福祉のまちづくり条例にみる「福祉教育」条文(Ⅰ)

1 はじめに

1990年代後半以降、地方自治条例である「福祉のまちづくり条例」制定の取り組みが、広域自治体としての都道府県を中心に進められた。それは、「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」(通称;ハートビル法)が1994年9月から施行されたことをひとつの契機とする。その後、1998年12月から特定非営利活動促進法(通称;NPO法)が施行され、市民の社会参加の促進とまちづくりの推進が図られた。また、「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(通称;地方分権一括法)が2000年4月から施行され、それに基づいて地方分権改革が進んだ。2000年5月には社会福祉事業法が社会福祉法へと改正・改称され、同年6月から施行された。そこでは、国や地方自治体における福祉政策の主要な柱に「地域福祉」が据えられることになり、地域福祉を新機軸とするこんにちの社会福祉の方向が示された。次いで、2000年11月から「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(通称;交通バリアフリー法)、2003年4月から改正ハートビル法、2006年12月からハートビル法と交通バリアフリー法を一体化した「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(通称;バリアフリー新法)がそれぞれ施行された。そして、2003年4月からは、社会福祉法が定める市町村地域福祉計画と都道府県地域福祉支援計画に係る規定が施行された。
こうした地方分権改革や社会福祉制度改革などを受けて、基礎自治体としての市町村において福祉のまちづくり条例を制定する動きが活発化することになる。その内容については、木下聖(埼玉県立大学)も指摘するように、当初は障がい者や高齢者に対する公共的施設等のバリアフリー化を主な目的とする条例であった。その後は、各自治体の福祉政策の基本方針や、すべての人を視野に入れた福祉のまちづくりを総合的に推進するための仕組みについて規定する条例へと変化していく(木下聖「地方分権下での基礎自治体における『福祉のまちづくり』条例の活用と福祉政策の展開―バリアフリー推進から福祉の総合的な展開へ―」『埼玉県立大学紀要』第11巻、2010年3月、63~70ページ)。
福祉のまちづくり条例については、いわゆる「自治基本条例」や「市民活動支援条例」「市民参加・協働条例」などと同様に、確立された考え方があるわけではない。また、それらの条例は、名称も内容も多様であり、必ずしも明確な共通性をもっているわけでもない。内容も、理念条例から手続条例まで多様である。
そこで、本稿では、「福祉のまちづくり条例」という名称の条例と福祉のまちづくりの推進を目的に掲げる条例を、とりあえず「福祉のまちづくり条例」として扱うことにする。条例の取捨選択については、明確な基準を設けてはいない。そうした限られた範囲内で収集した各条例のうちから、福祉のまちづくりの主体形成にとって重要な「福祉教育」に関する条文に焦点を当て、主として条文の紹介とそれをめぐる若干の考察を行うことにする。

2 福祉のまちづくりに関する都道府県条例

こんにち、福祉のまちづくり条例は全ての都道府県で制定されている。その制定に先鞭をつけたのは、兵庫県(福祉のまちづくり条例、1992年10月9日公布)である。それに次いで、大阪府(大阪府福祉のまちづくり条例、1992年10月28日)、山梨県(山梨県障害者幸住条例、1993年10月14日公布)、愛知県(人にやさしい街づくりの推進に関する条例、1994年6月14日)、滋賀県(だれもが住みたくなる福祉滋賀のまちづくり条例、1994年10月17日公布)がそれぞれ制定している。その後、2000年までに累計で43の都道府県において制定され、一番最後は徳島県(徳島県ユニバーサルデザインによるまちづくりの推進に関する条例/2007年3月20日公布)である。
「福祉教育」について独立条文で規定する条例は次の7本(15%)である。「福祉教育」とそれに関する条文(前後の条文)を紹介する。

(1)兵庫県/福祉のまちづくり条例/1992年10月9日公布
(福祉教育の推進)
第8条 県は、高齢者等に対する理解と思いやりのある児童を育成するための福祉教育を推進するものとする。
(県民の意識の高揚等)
第9条 県は、県民及び事業者に対し、福祉のまちづくりに関する意識の高揚及び知識の普及に努めるものとする。
2 県は、市町、県民及び事業者に対し、福祉のまちづくりに関する必要な情報の提供、指導又は助言を行うものとする。
(住民の意識の高揚等)
第10条 市町は、住民及び事業者に対し、当該地域の福祉のまちづくりに関する意識の高揚に努めるものとする。
2 市町は、住民及び事業者に対し、当該地域の福祉のまちづくりに関する必要な指導又は助言を行うものとする。

(2)愛媛県/人にやさしいまちづくり条例/1996年3月19日公布
(調査、研究及び情報の収集)
第9条 県は、人にやさしいまちづくりに関し、調査、研究及び情報の収集に努めるものとする。
(啓発及び情報の提供等)
第10条 県は、人にやさしいまちづくりに関し、事業者及び県民の理解を深めるよう啓発に努めるとともに、市町、事業者及び県民に対し、必要な情報の提供、指導及び助言を行うものとする。
(学習機会の充実及び福祉教育の推進)
第11条 県は、県民が生涯を通じて人にやさしいまちづくりに関し学習を進めることができるよう、その機会の充実に努めるものとする。
2 県は、高齢者、障害者等に対する理解と思いやりのある児童及び生徒を育成するため、福祉教育を推進するものとする。

(3)宮城県/だれもが住みよい福祉のまちづくり条例/1996年7月10日公布
(情報の提供)
第8条 県は、だれもが住みよい福祉のまちづくりに関し、県民及び事業者の理解を深め、自発的な活動を促進するため、適切な情報の提供を行うものとする。
(福祉教育の充実等)
第9条 県は、高齢者、障害者等に対する県民の理解を深め、思いやりのある心をはぐくむため、高齢者、障害者等の福祉に関する教育の充実及び学習の機会の提供に努めるものとする。
(ボランティア活動の促進)
第10条 県は、県民及び事業者が高齢者、障害者等の福祉に関するボランティア活動を実践できるよう必要な施策の推進に努めるものとする。

(4)島根県/島根県ひとにやさしいまちづくり条例/1998年6月30日公布
(学習機会の充実等)
第8条 県は、ひとにやさしいまちづくりの推進について、県民の主体的かつ積極的な取組の意欲が増進されるよう、学習機会の充実、啓発活動の推進その他必要な施策を講ずるものとする。
(福祉教育の充実)
第9条 県は、次代を担う子どもたちが高齢者、障害者等に対する理解を深め、思いやりの心を育むよう、体験学習の充実、ボランティア活動の促進その他必要な施策を講ずるものとする。

(5)鹿児島県/鹿児島県福祉のまちづくり条例/1999年3月26日公布
(啓発及び情報の提供等)
第9条 県は、福祉のまちづくりに関し、事業者及び県民の理解と関心を深めるため広報その他の啓発活動の推進に努めるとともに、必要な情報の収集及び提供に努めるものとする。
(調査及び研究)
第10条 県は、福祉のまちづくりを推進するため、必要な調査及び研究に努めるものとする。
(ボランティア活動の促進)
第11条 県は、県民の福祉のまちづくりに関するボランティア活動を促進するため、必要な施策の推進に努めるものとする。
(福祉教育の充実及び学習機会の提供)
第12条 県は、児童及び生徒が高齢者、障害者等についての理解を深め、思いやりのある心をはぐくむことができるよう、福祉教育の充実に努めるとともに、県民が福祉のまちづくりに関する学習に取り組むことができるよう、その機会の提供に努めるものとする。

(6)栃木県/栃木県ひとにやさしいまちづくり条例/1999年10月14日公布
(情報の提供)
第8条 県は、ひとにやさしいまちづくりに関し、県民及び事業者の理解を深め、自発的な活動を促進するため、適切な情報の提供に努めるものとする。
(福祉教育の充実等)
第9条 県は、高齢者、障害者等に対する県民の理解を深め、思いやりのある心をはぐくむため、高齢者、障害者等の福祉に関する教育の充実及び学習の機会の提供に努めるものとする。

(7)鳥取県/鳥取県福祉のまちづくり条例/2008年3月28日公布
(広報活動等の推進)
第7条 県は、福祉のまちづくりについて、事業者及び県民の理解を深めるとともに、その協力が得られるよう広報活動等を推進するものとする。
(福祉教育の推進)
第8条 県は、児童及び生徒が福祉のまちづくりについての理解を深め、高齢者、障害者等に対する思いやりの心をはぐくむよう、体験学習、ボランティア活動その他必要な教育活動を推進するものとする。
(情報の収集及び提供)
第9条 県は、高齢者、障害者等をはじめとするすべての県民が安全かつ快適に利用できる施設の整備の促進に資する技術その他の福祉のまちづくりに関する情報の収集及び提供に努めるものとする。
(調査及び研究)
第10条 県は、福祉のまちづくりを推進するため、必要な調査及び研究に努めるものとする。

福祉のまちづくに関する教育や学習の振興・充実・推進等について、条文見出しに「教育」や「学習」の文言を用いる条例は36本(77%)を数える。それ以外の、神奈川県(1995年3月14日公布)、広島県(1995年3月15日公布)、新潟県(1996年3月29日公布)、それに石川県(1997年3月22日公布)の条例ではそのいずれもが、「みんなのバリアフリー街づくり」(神奈川県)、「バリアフリー社会の推進」(石川県)、「福祉のまちづくり」(広島県、新潟県)について理解を深めたり、意識の高揚を図ることについて条文あるいは項文で規定している。
条文見出しに「教育」や「学習」の文言を用いる条文の一部を紹介する。

(1)大阪府/大阪府福祉のまちづくり条例/1992年10月18日公布
(啓発及び学習の促進等)
第7条 府は、事業者及び府民が福祉のまちづくりについて理解を深めるよう啓発するとともに、福祉に関する学習を促進するため必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
2 府は、高齢者、障害者等の自由な社会参加を促進するため、ボランティア活動の支援及び介助に係る人材の養成等に努めるものとする。
3 前二項に定めるもののほか、府は、事業者及び府民に対し、福祉のまちづくりに関する情報の提供、技術的指導その他必要な措置を講ずるものとする。

(2)大分県/大分県福祉のまちづくり条例/1995年3月15日公布
(教育の推進)
第9条 県及び市町村は、高齢者、障害者等に対する理解とやさしさのある児童及び生徒を育成するための教育を推進するものとする。
(県民の意識の高揚等)
第10条 県は、県民及び事業者に対し、福祉のまちづくりに関する意識の高揚及び知識の普及に努めるとともに、市町村、県民及び事業者に対し、必要な情報の提供、指導及び助言をするものとする。

(3)東京都/東京都福祉のまちづくり条例/1995年3月16日公布
(都民の責務)
第5条 都民は、福祉のまちづくりについて理解を深め、自ら福祉のまちづくりに努めるとともに、相互に協力して福祉のまちづくりを推進する責務を有する。
2 都民は、都がこの条例に基づき実施する福祉のまちづくりに関する施策に協力するよう努めなければならない。
3 都民は、高齢者や障害者を含めたすべての人の施設、物品又はサービスの円滑な利用を妨げないよう努めなければならない。
(教育及び学習の振興等)
第8条 都は、福祉のまちづくりに関する教育及び学習の振興並びに広報活動の充実により、福祉のまちづくりに関して、事業者及び都民が理解を深めるとともに、これらの者の自発的な活動が促進されるよう必要な措置を講ずるものとする。

(4)茨城県/茨城県ひとにやさしいまちづくり条例/1996年3月28日公布
(広報及び情報提供)
第9条 県は、事業者及び県民に対し、ひとにやさしいまちづくりに関し、必要な広報及び情報の提供を行うものとする。
(教育の充実)
第10条 県は、児童及び生徒に対し、ひとにやさしいまちづくりについての理解を深め、やさしさや思いやりの心を醸成するための教育の充実に努めるものとする。
(学習機会の充実)
第11条 県は、事業者及び県民に対し、ひとにやさしいまちづくりに関する学習機会の提供に努めるものとする。
2 県は、事業者及び県民がひとにやさしいまちづくりに関して行う学習について、必要な技術的指導その他の支援を行うものとする。

なお、ボランティア活動について、例えば以下のように「促進」「支援」等の文言を用いて独立条文で規定する条例は18本(38%)である。また、「ボランティア活動」の文言が条・項文中にある条例は、大阪府(1992年10月28日公布)、滋賀県(1994年10月17日公布)、石川県(1997年3月22日公布)、島根県(1998年6月30日公布)、秋田県(2002年3月29日公布)、それに鳥取県(2008年3月28日公布)の6本(13%)である。要は、半数(51%)の条例でボランティア活動に関する規定がある。

(1)山梨県/山梨県障害者幸住条例/1993年10月14日公布
(ボランティア活動)
第18条 県は、すべての県民があらゆる機会、あらゆる場所を利用して、障害者の福祉に関するボランティア活動を実践することができるような環境を醸成するよう努めなければならない。

(2)熊本県/熊本県高齢者、障害者等の自立と社会的活動への参加の促進に関する条例
(通称:やさしいまちづくり条例)/1995年3月16日公布

(ボランティア活動の促進)
第11条 県は、県民及び事業者が高齢者、障害者等の福祉に関するボランティア活動を実践できるよう必要な施策を講じなければならない。
2 県は、高齢者、障害者等がみずからその能力に応じ、ボランティア活動を実践できるよう必要な施策を講じなければならない。

(3)富山県/富山県民福祉条例/1996年9月27日公布
(ボランティア活動の支援)
第15条 県は、県民が行う福祉に関するボランティア活動を支援するため、活動基盤の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。

(4)三重県/三重県ユニバーサルデザインのまちづくり推進条例/1999年3月19日公布
(ボランティア活動等の促進)
第12条 県は、ユニバーサルデザインのまちづくりに関し、ボランティア活動を始めとする自由な社会貢献活動を促進するため、情報の提供、活動基盤の整備その他必要な施策を推進するものとする。