朝8時 生ゴミの袋を持って ステーションに行く
ゴミの運ぶ役は 男の甲斐性
バス停に向かう男の後ろ姿に 暮らしの匂いが漂う
年金暮らしには 家事分担で老男ができる唯一の役目か
ゴミステーション
二重にした丈夫なナイロン製のネットが
鋭利な刃物で 見事に 斜め横一文字に
50センチほど切られていた
いつもネットは 使用後すぐに丸められ その場に立てかけられる
だから ネットが開いた時でなければ
きれいに一文字には切れない
頃合いを見計らって 切る
ただ あのこすいカラスに 荒らされていない
となると 通勤の人も出てくる時間帯かも知れない
すれ違った管理人は
出勤早々 結束バンドを持って向かっていた
「ストレスが溜まってるんですかね」
渋い顔で そう話した
ポケットにカッターを忍ばせ 周囲を確かめ素早く切る
ただネットを切るだけでは 何の快感もないだろう
周囲を見計らい いたずらに及ぶその一瞬のドキドキ感なのか
鬱憤(うっぷん)晴らしにしても
なんと なんと
姑息(こそく)でみみっちいことを しでかすのか
誤算は カラスに侵略されなかったこと
迷惑は 限定的だった
管理人に ご足労をかけただけに終わった
勝手に書いた 注意喚起のチラシ
管理人に手渡し 管理組合におもいを託した
「…問題は、昨年12月から今月にかけて、10数回にわたってネットが破損しているという事態が起こっていたということです。ネットの補修の跡が、それを物語っています。
古くなって破損したというのなら劣化ですから、何の問題もありません。
しかし、誠に残念なことですが、故意になされた心ないいたずらとして、このまま放置することはいかがなものかと思い、注意を喚起するしだいです。
お年寄りも、小さな子どもも、多くなりました。安全面も含めて、気持ちよく生活していくための心くばり、目くばり、気くばりを、お願いする次第です。
〈いまは距離だけが、思いやりの表現です〉とドイツのメルケル首相が述べていますが、心の距離だけは疎遠(そえん)にならぬよう、安全・安心な暮らしをつくっていきませんか。
ご協力をお願いいたします」
これで収まりがつけば ありがたい
大切なのは いまの暮らし方に関心を持つこと
安心安全は 集合住宅のソフト面の資産価値にも影響する
コロナ禍のもと いたるところで 小心者が小躍りし出す
人の不幸を 歪(いびつ)な心で弄(もてあそ)ぶ
NETやSNSで 新型コロナに感染した人を暴き出す
それに乗っかり 同調する輩が騒ぎ立て 私的制裁を繰り返す
匿名で 集団化して 弱き者をいたぶりいきがる 負の高揚感
投稿を突き止められ ばれればすいませんと平謝りの狡猾(こす)さ
被害者は 心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しみ続ける
他人(ひと)を 傷つけることに快感を覚える
小心者は やっかみ者
やっかみ者は 厄介者
厄介者は はみ出し者
はみ出し者は 屈折した者
屈折した者は 卑屈な者
その性格では 誰も仲良くしないだろう
その態度では 誰もが近寄りがたいだろう
その性癖がばれたなら 誰も相手にはしないだろう
誰にも構ってもらえぬ
ひがみ根性丸出しの 卑怯者
ほんとは不安で不安で 心配性の弱虫小虫
ストレス太りの 侘(わび)しいひねくれ者
それが人生なら なんて無駄な負のエネルギーを費やすのやら
それも人生なら 仕方がないとあきらめ嘆くのか
そんな人生なら 生きている価値も萎んでしまう
悪意のささやきに 耳を塞いでごらん
素直なささやきに 耳を傾けてごらん
ひとかけらの 良心があれば
人は いつでも 変われる
ひとかけらの 情けがあれば
人は いつでも 変わる
〔2020年5月7日書き下ろし。NETで私的制裁を加える輩の心情を想像しつつ、コロナ禍で人への悪さを屁とも思わない者への説教めいたメッセージの一編、無駄かも…でも〕