ただただ辛かった
逃げ出しかった
投げ出したら どんなにか楽になるだろうか
捨ててしまったら どんなにか救われるだろうか
ただただ悔しかった
堪えられなかった
諦めたら どんなにか気が晴れるだろうか
見限ったら どんなにか気が済むだろうか
前に行のも 後ろに引くのも
もう無理だった
やめるにやめることもできず
腹をくくるしかなかった
男との関係が 強いストレスだった
上司にへつらい部下を見下す男は 有頂天だった
人格も感覚も価値観も 許し難かった
利己的で狡(こす)い男と 仕事するのは限界だった
男の卑劣なパワハラは 高圧的で攻撃的だった
脅され 中傷され 疎(うと)んじられた
人格は否定され 苦役以外なにものでもなかった
同僚は 累が及ばぬよう無関心を装った
男に退職を強要されながらも
見返してやろうと 意固地になった
反骨心だけが 唯一の支えだった
孤立無援の闘いが 続いた
胃はキリキリ痛み出し
食欲は減退し
寝ることも阻(はば)まれた
心の病を発症する寸前だった
嫌われたには 理由がある
仕事のできない男への反論が 発端だった
世渡りに長けた男の力量は スカスカだった
男は無能さを指摘され プライドが汚された
もう潮時かも知れない
男の思惑で辞めるのは 癪(しゃく)だった
負け犬のように追い払われるのは 癇に障った
だから自らを鼓舞し酷使して 最後の仕上げをする
それがいま 自らを奮い立たせるモチベーションだ
それこそが 自らを堅持するアイデンティティーだ
始末をつけて 男の鼻を明かした
ポジティブに生きるために
辞表を叩きつけた
その先に見る景色は
辛苦が歓喜に変わり 次の仕事へと挑む姿だ
呪縛は解かれ 自由を求める姿だ
抑圧から逃れ なりたい自分になる姿だ
〔2021年3月20日書き下ろし。不本意に辞職された人に、悔しさをバネに新しい世界に挑む人もいるだろう。辞職願を出したひとりとしてその心中を察する〕