3 福祉のまちづくりに関する市町村条例
市町村の「福祉のまちづくり条例」については、(1)木下聖がその論稿で扱っている38本の条例をベースに、(2)「福祉、まちづくり、条例」のキーワードでGoogleウェブ検索した条例を加え、そのうえで(3)市町村のウェブサイトに掲載されている条例・例規集から検索した条例を整理した50本の条例を検討対象とした。
その名称は多様であるが、ほとんどの条例で「福祉のまちづくり」などに関する「教育」「学習」「広報」「啓発」「情報提供」「意識の醸成」等の条・項文規定がある。それらのうちで、「福祉教育」について独立条文で規定する条例は次の18本(36%)である。神戸市(1977年1月10日公布、以下「公布」略。)、箕面市(1996年3月29日)、福岡市(1998年3月30日)、宇都宮市(2000年3月24日)、宮崎市(2000年12月20日)、金沢市(2001年3月23日)、若桜町(2001年3月30日)、新居浜市(2002年12月25日)、筑後市(2003年9月26日)、高浜市(2003年9月30日)、多治見市(2003年12月22日)、石狩市(2004年3月29日)、七尾市(2004年10月1日)、出雲市(2005年3月22日)、士別市(2005年9月1日)、都城市(2006年1月1日)、松江市(2008年6月26日)、志摩市(2008年6月30日)。
以上のうちから、代表的あるいは特徴的なものとして、「福祉教育」の条文とその前後の条文を8本紹介する。
(1)兵庫県神戸市/神戸市民の福祉をまもる条例/1977年1月10日公布
第4章 市民福祉の推進体制
第1節 福祉教育の推進
(福祉教育の理念)
第45条 福祉教育は、第2条に規定する市民福祉の基本理念並びに福祉に関する制度及び実情を正しく理解し、福祉意識を高めるとともに、市民みずから市民福祉を充実するための実践的な方法を身につけることをめざして推進されなければならない。
(市長等による福祉教育の推進)
第46条 市長及び教育委員会は、すべての市民に対し、生涯のあらゆる教育の場を通じて福祉教育を行うよう努めるものとする。
2 市民福祉の向上を目的とする団体(以下「福祉団体」という。)及び施設を経営する者は、その活動の場を通じて福祉教育を実施するよう努めなければならない。
3 市長及び教育委員会は、必要と認めるときは、福祉団体又は施設を経営する者の行う福祉教育に対し、助言又は専門技術的指導を行うことができる。
(市民の福祉学習及び福祉教育への参加)
第47条 市民は、福祉を理解し、及び福祉活動を実践するための自主的学習を行うとともに、福祉教育に積極的に参加するよう努めなければならない。
(2)大阪府箕面市/箕面市福祉のまち総合条例/1996年3月29日公布
(学習機会の確保)
第18条 市長は、障害者、高齢者等が地域社会でのあらゆる場面に参加し、それぞれの時期に応じた教育が受けられるよう学習機会の確保に努めなければならない。
(福祉教育の推進)
第19条 福祉教育は、市民自らが基本理念及び地域福祉に関する実情を理解し、地域福祉を充実することを目指し、主体的に推進するものとする。
2 市長は、学校教育、生涯学習等あらゆる機会を通じて福祉教育の推進に努めなければならない。
(福祉活動への支援)
第20条 市長は、自主的に地域において福祉活動を行う市民に対し、必要に応じて情報の提供、助言又は協働による支援を行うものとする。
(3)栃木県宇都宮市/宇都宮市やさしさをはぐくむ福祉のまちづくり条例/2000年3月24日公布
(意識の高揚)
第8条 市は、市民及び事業者が自主的に福祉のまちづくりに関する活動に取り組むよう意識の高揚に努めるものとする。
(福祉に関する教育の充実)
第9条 市は、高齢者、障害者等に対する思いやりのある福祉の心をはぐくむため、福祉に関する教育の充実に努めるものとする。
(生涯学習の機会の確保)
第10条 市は、高齢者、障害者等が生きがいを持って、豊かな生活を送ることができるよう生涯学習の機会の確保に努めるものとする。
(情報の提供)
第11条 市は、市民及び事業者の福祉のまちづくりに関する自主的な活動を促進するため、情報の提供に努めるものとする。
(ボランティア活動への参加及び支援)
第16条 市民及び事業者は、福祉のまちづくりに関するボランティア活動に積極的に参加するよう努めるものとする。
2 市は、市民及び事業者が行う福祉のまちづくりに関するボランティア活動を支援するため、必要な施策を講ずるものとする。
(4)石川県金沢市/みんなで支え合う健康と福祉のまちづくりの推進に関する条例/2001年3月23日公布
(健康福祉教育の推進及び人材の育成)
第9条 市は、健やかで思いやりのある心を育むため、健康と福祉に関する教育を推進するとともに、必要な人材の育成に努めるものとする。
(ボランティア活動等の促進等)
第10条 市は、健康と福祉のまちづくりを推進するため、健康と福祉に関するボランティア活動その他の非営利活動(以下「ボランティア活動等」という。)への市民及び事業者の参加を促進するとともに、ボランティア活動等を支援するために必要な施策を講ずるものとする。
2 市は、市民が健康で心豊かな生活を営むことができるよう、生涯を通じての学習及び文化活動の機会を確保するなど、必要な支援に努めるものとする。
(情報の提供)
第12条 市及び事業者は、市民が健康と福祉について必要とする情報の提供に努めるものとする。
(普及活動の促進)
第14条 市長は、健康と福祉のまちづくりについての理解を深めるため、その普及活動に努めるものとする。
(5)愛媛県新居浜市/新居浜市みんなでつくる福祉のまちづくり条例/2002年12月25日公布
(社会参加への推進)
第8条 市は、すべての市民が等しく社会参加ができるよう、福祉のまちづくりにおけるさまざまな活動を支援するために必要な条件整備に努めます。
2 市は、移動手段の確保が困難な障害者、高齢者等の移動を容易にするための施策を推進します。
(福祉教育の推進)
第9条 市は、学校教育、生涯学習等のあらゆる機会を通じて福祉教育の推進に努めます。
(広報啓発活動の充実)
第10条 市は、福祉のまちづくりについて、市民及び事業者が理解を深め自主的に活動することを促進するため、広報啓発活動の充実を図り、適切な情報の提供に努めます。
(ボランティア活動等の推進)
第17条 市は、市民が社会に貢献する活動にいつでも自由に参加できるよう、ボランティア団体及び非営利活動団体等の育成や活動に対し、必要な支援策を推進します。
(6)岐阜県多治見市/多治見市福祉基本条例/2003年12月22日公布
(地域福祉の啓発)
第8条 市は、市民と事業者が地域福祉に関する正しい知識を深め、地域福祉活動に積極的に参加しようとする意欲を高めるために必要な施策を実施します。
(権利の尊重と擁護)
第9条 市民、事業者と市は、高齢者、障害者等の自己決定に関する権利を尊重します。
2 市は、高齢者、障害者等の自己決定に関する権利を擁護するため、社会福祉事業者や関係機関と連携しながら適切な援助を行います。
(福祉学習、教育の推進)
第10条 市民は、生涯にわたって福祉に対する正しい知識を得るよう、自主的な学習に努めます。
2 市は、市民が福祉に対する正しい知識を得るとともに、高齢者、障害者等をはじめ市民相互に対する理解と思いやりを持つことができるよう、社会福祉事業者、教育機関等と協力し、福祉教育の推進に努めます。
(ボランティア活動等への支援)
第18条 市民と事業者は、自らの意思に基づいて、地域福祉に関するボランティア活動(以下「ボランティア活動」といいます。)に参加します。
2 事業者は、雇用している人が、積極的にボランティア活動に参加することができるよう支援に努めます。
3 市は、市民と事業者によるボランティア活動その他の市民活動を促進するために、必要な支援を行います。
(7)北海道士別市/士別市福祉のまちづくり条例/2005年9月1日公布
(福祉の心の醸成)
第9条 市は、すべての市民がお互いの人権を尊重し合い、障害者、高齢者等を思いやり助け合う福祉の心及び社会奉仕の精神等の醸成が図られるよう努めるものとする。
(啓発活動、情報提供等)
第10条 市は、市民及び事業者の福祉のまちづくりに関する理解を深め、自主的な活動を促進するため、必要な啓発活動、情報の提供、助言及び指導を行うものとし、啓発活動及び情報の提供に当たっては、障害者、高齢者等の特性に応じた取組みを行うよう努めるものとする。
2 市は、障害者、高齢者等が情報を円滑に利用し、意思表示できるようにするため、必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(相談支援体制の充実)
第11条 市は、福祉のまちづくりや保健福祉に関する市民の相談に適切に対応することができるよう、必要な相談支援体制の充実に努めるものとする。
(福祉教育の充実)
第12条 市は、障害者、高齢者等に対する理解が深められるよう、福祉教育の充実及び学習機会の提供その他福祉の心の醸成を図るために必要な施策を講ずるものとする。
(ボランティア活動の振興)
第15条 市は、市民及び事業者が障害者、高齢者等の福祉に関するボランティア活動を実践できるよう、必要な施策を講ずるものとする。
2 市は、障害者、高齢者等が自らの状況に応じたボランティア活動を実践できるよう、環境の醸成に必要な施策を講ずるものとする。
(地域福祉活動の推進)
第16条 市は、市民の理解と協力のもと、住民参加による地域福祉活動を推進するよう、必要な施策を講ずるものとする。
(8)島根県松江市/松江市ひとにやさしいまちづくり条例/2008年6月26日公布
(情報の提供)
第8条 市は、市民、地域を構成する主体等及び事業者がひとにやさしいまちづくりを推進するために必要な情報の提供に努めるものとする。
(学習機会の提供と福祉教育の充実)
第9条 市は、市民、地域を構成する主体等及び事業者がひとにやさしいまちづくりを推進するために必要な学習ができるよう、その機会の提供に努めるものとする。
2 市は、将来を担うこどもたちをはじめ、すべての人が高齢者、障害者等に対する理解を深め、思いやりの心を養い、お互いに助け合える地域社会をつくるため、学校教育、社会教育等の場において、体験学習やボランティア活動を通じて、福祉教育が充実されるよう努めるものとする。
(啓発活動)
第10条 市、市民、地域を構成する主体等及び事業者は、ひとにやさしいまちづくりの推進に関する広報その他の啓発活動に努めるものとする。
(ボランティア活動への参加等)
第11条 市民、地域を構成する主体等及び事業者は、ボランティア活動に取り組むように努めるものとする。
2 事業者は、その雇用する者がボランティア活動に参加しようとするときは、必要な便宜を図るように努めるものとする。
3 市は、ボランティア活動を促進するため、関係機関と連携し、情報の提供並びに人材の育成及び活用その他必要な支援を行うよう努めるものとする。
(地域づくり)
第12条 市民、地域を構成する主体等及び事業者は、地域の課題を共有し、連携してその解決に努めるものとする。
2 市は、地域の課題解決に向けた市民、地域を構成する主体等及び事業者の取り組みに対し、必要な支援を行うよう努めるものとする。
「福祉教育」の文言が条・項文中にある条例は、「福祉教育」の条文見出しのある上記の条例を除いて、4本を数える。以下にその条・項文のみを紹介する。
(1)兵庫県尼崎市/尼崎市民の福祉に関する条例/1983年3月31日公布
(福祉活動)
第13条 市民は、市民福祉を理解し、福祉活動を実践するための福祉教育を通じて、福祉意識の高揚に努めるとともに、近隣、地域、職域等の地域生活を通じて、福祉活動に努めなければならない。
2 市長及び教育委員会は、市民の福祉活動の促進を図るため、次の各号に掲げる施策を行うものとする。
(1) コミユニテイ活動及びボランテイア活動の育成に関すること。
(2) 福祉教育に関すること。
(3) 福祉活動に必要な情報の提供等に関すること。
(4) 前各号に掲げるもののほか、市民の福祉活動の促進を図るため必要と認められること。
(2)東京都狛江市/狛江市福祉基本条例/1994年3月31日公布
(計画の策定)
第5条 市は、第3条に規定する基本理念を実現するため、市民の生活の視点から市民福祉に関する基本的かつ総合的な福祉のまちづくりを推進するための計画(以下「福祉計画」という。)を策定し、次に掲げる事項を基本とする施策を推進しなければならない。
(7) 福祉のまちづくりに対する市民の関心を高め、活動への参加を促すため、学校及び地域における福祉教育を推進すること。
(3)岡山県岡山市/岡山市くらしやすい福祉のまちづくり条例/2001年12月21日公布
(魅力と特色のある教育の推進)
第20条 市は、関係機関、団体などと連携して、国際化、情報化などに対応した教育を推進するとともに、郷土に愛着と誇りがもてる教育や福祉教育など、魅力と特色のある教育の推進に取り組みます。
(4)富山県高岡市/高岡市福祉のまちづくり条例/2005年11月1日公布
(福祉のこころの醸成)
第19条 市は、すべての市民がお互いの人間性を十分に尊重し、高齢者、障害者等に対する正しい理解を深め、温かい思いやりと助け合いのこころを高めるため、福祉教育の実践に努めるとともに、学校、家庭、地域社会において、人間愛の精神、福祉のこころ、社会奉仕の精神等の醸成が図られるよう必要な施策を講ずるものとする。
2 市は、福祉に対する市民の理解を高めるとともに、ノーマライゼーションの理念の普及を図るため、広報、啓発活動の展開、市民交流の促進その他の必要な施策の実施に努めるものとする。
なお、ボランティア活動について、その「促進」「推進」「振興」「支援」「参加」等の文言を用いて独立条文で規定する条例は50本中19本(38%)である。また、「ボランティア活動」の文言が条・項文中にある条例は6本(12%)を数える。公共的施設等のバリアフリー化を主な目的とする条例においては、ボランティア活動に関する規定はほとんど設けられていない。なお、「福祉ボランティア活動の推進」について規定する加古川市の条例については、その細部にわたる規定内容等の評価はともかくとして、留意しておきたい。以下がそれである。
兵庫県加古川市/加古川市福祉コミュニティ条例/1982年6月22日公布
第10節 福祉ボランティア活動の推進
(福祉ボランティア活動の推進)
第44条 福祉ボランテイア活動は、高齢者及び障害者の人権を尊重し、市民の相互扶助精神に基づく市民の自主的なものでなければならない。
(福祉ボランテイア活動の助長)
第45条 市長は、市民及び事業者の福祉ボランテイア活動を援助するため、情報の提供、助言、指導等必要な措置を講ずるものとする。
(福祉ボランテイア活動への参加)
第46条 市民は、一人ひとりがその日常生活を通じ、自らの持てる技能及び時間等の提供により、単独又は団体活動に参加することによって、高齢者及び障害者の日常生活の移動、介助等の援助を行い、第40条に定める在宅福祉施策の推進に協力するよう努めなければならない。
(福祉ボランテイア活動への便宜供与等)
第47条 事業者は、その雇用している勤労者が福祉ボランテイア活動に参加しようとするときは、業務に支障のない範囲において必要な便宜の供与に努めるとともに、自らも福祉ボランテイア活動に参加するよう努めなければならない。
4 むすびにかえて
以上、基礎自治体と広域自治体の「福祉のまちづくり条例」に規定されている「福祉教育」の条文について整理・紹介した。最後に、それらを概観したうえでの問題点や課題をめぐって、若干の所見を述べたい。それをもって本稿の「むすびにかえて」おくことにする。
(1)「福祉教育」の独立条文のほとんどが、福祉教育を高齢者や障がい者に対する「理解」を深め、併せて「思いやりの心」を育むものとして規定している。その際、「理解」の視点や内容、方法については、一部を除いて必ずしも明確ではない。高齢者や障がい者を画一的・抽象的に(絶対的)「弱者」としてみるのか、個別具体的な「社会的弱者」としてみるのか。弱者に対する「強者」の側に立つ理解なのか、社会的弱者の側に立つ理解なのか。人権の実現・保障の視点や、社会的包摂の重要性を念頭においた理解なのか。先ずはこれらの点に留意すべきであろう。
「思いやりの心」は、あたかも福祉教育の接頭語のようである。また、その内容は不明瞭でもある。「思いやりの心」は、響きの良い言葉であるがゆえに、精神主義への偏向が促進されたり、人間の生き方という道徳面に力点が置かれたりする危険性なしとしない。「福祉のまちづくり」という名のもとで、社会や国家に尽くす従順で御しやすい人間づくりの福祉教育の推進が企図されないとも限らない。道徳の教科化や教育委員会の廃止などがもっともらしく、またかまびすしく語られる今日、こうした想いがするのは筆者だけであろうか。道徳の教科化は特定の価値(観)を小・中学生に強制的に注入し、教育委員会の廃止は教育行政の政治的中立性や継続性・安定性を脅かし侵害することにつながる。
(2)まちづくりには、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」、加えて「ネットワーク」が必要である。そして、こうした地域・社会資源を総合的に整備・調整・開発・保全・再生し、効率的・効果的に組み合わせて住民の生活問題や地域の課題の解決を図ることが肝要となる。福祉のまちづくに関してはさらに、地域住民と専門職による協働(共働)的な地域診断(アセスメント)や、アウトリーチ(出前)活動による積極的なニーズの把握や新たなニーズの掘り起こしが求められる。
以上のうちから、福祉のまちづくりに関する専門的な知識および技能を有する「ヒト」(「人材」)についてみると、その「育成」「確保」「活用」等を独立条文で規定するのは、都道府県条例で10本(21%)、市町村条例では5本(福岡市、金沢市、多治見市、七尾市、高岡市。10%)と少ない。まちづくりは「人づくり」といわれるように、地域リーダーや専門職の育成・確保が重要であることは多言を要さない。福祉のまちづくりやそのための改革実践が画餅に帰すことのないようにするためにも、人材育成・確保の福祉教育システムの整備が強く求められる。
福祉のまちづくりに関する必要な「情報」についてみると、その「収集」「提供」「利用」等を独立条文で規定するのは、都道府県条例で36本(77%)、市町村条例では50本中32本(64%)を数える。それ以外の条例でもそのほとんどに、「情報提供」に係る文言が条・項文中に設けられている。それは、山形県金山町(1982年4月施行)や神奈川県(1983年4月施行)での条例化を嚆矢とするが、国(「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(通称;情報公開法)、2001年4月施行)に先駆けて数多くの地方自治体で情報公開の手続きに関する条例が制定されたことに起因するといってよい。ただし、住民の要請に応える受動的な情報提供では住民主体の福祉のまちづくりは進まない。行政による積極的で能動的な情報提供と、住民による情報の収集・選別・編集とネットワーク化、そして共有化、そのうえでの有効活用が厳しく問われることになる。これはまた「福祉教育」の内容や方法のあり方に通じる。
(3)地方分権の推進が図られ、市民主権や市民自治が叫ばれるなかで、住民による、住民のための、地域特性を生かした福祉のまちづくりが求められている。また、住民の地域・生活ニーズが高度化し、価値観やライフスタイルが多様化するなかで、行政だけではそれらに対して効率的に、きめ細かく、臨機応変に対応することが困難になってきている。その一方で、住民による福祉のまちづくりへの参加意欲が高まり、NPОやボランティアなどの市民活動が活発に展開されてきている。多くの地方自治体によって、地方自治条例である福祉のまちづくり条例が制定される要因や背景のひとつはここにある。
ところが、前述の木下が指摘するように、福祉のまちづくり条例は「そのほとんどが行政主導で規定されてきている。こうした状況から、条例が当該自治体の市民の間に、そのねらいを含めてどの程度浸透しているかは疑わしいと言わざるを得ない」(前記論文、70ページ)。とすれば、およそ半数の福祉のまちづくり条例がボランティア活動の促進や支援策について規定していることに、多少の不安要素があり、ある種の危険が伴うことを指摘せざるを得ない。ボランティア活動の官製化が進み、市民「参加・参画」という名の「動員」や、行政の「下請け」化、「補完」化を促すことに結果するのではないか。危惧を覚えるところである。
ボランティア活動をはじめNPО活動や自治会活動を中心とした地域活動などの「市民活動」は、総じて福祉のまちづくりを推進するための活動であり、広範で総合的な分野にわたる。また、それは、一人ひとりの、全ての市民の権利であり責務である。さらに、市民活動は、市民の主体性と自律性、活動の革新性と創造性が尊重されなければならない。そこに求められるのは、市民相互および市民と自治体(行政)との真に対等・協力の関係である。そして、お互いが認識を広め、相互理解を深めるための学習と熟議である。福祉のまちづくり条例が規定する「福祉教育」や「ボランティア活動」には、こうしたことが含意されているであろうか。筆者がかねてからいう「市民福祉教育」のレーゾンデートル(存在理由)のひとつがここにある。
(4)福祉のまちづくり条例といっても、条文とその内容の密度や比重は異なるものの、①バリアフリーのまちづくりについて定めた条例、②まちづくりの理念や原則について定めた条例、③まちづくりのための市民参加・協働について定めた条例、④福祉コミュニティの形成・発展について定めた条例、⑤これらのいずれかを総合的に定めた条例等々、その名称も含めて多種多様である。いうまでもなく、福祉のまちづくりは一人ではできない。複数の住民がそれぞれが抱える生活問題や地域の課題を共有化、それぞれの立場や属性、考え方などについての異質性や同一性、さらには共同性を認め合いながら、課題解決に向けた学習すなわち福祉教育(市民福祉教育)に取り組むことが必要かつ重要となる。福祉のまちづくり条例は、それがどのような内容を主にするものであっても、福祉教育の条文規定は欠かせない。
前述したように、福祉のまちづくり条例に類するものに自治基本条例や市民活動支援条例、市民参加・協働条例などがある。それらにはいずれも、広報・啓発、情報提供、学習・教育などに関する条文が規定されている。また、市町村地域福祉計画や都道府県地域福祉支援計画、さらには社会福祉協議会が策定する地域福祉活動計画などにも福祉教育に関する計画内容が盛り込まれている。これらの規定や計画と、福祉のまちづくり条例の「福祉教育」条文との相乗的な効果を生み出す工夫や新たな取り組みが求められる。
また、福祉のまちづくりの都道府県条例と市町村条例には、ほぼ同じ内容の福祉教育の条文規定がある。両者は、建前上は競合することはなく、併存する。都道府県条例では広域的観点から福祉教育に関する必要十分な条文を規定し、市町村条例では地域の実態や特性を十分に考慮した条文内容であることが求められる。ただし、福祉のまちづくりや福祉教育の理念や構造および内容、性格や特性などを考えたとき、市町村条例の方が都道府県条例よりは同等以上に効果的であり、市町村条例における「福祉教育」条文の質・量ともに充実した規定が求められよう。
付記(1)
市町村の「福祉のまちづくり条例」として検索し、検討対象としたのは、次の市町村の条例である。公布順に市町村名のみ記す。一番古いのは阿南市/阿南市社会福祉基本条例/1972年3月29日公布、一番新しいのは久喜市/久喜市総合福祉条例/2010年3月23日公布、である。
阿南市、神戸市、加古川市、尼崎市、町田市、狛江市、世田谷区、箕面市、仙台市、府中市、川崎市、小平市、調布市、横浜市、三鷹市、福岡市、池田市、札幌市、上越市、宇都宮市、宮崎市、金沢市、若桜町(鳥取県)、函館市、岡山市、板橋区、新居浜市、厚木市、筑後市、高浜市、豊中市、多治見市、美唄市、石狩市、茅野市、七尾市、出雲市、高山市、士別市、鶴岡市(旧藤島町)、高岡市、都城市、世田谷区、八戸市、西東京市、那覇市、松江市、志摩市、練馬区、久喜市。
付記(2)
茅野市では、2013年1月1日、「茅野市たくましく・やさしい・夢のある子どもを育む条例」(2012年12月27日公布)が施行された。次の条文規定に基づいて福祉教育の推進が図られているのであろう。なお、この条例は、例規集の「第1編 総規」中にある。紹介するとともに、留意しておきたい。
(子どもの社会参加の促進)
第14条 市は、子どもが社会の一員としての責任を果たせるように社会参加をする機会を拡充し、子どもの意見が適切に社会に反映される環境の整備に努めるものとする。
2 市は、子どもの個性を伸ばし、人間性を豊かにする文化的・社会的活動に子どもが参加し、体験することができる場を確保するように努めるものとする。
(福祉意識の醸成)
第15条 市は、子どもが全ての人を思いやる心を育むことができるように福祉意識の醸成に努めるものとする。