本書は、既刊の3冊を合本したものである。『戦後初期福祉教育実践史の研究』(角川学芸出版、2006年)、『市民福祉教育の探究―歴史・理論・実践―』(みらい、2009年)、『市民福祉教育をめぐる断章―過去との対話―』(大学図書出版、2011年)がそれである。
なぜ、従来の「教育」ではなく、「福祉教育」を打ち出し、さらには「市民福祉教育」への展開を図る必要があるのか。その点について追究するとともに、科学的な体系を有し、客観化・普遍化された福祉教育や市民福祉教育の実践成果(証拠、エビデンス)を提示することが求められる。これは、福祉教育実践と研究に関わる者の原点であり、ミッション(社会的使命)であろう。私は、それには十分に応えることができず、未だに多くの限界と問題点や課題を抱えていることは承知している。
また、科学的で客観的な「証拠」と、筋道を立てた考え方(「論拠」)に基づいてひとつの「結論」(主張)を導き出す論理的思考を十分に採ってきたかといえば、未だにロジック(論理)とパッション(熱い想い)の狭間で自問自答を繰り返している。
さらには、自らの福祉教育実践と研究に関するレーゾンデートル(存在理由、存在価値)について厳しく追求してきたか。その実践と研究は、ディレッタンティズム(学問を趣味や道楽として愛好すること)に陥っていないか。これらに対する回答も、未だに必ずしも明確ではない。ただ、マックス・ヴェーバーの「ディレッタンティズムが学問の原理となっては、もはやおしまいであろう。『直観的に捉えること』を願う人びとは、映画館へでも行くがよい。」(『宗教社会学論選』(大塚久雄・ほか訳)みすず書房、1972年)という言葉(言説)は認識している。
そういうなかにあって、ひとまずこれまでの実践と研究を総括し、できれば今後を展望したいというのが、本書の刊行意図である。忌憚のないご批判やご叱正がいただければ望外の幸せである。
(『「市民福祉教育」の研究―総括と展望―』「はしがき」より)