづくりへの参加・参画に関する規定は、数例に過ぎない。なお、子どもや高齢者、障がい者を条文上で強調することは逆差別になりかねない、という議論もあるであろうことを付記しておく。

ここで、自治基本条例についての住民の主体的な学習と制定過程への住民参加について若干述べておきたい。
大多数の自治体では、自治基本条例を制定するに際して審議会や委員会を設置し、制定過程に住民参加による検討作業を組み入れている。それは、おおよそ行政主導型 住民主導型 行政と住民の協働型の3つに類型化されそうであるが、数名の公募委員と数回の会議で制定されたものから、住民による自主的な学習活動から始まり、制定委員会の委員の大多数が公募委員によって占められ、しかも制定会議や住民懇談会などの会議を100回以上も開催して熟議を重ねて制定されたものもあり、その格差は大きい。行政主導型では、時流に乗って制定した感があり、制定手順や条例の内容構成が標準的なものになりがちである。住民主導型では、制定過程を通して学習による住民の意識変革や合意形成が促され、それぞれの地域(自治体)に相応しいやり方で、地域の現状や課題を反映させた制定内容になっているものもある。
なお、行政主導型か住民主導型に関して付言すれば、条例の名称が「自治基本条例」か「まちづくり基本条例」か、「市」と「市民」の語順が「市及び市民」か「市民及び市」か、さらには市民の「権利と責務」についてその内容の差異や濃淡は勿論のこと、「権利」規定が多いか「責務」規定が多いか、等々をめぐって自治基本条例と条文について精査する必要があろう。ちなみに、「まちづくり基本条例」という名称の自治基本条例と「まち(むら)づくり」という文言をその名称に含む条例は、全部で123例(288例中の42.7%)を数える。北海道三笠市のそれは「三笠市未来づくり基本条例」(2009年4月1日)である。
住民主導型の一例として、埼玉県越谷市における自治基本条例の制定の取り組みから、特筆に値する点を項目的に簡単に紹介しておくことにする。(1)審議会委員が募集される前に、市民による自主的な自治基本条例に関する勉強会が全8回開催され、参加者は100名を数えた。(2)審議会は公募市民26名、学識経験者4名によって構成された。(3)審議会の開催が計89回、審議会による骨子案に関する懇談会や素案についての説明会の開催が計40回、参加者は延べ924名を数えた。(4)骨子案と素案に関するパブリックコメントがそれぞれ実施され、合わせて32名、88件の意見が寄せられた。(5)2009年4月に越谷市自治基本条例が施行されたのを受けて、翌2010年4月に自治基本条例推進会議が設置され、条例の適切な運用、普及、見直しに関する調査審議が行われている。2011年度では条例推進会議が9回開催され、答申が出された。以上のような取り組みは、住民の、住民による、住民のための自治基本条例制定のそれとして評価されよう。なお、越谷市自治基本条例の条文内容と制定過程におけるその変遷については、審議会会長として重要な役割を果たした櫻井慶一の論文が参考になる。櫻井慶一「逐条解説『越谷市自治基本条例』―制定過程の条文の変遷を中心に―」『生活科学研究』文教大学生活科学研究所、2011年3月、171~184ページ、がそれである。審議会における議論の様子が垣間見えて興味深い。
最後に、全国の自治体における自治基本条例の制定経過と施行状況に関する調査結果を纏めた次の論文を紹介しておくことにする。阿部昌樹「自治基本条例の制定経過および施行状況に関する自治体アンケート調査」『大阪市立大学法学雑誌』第59巻第4号、大阪市立大学法学会、2013年3月、588~642ページ、がそれである。阿部は、2011年10月現在で自治基本条例を制定している225の市区町村を対象にアンケート調査を実施し、143の自治体から回答(回収率63.6%)を得ている。その論文のなかで次のように述べている。

多くの自治体においては、自治基本条例を制定した後に、自治基本条例の制定を踏まえて、あるいは、自治基本条例に規定された事項を実施するために、新たに制定された条例がほとんどないことや(ほとんどなく:阪野)、自治基本条例の規定に基づいて、あるいは、自治基本条例の制定趣旨を踏まえて、新たに実施されるようになった施策も、それほど多くはない。(621ページ)
批判的な立場をとるならば、自治基本条例は、自治体の行財政運営や住民と自治体の行政組織との関係を大胆に変革することを企図して制定されているにも関わらず、そうした効果を発揮し得ていないという解釈も可能である。(620ページ)

阿部の調査によると、自治基本条例の制定および施行が自治体にどのようなインパクトをもたらしたかという点については、積極的評価を下すことはできず、むしろ消極的にしか評価し得ないといえそうである。また阿部は、「自治体としての施策の策定や実施に関与する人々の意識や行動の変化は、あるにはあるが、それほど顕著なものではない」(622ページ)という。住民のまちづくりに関する学習権を明確に位置づけ、それを保障するための方策と、まちづくりを推進する行政職員の育成を図るための方策を具体的に提起することが強く求められるところである。その方策のひとつに市民福祉教育がある。

付 記
大阪府箕面市が1997年4月1日から施行した箕面市市民参加条例(全9条)や1999年10月1日から施行した箕面市非営利公益市民活動促進条例(全14条)をひとつの契機に、2000年以降、自治基本条例や市民参加条例、市民活動支援条例等の市民参加・協働に関するさまざまな条例(「市民参加・協働条例」)が全国各地で制定されている。その現状と課題について、大久保規子は、それらの条例を次の8つに分類して分析・検討を加えている。(1)自治基本条例、まちづくり基本条例等、自治の基本原則を定めるもの(自治基本条例型)、(2)参加・協働の理念・原則を定めるもの(参加理念・原則型)、(3)ワークショップから、パブリック・コメント、審議会まで、多様な参加・協働手法の総合的な体系化を図るもの(参加総合型)、(4)パブリック・コメント等、個々の参加・協働手法の具体的しくみを定めるもの(参加個別型)、(5)市民・NPО活動の支援・促進に関するもの(支援型)、(6)参加・協働に関する規定とNPО活動の支援・促進に関する規定を1つにまとめたもの(参加・支援総合型)、(7)主にコミュニティ組織について定めるもの(コミュニティ型)、(8)環境保全、まちづくり、福祉等、個別分野における参加・協働のしくみを定めるもの、がそれである(大久保規子「市民参加・協働条例の現状と課題」『公共政策研究』第4号、日本公共政策学会、2005年1月、24~37ページ)。
また、大久保らは、2011年11月から12月にかけて、全国の1660自治体(岩手県・宮城県・福島県内の自治体を除く)を対象に、市民参加・協働条例に関する包括的な全国調査を実施し、約6割の自治体から回答を得ている。その結果の一部を以下に記し、参考に共することにする。まちづくりと市民福祉教育に関して留意しておきたいところでもある。
(1)市民参加・協働条例を制定済みの自治体は、自治基本条例を入れて全体の約3割。人口規模の大きい自治体ほど制定率が高い。制定を検討中の自治体が約2割を数える。条例の有無を問わず、参加・協働の必要性は共有されている。
(2)制定済みの自治体では、市民活動の活発化等の効果がみられるが、その反面、制度の認知度が低く、参加者の固定化や参加者層の偏り、市民と行政のニーズのミスマッチ等の課題も出ている。コーディネーターを含む人材育成や地域の実情に応じた細やかな仕組みの整備が必要である。
(3)制度の運用についてきめ細やかな工夫を行う自治体もある一方で、ほとんど制度の運用実績のない自治体もあり、制度の実効性について自治体間格差がみられる。