餅が 好きだ
炊きたての餅米に
さっと塩をふって 食べるのも好きだ
歳の暮れには 家族総出で 木臼で餅をついた
薪ストーブの火の番は じさまの仕事
蒸籠(せいろ)の餅米の 蒸され具合を見ては
ストーブからおろし 蒸籠を木臼にひっくり返す
ばさまがへらで形を整え
やおら水桶にひたした杵で 親父がこねる
母子で始まる餅つきショー
はいと合いの手入れながら 餅をひっくり返す
その手を抜いた瞬間に 勢いよく杵が打ち下ろされる
厳寒の土間で繰り広げられる餅つきショーは
家族で喜びを感じる 年の瀬の風物詩だった
つき上がった餅を 茶の間に運び込んでくる
ばさまの 鏡餅をつくる手さばきに 神業を感じた
母は あんころ餅を上手にくるめる
四人の子どもらも 見よう見まねで餅を手にする
形にならず吹き出しなから ポイと口に頬張る
その軟らかさが 口にやさしい
つきたての餅を できた先から
きなこや砂糖醤油で 味見を続ける
餅つきは 豆餅になった
豆は 遠く離れた山奥の通い畑で作った黒豆
あんころ餅の小豆も みんな汗した収穫物
土日となれば リヤカーを引いて
車輪の幅で土の出た 野良道を通って手伝った
道の真ん中には オオバコがえばって生えてたっけ
豆餅が かまぼこ形にされる手さばきも 見事だった
よもぎ餅は いまでも大好きだ
通い畑のまわりで 遊び半分に初夏に摘んだヨモギの葉も
出番の日を迎えた
伸し餅も 1升分を丸棒で伸ばす
いつく蒸籠を蒸したのか 十は軽く超えていたことだろう
次から次へと出来上がる餅たち
座敷に並べられて 冷まされる
もう二人 出来上がっていたじさまと親父
貧しい子ども時代の 一番嬉しかった年の瀬の風景
みんな笑顔で 仕合わせだった
コロナ禍が去った後
どんな風景を見せてくれるのだろうか
コロナ禍の恐怖と不安を乗り越えたうれしさは
年を越せるうれしさと きっと同じかも知れない
小さな仕合わせを 実感することが
どれだけ有難いのか 知らされることだろう
季節外れの餅つきは
きっと疫病を追い払う
庶民の願いが 込められることだろう
〔2020年5月22日書き下ろし。ふと子ども時代の餅つきを思い出した。あの仕合わせ感は本物だったと、コロナ禍をしのいだ祝いに、頑張った子どもらにつきたての餅を食べさせてあげたい〕